香君(下) の商品レビュー
上橋菜穂子の、よく言えば集大成、普通に言えば今までの作品のいいとこ取りをした作品。 内容は大人向けだけど、児童文学の流れを汲んで、子供に伝えたいこと(言い換えれば多くの人がそれらを持たずに大人になってしまったこと)が散りばめられている本だった。
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人の上に立つ、とは「孤独」に他ならないと思う。人は小賢しく、上に立つものに権力を与える代わりに決断という責任から上手く逃れている。指導者側が圧倒的な力を持つほどその傾向は顕著だ。ナチスドイツの政権下、自分の罪を自覚すらせず人々を裁いたアイヒマンになぞらえて、権利という庇護の下で主...
人の上に立つ、とは「孤独」に他ならないと思う。人は小賢しく、上に立つものに権力を与える代わりに決断という責任から上手く逃れている。指導者側が圧倒的な力を持つほどその傾向は顕著だ。ナチスドイツの政権下、自分の罪を自覚すらせず人々を裁いたアイヒマンになぞらえて、権利という庇護の下で主体性を捨てる人の姿をアーレントは「人格なき専門家」と評した。権力に従う人間は、不合理や理不尽を権力者に押し付ける権利を持っている。逆に権力を持つ者は不満も理不尽も全てを容認する覚悟を持たねばならない。そういうところが孤独なのだ。 それでもアイシャは、人が自ら考え、自分が神ではないということを人に伝えようとした。その上で、民を守ろうとした。一生を飾り物の神として過ごそうと腹に据えていたオリエも、民と関わりながら香りから知り得ることを人に伝えようとしたアイシャも、力を持つ者の孤独と戦った強い人だと思った。
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テーマは違うけれどこの時代に生きていくにあたって大事なことを教えられている気がした 香君というタイトル通り読んでいる間中、気品に満ちた温かい香りが漂っているような作品だった 設定の細かさ、秀逸さに脱帽した 800ページ越えだったがあっという間に読めた
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私はジブリ作品ならもののけ姫が好きです。 上橋作品とは共通する部分があるように感じるのですよね。。 さて下巻です。 本作下巻も単純に悪役を倒して終わり、という展開ではなく、皆、信念と道理があり、それぞれの立場なりの決断をしながら新しいものを作り上げようとする姿に私自身も共感したり苦悩したりしました。 また、ひとつのものに頼る危うさと、自然界の多様性の意味と重要性についても改めて考えさせられました。 色々問題を起こすのも人間だけど、それでも経験を引き継ぎ、知恵を出し合うことで人間の強みが生きてくる。人間だけでなく、生きるものすべての幸せのために我々は考え続けていかなければいけません。
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少女が国や民を救う話ですが「孤独」についても書かれた素敵な小説だった。今のこの時のわたしが読めて良かった本。
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久々の上橋菜穂子、今回は動物ではなく植物、穀物との共存をテーマにしたファンタジー。と言っても特殊な嗅覚以外は魔法や能力的な話はない、かなりリアル。 上巻を読んでいて、既知感があったがやはり「世界からバナナがなくなる前に」にインスパイアされてたんや。そこから色んな知識を吸収し積み上げて、こんな話を作りあげるってのは、やっぱ上出来の小説家ってのはただものじゃない。 単一の穀物に頼ることの危険性から派生して、多様性を否定することによる硬直化の怖さ、何かを盲信することは逃げであり弱さであること、ライフラインを人質に取って支配することの卑劣さなど、考えさせられることが多かった。 尊敬したり推したりする気持ちの裏側に、責任や自分で判断すべきことを押し付けて責任転嫁しようとしていないか。気持ちを裏切られた時に、失望から這い上がる手だてを模索できるか?気力を奮い立たせられるか? 答えが一つであることは意外と少なく、これしかないというのが思い込みかも知れない、というダンパーを心に持っておくことは重要なことなのだと思う。
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鹿の王を読んでから上橋先生の作品を好きになって、今回この作品を読んでまた好きになりました。 人間が知らないだけだったり、都合の良い悪いに関わらず、世の中では全ての事が複雑に絡み合っていて、バランスをとっていること。またバランスを保つことが大切だということを、いつも感じさせてくれる...
鹿の王を読んでから上橋先生の作品を好きになって、今回この作品を読んでまた好きになりました。 人間が知らないだけだったり、都合の良い悪いに関わらず、世の中では全ての事が複雑に絡み合っていて、バランスをとっていること。またバランスを保つことが大切だということを、いつも感じさせてくれるように思っています。
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植物の香りで植物が望んでいることを理解できる特殊な能力を持つ香君。 活神として崇められ、オアレ稲という国が依存している穀物の栽培方法などの方針を決める。 その香君が、活躍する話。 政治と宗教の関係のような話も含まれており、読み応えは抜群だった。 ファンタジー感が苦手な自分...
植物の香りで植物が望んでいることを理解できる特殊な能力を持つ香君。 活神として崇められ、オアレ稲という国が依存している穀物の栽培方法などの方針を決める。 その香君が、活躍する話。 政治と宗教の関係のような話も含まれており、読み応えは抜群だった。 ファンタジー感が苦手な自分も楽しく読めました。
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途中話がなんだか分からなくなってしまう箇所も多々ありながらもなんとか読み終えた。全体としては面白かったと思うけど、改めてちゃんと読みたい〜
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上橋さん2作品目。 香りで万物を知るという設定がおもしろい。 作中にもあるけど、“香り“を どう言葉にするのか、それが難しい。 それを思わせない、文章力。 きっとこんな香りなんだろうなと 私自身も想像しやすかった。 1つのものに頼る、その恐ろしさ。 悲劇が悲劇が生む様子など、 ...
上橋さん2作品目。 香りで万物を知るという設定がおもしろい。 作中にもあるけど、“香り“を どう言葉にするのか、それが難しい。 それを思わせない、文章力。 きっとこんな香りなんだろうなと 私自身も想像しやすかった。 1つのものに頼る、その恐ろしさ。 悲劇が悲劇が生む様子など、 物語にどんどんのめり込む要素がたくさんある。 人並以上の嗅覚をもつアイシャだからこそ その感覚を誰とも分かち合えないという孤独。 オリエの飾り物として座らされている香君の座。 どちらにも感情移入ができる。 これも長編だけど 読んでみる価値が十分にある ファンタジー小説になっています。
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