神様のケーキを頬ばるまで の商品レビュー
久しぶりに心にグッとくる物語を書く作家さんを見つけた。 同じ場所で生活している人々の背景にある別々の人生を、ウツミマコトという人物の映画作品に絡めてうまく繋げている。何気ない日常を過ごす中で、それぞれが抱える葛藤や弱さや痛みを表現しながら、最後には希望を見せる。 言葉の選び方...
久しぶりに心にグッとくる物語を書く作家さんを見つけた。 同じ場所で生活している人々の背景にある別々の人生を、ウツミマコトという人物の映画作品に絡めてうまく繋げている。何気ない日常を過ごす中で、それぞれが抱える葛藤や弱さや痛みを表現しながら、最後には希望を見せる。 言葉の選び方や文章の表現の仕方がすごく好き。するすると心に入ってくるし、それでいてハッとさせられるようなフレーズもある。他の作品も全部読んでみたい。
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心の痺れ、再び。 他者の気配をうかがって、できれば皆によく思われたい、を適用させるのに頑張らなくていい。意見が違っていても勝負しなくていい。逆の人もいるだろうけれど、自分の「いい」をひとつ胸にしまっておくだけで、なんて気持ちが軽やかになるんだろう。
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+++ 私は他人に語れることを何一つ持っていない―むつみ(マッサージ店店主)。やっぱりここは、俺にふさわしい七位の場所なのかもしれない―橋場(カフェバー店長)。私から、こんな風に頭を下げてでも、離れたいのだ、この人は―朝海(古書店バイト)。どうすればあの人は私を好きになってくれる...
+++ 私は他人に語れることを何一つ持っていない―むつみ(マッサージ店店主)。やっぱりここは、俺にふさわしい七位の場所なのかもしれない―橋場(カフェバー店長)。私から、こんな風に頭を下げてでも、離れたいのだ、この人は―朝海(古書店バイト)。どうすればあの人は私を好きになってくれるのだろう―十和子(IT企業OL)。私は、真夜中の散らかった1DKの部屋で、びっくりするほど一人だった―天音(元カフェ経営者)。きっと、新しい一歩を踏み出せる。ありふれた雑居ビルを舞台に、つまずき転んで、それでも立ち上がる人の姿を描いた感動作! +++ 錦糸町という、流行の最先端とはいいがたい街の雑居ビルに入る五つの店で働く五人の物語である。五人には緊密なつながりはないものの、ウツミマコトというクリエイターの作品が共通するキーポイントになっている。自分の人生に欠落感を抱くそれぞれが、ウツミマコトの作品に自分の胸の裡を投影させたり、反発したりする心の動きも興味深い。常に内省し続け、内へ過去へと意識を向けてきた彼らが、老朽化による取り壊しによってビルを出る時、何かが少しずつ動き出したのだろうか。誰にでもある屈託を、わかりやすい言葉で描き出している一冊だと思う。
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泥雪…短いページなのに内容に奥行きがある。一つ一つは小さな絡まりでも全体的には複雑なもつれとなってしまうように、人生も後半になるにつれて取り返しがつかなくなる。 七番目の神様…男ってどこかカッコつけて本当の自分をさらけ出すことを嫌うけれど、弱みも堂々と見せびらかして生きた方が本当...
泥雪…短いページなのに内容に奥行きがある。一つ一つは小さな絡まりでも全体的には複雑なもつれとなってしまうように、人生も後半になるにつれて取り返しがつかなくなる。 七番目の神様…男ってどこかカッコつけて本当の自分をさらけ出すことを嫌うけれど、弱みも堂々と見せびらかして生きた方が本当はカッコいい。 龍を見送る…山椒魚の話は知らなかった。バラバラに散らばっていたネタが一つずつまとまって完結していくのが気持ち良い。 光る背中…意外なのは男の方が女を見る目がしっかりしていたこと。このプロレス好きな女は単に外見だけしか見ていなくて、自分に中身があまりないから相手の中身を見る事ができない。 塔は崩れ、食事は止まず…さすが最後にまるく収まるところがすごい。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
錦糸町の古い雑居ビル付近を中心に展開される短編集。 「ウツミマコト」という作家の絵と映画作品がリンクしています。 強く感じたのは同じものを見ても、受け止め方は人それぞれということ。 自分のこだわりや、欠点だと思っているところも、 ほんの少し見方を変えるだけで世界が変わることもある。 些細なことにとらわれて、つい周りが見えなくなってしまいがちな私にはどのお話もツボでした。 「たまには肩の力を抜いて自分を褒めてあげていいんだよ」 って言ってくれてる気がしました。 いつも褒めてる気もしますが…ふふっ。 ものすごくパンケーキが食べたいです♪ 恥ずかしながら『山椒魚』自選全集の削除も論争も、 全く知りませんでした。 評価は分かれるようですが、井伏鱒二氏の慈悲に心がなごむ気がします。
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時が過ぎれば気付くこともある。でも渦中にいるときは必死で、曲げられなくて、思いやれなくて、壊さなければ進めくて。誰かのせいにしたくて、そうすることで納得したくて、思い出すたびヒリヒリする。 全ての話に漂う鬱鬱とした空気が好き。
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だんだんと話が明るくなっていく。 一話一話が少しづつ繋がっていたが、そんなに気にならない程度。同じ世界にたまたまいただけ。 最後の話のせいでお腹がすいてきてしまった。
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とある雑居ビルと繋がりがあること、ウツミマコトの作った映画「深海魚」がエピソードとして出てくることを共通点にした連作短編集。マッサージ師のシングルマザー、チェーンの飲食店の雇われ店長、アマチュアバンドの作詞作曲担当者など、華やかではなく、どちらかというと「脇役」みたいな人生を生き...
とある雑居ビルと繋がりがあること、ウツミマコトの作った映画「深海魚」がエピソードとして出てくることを共通点にした連作短編集。マッサージ師のシングルマザー、チェーンの飲食店の雇われ店長、アマチュアバンドの作詞作曲担当者など、華やかではなく、どちらかというと「脇役」みたいな人生を生きる5人の男女をそれぞれ主人公にしています。どれも派手な話ではないけれど、惹きこまれてしまいあっという間に読めました。個人的には「7番目の神様」が一番好きでした。 ところで作中にはウツミマコト本人は全く出て来ず、彼の人となりとかも全然分からぬまま「深海魚」という映画だけが存在感を放ち続けるのですが。(ちなみに人も映画も架空のもの)この映画は万人ウケする内容ではなくて好き嫌いがハッキリ分かれ、作中の登場人物たちもこの映画が好きな人もいれば嫌いな人もいるという感じで。そのエピソードの組み立て方が抜群に上手く、ただ「とある雑居ビルに縁がある」という共通点だけで連作短編にしたら生まれなかったであろう深みが作品全体に生まれていました。 やっぱり彩瀬さんは上手い。
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古びた雑居ビルに構えられているいくつかのテナント。マッサージ店、カフェ、古本屋…、それらとゆかりのある人々が体験していく人々との出会いと別れ、そのひとつひとつを繊細に、丁寧に描いた短編集です。 どの短編にも大切な人との苦しい別れやかけがえのない出会いが織り込まれており、そのプロセ...
古びた雑居ビルに構えられているいくつかのテナント。マッサージ店、カフェ、古本屋…、それらとゆかりのある人々が体験していく人々との出会いと別れ、そのひとつひとつを繊細に、丁寧に描いた短編集です。 どの短編にも大切な人との苦しい別れやかけがえのない出会いが織り込まれており、そのプロセスとして架空の「深海魚」という映画が絡まっており、物語の統一性を持たせています。 このひとつの映画に対して、さまざまな感慨を登場人物たちは語ります。それらはどれもが間違っているわけではなく、彼らにとってのその感想は真実で、唯一です。 同じように、他愛のない物事も側面を変えればある人にとってはとてもかけがえのない出来事に姿を変えることもあるのでしょう。 そういったひとつひとつの「日常」のかけがえのなさを、小さな両手をあわせてすくいとって描いているような物語だな、と感じたのでした。 やっぱり思ったのは、比喩表現や台詞を含めた文章がとても好みだなあということ。今後も作品を楽しみに待っていきたいと思いました。
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何かしら弱みを抱え、他者と比較して自分を正直に言い出せず、伝えられず手詰まり感を抱える男女5人が自分のほんとに気づいて進む姿を描いた短編集。5つの短編を通じて出てくるウツミマコトの「深海魚」という美しくもグロテスクで評価真っ二つの映画。これに対する5人の主人公の思いがそれぞれの主...
何かしら弱みを抱え、他者と比較して自分を正直に言い出せず、伝えられず手詰まり感を抱える男女5人が自分のほんとに気づいて進む姿を描いた短編集。5つの短編を通じて出てくるウツミマコトの「深海魚」という美しくもグロテスクで評価真っ二つの映画。これに対する5人の主人公の思いがそれぞれの主人公の心を表している(と思う) 普段周りからの反応が怖くて、ごまかしたり呑み込んでいるうちに見えなくなっていること、よくあると思う。それに気付いたとき、踏み出していくときの解放感と寂しさがいい。
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