犬婿入り の商品レビュー
遅読の私なのだが実にすいすい読み進めた。 二冊目にして「多和田葉子流」に慣れたのは 思考の形がどこか似ているのかしら?なんて 多和田女史の研ぎ澄まされた言語感覚と 深い洞察力を前にして とても言えない。 1993年芥川賞受賞の「犬婿入り」。 エロチックな有機物のにおいに満ちてい...
遅読の私なのだが実にすいすい読み進めた。 二冊目にして「多和田葉子流」に慣れたのは 思考の形がどこか似ているのかしら?なんて 多和田女史の研ぎ澄まされた言語感覚と 深い洞察力を前にして とても言えない。 1993年芥川賞受賞の「犬婿入り」。 エロチックな有機物のにおいに満ちているが 妙に乾いた空気感。 「異質な存在」も人々の「言葉」次第では そうでないものになり 何者なのか 何物なのか わからないまま時は過ぎていく。 「ペルソナ」には「ドイツで生きる私」が ちょっと痛々しく描かれている。 ある韓国人に対するドイツ人の反応をきっかけに 「東アジア人」の自分がよくわからなくなっていく。 能面をかぶったまま街を歩き 日本人を体現しようとしたものの 誰も日本人だと思ってくれない。 ペルソナ=外的側面のせいで 何者でもなくなってしまうという恐怖。 私は海外に住んだことがないくせに 何度も行っているから知った気になっている 情けない人間だが 異国において自分が誰かよくわからなくなる感じは なんとなくわかる。 以前 ミュンヘンで 商店街のウィンドウを眺めながら歩いていた時 妙にくすんだ女性の像が突然目に飛び込み ぎょっとした。 平たく表情のない顔。凹凸の少ない身体つき。 それは鏡に映った私の姿だった。 一瞬 時間が止まるというか 血流が止まるというか 身体が地面から浮いてしまったような 気がしたことを覚えている。 20世紀末 多和田女史は異国にあって アイデンティティを喪失した共同体は やがて断片の集まりでしかなくなる という不安を感じたのではないだろうか。 21世紀に入って20年。 その不安が現実となった世界に私たちは暮らしている。
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違うタイプの二編で、私にとっては二編とも居心地が良いとは言えない話だった。 ペルソナは、国や文化や性別による差別・偏見が根底に常にあって、次から次へと襲ってくるそれらにあてられたようで、孤独や葛藤が渦巻いているのもあり少し沈んだ気持ちになる。 犬婿入りは、良くも悪くも性が猥雑に散らばっていて動物的。そこを見て見ぬ振りはできず、不快感を薄っすらと刺激される。最後は本当に結ばれた者同士で関係が成立して丸くおさまるので良かったのかな、と思いつつも置いていかれた感じがある。
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人は自分と共通点のある似通った人とは仲間になりたがるけれど、ちょっとでも異なる人とは区別したがる。 生まれた国や言語、文化、風貌、立ち振舞い等あらゆる基準により自分とは異なる者を「異物」と見なし排除し、時に攻撃する。 まるで多数決で多い方が正義となるかのように。 『ペルソナ』でのドイツに住む日本人・道子に対して、表情が乏しく何を考えているのか分からない、と言って傷付けたり、表題作の風変わりな塾教師に対して母親達が無責任な噂話を広めたり。 個人的には芥川賞受賞作の表題作より『ペルソナ』(これも芥川賞候補作)が好き。 道子が日本人の顔になるために化粧をする姿(素顔ではベトナム人に間違えられるため)や能面(ペルソナ)で顔を隠すことにより柵から解放され堂々と歩く姿がとても印象深い。 長年ドイツで暮らす多和田さんも、ドイツに住み初めの頃は色々と苦労したのだろうか。
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多摩川べりのありふれた町の学習塾は〝キタナラ塾〟の愛称で子供たちに人気だ。北村みつこ先生が「犬婿入り」の話をしていたら本当に〈犬男〉の太郎さんが押しかけてきて奇妙な2人の生活が始まった。都市の中に隠された民話的世界を新しい視点でとらえた芥川賞受賞の表題作と「ペルソナ」の2編を収録...
多摩川べりのありふれた町の学習塾は〝キタナラ塾〟の愛称で子供たちに人気だ。北村みつこ先生が「犬婿入り」の話をしていたら本当に〈犬男〉の太郎さんが押しかけてきて奇妙な2人の生活が始まった。都市の中に隠された民話的世界を新しい視点でとらえた芥川賞受賞の表題作と「ペルソナ」の2編を収録。 ある日、黒い犬はお姫様をさらって森に入ってしまい、本当に嫁にしてしまったと言う子もいれば、お姫様のご両親が黒い犬がお姫様のお尻を舐めているところをたまたま目撃してしまい、ひどくお怒りになって、黒い犬とお姫様を無人島に島流しにしてしまったと言う子もいた。 P84より
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芥川賞受賞作品であったがすんなりとはわからない不思議な小説であった。ドイツのことには全く触れられていない。
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「ペルソナ」は匿名性や等価性といったものが構造としても表されているが、やや型に嵌った感もある。それに較べて「犬婿入り」はもう少し奔放な感じがするが、細部まで読み込めなかったので口惜しい。
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自我自我していないドライさと、頻出する小学生受けしそうなプリミティブな言葉(鼻くそとか乳房とか)とが好相性だったし、ところどころ笑いのツボもあったけど、個人的にあの手の息の長い文体はうらめし…
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表題より前掲のペルソナがよい。 まあ、読みにくい。 異国の生活でのアイデンティティについて。外国人とも日本人とも意識が乖離。私はこの問題に関して留学中は諦めてたなと反省。むしろ韓国人やベトナム人に見られることで新たなペルソナを被り匿名性の快感を感じてました。 壁も、ステロタイプの...
表題より前掲のペルソナがよい。 まあ、読みにくい。 異国の生活でのアイデンティティについて。外国人とも日本人とも意識が乖離。私はこの問題に関して留学中は諦めてたなと反省。むしろ韓国人やベトナム人に見られることで新たなペルソナを被り匿名性の快感を感じてました。 壁も、ステロタイプの像も他者の頭から無くなるわけない。諦めた方がいいはず。でもこの作者は戦っている人でした。非常にタフ。 ついでに犬婿入りのメモ。 長文を繋げてリズミカルに。 口上。興行師の話し方に似ている。書き方で連想するのはなめとこ山の熊、樋口一葉。きっと後者が近い。 口上を目指すことで民話的な、昔々的な世界観を作る? 段階別の異様さ。主婦、先生、太郎の順。噂話から段階的に異様さに繋がるため異様さに入りやすくなる。 通常、この展開なら異常も噂話で語られ真偽は不明の終わらせ方にするが、そうはならない。油断してると当たり前のように異常が事実として語られるから、荒唐無稽な話にリアリティが生まれるのか?
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ペルソナ、表題作の二篇。ちょっと歩いただけで体中に小さい棘が刺さる。端的なようでねじれた文章、意地の悪い目線。散らされた毒に、違和感の集積が肩にのしかかる。重ならないが故のあきらめ、一方の引力、思いやり。ひとり目の道子と似た環境にいたことがあるけれど「あーあるねー」ってところと、...
ペルソナ、表題作の二篇。ちょっと歩いただけで体中に小さい棘が刺さる。端的なようでねじれた文章、意地の悪い目線。散らされた毒に、違和感の集積が肩にのしかかる。重ならないが故のあきらめ、一方の引力、思いやり。ひとり目の道子と似た環境にいたことがあるけれど「あーあるねー」ってところと、そういう風に感じるのか、と思うところと。アジアは総じて「アジアチック」、「トヨタ」ではなく「ソニー」だった。顔指して言われた事はないしいわれても別に気にならなかったと思う。 正直なところ、主人公が神経過敏でなんてめんどくさいんだ、と思った。でも、その感覚を知っている気もする。読後こってりした澱が残る。
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『ペルソナ』主人公の道子は差別や偏見を苦痛に感じてるが、道子自身も偏見を持ってるのでドッコイドッコイやなぁと思った。 『犬婿入り』適度にエロかったんで『ペルソナ』よりは好き。でも訳分からん・・・。解説読んでも分からん。
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