犯罪 の商品レビュー
江戸川乱歩の名づけた「奇妙な味」というミステリーの分野がありますが、この短編集はその一つです。 弁護士だった著者が、実際に体験した奇妙な事件を元ネタにフィクション化したようです。 前評判から高い本ですが、確かに水準を超えた作品が集められた1冊でした。 特筆すべきは、全体に漂うゲ...
江戸川乱歩の名づけた「奇妙な味」というミステリーの分野がありますが、この短編集はその一つです。 弁護士だった著者が、実際に体験した奇妙な事件を元ネタにフィクション化したようです。 前評判から高い本ですが、確かに水準を超えた作品が集められた1冊でした。 特筆すべきは、全体に漂うゲルマンの香り。 ミステリー小説界って、どうしてもアングロサクソン系が主流になるんで新鮮です。 全編にわたりドイツ系作品独特の青白く冷たい狂気の感触が味わえます。 アングロサクソン系だとすぐに暴力となって暴発してしまったり、ラテン系だと煮詰まる前に流れてしまうような耐えがたい状況が、ゲルマンの人々、その社会だとその我慢強さというか、忍耐強さが、爆弾の外壁をより強固にする代わりに、爆発した時の破壊力がいや増すような感じがする。 読んでいて、そんな民族的な特色、社会構造のことなども考えました。 個別の感想では、「フェーナー氏」:マジメな男性の爆発ぶりがお見事。 「タナタ氏の茶盌」:具体的な描写が非常に怖かったです。 「チェロ」:大事なモノを失ってしまいそれは取り返しがつかない。 「幸運」:21世紀のグリム童話かな。 「サマータイム」:滲むエロスが読みどころ。 「ハリネズミ」「正当防衛」:超人の顛末ですね。 「緑」:オチがマニアックでした。 「棘」:これが一番怖かった。 「エチオピアの男」:ラストにふさわしい読後感ですね。 年末年始のお供には悪くないかと思います。
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様々な「犯罪」に走った人々の「人生」を綴った短編集。 弁護士でもある著者が、実際に遭遇した事件を元手に紡ぎだされただけあって、「犯罪」者であり忌避されるべき人物であるはずなのに、ひとつひとつの物語に異様なほど吸い込まれてしまう。 あるものには嘲笑を、あるものには同情を、あるも...
様々な「犯罪」に走った人々の「人生」を綴った短編集。 弁護士でもある著者が、実際に遭遇した事件を元手に紡ぎだされただけあって、「犯罪」者であり忌避されるべき人物であるはずなのに、ひとつひとつの物語に異様なほど吸い込まれてしまう。 あるものには嘲笑を、あるものには同情を、あるものには嫌悪を、あるものには応援を送りたくなる。 「犯罪」という題材によって、この短い一篇一篇にこれほど「人生」を凝縮できるなんてただものじゃない。 淡々とした語り口で、第三者的視点から描かれているので余計な「色」がつくことなく、感想は読者の手に委ねられている。 近年稀にみる優れた連作短編小説。 個人的には「正当防衛」「棘」「エチオピアの男」がお気に入り。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
暗く悲しい犯罪が多く描かれる中で、最後の「エチオピアの男」は心温まる話で、ほっとした。無論、それ以外の、ねじれた狂気によって起こる「犯罪」たちもリアルで、それでいてぶっとんでいて、大満足の短編集だった。
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僅か数行で物語に引きずり込まれる感覚にゾクゾク!いろいろな犯罪、人生が淡々と静謐な文体で語られる短編集。怖ろしく、哀しく、切なく、一編読み終えるごとに人の心の闇の深さを思わずにいられない。好きなのは「エチオピアの男」「チェロ」「幸福」、でもすべて傑作だと思う。第二作目「Schul...
僅か数行で物語に引きずり込まれる感覚にゾクゾク!いろいろな犯罪、人生が淡々と静謐な文体で語られる短編集。怖ろしく、哀しく、切なく、一編読み終えるごとに人の心の闇の深さを思わずにいられない。好きなのは「エチオピアの男」「チェロ」「幸福」、でもすべて傑作だと思う。第二作目「Schuld」の翻訳が読めるのはいつでしょう?とてもたのしみ。タダジュンさんの装画も素晴らしいです。
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簡潔かつ力強い文章の魅力、そして2度読める奥の深さ。誰にでもおすすめできる、私的には2011年ナンバーワンの海外小説です。高名な刑事弁護士だというドイツ人著者の11編からなる処女短編集。どの作品も犯人がなぜ罪を犯すしかなかったのかという点にくっきりとフォーカスが合っていて読ませま...
簡潔かつ力強い文章の魅力、そして2度読める奥の深さ。誰にでもおすすめできる、私的には2011年ナンバーワンの海外小説です。高名な刑事弁護士だというドイツ人著者の11編からなる処女短編集。どの作品も犯人がなぜ罪を犯すしかなかったのかという点にくっきりとフォーカスが合っていて読ませます。新婚旅行で妻と交わした約束が老後にいたってとんでもない結果をもたらす「フェーナー氏」は紛れもなく悲劇。間抜け3人組が決して手を出してはいけない種類の人物から盗みを働いてしまう「タナタ氏の茶碗」はスラップスティック。犯罪者一家の末っ子が兄を救うために一芝居打つ「ハリネズミ」はユーモア法廷ドラマ。泣けて笑えて驚いて、しかもいっこも外れがない。2012年に出版予定の次作にも注目です。
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誰からも慕われる老医師が妻を殺したのは…。少年が男の死体をばらばらにしたのは…。銀行を襲って国外に逃亡した男がエチオピアに流れ着いて…。ドイツで著名な弁護士が自身の経験を土台に、11の物語を紡ぐ。あぶりだされるのは罪を犯した人たちの人生と悲しみ、そしてささやかな幸福。 本国ドイツ...
誰からも慕われる老医師が妻を殺したのは…。少年が男の死体をばらばらにしたのは…。銀行を襲って国外に逃亡した男がエチオピアに流れ着いて…。ドイツで著名な弁護士が自身の経験を土台に、11の物語を紡ぐ。あぶりだされるのは罪を犯した人たちの人生と悲しみ、そしてささやかな幸福。 本国ドイツでは45万部のベストセラーだという。こうした静かな本が売れるというのが国民性か。 内容に直接には関連がないが、どの物語にもリンゴが出てくる。そして本書の最後にある一文が…。 翻訳が非常によかった。
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一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。――魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄...
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。――魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。 高名な刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描きあげた珠玉の連作短篇集。
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11の短篇集。著者はドイツの元弁護士ということもあり、実話をもとに書かれているそうです。 著者の履歴もあってか、ミステリに分類されてはいるものの、ミステリというよりは仕事を通じてみてきた人生録という感がつよい。 内容は「とにかく読みやすく面白い」というのが、雑駁な感想。きれいに...
11の短篇集。著者はドイツの元弁護士ということもあり、実話をもとに書かれているそうです。 著者の履歴もあってか、ミステリに分類されてはいるものの、ミステリというよりは仕事を通じてみてきた人生録という感がつよい。 内容は「とにかく読みやすく面白い」というのが、雑駁な感想。きれいにオチが付くものもあれば、曖昧なまま終わるもの、納得行かないものと色々ある。 ドラマや映画で描かれるような大立ち回りをせず、地味とも言える"現実の弁護士"の視点を超えずに描かれているための新鮮さ、そしてテンポの良さと心地よい消化不良感があり、読み始めて中座することなく終わりまで読みきってしまいました。 全体として、長くないことも手伝っていたとは思います。 手軽に読める、ちょっとかわったミステリでした。
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弁護士が実話を元に書いた短編集。 ふとしたことで犯罪に踏み込んでいく人、周囲からは理解しがたい理由で罪を犯した人などなど、不気味で、魅力的な短編集ではある。 しかし「実話を元にして書いた」とはいえどこまで実話でどこから筆者の創作かハッキリせず、完全なフィクションとしては出来が悪...
弁護士が実話を元に書いた短編集。 ふとしたことで犯罪に踏み込んでいく人、周囲からは理解しがたい理由で罪を犯した人などなど、不気味で、魅力的な短編集ではある。 しかし「実話を元にして書いた」とはいえどこまで実話でどこから筆者の創作かハッキリせず、完全なフィクションとしては出来が悪い短編も多く、読み物としてはやや中途半端に感じる。
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話の素材は奇妙で、面白いものばかり、もうちょっとうまく料理してくれればいいのに…。翻訳のせいか構成のせいかわかりませんが、とにかく読みにくかった。骨が折れました。
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