謎の独立国家ソマリランド の商品レビュー
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やはり高野秀行は最高。 いつも通り高野秀行の著作は、笑えて、驚かされ、じんわりきて、また笑う。そしてめっちゃ勉強になる。 ソマリアの現状。ざっくりソマリランド、プントランド、南部ソマリアに分かれている。一部では未だに紛争が続き、過激派によるテロもある。 同じソマリアでも、それぞれの地域がそれぞれのやり方で発展を目指している。 そして、ソマリランドにおいては、中央政府がないままに、平和で民主的な社会を作ることに成功しているという。そんなことが可能なのか? 現地で自分の目で見てみなければ納得できない著者は、危険地域も含むソマリア各地に取材を敢行する。 プントランド周辺の人たちがなぜ海賊をやるのか、しかもなぜ大して取り締まられなのか。その解説は非常に納得感があり、かつおもしろい。 ①ソマリ社会は氏族中心に回っている。 ②プントランド政府も結局は氏族の集合体でしかない。 ③金のない人間が海賊になる。 ④外国人の船を襲い、身代金を要求する。 ⑤海賊との交渉は、その氏族の長が行う。 ⑥身代金の一部から、氏族の長に手間賃が支払われる。 そもそも産業が少ないのだ。お金を稼ぐ手段に乏しい。よって、海賊行為の仲裁が国家や共同体として貴重な収入源になっており、取り締まる理由がない。海賊だけでなく、その海賊が属する氏族全体の収入になる。 (細かいところ間違ってるかもしれないけどこんな感じだった) 高野秀行のすごいところは取材力だけでない。 エピローグにおいて、そういったソマリ社会の現状(海賊行為含む)を前にして、平和で経済的に発展するためのある提案をしている。そちらもまた、ものすごく納得感がある。ここまで入れ込んで取材している人だからこそ、現実的な解決策を考えられるのだろう。 そういえば「アヘン王国潜入記」のときも、同じ感じだった。 ほんとにすごい。
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高野先生、3冊目です。 今回も面白かったです。今回の舞台はアフリカ大陸のソマリア。アフリカのツノと呼ばれている出っ張ったところですね。正直この本を読むまで国の名前をなんとなく聞いたことある…レベルでした。すみません。 国際社会的には内戦状態が続いているスタンスで、それも決して間...
高野先生、3冊目です。 今回も面白かったです。今回の舞台はアフリカ大陸のソマリア。アフリカのツノと呼ばれている出っ張ったところですね。正直この本を読むまで国の名前をなんとなく聞いたことある…レベルでした。すみません。 国際社会的には内戦状態が続いているスタンスで、それも決して間違いではないのでしょうが、こちらを読んで本当にびっくりしました。平和のカタチ、対立のカタチ。国の数だけあっていいんだと目からウロコでした。 ソマリランド、プントランド、南部ソマリアそれぞれが、自分たちに合った方式を模索し続けている。いわゆる欧米的な民主主義の形態をそのままお仕着せ的に導入するのではなく、部族の長老たちが何度も話し合って決めたと言う過程に感動しました。高野先生も仰ってますが紛争とか起こるとニュースになりますが、平和はニュースにならないので、これまで知らなかったんですね。深いです。「みんなちがって、みんないい」ですね。 続編?があるようなので、そちらも読みたいと思います。
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これほどの書籍を、星5つまでしかつけられないことが悔やまれる。可能であれば6個でも10個でもつけて最大限を超えた評価をしたい。そう思わせてくれるのが本書『謎の独立国家ソマリランド』だ。 海賊が跋扈する大変危険な国という印象以外未知の国と言って差し支えなく、そもそもどうやってビザを...
これほどの書籍を、星5つまでしかつけられないことが悔やまれる。可能であれば6個でも10個でもつけて最大限を超えた評価をしたい。そう思わせてくれるのが本書『謎の独立国家ソマリランド』だ。 海賊が跋扈する大変危険な国という印象以外未知の国と言って差し支えなく、そもそもどうやってビザを取れば良いのかすらわからない国へ著者は潜入し、合法薬物「カート」をむしゃむしゃと食らいながら、言葉もほとんどわからず文化や性格においても対照的な現地民と粘り強い交流を続け、果てはより危険な"アフリカの角"西部のプントランド、今もイスラム過激派アル・シャバーブと国連軍を含んだ政府軍の戦闘が続いているソマリアへと侵入し、ハルゲイサへ帰還、そしてソマリランドという国が如何に平和で、政治システムにおいて日本より優れている点を見出してみせ、なんならさんざ悪口を書いておきながら自分自身がほぼ「ソマリランド人」になってしまうという奇跡を成し遂げてしまうのだ。そんなもの読んでいて面白くないわけがない。 我々日本人は驕りからかこういった未知の国を無意識に見下してしまっているところがあると思う。そういった軽薄な考えを著者はしっかりと相対化してくれている。深いだけでなくしっかりと笑いを取り入れ、現代では馴染みの薄い氏族制度を戦国時代の氏族名を取り入れて説明するという画期的な手法を用いた本書は、単純なルポルタージュにとどまらない、恐ろしいほどに完成された傑作であった。
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すっかり高野さんにハマった僕は高野さんの他の著作を手に取り始めました。ソマリランド、どこだい?というところからグイグイ惹き込まれました。
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めちゃめちゃ面白いノンフィクションドキュメントを読んでしまった。。分量も多いんだけど、内容の濃度も高い。 ここまでソマリランドの実情に迫ろうとする筆者の熱量が何よりも高い。 費用もかかるし、体力気力語学力も相当必要。ううーん、これできる日本人は数えるほどいるのだろうか。 ソマリ...
めちゃめちゃ面白いノンフィクションドキュメントを読んでしまった。。分量も多いんだけど、内容の濃度も高い。 ここまでソマリランドの実情に迫ろうとする筆者の熱量が何よりも高い。 費用もかかるし、体力気力語学力も相当必要。ううーん、これできる日本人は数えるほどいるのだろうか。 ソマリランドの人種のめちゃくちゃさや、かなり平等を意識した民主主義の政治がおもしろい。聞き慣れないヘザーブや長老たちの会議、氏族主義など文化の違いにめまいがする。
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ソマリアと聞くと、自衛隊が海賊対策で派遣された国という事実から、かなり危険な国というイメージではないでしょうか。ところが街中でほとんど銃をみかけないという治安のよいエリアがソマリア北部に存在し、それがソマリランド(未承認)です。著者は”なぜ無法地帯のソマリアのすぐ傍に楽園のような...
ソマリアと聞くと、自衛隊が海賊対策で派遣された国という事実から、かなり危険な国というイメージではないでしょうか。ところが街中でほとんど銃をみかけないという治安のよいエリアがソマリア北部に存在し、それがソマリランド(未承認)です。著者は”なぜ無法地帯のソマリアのすぐ傍に楽園のような地域が存在するのか”という疑問に駆り立てられ、ソマリランドへ向かいます。 ソマリランドの首都ハルゲイサでは両替所で山積みの紙幣が無造作に積み上げられているにも関わらず、警備らしい警備のない状態に、その治安の良さを実感する著者。現地で案内を依頼した知人から、きちんとした選挙が実施され、さらに驚くべきことは僅差で敗れた与党から野党へスムーズな政権移行が実現している事を知らされます。民度の低い国ならば、形ばかりの選挙を実施し、与党が大勝するというのがお決まりなのに。 こうした民主主義が確立された謎に迫るため、著者は数多くの関係者への取材、ソマリランドの隣接地、プントランド、そして南部ソマリアへ足を運びます。南部ソマリアの首都、モガディシオは自衛隊が派遣された街。無法地帯の危険なエリアというイメージですが、町は想像以上に賑やかで、活気のある街並みであることが紹介されています。 これだけだと、”なんだ、ソマリアと言っても安全なの?”と勘違いしがちです。しかし著者は現地では必ず地元関係者と常に行動を共にし、必要であれば警備兵を雇い、モガディシオ滞在に際しては著者、地元関係者、警備兵4名をランドクルーザー2台という陣容で実行しています。やはり必要な警戒は怠らないというのが鉄則の様で、著者も”きちんと警戒しているかぎりは安全だが、自分一人になったり警戒を怠ると、牙をむいてくる”と称しておられます。このあたりの準備を怠らない様子はさすがプロのジャーナリストいう印象でした。 冒頭の疑問の答えには、ソマリアに深く根差している氏族支配が関与しており、本書ではその氏族の抗争についてかなりの紙幅を割いています。テーマは硬派ですが、著者の文体が柔らかく、取材エピソードも笑いを誘う雰囲気なので、600ページ近いボリュームですが、軽く読めてしまいます。ほぼ全編を通じて、現地人とのやりとりは”カート”という一種の覚醒植物を口にしながら進みます。これを噛むと気分が高揚するらしい(これって、少し危ないんじゃないかとヒヤヒヤしますが)。そこまで現地人の生活に入り込んでいくからこそ、聞き出せる情報も生きたものなのかもしれないですが。第35回講談社ノンフィクション賞ほか、受賞多数のノンフィクションです。
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著者がいつも聴くPodcastに出演されていて、面白い方だなと思い、著書を調べたら、面白そうなタイトルだったので購入 ソマリアと聞けば、内戦が絶えず、海賊だらけで近寄りがたい印象で、謎に満ちた存在 その中に更に独立国家として「ソマリランド」という国家があり、更に民主主義が確立...
著者がいつも聴くPodcastに出演されていて、面白い方だなと思い、著書を調べたら、面白そうなタイトルだったので購入 ソマリアと聞けば、内戦が絶えず、海賊だらけで近寄りがたい印象で、謎に満ちた存在 その中に更に独立国家として「ソマリランド」という国家があり、更に民主主義が確立されていて治安も安定している、と言う、更に謎に包まれたエリアに果敢にも訪れてその謎を解き明かしていく内容です 当初、ソマリランドのみ訪問する予定だったのが、それでは合点がいかず、海賊国家のプントランドと本拠地のソマリアも訪問した上で比較することで、ソマリランドの民主主義と治安の安定について更に深掘りして考察されており、圧巻の一言です 「氏族」(日本で言う集落みたいなイメージ)がキーワードで、「氏族」に対する考え方はソマリ人としてどの地域でも共通しているものの、それをベースに国家としてどう活用していくのか、という部分が異なるのかなと思いました 各氏族の長老の意見を尊重し、政治家や大統領は選挙で決める、というルールを確立するまでの様々な困難、歴史、経緯は壮絶でした また、民主主義そのものの中身は、先進諸国よりも進んでいると言っても過言ではないものであることには驚かされました 現地での取材中に直面する様々なピンチ(カネ、カート酔い、身の危険…)を綱渡りでしのぎながら、あっけらかんと取材を進めていく場面を面白おかしく文体でまとめられていて、読んでいてしんどさはなかったです カート宴会とお金を駆使して現地の方と仲良くなってホンネを聞き出す場面が印象的でした 日本に居ると想像できない内容の連続で面白かったです、ソマリアの印象がガラッと変わる内容でした 危険なのは危険ですが… なお、内容は2012年頃のものなので、今(2025年)はどうなってるのか、についても調べてみたいと思いました
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高野秀行さん、やっぱりこの人最強すぎる。 内戦や海賊などで荒れ狂うソマリアにおいて、普通選挙を行う謎の独立民主主義国家ソマリランドへ調査に行くというだけで面白いのに、わざわざアル・シャバーブが猛威を振るうモガディシュにまで突撃する度胸が半端じゃない。 そのおかげでソマリランドだけ...
高野秀行さん、やっぱりこの人最強すぎる。 内戦や海賊などで荒れ狂うソマリアにおいて、普通選挙を行う謎の独立民主主義国家ソマリランドへ調査に行くというだけで面白いのに、わざわざアル・シャバーブが猛威を振るうモガディシュにまで突撃する度胸が半端じゃない。 そのおかげでソマリランドだけでなく、ソマリ人全体の歴史、生活、氏族の特性など未知の知識がバンバン脳に入ってきて読み終わる頃にはソマリ人の虜になってしまった。『恋するソマリア』も絶対に読みたい。 高野さんの現地に同化する能力が異常に高く、カートをバリバリ食い、ソマリ人と喧嘩する描写がいちいち面白くて笑ってしまう。 ワイヤッブとの友情にはウルっと来るし、難民キャンプで撮る写真の話には呆然としてしまった。 ソマリランドにおける血の代償である“ディヤ”について、犯罪者を裁き罰する日本の司法制度よりも被害者に寄り添っているという指摘には全くその通りだなと思った。
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全く価値観の異なる文化の話であり、名前や地名の固有名詞、氏族文化など馴染みがなさすぎるので、中盤ごろまでは読み返しながら出ないと理解ができない部分がある。(著者の高野さんもその点は苦労し、戦国時代に起き得てわかりやすくしている) 用語や登場人物が頭に入ってくると、どんどん内容が面...
全く価値観の異なる文化の話であり、名前や地名の固有名詞、氏族文化など馴染みがなさすぎるので、中盤ごろまでは読み返しながら出ないと理解ができない部分がある。(著者の高野さんもその点は苦労し、戦国時代に起き得てわかりやすくしている) 用語や登場人物が頭に入ってくると、どんどん内容が面白くなっていき、高野さんが体験した驚きや気づきなどを追体験でき、非常に気持ちの良い読書体験だった。 読後感も最高。 高野さんが、20代だったらソマリランドで嫁をもらってソマリ人になれるのになと妄想するところと、海賊行為で利益を算出するくだりは独特の考えすぎて笑いました。
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早稲田大学探検部出身のノンフィクション作家、高野秀行氏。 作品群のタイトルを拝見していると系統としては「世界ふしぎ発見」「ウルルン滞在記」的な体当たり潜入系の取材記録が多いという印象。 本作は2013年の作品で、旧ソマリアから独立した?、そして国連も承認していないソマリランドなる国、さらにはプントランドなる地域?、さらには未だ内戦的状況から抜け出せない旧ソマリア南部(旧ソマリアー[引く]ソマリランド-[引く]プントランド)の様子を描いたもの。 ・・・ いやあ、面白かった。 これは凄い。お金と時間を使って、地域に入って、友を作り、そして習慣に浸かる。 高野氏の作品を読んだのは初めてですが、もう、旅行記と呼ぶには失礼過ぎる出来栄え、誤解を恐れずに言えば文化人類学的フィールドワークといっても過言ではないと思います。 せっかちでギャアギャア煩く、そして地元の人がいなくなると早速カモ外国人から金を巻き上げようとするソマリ系の人々。 イスラム教徒で酒が飲めないソマリの人々とカート(覚醒作用のある葉っぱ)宴会で盛り上がり、分け入り、仲を深める。 半分カモにされていると分かりつつもお金を費やし取材をすすめるその肝の座り方、地域の人のはなしをユーモラスに描写する筆力、そして弩級で並外れた出逢い(大統領報道官、元海賊、族長たち、若手テレビ支局長など)、どれをとっても面白かった。 私は行く気はないけど、ソマリランドやソマリ系の人々の性格は実に興味深いと感じました。 ・・・ それから。 本作で取り上げらていた海賊ビジネス。 日本でもソマリア沖で海賊が出るという話は一昔前によく報道されていたと思います。 本作を読むと「このことだったのか」と良く分かります。 ソマリ民族というのはなんでも契約社会だそう。罰を犯したら金で解決。イザコザも金で解決。部族と部族のイザコザはこうして解決する慣習が残っているそう。 そういう下地にあって、外国船籍の「積み荷」(人ではなく)を、他国のマフィア等とつるみ、襲う。そして積み荷をカタに身代金を取って儲ける。 他国のマフィアからは運航予定や積み荷の情報を得る。ソマリ民族は実行部隊。船を襲い、積み荷を確保し、最終的にお金で解決してもらう。 最近では護衛船がついてそうそう簡単に襲えなくなったらしいが、悪い人たちというのは実にグローバルに働くのだなと、変な感心をしてしまった。ローカルな慣習とグローバルなマフィア情報。これぞグローカルか、と。 ・・・ もうひとつ。 というか本作の主題であるソマリランドという超平和国家。 国連の所謂形式的手順を大きく踏み越して、超速で国家を作成してしまったソマリランド。ある意味で利権となる資源がなく、後進地域であり、部族社会が残ったゆえにうまく「部族民主制」が機能している実態に驚き。 他方南部ソマリアは、旧宗主国イタリアにより、長老が取り締まる部族的紐帯が破壊されたことから、今もって「リアル北斗の拳」という状況に陥る現実。 国連とそこから出る補助金で食べていくという南部ソマリア、あるいは貧しくも民主制で平和を実現しディアスポラ(在外人)からの仕送りで国を運営するソマリランド。地域的・手法的にもその中間をいくプントランド。 21世紀の今になっても、未だに19世紀の帝国主義の影響で地域の平和が得られないという現実。生態系と同様、文化や慣習も不可逆的であるのかとひしひしと実感。意図的に破壊した文化や慣習と、その後のカオス。文化や伝統の力、それがない時の影響、これらは小さくないと感じました。 ・・・ ということで初めて高野氏の著作を読みました。 とても好きなテイストです。今後も価格が安かったら是非買い求め読んでみたいと思います。 旅行好き、外国好き、異文化好き、知らないものを知りたい人、アフリカ好き等々にはお勧めできる作品かと思います。
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