街とその不確かな壁 の商品レビュー
面白かった。世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドが大好きだったから、同じ世界観の物語が読めてうれしいです。
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良くも悪くも村上春樹らしくない小説。 いつもより文章のリズムが悪いものの、深みがあり、比喩表現もいつもより重みがある。 内容も今までの総集の感がある。 その分普段の読みやすさは薄れている。 どのような評価に落ち着くのか想像もつかないが、作者にとって特別な作になっているのは間違いな...
良くも悪くも村上春樹らしくない小説。 いつもより文章のリズムが悪いものの、深みがあり、比喩表現もいつもより重みがある。 内容も今までの総集の感がある。 その分普段の読みやすさは薄れている。 どのような評価に落ち着くのか想像もつかないが、作者にとって特別な作になっているのは間違いない。
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※このレビューにはネタバレを含みます
確か、15歳か16歳くらいだったと思う。高専に入学して、なにか本を読みたいと寮の近くにあった小さな書店に入り、鮮烈な緑と赤の表紙で話題だった「ノルウェイの森」の文庫を見つけ、購入して読んだのが、自分の村上春樹作品との出会いだと記憶している。 小学校高学年の時に読書の虜となり、図書館なんてない過疎地の片田舎だったので、公民館にあった小さな図書室の本を片っ端から読み耽った。中学でも、小さな図書室の本を片っ端から読んだ。児童文学やジュブナイル、コバルト作品なんかが多く、あとはいわゆる名作シリーズ。漱石や太宰、ヘミングウェイやドフトエフスキーなどなど。いわゆる名作シリーズは、ちゃんと理解して読んでいたわけではなかったはず。ただ「文章を読む」という行為自体に快楽を感じていたと思う。村上春樹作品に出会う直前は、群ようこの「鞄に本だけつめこんで」というタイトルに撃ち抜かれて読み、群ようこ作品、そこから椎名誠作品にハマっていた。 そんなときに、ふと気まぐれに読んだ村上春樹作品であるノルウェイの森。まあぶっ飛んだ。多感なハイティーンのときに食らったあの衝撃は、たぶん忘れることは出来ないと思う。そして当然のように過去作を読み始め、「世界の終りと~」に出会った。 「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」と、「ダンス・ダンス・ダンス」が、自分にとっての村上春樹作品を象徴する二作。その後も何作か村上作品は読み続けたけど、正直、この二作を超える作品は出ていない。村上春樹は長編作家ではなく、短編作家だと自分は感じている。独特の文体や世界設定で物語を走らせていくスタイルは短編でこそ輝くものだから。長編はその魅力が足枷になるというか、冗長だったりしてクドく感じてしまう。「世界の終りと~」と「ダンス~」は「文字数の多い短編」だと思ってる。 ということで、長い前置きはおしまい。本作についての感想を。 一言でいえば傑作であり、現時点での村上春樹作品の最高到達点だと思う。「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」と「ダンス・ダンス・ダンス」に匹敵する作品であることは間違いない。 第一部は、「世界の終り」のリファイン。ハードボイルドワンダーランド部分を削ぎ落とし、原点である「街と、その不確かな壁」を描きなおす形で進んでいく。第二部からは、「続き」が語られていく。しかし、それはリファインではなくリアレンジと呼ぶべき形に姿を変えていく。静謐かつ穏やかに、淡々と世界が語られていく。そして第三部で、新しい終りを迎える。 村上春樹作品の特徴は、その独特の文体でありリズムであることは論を俟たない。本作でも、その特徴は遺憾なく発揮されているのだけど、通底しているのはオフビート感かつロービート感。新境地に達したように思う。色鮮やかな世界ではなく、モノクロームな世界。原点回帰というか、長い時間をかけて螺旋の次サイクルへ戻ってきたというか。 長い時間をかけて、著者の中で「馴染んだ」からこそ描き直すことが出来た作品であることが理屈じゃなく感じられ、本当に素晴らしい作品だった。すべてがぴったりとあるべき場所に収まり、語られるべき言葉が、最適なスピードで紡がれることで生み出された作品だと思う。 村上春樹は、音楽を奏でる代わりに文章を書く、音楽を奏でるように文章を書く、と言ったことを度々インタビューとかで発言しているけど、本作では、その試みが完璧に決まったと思う。読後感が、小説を読んだそれではなく、ライブ終演後の感覚だった。文章でこの感覚へと誘える作家は、自分の知る限り他にいない。それだけでなく、「お話」を読んだ/観たあとの、「世界を通り抜けた感覚」もある。なんだろう、うまく言葉にすることが出来ないのだけど、文章表現の新しい形というか、新しい地平というか、そういうものを感じさせてくれた。 「シン・世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」みたいな感想を見かけたりしたけど、そういうものではないと思う。リファインではあるけど、それだけではないというか、リファインであり、リアレンジであり、まっさらな新作でもある。 歴史に残る傑作だと思う。
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※このレビューにはネタバレを含みます
普段は古めの本ばかり読むのでネタバレ気にせずじゃんじゃん書くが本作は4/13発売ということもあり、一応フィルターを。 珍しくついていたあとがきには本作の立ち位置が割と丁寧に書かれていた。曰く、本作、街とその不確かな壁は世界の終わりとハードボイルドワンダーランドのもうひとつの対応であると。スピンオフではないが併立し、補完しあうものとして描いたと。 読後の感想としては辛口になってしまうかもしれないが「世界の終わり」の方が圧倒的に好みだ。まず第一に両作を読んだことがある人なら当然、指摘しなければならないのは壁の中の世界が全く同一であること。読んでいる途中に「世界の終わり」上巻の地図を持ってきたが当たり前だが全く同じ世界だった。 また、フレッシュさがないというと言い過ぎだが主人公の従事している仕事や私生活の描き方があっさりしすぎていて、600ページを超える割には「私」に入れ込めない感じがある。 その点、「世界の終わり」の主人公は計算士という耳慣れぬ専門職に就き、ただならぬプロフェッショナリズムを感じさせる。出てくる女性もところどころ欠けているが魅力的な人ばかりだ。 「世界の終わり」しかり、海辺のカフカしかり、ノルウェイの森しかり、サブキャラにこそ共感と愛着を覚えられるというのが村上作品への僕の一貫した感想だったが本作のサブキャラはあまりにもアンニュイでぼんやりしていて、好きになるとっかかりが少ない気がする、、、。 作品全体としては第一部のそれも恋人が長い長い手紙をよこしてくる前の冒頭部分が好きだ。ラブレターの書き方なんて村上春樹作品で学べることで最も実用的な事柄の一つだ。 ここら辺の雰囲気はノルウェイの森に似ている。そこから先の展開はもちろん世界の終わりとハードボイルドワンダーランドに似ている。井戸に落ちて、ただならぬことに巻き込まれるのはねじまき鳥クロニクルに似ている。図書館の位置する福島県の厳寒は羊をめぐる冒険の十二滝町を想起させるし、イエローサブマリンの少年の纏う雰囲気は海辺のカフカそのものだ。 何が言いたいかというとこの作品は過去の作品との類似点が多いからこそ好きでもあるがもっと違う展開を期待した自分もいたということ。村上春樹自身も高齢であとがきには作家が書くことのできる物語の数には限りがあると書いている。 この静謐な文体がこれまでもこれからも村上作品を支えてきたのはもちろんわかる。わかるからこそ、次作、全く異なる展開の長編を期待したい。
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村上春樹の不確かな残像 それはある程度予想できていたかもしれない。私が30年ほど前に夢中になって読んだ村上春樹も私も同じように、平等に年をとった。動いているようには見えない氷河が実は少しづつ海に流れ落ちていくように、ハワイが日本に少しずつ近づくように、時間は根気強く全てのものを、...
村上春樹の不確かな残像 それはある程度予想できていたかもしれない。私が30年ほど前に夢中になって読んだ村上春樹も私も同じように、平等に年をとった。動いているようには見えない氷河が実は少しづつ海に流れ落ちていくように、ハワイが日本に少しずつ近づくように、時間は根気強く全てのものを、変わらないと思っていたことも、変えていく。 物語に出てくる道具立てはまさしく村上春樹のものだ。読む人を引き込む文体も、語られることのない謎、遠い日の別れ、後悔。昔読んだあの本のここみたい、と感じながら読み進めるのは、一度訪れたことのある美しい景色を再訪した時のようだ。景色はほとんど変わらないけど、散策ルートは整備されて小綺麗なカフェができているかもしれない。それは悪くないことだろう? 羊男やユミヨシさん、大食いの図書館員、100%の女の子、などなど、そんな人たちに初めて出会った昔のことを、読みながら思い出す。まるで失われた王国の歴史を紐解くように。もちろんこれは歴史ではないので昔話をそのまま繰り返すことはない。登場人物が似ていたとしてもこれは別の物語なのだ。その物語を気にいるかどうかは賭けのようなものだ。過去の記憶が美しければ美しいほど、その時の自分と今まで見てきた世界の積み重ねを背負った自分が、美しい思い出の残滓を纏った、それでいて違う物語に対峙した時、読み手の側には単にその作品だけでは収まらない物語が動き出す。 読書は個人的な体験だ。そんな体験の中でも個人的な、あまりに個人的な閉じた世界を象徴する物語を体験させてくれたのが初期〜中期の村上春樹だったと思う。勿論作者も読者もそこに止まってはいない。この作品は閉じていない。大きく開いている。多分、可能性に対して。作品の象徴的な舞台である街も厳重に閉じられているように見えるけど、幾つものバックドアがある。その閉じた世界から開いた世界への変化は作者のpush the envelope の結果と言えるのだろう。 では読み手のpush the envelope の行き着いた先は? 私は多分水平線を隔てたあたりにいるのだろう。でも村上春樹の作品を読んだ体験は確実にその移動の推進力の一つにになっていた。
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これは村上春樹さんの集大成にして、新しい扉を開けた作品になるのではないか。自分の今、置かれた状況に比喩的に本作を重ねて集中して読んだ。個人的には村上作品のベストだと思う。
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ネタバレなしです。 発売日2023.4.13当日 有給取得して予約してた本屋開店10:00に一番乗り、からの食事やら移動やらうたた寝やらはあったものの、10時間費やして読み切った待望の1200p6年ぶりの長編。 誰が何と言おうと最高の傑作でした。 31歳のときに同タイトルで執...
ネタバレなしです。 発売日2023.4.13当日 有給取得して予約してた本屋開店10:00に一番乗り、からの食事やら移動やらうたた寝やらはあったものの、10時間費やして読み切った待望の1200p6年ぶりの長編。 誰が何と言おうと最高の傑作でした。 31歳のときに同タイトルで執筆し、まだ未熟と自己判断して書籍化されなかったものが40年後71歳になってリベンジされた作品。一言じゃ絶対言い切れないテーマを書き切るに耐える職業的作家力が完璧に培われたことを実証する名誉作品です。 村上春樹作品を愛好して向き合ってきた読者なら、気づいてニヤッとしちゃうメタファーやオマージュやデジャヴがふんだんに散りばめられつつ、「そうこれが読みたかったの!」って読んでて気持ちよくなっちゃう村上春樹の技巧とバイブスにやられつつ、それでいて過去作もすごいけどこの人にプロフェッショナルの天井って存在しないのかなって畏怖するほど「巧くなっている」ことに驚異する。 描いているテーマがとにかく秀逸というか、優れた哲学書を読んでるくらいの精神世界の解像度の高さとそれを描写するための言葉の表現力に圧倒される。 村上春樹作品好きな人がよく言う、「自分のこと書かれてるのかと思った」って感想を持つ人が、数的にたくさんいるかはわからないけど、質的にはかなり深い共感レベルで感じる人多いと思う。(私はそうなった) 読書する時間や経験をここまでかけがえのないものにしてくれる作品が生みだされて、読める状態にあることに感動しちゃう。 最高だったあーーーー!!!
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●なぜ気になったか 43年前の1980年に文芸誌「文学界」に発表されたけど、その後封印された作品と同じタイトル。当時「書くべきじゃなかった」作品、書くべきときが訪れてどう生まれ変わったのだろう ●読了感想 今さら書かなくてもよかったのでは。過去作と同じテイストを、ベースの表現力...
●なぜ気になったか 43年前の1980年に文芸誌「文学界」に発表されたけど、その後封印された作品と同じタイトル。当時「書くべきじゃなかった」作品、書くべきときが訪れてどう生まれ変わったのだろう ●読了感想 今さら書かなくてもよかったのでは。過去作と同じテイストを、ベースの表現力は高いが、過去に比して衰えを隠しきれない70歳が書いた感がした。次作は過去と決別した新テイストの味変作品を期待 #街とその不確かな壁 #村上春樹 23/4/13出版 #読書好きな人と繋がりたい #読書 https://amzn.to/3zuE2fQ
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感想 観測可能性と理解可能性。外側は見えるがわからない。内と外。どちらに寄りかかるのか。模索しながら揺れながら。一歩ずつ終わりに向かって。
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