罪の轍 の商品レビュー
重厚な一冊 東京オリンピックに合わせた交通&通信の整備が経済を発展させたのは間違いないが、発展したのは犯罪捜査も含まれると思う 北海道に行くだけでも今では考えられない時間がかかり、DNA鑑定もなく、携帯電話すらない時代で捜査をする警察 オリンピック景気で需要が増す労働力に反...
重厚な一冊 東京オリンピックに合わせた交通&通信の整備が経済を発展させたのは間違いないが、発展したのは犯罪捜査も含まれると思う 北海道に行くだけでも今では考えられない時間がかかり、DNA鑑定もなく、携帯電話すらない時代で捜査をする警察 オリンピック景気で需要が増す労働力に反比例して、悪化する労働環境で発生する犯罪心理 労働者を相手に商売する一般人と、反権力を正義として活動する団体&新聞記者 それぞれの視点と立場で事件を見ることができる 通常は、国民が一致団結する様子は喜ぶべきこととして描かれるが、テレビや電話の普及で匿名の悪意が発生しているのは、ネット社会が普及した現代にも通じる
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初読みの作家さん。犯人側と刑事側とで描かれる物語。救いのない話なのだが、とても読み応えあってじっくり向き合えたように思う。同情したくなる犯人の生い立ちを上回る短絡的犯行の数々。罪の意識すらなく回避するためだけに積み重ねていく描写は被害者からしたらたまらないだろう。犯人逮捕のために...
初読みの作家さん。犯人側と刑事側とで描かれる物語。救いのない話なのだが、とても読み応えあってじっくり向き合えたように思う。同情したくなる犯人の生い立ちを上回る短絡的犯行の数々。罪の意識すらなく回避するためだけに積み重ねていく描写は被害者からしたらたまらないだろう。犯人逮捕のために奔走する刑事たちに思わず肩入れしながら読んだがこれから先どうなっていくのかというところで終わってしまったのがもどかしい。罪は罪として更正するなりちゃんとした着地点を見届けたかった。くしくも東京オリンピック繋がりで想いを馳せることも多々あるがひと昔前の時代ならでは捜査の大変さ、捕物帖に手に汗を握った。
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礼文島から東京に出てきた脳に障害を抱える人間が罪を重ねていく。地味な展開だが筆力によってひきこまれていく。ただ犯罪者のキャラクターが、前半と後半でかなり違うのではないか?と思う。前半で描かれたキャラからは本作品の主筋である残忍な犯罪を犯すとはとても思えず、違和感が残る。
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礼文島出身の20歳の青年・宇野寛治。 昆布漁師の見習いだが、窃盗壁がある。 それが災いして、命辛々島を脱出する。 山谷の労働者向け安旅館の娘・町井キミ子。 亡き父はこの界隈を仕切るヤクザの組長。 直情径行な母と、チンピラ見習いの弟との3人暮らし。 警視庁捜査一課刑事の落合...
礼文島出身の20歳の青年・宇野寛治。 昆布漁師の見習いだが、窃盗壁がある。 それが災いして、命辛々島を脱出する。 山谷の労働者向け安旅館の娘・町井キミ子。 亡き父はこの界隈を仕切るヤクザの組長。 直情径行な母と、チンピラ見習いの弟との3人暮らし。 警視庁捜査一課刑事の落合昌夫は、墨田区内のアパートで妻と生まれたばかりの息子との3人暮らし。 松戸の団地への引っ越しを考えている。 3人の視点で物語は進んでいく。 東京オリンピックを1年後に控えた昭和の下町で、誘拐事件が発生する。 身代金を要求する犯人からの電話が公開され、日本中が騒然となる。 悲惨な境遇に振り回され、莫迦と罵られてきた寛治。 山谷を年内には出たいと思っているミキ子。 「オリンピックの身代金」でも登場する昌夫。 物語はその1年前の東京が舞台だ。 戦争の傷跡が残る中、大きな物語が綴られていった時代。 宿命に縛られながらも、皆が必死に生き抜いていた。 目の前の一人のために、何かをしてあげたいと思うのも人間。 見えないところから、都合の良い正義を振りかざすのも人間。 みんな、同じ心の中にある。 だからこそ、今を誠実に生き抜いていくしかない。 奥田英朗の人間賛歌。
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発売当初から、「読む」と決めていたけど、図書館待ちで発売から2年経って、やっと読めた。 前回のオリンピックの前年に起きた「吉伸ちゃん誘拐事件」をモデルに描かれた重厚な社会派ミステリー。 誘拐事件がメインで描かれていると思っていたのに、200ページぐらいまでは、礼文島から上京した空...
発売当初から、「読む」と決めていたけど、図書館待ちで発売から2年経って、やっと読めた。 前回のオリンピックの前年に起きた「吉伸ちゃん誘拐事件」をモデルに描かれた重厚な社会派ミステリー。 誘拐事件がメインで描かれていると思っていたのに、200ページぐらいまでは、礼文島から上京した空き巣の常習犯・宇野寛治と刑事になって1年目の落合昌夫、二人の話を軸に描かれる。 南千住署管内で起きた元時計商の強盗殺人。この事件を追っていた落合は、聞き込みの結果、空き巣を繰り返す宇野の存在を突き止める。 しかし、肝心の宇野には接触出来ないまま、男児誘拐事件が起きる。 まだ、逆探知も出来ない、携帯もない、捜査技術が全くないまま起きたと言われる、日本初の営利誘拐事件。 初めての報道規制の甲斐もなく、男児は殺害される。 その辺は実際に起きた事件を準えているが、同時に描かれる犯人である宇野寛治の壮絶な人生に息を呑む。 幼い頃の事故をきっかけに、脳障害を抱えた寛治には、悪いことをしたと言う認識がない。しかし、自分を今の状態に追い込んだ人間の存在が分かると、復讐することを決意する。 一旦は逮捕された寛治が復讐の為に、実況見分から逃げ出し、札幌に向かい、それを止めに走る落合を始め、3人の刑事たちのラストシーンが男たちの物語となり、すごく長い作品なのに、最後まで読みごたえがあった。 2021年のオリンピックを観ながら、前回の東京オリンピックの前年に起きた事件を模した作品を読む…何だか、不思議な巡り合わせだが、捜査技術がない中の刑事たちの執念と、最後まで寛治に寄り添おうとした落合の姿にとても胸が熱くなった。
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東京オリンピック直前の、昭和の日本。 埃っぽさ、ざわめき、煙草のにおい、そんなものを実際に感じたような気持ちになった。 北海道から逃げ出し東京にやってきた寛治。その生い立ちや、脳に障害を負ってしまったがために、人に貶されたり騙されたりするのは読んでいて辛い。 ただ、空腹から物を盗...
東京オリンピック直前の、昭和の日本。 埃っぽさ、ざわめき、煙草のにおい、そんなものを実際に感じたような気持ちになった。 北海道から逃げ出し東京にやってきた寛治。その生い立ちや、脳に障害を負ってしまったがために、人に貶されたり騙されたりするのは読んでいて辛い。 ただ、空腹から物を盗み、生活のために空き巣に入るといった犯罪への躊躇いのなさが、心を感じられず感情移入できないし、うすら寒い。 東京での殺人事件や誘拐事件を捜査する刑事たちや、ドヤ街で生きる人々の熱や温かさを感じるだけに、寛治がこの罪の轍から抜け出せないことが、読み終えても苦しかった。
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宇野寛治という精神に問題がある人物には、あまり感情移入できないものだが、この本では宇野の主観の場面がかなり多いので、宇野のことを想像することはできた。親が悪いと子も悪くなるというわけではないが、親が良くて子が悪くなる事例は少ないため、親の責任を深く感じた。最初はミキ子の視点が余計...
宇野寛治という精神に問題がある人物には、あまり感情移入できないものだが、この本では宇野の主観の場面がかなり多いので、宇野のことを想像することはできた。親が悪いと子も悪くなるというわけではないが、親が良くて子が悪くなる事例は少ないため、親の責任を深く感じた。最初はミキ子の視点が余計に感じたりもしたが、途中からはミキ子の事件に詳しくない客観的な視点がいい役割を果たしていてよかった。特に最後の場面がミキ子視点だったのもよかった。587ページが濃密で無駄が1つもないように感じるのはさすが。後味はよい本ではないが、最高の本だった。
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「残念な失速」 昭和の有名な誘拐事件をモチーフにしたと思われるミステリ。これまでも「オリンピックの身代金」でも同時代を描いて来たから、昭和の空気感、新しい時流に乗り込まれていく警察組織の描写はとても良かった。事件のいきさつ、取り調べの緊張感も心地良く一気に読み進んだものの、動機...
「残念な失速」 昭和の有名な誘拐事件をモチーフにしたと思われるミステリ。これまでも「オリンピックの身代金」でも同時代を描いて来たから、昭和の空気感、新しい時流に乗り込まれていく警察組織の描写はとても良かった。事件のいきさつ、取り調べの緊張感も心地良く一気に読み進んだものの、動機を含むラストはいささか消化不良。犯人以外の人物像も掘り下げ不足な印象。
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あまり読んだことないジャンルで、後半になるにつれてどんどん引き込まれていった。 警察の執念や犯人の孤独がすごく生々しくかかれていて、描写は鳥肌
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
分厚い本で、決心して自分で買ったら読むだろうけど、図書館の本だと諦めるかも~東京オリンピックを翌年に控えた東京の南千住でやくざと連んで拳銃密輸に手を染めていた元時計商が撲殺された。現場から盗まれた金貨を質屋に持ち込んだのは山野のドヤの息子で帰化朝鮮人のチンピラだった。もらったものだと言うが、千住一帯で起こっている空き巣の知り合いに違いない。礼文島で昆布漁に従事していた二十歳の男が浮上した。チンピラ・明男は利尻出身の寛司を庇い、警察に追求されると山谷の連合が元印刷工場のアジトに、ストリッパーの彼女と匿った。子どもから莫迦扱いされた寛司は、賽銭泥棒の口止めに盗んだ金から駄菓子を奢っていたが、その中の一人、豆腐屋の小一の吉男が誘拐され、50万円を要求され、警察の態勢が整わないうちに、東京スタジアムの駐輪場から持ち去られていた。刑事が必死に手掛かりを探すと、北海道生まれで、北陸弁も使うこと、盗癖がある寛司が利尻の知り合いに騙されて海で殺害されそうになったこと、寛司が義父から当たり屋の的とされていたこと、金を奪った男女が熱海に行き、新宿に戻った後、沖縄出身のストリッパーを絞め殺して古井戸に投げ込んだことが分かってきた。チンピラの尾行から寛司が捕まり、子どもの頃の話をすると、意識が飛ぶことで供述が進まない。意識が飛びそうになる寛司の頬を検事が殴ることで、子ども時代を思い出した寛司は、義父がまだ生きていて札幌にいることを連合の弁護士と新聞記者から聞き出して、新宿の連れ込み宿での現場検証から逃亡するが、追いついた刑事が青函連絡船に乗り込んだ寛司を確保した~これが吉展ちゃん事件の真相ではないので御注意を。当時、私は小学校入学前? 吉展ちゃんは4歳だった。そう、頻繁にあったよねぇ、誘拐事件。映画「天国と地獄」がきっかけだったと…
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