悪童日記 の商品レビュー
これは、すごい。 感傷を排した文章で語られる物語の現実に圧倒される。とても客観的な文体なのに、あまりに苦しく重くてやりきれない。
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贅肉をそぎ落としたような淡々とした文章で、壮絶なことを語り、ぞくりとさせてくれるような作品はもはや珍しいものではないと思うけど、これに比べたらそういうものの多くの底の浅さが見えてしまうほど、まさに「極限に乾いた筆致で読者の胸をえぐる文学」というジャンルでもあればその頂点に君臨して...
贅肉をそぎ落としたような淡々とした文章で、壮絶なことを語り、ぞくりとさせてくれるような作品はもはや珍しいものではないと思うけど、これに比べたらそういうものの多くの底の浅さが見えてしまうほど、まさに「極限に乾いた筆致で読者の胸をえぐる文学」というジャンルでもあればその頂点に君臨してしまうのではないかと思われるアゴタ・クリストフ女史の、一文字たりとも無駄のない小説。「悪童日記」だけでも十分すごいのに、三部作をすべて読み終えてからまたこの一作目を読み返してみると、埋もれていた真実の前に、途方もない孤独を感じさせられてさらに驚愕。 これが十分な教育を受けた事もないままに異国に亡命してきた作者が、母国語ではない言葉で生み出したものだとは…。
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『「私の愛しい子!最愛の子!私の秘蔵っ子!私の大切な、可愛い赤ちゃん!」これらの言葉を思い出すと、僕らの目には涙があふれる。これらの言葉を、ぼくらは忘れなければならない。(中略)そこでぼくらは、また別のやり方で、鍛練を再開する。ぼくらは言う。「私の愛しい子!最愛の子!大好きよ…け...
『「私の愛しい子!最愛の子!私の秘蔵っ子!私の大切な、可愛い赤ちゃん!」これらの言葉を思い出すと、僕らの目には涙があふれる。これらの言葉を、ぼくらは忘れなければならない。(中略)そこでぼくらは、また別のやり方で、鍛練を再開する。ぼくらは言う。「私の愛しい子!最愛の子!大好きよ…けっして離れないわ…かけがえのない私の子…永遠に…私の人生のすべて…」いく度も繰り返されて、言葉は少しずつ意味を失い、言葉のもたらす痛みも和らぐ。」』-『精神の鍛練』 文体(例えば一人称で語る主人公は双子だが、二人の語りの区別は一切ない。その事でシンクロニシティ的なイメージが元々ある双子という設定がより強調されるような文章ができあがる)や構造(どの逸話も数頁の中で生まれ、そして消えてゆく。決して完結はしない。繰り返される喪失。少年期の主人公たちがつけているという日記の断片のようでありながら、同時に死期を迎えた老人の回顧録のようでもある)に、まず魅せられてしまう。しかしこの本には、気持ちをこう構えて読めばよいのだなという心の持ちようを許すところが、みごとにない。 時代も場所も明らかにはされない。それどころか人物の名前もほとんど明かされない。とはいえ特定の時間・場所を想定することも可能ではあるのだけれど、ここまで徹底して伏せられているということは、語られる事柄に対する普遍性というものを著者が相当に意識しているのだろう、という風に思いは傾く。この文体は、語られることに対する好悪のレベルを超えた思考を読む者に自然と喚起する。双子が自らの作文の練習に課すしばり、「好き」などの表現を用いず事実だけを記す、という基準が、アゴタ・クリストフの「悪童日記」(このタイトルには訳者のおせっかいを感じてしまうけれど)全般を覆う。その為、書かれた内容についての判断は、いきおい、読む者の側の負担となる。恐らく、だからこそ、不必要な与件となる時代も場所も記されてはいないのだ。 例えばそれは「敵」や「味方」という言葉が指し示すものが、双子が使わないことにしている「好き」や「嫌い」のような「感情を定義する言葉は、非常に漠然としている」『ぼくらの学習』と同じことだ、と言わんとしているかのような印象を残す。双子は徹底して感情が露わになることを戒め、その訓練を重ねて感情を出さない術を身につけて行くが、それ故に返って、描写される出来事の中に埋め込まれている双子の思いは色濃くにじんでしまう。例えば、生活のために物乞いをする場面がこんな風に描写される。 『「だったらどうして、乞食なんかしているの?」「乞食をするとどんな気がするかを知るためと、人々の反応を観察するためなんです」婦人はカンカンに怒って、行ってしまう。「ろくでもない不良の子たちだわ!おまけに、生意気なこと!」帰路、ぼくらは、道端に生い茂る草むらの中に、林檎とビスケットとチョコレートと硬貨を投げ捨てる。髪に受けた愛撫だけは、捨てることができない。』-『乞食の練習』 何故チョコレートは捨てられたのか。双子は必要に迫られて物乞いをしたのでは本当にないのか。それとも同情を掛ける側の偽善性に辟易したからなのか。そこに言葉としては表現されなかった感情の矛先が向けられたと見ることもできる。もちろん、最後の一文を読みたがえる人はいない。少年たちの母親は傍らにはいない。 アゴタ・クリストフのこの傑作には、こういう風に読むもの解釈を委ねているようでいて、最後に静かに解らせる、という文章が溢れている。そうして、委ねられたと一度感じてしまうと、感情を押し殺すために双子が払っている犠牲や状況から必要以上に何かを読みとってしまいたくなるのだが、その感情が偽善的ではないか自省し、自分の感情もぐっと動かされそうになるこを抑えて読まなければならないのだ。
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いろんな意味で衝撃を受けた作品。凄惨な内容ながら読み出したら止まらず一気に読み終えた。人の醜さとかが生々しく描かれていて爽やかな読後感からはほど遠いけど、悲惨な状況の中であくまで図太くたくましく生き抜く双子に人間の根本的な強さというものを感じる。ただこれ3部作なんだけどあと2冊は...
いろんな意味で衝撃を受けた作品。凄惨な内容ながら読み出したら止まらず一気に読み終えた。人の醜さとかが生々しく描かれていて爽やかな読後感からはほど遠いけど、悲惨な状況の中であくまで図太くたくましく生き抜く双子に人間の根本的な強さというものを感じる。ただこれ3部作なんだけどあと2冊は読まなくて良かったというか、読まない方がよかったなぁ…とちょっと思った。
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再読。最初読んだときほどの衝撃(特にラスト)はなかったが、やっぱり奥の深い小説。双子(とその祖母)は平然と人を殺すこともできる異質な存在だが、ずっと読み進めるうちに、ほんとに残酷なのは彼らではなく、一般大衆という存在なのかも知れないと思った。ただ高校の図書館には置いてはいけない本...
再読。最初読んだときほどの衝撃(特にラスト)はなかったが、やっぱり奥の深い小説。双子(とその祖母)は平然と人を殺すこともできる異質な存在だが、ずっと読み進めるうちに、ほんとに残酷なのは彼らではなく、一般大衆という存在なのかも知れないと思った。ただ高校の図書館には置いてはいけない本だな(笑)
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一言で言うと、リアル。綺麗ごとを一切失くした物語。 第一次大戦下、自分たちの価値観のみで生きていく双子の美少年の物語です。 彼らのすることは冷酷で極悪非道そのものだけど、倫理観や法律に縛られない彼らの下す判断は何故か正しい・・とは言わないけど、納得できてしまうような気がしてくる。...
一言で言うと、リアル。綺麗ごとを一切失くした物語。 第一次大戦下、自分たちの価値観のみで生きていく双子の美少年の物語です。 彼らのすることは冷酷で極悪非道そのものだけど、倫理観や法律に縛られない彼らの下す判断は何故か正しい・・とは言わないけど、納得できてしまうような気がしてくる。そんな恐ろしい物語です。
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翻訳された文章が苦手なわたしでも(短いのもあるけど)すごくするっと読めた。読みやすい。そしてとても吸い込まれる双子ちゃんです。子供の無垢さにかなうものってないのでは おもしろかった
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水面の色の変わらない大きな目で 激しい世界からたんたんと 耽美と好奇を集めていく それはおとぎ話のようにやさしいけれど 読んだ後は、心を真っ黒闇に染める誘惑を知ってしまいます。
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かなりひどい小説だと思いました。いや面白いんですけどね。ブラックユーモア、ブラックジョーク・・・いろいろとブラックですね。
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とらえどころのない印象だった。 高校の図書館の奥の本棚で見つける。 情緒を無視した小説は苦手らしい。
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