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暗渠の宿 の商品レビュー

3.7

92件のお客様レビュー

  1. 5つ

    15

  2. 4つ

    39

  3. 3つ

    19

  4. 2つ

    4

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2013/06/28

貧困に喘ぎ、暴言をまき散らし、女性のぬくもりを求め街を彷徨えば手酷く裏切られる。そんなどうしようもない男の生き様を描いた中編小説が二編収録されております。しかし、僕はこの男のダメさ加減が愛おしい。 本書は西村賢太作品の中でもある意味ではもっとも読みたかったものなのかもしれません...

貧困に喘ぎ、暴言をまき散らし、女性のぬくもりを求め街を彷徨えば手酷く裏切られる。そんなどうしようもない男の生き様を描いた中編小説が二編収録されております。しかし、僕はこの男のダメさ加減が愛おしい。 本書は西村賢太作品の中でもある意味ではもっとも読みたかったものなのかもしれません。収録されているのは二編の中編小説で、『けがれなき酒のへど』と『暗渠の宿』です。その中でも『けがれなき―』は西村氏のデビュー作ということで、後の『苦役列車』による芥川賞受賞のいわば「西村ワールド」というものがすでに形成されていて、『処女作には作家のすべてがある』という格言はやはり本当だなと思ってしまいました。 『けがれなき酒のへど』はどうしたって、何したって『彼女がほしい』とあえぎ続ける男が「プロ」の女性に岡惚れした挙句、なんと『思い』を遂げたあとに彼女の言う借金を肩代わりした(これも真実かどうかはわからない)90万円もの現金。それも、自身が長年悲願であった作家の全集を出版するためにプールしたいわば『虎の子』であるので、その顛末のおかしさや、ソープランドに勤めているその女性との出会いに始まり、『私』がその女性につんのめっていき、女の要求するままに自身が長年かけて蒐集した希少な近代文学の中古本を売り払ってはブランド物のバッグに変えて彼女に貢いでいく…。この落差がなんともいえないのですが、自身にもすねに傷を持つ話題を事欠かないので、読みながら身につまされてしまいました。 最後のほうに、師として崇める藤澤清造を偲ぶために能登七尾に行き、そこで住職たちから振舞われた酒や肴を『けがれなき酒のへど』として豪快にぶちまけるところが、この作品のカタルシスといったところでしょうか?それだけの目にあっても『女』を求める『業』の深さを感じさせるラストが秀逸でした。 『暗渠の宿』ではそんな『私』が長年の悲願である彼女をものにし、その新居を探すところから物語は始まります。しかし、行く先々の不動産屋で、審査に落ち、実家との断絶など、言いたくもないことを口にしなければならないことに「私」は苛立ちを隠せなくなります。しかし、ようやく見つけた部屋での二人での新生活で、彼女の持つ過去の男関係に嫉妬した「私」は徐々に鬱屈した感情を溜め込んでいきます。それがことあるごとに爆発するのを見るのが西村作品のある種の『カタルシス』ではありますが、これがまぁなんとも理不尽極まりないもので、ラーメンの湯で加減に始まり、古書店のいさかいを蒸し返したり、果ては間違ってトイレに入っている最中に彼女が入ってきたときには烈火のごとく怒り、すさまじい言葉で痛罵したあとに、打擲する。 ダメ男の典型のような彼の姿に僕は大笑いしつつも、そういう厄介なものをもしかすると自分の『裡』にも飼っているのではなかろうかと、背筋からいやな汗が流れるのでありました。

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2013/05/26

暗渠の宿 読み終わりました 西村賢太の本を読むのは二冊目ですが、相変わらず「読ませるなぁ」という印象が起きました。 自分とは全く違うタイプの人間像なのですが、どこか共感できる部分があったりして面白いです。 汚い部分を汚いまま見せてるという感じでしょうか

Posted byブクログ

2013/04/24

西村賢太は自分を私小説家と言い、自分の私小説を読んで「自分よりこんなひどい奴がいるのか」と思ってくれたら良いと言っているが、そんな私小説を好んで読んでしまう僕なんかは、やっぱりどこかで破綻しているのじゃないかしらと怖れを抱きつつ、ページをめくる指が止まらない。

Posted byブクログ

2013/04/08

クズだなぁ、というのが一番強い印象。 難しい古い言葉の多用がらしさをだしておりそれが味になっている。難しい言葉を使っているわりに文章が綺麗だとも感じないし、内容も私小説なのでこんなものなのかもしれないが、薄っぺらく感じた。 そこらへんにいそうなクズな男が、自分を大きく見せようとし...

クズだなぁ、というのが一番強い印象。 難しい古い言葉の多用がらしさをだしておりそれが味になっている。難しい言葉を使っているわりに文章が綺麗だとも感じないし、内容も私小説なのでこんなものなのかもしれないが、薄っぺらく感じた。 そこらへんにいそうなクズな男が、自分を大きく見せようとして明治だか大正だかの書生ぶっている、そんな印象。 それでもまたこの作者の書いたものを読んでみたいとも思うのはなぜだろうか。人間の生の行き方が赤裸々に生々しく率直に語られているからか。 24.4.8

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2013/03/26
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

最近、西村賢太がテレビによく出ているようだ。 最も、youtube等Webでしか観ていないが。 この人、歳は下だが本当に現代の人だろうかと思ってしまう。 妙に古めかしい難解で独特な言葉遣いも特徴的です。 作品や言動が大時代というか、リアルに昭和初期風価値観で不自然なく出来上がっているよう。 この間テレビに出ていた人で、大正から昭和初期にかけてのファッションや生活品で暮らしている女性がいましたが、そのような取って付けたような感じではなく、芯から社会に迎合せず、半ば世捨て人的な感じを受けます。 最も、それなりに確信的に演出クサイ言動もかいま見えますが。 芥川賞を取った時の有名なセリフに「そろそろ風俗に行こうと思ってます」というのがありました。これなども端的に生活や人となりを表してはいるのだろうが、多少の演出もあるように思う。 笑っていいともに出た時の動画も見た。ていうか、出すなよと(w (関係ないけど、お昼のNHKに園子温がゲストだった時も引いたが) その時のひな壇芸人との駆け引きも多分に自分のイメージを作った答えだった。 一言で言うとかなり「クズ」ですね(w いいともでもクズ振りをアピールしているようなので。 読み始めて最初に感じたのが、「暴力的なつげ義春」。 両者に似通った赤裸々な描写ですが、どうも、つげ義春ほどそれが作品に溶け込んでいるように思えず、無駄に刺々しさを感じてしまう。 そこが作者を受け入れられるかどうかのハードルになっていそう。 私小説ということで、ほぼ経験から書いているようです。 もちろん、無頼派というか、好感をもって迎えられようなどとは露ほどにも思ってはいないでしょう。 ひたすら粗野(弱者に対して)なんだが、一人称はひたすら「ぼく」。 これはテレビ出演の時も同じなんで、小説と実生活はひたすらシンクロするのだと思います。 作者が傾倒し、没後弟子を自認する藤澤清造の件(くだり)が度々出てくるが、ほぼ知られておらずボクもしらない人なので、そう詳細に語られても困る。 しかし、それが作者の依って立つところであるらしく、書かないわけにもいかないのでしょう。 あとがきを寄せているのが友川カズキ。 この人もつい最近まで知らなかったのですが、偶然に観た映画「IZO」の狂言回し的歌手として本人役で出演していました。 あまり好きにはなれませんでしたが、印象的な歌手です。 これにはなんとも言えない偶然を感じました。 この人が言うには、一発でヤラれてしまい、ハマったとのこと。 ボクとしては、確かに面白いんだが、うーん。という感じですね。 多分、他の作品も同じような感じなのでしょう。 あまり、創作はできないというような事をどこかで言っていたような気もするし。 芥川賞を獲ったのは「苦役列車」。本作を読んだ限りでは、芥川賞???という感じですが、さてどうでしょうか。 「苦役列車」も読んでみようと思います。

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2013/03/02

話題の芥川賞作家、異色な経歴を持つ西村賢太氏、 石原慎太郎氏が熱心に激賞していたこともあって初めて読んでみた。 自身の経験を礎とした私小説を、 大正から昭和初期のような古風な文体で描いていく。 変哲も無い話は文体によって引力を持つので、 これが結構読める。思わず微笑もこぼれる...

話題の芥川賞作家、異色な経歴を持つ西村賢太氏、 石原慎太郎氏が熱心に激賞していたこともあって初めて読んでみた。 自身の経験を礎とした私小説を、 大正から昭和初期のような古風な文体で描いていく。 変哲も無い話は文体によって引力を持つので、 これが結構読める。思わず微笑もこぼれるような内容で嫌いではない。 しかし、辛口に評価すると、私小説としては内容が空疎だし、 文体、雰囲気を求めるならば過去の小説の方が優れており、 且つ、車谷長吉のような情念の凄みもないので 美点が解り辛く物足りなさを感じた。

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2013/02/28
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

短編二本収録。 けがれなき〜では風俗嬢に惚れ、貢ぎ、金をパクられる。暗渠〜では念願の彼女ができたが、持ち前の小さいプライドの高さから湧き出る嫉妬と猜疑心。ここまでの小心者は珍しい!一気に読んだ。

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2013/02/22

ふたつの話が入ってる。 みみっちいやつだし、きれやすいし、騙されやすい人の話。 まあ、話が下世話なので、みんなに好かれる本じゃないと思う。 この著者は、大正期の作家から影響受けてるためか、2000年以降に書かれたとは思えない言葉があった。私が言葉を知らないからかもしれんが。

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2012/12/17

生々しいにも程がある。 苦役列車を読んで気になって本作を読んだが凄まじい。 暗渠の宿で同棲を始めた女性との関係のその後が知りたい。

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2012/12/09

苦役列車、暗渠の宿、どうで死ぬ身の一踊り、の中で一番印象に残った二篇が収録された一冊。 「けがれなき酒のへど」で主人公の切実な欲求と純粋さに心温まった…のも束の間、表題作「暗渠の宿」で、安易に心温まった自分を嘲笑されているかのような気分に。主人公が、自らの劣等感から生まれる不安...

苦役列車、暗渠の宿、どうで死ぬ身の一踊り、の中で一番印象に残った二篇が収録された一冊。 「けがれなき酒のへど」で主人公の切実な欲求と純粋さに心温まった…のも束の間、表題作「暗渠の宿」で、安易に心温まった自分を嘲笑されているかのような気分に。主人公が、自らの劣等感から生まれる不安や苛立ちを相手への不信に転化してしまう内面の描写は、読み続けるのが苦しくなるほどリアルだった。 そして、読んでいて苦しくなればなるほど、結局人間そんなものなんだよ、誇りたかきクズだよなーと鼻で笑う作者や読者が目に浮かぶ。 もしかしたら、この本、真面目に苦しみながら読んだりせず、お酒の肴にして笑いながら読んだほうが良かったのかも、、そして、この主人公(作者)に、全く共感できず嫌悪できる女子たちが、いわゆる勝ち組なのかも、、と勝手に思った。ので、面白かった、と大声で言うのはやめておきたい。

Posted byブクログ