街とその不確かな壁 の商品レビュー
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数々の疑問を残したまま終わる作品だった。(村上春樹作品にはよくあることだが) 中でも気になったのは、学生時代の彼女は現実世界ではどうなったのか。主人公にとって一生に一度の忘れられない恋の相手であり、なおかつ「街」の世界に主人公を導いていく重要な存在であるにもかかわらず、その存在は物語が進むにつれて徐々に薄くなり、第三部での「街」の世界にいる彼女は背景の一部のようになっていた。もう少し彼女についての話が読みたかった。 また、第一部で「街」に残ることを決意した主人公が、第三部でイエロー・サブマリンの少年の話を聞いてあっさりと現実世界へ戻る決断をするところも疑問だ。「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」では主人公が影と別れて街に残る理由として、①自分自身が造り上げた世界だから②彼女の心を取り戻せそうだから、という二点があったが、本作では①元の世界に戻ることの意味が見いだせない ②ここに残れば孤独ではない、と影に告げている。では、元の世界に戻る意味は見いだせたのか?現実世界で孤独ではない人生を送れるのか?少年からの説明はあまりそれらを解消できるものではなかったように感じる。そもそも村上春樹の描く作品の主人公は物事に対して受け身な姿勢を取ることが多いが、この点についてはもう少し「街」の世界に残った主人公の心の変化や詳細を描いて欲しかったなぁと思う。 作品全体としては続きが気になって読む手が止まらない魅力があり、過去作品との類似点も含めて楽しめたが、少し物足りなさも感じる終わり方だった。
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第一部はぼくが高校生で17歳のとき、エッセイコンクールの会場で出会った生まれて初めてもった16歳のガールフレンド。彼女は「すべてあなたのものになりたい」と口では言いますが、あなたのものにはなっていません。 そして彼女が話す街の話。 街は高い壁にまわりを囲まれていて図書館があるといいます。そしてその図書館で本当の彼女が働いているのだといいます。 そしてぼくは彼女に会うことができなくなりますが、ぼくはその街に入っていきます。 その街でぼくは門衛に影を預けて<夢読み>の傷ついた眼を与えられ二度とその門をくぐらないという暗黙の契約を結びます。 そして図書館で彼女と一緒に働き始めます。<夢読み>として。 しかし、ぼくは自分の影に外に出ていこうといわれその話は断るのですが、いつの間にか何かの力で、外に出てしまいます。 そして第二部は私は新しい職場として、図書館を選び、人の紹介で知った会津の図書館で働くことになります。 そこの館長、子易辰也はベレー帽をかぶりスカートを履いた人物で実は物故者でした。 でも、わたしととある他の2名の人物にだけ子易さんは見えるのでした。 子易さんが見えるもう一人の人物は、イエロー・サブマリンの少年というあだ名のサヴァン症候群の少年です。 わたしは子易さんに高い壁の街のことについて話すと、なんとイエロー・サブマリンの少年が、その街の地図を描いて持ってきたのです。 第三部はイエロー・サブマリンの少年とわたしの話です。 やっぱり村上春樹はわかりませんでした。 第二部以降面白くてわくわくしながら読んだのですが結局何の話だったのかは私には謎でした。 ただそれぞれのピースがぴたっとはまっていて完璧な感じがしました。 めずらしく村上春樹さんのあとがきがついているのですが、それでもわかりませんでした。 もう、村上春樹は読まない!と思っても発売されてニュースになるとやっぱり買ってしまいます。 『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は谷崎潤一郎賞を獲られているのですね。知らなかったです。 他にもノーベル文学賞はありませんが『ねじまき鳥クロニクル』は読売文学賞。 『海辺のカフカ』は世界幻想文学大賞(アメリカ)。 『1Q84』毎日文化賞など獲られています。
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230428*読了 やっぱり村上春樹さん、好き。 ハルキストとまでは名乗れないけれど、好き。 村上春樹さんらしい、どこまでも不思議なお話。 最後は、ここで終わるのかと衝撃を受けました。 いったいどうなるの?どういう意味なの?が解決しない。そのまま受け入れるしかない。 こういうお...
230428*読了 やっぱり村上春樹さん、好き。 ハルキストとまでは名乗れないけれど、好き。 村上春樹さんらしい、どこまでも不思議なお話。 最後は、ここで終わるのかと衝撃を受けました。 いったいどうなるの?どういう意味なの?が解決しない。そのまま受け入れるしかない。 こういうお話ですってまとめられない、それがハルキワールド。 壁に囲まれた街は実在するのか。一体なんなのか。分からない、分からないよ…。 今回も案の定、パスタを作るシーンが登場。 笑わせにきてるのか? 真顔で冗談を言う人の感がある。 他にも真剣なのに、明らかにおかしいだろという部分はあり…。笑わせたいのか、いたって真面目なのか、どっち? デビューまもない頃に書いた小説を、30年以上経って新たに書き直すってすごすぎる。 そして、村上春樹さんは御年71歳なのか…。71歳でここまで書けることにもひれ伏したい。 あとがきを読んで、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」が読みたくなりました。
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壁に囲まれた町で古い夢を読むという不思議な設定は「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」と同じだが、そもそもそれに先立つ「失敗作」があったという。書き直しとも言えるこの物語は、不思議なできごとが展開する世界が舞台ではあるものの、生と死、夢と現実、実体と影、時間や世代を超えて引き継いでいくことについての、こじんまりと纏まった物語になった。物語がダイナミックに進展する訳ではないがつまらなさはなく、むしろここ数作の村上作品のなかでは一番良かったように感じたのは、それなりの年になった書き手と読み手の心情に沿った小説になったからなのか。
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カール・ユングと河合隼雄を読んでこなかったツケをつくづく感じる。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では(ネタを割らない程度に書けば)あくまで孤独な存在としてあった「街」は、続編的な意味合いを持つとも取れるこの作品で「『イエロー・サブマリン』の少年」とその設定をシェアで...
カール・ユングと河合隼雄を読んでこなかったツケをつくづく感じる。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では(ネタを割らない程度に書けば)あくまで孤独な存在としてあった「街」は、続編的な意味合いを持つとも取れるこの作品で「『イエロー・サブマリン』の少年」とその設定をシェアできる存在として立ち現れる。しかもその少年は主人公のものだった「街」を描き直しさえするのだった。ならばこの世界設定はそのまま個人の「無意識」が「集合的無意識」に至ったとも言えるし、ネット世界のメタファーでもありうる。安易な読みかな?
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子易さんと町立図書館が登場してから、とても心地よく読んだ。 大好きな「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の続編なのでは?!という気持ちで読み始めたが、実際には繋がった話ではなく、あとがきを読んで、それより前に書かれた、原型となった小説を、書き直した本だということだった。 作中で、作家自身が該当するジャンルでもある、マジックリアリズムについて、ガブリエル・ガルシア=マルケスの引用と共に語られており、小説内で、小説の、特にその小説が当てはまるジャンルについて、具体的に語られることが、衝撃的だった。 上記を含めて、「世界の終わり〜」ではほんの少しの示唆にとどめられていた、街と外界、影と本体との関係や、小説の中の比喩などに関して、具体的な説明が多く、理解しやすくなっているように感じた。 最後、現実界に戻ることが、はっきりと示されるのも、意外に思った。 主人公が、無菌状態の心のない街から、悲しみや、喜びのある現実を選択することは、この無情な現実世界を生きる上で、励ましになる。 そして、現実世界に、子易さんみたいな親切な幽霊のようなものが登場しているのも救いのように感じた。 子易さんが消えてしまった後も、子易さんの作った図書館と、子易さんの意思を継いでそこで働く、添田さんは残る。 そうした、本当の真心のようなものが、この世界に存在すると信じることは、決して無駄じゃないことだと思う。 一方で、現実世界に適応できないイエローサブマリンの少年が、逆に壁の街で生きることを選択することもとても象徴的だ。 現実へのそぐわなさを感じて、どこか別の世界で生きることを夢見る多くの人間からすると、この2通りの選択肢を提示してくれたことはとても救いになっていると思う。 また、いままでの作品に必ずと言っていいほどあった、性描写や、理不尽で圧倒的な暴力の描写が、ほとんどなかった。 近年あまりに、世界が荒んでいるためか、そうした世相を反映した、性暴力・暴力描写が創作物に多く現れていて、読んでいて疲弊することも多かったため、今回の作品にそういった描写があまりないことが、個人的にとてもありがたかった。 今まで、女性が受ける性暴力などによる心の殺人の気配と、その圧倒的な暴力の前に、暴力を行う側と同じ性別を持ってしまっている主人公自身の戸惑いが、いくつかの作品を通してテーマとなっていたと思う。 そのテーマを男性作家である著者が語ることは、とても意味があることだったと思うし、今作でも、その気配はある。 ただ、決定的な暴力、性描写は避けられている。 一方で、主人公が、一つ年下の女子高生の恋人の、スカートの中を妄想し、自己嫌悪に陥ること、それがきっかけか否かはわからないにしろ、時を同じくして、彼女との交流が絶たれるという部分には、性暴力がより身近で、尚且つ避け難く日常的なものであることが描かれていて、今まで以上に、より繊細にその問題に関して表されていると思った。 また、同じように、現実世界にいる、性行為ができない、カフェの女主人の存在もその問題を暗示している。 ある意味で、今までずっと作者の中にあり続けた、自身が抱える性の暴力性に対応する答えとして、性関係を結ばないまま、女性と共に過ごすことを選ぶ、という結論が描かれているのかもしれない。 カフェの主人との関係では、「性行為は、女性自身がそのことを望むまで行ってわならない」という、かなり当たり前ではあるが、ほんの最近までずっと見過ごされて来たことを改めて示されている。 また、暴力描写が少ないとはいえ、トラック事故による息子の死、川に身投げする母といった、理不尽な死は、描かれている。 でも、これらはあくまで過去の死であり、また、主人公が恋した女子高生との突然で、強烈な別離に関しても、作中で過去のこととなっていき、子易さんも主人公も、そうした深い傷を抱えながらも、世間とのつながりをゆっくりと取り戻し、現実世界に帰還していくことが、また、その方法と過程が、具体的に描写されていることも、この作品の、特徴だと思う。 時を経て、引き裂かれた影と人とが一つに戻ったこと、一方で、街に留まる選択肢も残してくれていることに、暖かみを感じて、嬉しく思った。
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好きでした。 設定云々よりも文学というか。 どこを切り取ってもオシャレな表現で溢れています。単調な展開に見えながら目が離せない感覚。自分の手元に大切に置いておきたい1冊になりそうです。
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心地よい。 「ソックスはあくまで白く、靴はしみひとつなくきれいに磨かれていた」 とか、そんなフレーズだけでもう星5つけちゃう。 いつまでも終わりなく読んでたくなるような物語
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著者の作品はあまり読んでないが、たまたま読んだ「1Q84」がそれなりに面白かったので、それ以降の長編は読んでる。でも、私にはよう分からん。この作品もさほど難しい文章ではないので、合計数時間で読み終わったが、私にはイマイチ意味不明。なので、読んでない過去の作品を読もうと云う気にはな...
著者の作品はあまり読んでないが、たまたま読んだ「1Q84」がそれなりに面白かったので、それ以降の長編は読んでる。でも、私にはよう分からん。この作品もさほど難しい文章ではないので、合計数時間で読み終わったが、私にはイマイチ意味不明。なので、読んでない過去の作品を読もうと云う気にはなれんのだよなあ・・・ まあ、いいけど
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満足ー!やっぱり村上春樹の物語は大好きです。 また、ハードボイルドワンダーランドも読み返して見ようかな。意識の核。全員にありますよね。
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