還るべき場所 の商品レビュー
「山岳小説の名作」という評判に違わぬ作品であった。ラストに近づくに連れて、手に汗握るようなスリリングな展開を見せ、作品世界に引き込まれていった。 本作品は、2008年発刊の作品ということで、登山の戦術・技術・装備に関しては現在と大きな違いがなく、最新の登山状況を踏まえていると思わ...
「山岳小説の名作」という評判に違わぬ作品であった。ラストに近づくに連れて、手に汗握るようなスリリングな展開を見せ、作品世界に引き込まれていった。 本作品は、2008年発刊の作品ということで、登山の戦術・技術・装備に関しては現在と大きな違いがなく、最新の登山状況を踏まえていると思われる。 本作品で主に取り上げられるのは、ヒマラヤ8000m峰ブロードピークの公募登山での出来事であり、ヒマラヤ公募登山の実態や問題点が示されていて、興味深い内容だ。公募登山に関しては、金で登頂を買うなどの批判的な意見もあるが、作者は肯定的に取り扱っている。 主人公は、学生時代にK2東壁を登攀中に、恋人であり、ザイルパートナーでもある栗本聖美をロープの切断によって失った八代翔平。 翔平は、聖美がロープで宙吊りになった時に、翔平を助けるために自らロープを切断したのではないかという疑念を持ち続け、それ以降、山から遠ざかり、世捨て人同様の生活を送るが、学生時代の岳友、板倉亮太が企画するブロードピークの公募登山隊のサポート役で参加することになる。 それ以外の主要登場人物は、竹原充明と神津邦正。 竹原充明は学生時代にK2登山に参加しており、その際にメンバーの雪崩遭難を目撃し、それがトラウマとなって、登山から離れるが、勤務している会社の会長である神津の要請により、登山を再開し、その繋がりでブロードピーク公募登山隊に参加することになる。 神津邦正は心臓のペースメーカーを製造する会社の会長であり、自身もペースメーカーを装着しており、人生の夢として、8000m峰登頂を追求している。 ブロードピーク登山が開始されると、様々なトラブルに遭遇する。特に、自ら先行して登ろうとはせずに、他の登山隊が張った固定ロープを無断で使用したり、デポしてある酸素ボンベを盗んだりする、アルゼンチン三人組の存在が厄介。先行するアグレッシブ2007隊が悪天候に捕まって、救助が必要となるなど、次々と起こる障害や試練を、翔平たちは、勇気と決断で乗り越えていく。金銭を対価として契約でつながっているだけの公募隊が、一致団結して、危機を打破するようになっていく。第4キャンプへの下降中に、致命的とも言える事態が判明するが、それを打開する翔平のアイデアが実にすばらしい。 作中で、神津と竹原らが、山と人生に関わる問答を行っており、含蓄のある内容で、興味深い。 終章で、翔平は4年間背負い続けた負い目から解放される。このラストの場面も印象的だ。
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ヒマラヤ山地のK2登頂の途中、登山パートナーの恋人を事故で失ってしまった青年登山家、翔平。事故以来、山への興味をなくし、無気力な人生を送っていた彼にかつての登山仲間はツアーガイドとして、K2へ登ろうと声をかける。 恋人を失った場所へ還ることになった翔平に加えて、企業家としての野...
ヒマラヤ山地のK2登頂の途中、登山パートナーの恋人を事故で失ってしまった青年登山家、翔平。事故以来、山への興味をなくし、無気力な人生を送っていた彼にかつての登山仲間はツアーガイドとして、K2へ登ろうと声をかける。 恋人を失った場所へ還ることになった翔平に加えて、企業家としての野心から登山に挑む神津、翔平と同じく山で仲間を失い、登山をトラウマにしている竹原の3人がそれぞれの山への想いを軸とする冒険小説。さらには死んだはずの翔平の恋人の意外な行動が明らかになるというミステリー要素も含み、次から次へと見せ場がやってくる。クライマックスの8000メートル高地での翔平たちの奮闘は読み手に息をつかせない激しさだ。 登場人物それぞれの行動を見ていると、命を失うかもしれない登山がなぜ人を惹きつけるのか、なんとなくわかる。登山の世界では一つ一つの行為が生命に密接に結びついていて、ちょっとした他人への気遣いや勇気が自分と相手の生命を救うことになり、不正が深刻な問題として跳ね返ってくる。普段の生活では目立つことのないささいな感情がむき出しになる空間だ。 山を登ることで人生観が変わるという人の気持ちがよくわかる。
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過去を乗り越えるため、自分と向き合うため、K2に登る本。 初めての本格的な山岳小説。いきなり死者が連発するので、軽くひいた。登山用語の多さに最初はGoogle無しでは読み進められないものの、山に登る一人ひとりのストーリーがくっきりと描かれており、いつの間にか自分もベースキャンプ...
過去を乗り越えるため、自分と向き合うため、K2に登る本。 初めての本格的な山岳小説。いきなり死者が連発するので、軽くひいた。登山用語の多さに最初はGoogle無しでは読み進められないものの、山に登る一人ひとりのストーリーがくっきりと描かれており、いつの間にか自分もベースキャンプにいる心地がする。ページをめくる作業が、頂上を目指す一歩に感じられるのは不思議な感覚。 最近山登りブームだが、アルパインは全くの別物。いくら登ってもそこにはたどり着かないだろう。 山好きな先輩に借りた。他の本を買った時に紀伊国屋のカバーを付けてもらった。
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山にも登らないくせに山岳小説好き、野球やった事無いくせに野球漫画が好き。実際にやるかと言われれば二の足を踏みますが。 僕の中では夢枕獏の「神々の頂」という金字塔が有るのでそこを超える事は困難ですが、この本は純粋に山岳小説としての素晴らしさでは比肩していると思います。 翔平の人生立...
山にも登らないくせに山岳小説好き、野球やった事無いくせに野球漫画が好き。実際にやるかと言われれば二の足を踏みますが。 僕の中では夢枕獏の「神々の頂」という金字塔が有るのでそこを超える事は困難ですが、この本は純粋に山岳小説としての素晴らしさでは比肩していると思います。 翔平の人生立て直しの物語、商業登山の功罪、自然に存在する山を登る権利の所在など、色々な要素が有りますが全て登山に関する事なので、集中力を欠く事無く読めます。 主人公の翔平以上に、大会社の会長でありながら山にのめり込み、公募登山に応募してくる神津の存在がとても大きい。 彼の事が大好きになってしまったのでむしろ彼の魅力を大いに語りましょう。 神津物語 ①還暦だが50代に見える ②医療メーカーを一代で大企業に ③役員を押し切って見通しの立たないペースメーカー業界へ参入 ④自分が心臓疾患なのでそのペースメーカーを付けてエベレストに登り自らが広告塔になり、数年で世界シェア10%へ。 ⑤ペースメーカー付けているにも関わらず、世界的なクライマーの翔平から見ても実力が高い ⑥山登りしているうちに会社が乗っ取られそうになるが、一度うまい汁吸わせておいて一気に足元を掬う獰猛な経営者の面も ⑦お金を払って山登りに来ているが、旅行会社からは重要な戦力とカウントされている かっこいいなあ。こういうかっこいいおっさんと知り合ったら付いて行っちゃうなあ。
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ネパールの山岳を舞台にした小説。 山でフィアンセを失った主人公が自分を取り戻す小説。 後半の救助劇はハラハラして寝る間を惜しんで読み進めてしまいました。 主人公は勿論ですが、とりまく人物の物語も面白く飽きさせません。 大企業社長70歳?のサブストーリはこんなおじさんになりたい...
ネパールの山岳を舞台にした小説。 山でフィアンセを失った主人公が自分を取り戻す小説。 後半の救助劇はハラハラして寝る間を惜しんで読み進めてしまいました。 主人公は勿論ですが、とりまく人物の物語も面白く飽きさせません。 大企業社長70歳?のサブストーリはこんなおじさんになりたいと思いました。
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世界第2位の高峰にして、カラコルム山脈の最高峰K2。その登攀ルートは世界最高峰エベレストよりもはるかに難度が高く、その山容からも「山の中の山」とも評されます。登場人物たちにとって、なぜK2が「還るべき場所」なのか。文庫で600ページに及ぶ大作ですが、全く飽きさせることなく物語に没...
世界第2位の高峰にして、カラコルム山脈の最高峰K2。その登攀ルートは世界最高峰エベレストよりもはるかに難度が高く、その山容からも「山の中の山」とも評されます。登場人物たちにとって、なぜK2が「還るべき場所」なのか。文庫で600ページに及ぶ大作ですが、全く飽きさせることなく物語に没入できます。 標高8000mを超える領域がいかに人間にとって生命を脅かされる危険な場所であり、そのような高峰の登攀とはどのような作業であるのか、リアリティ抜群な描写でどんどん引き込まれていきます。 8000m峰の頂上からの雄大な眺望はこの作品を読んでみて是非、見てみたいとは思います。でも実際に登ってみようという気には残念ながらなれません。あまりに危険過ぎます…。
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最後の数ページに心が締め付けられるような感動を覚えました。まさに翔平にとって生きるために「還るべき場所」。 題名と晴れたK2の表紙がいいですね。これこそ主題。 問題児3人組の引き起こすアクシデントの伏線からラストまでが見事。傑作です。
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聖美さんの素晴らしさが男視点なのが具現化しにくいが、そこが多くの山屋の女性を見る特徴だと感じた。 しかし辛くとも再び生きていく過程が力強く、励まされる感動を覚えた。
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とにかく面白い!こんなにも登山をしてみたくなる。登山の深さを知れる本があったなんて! また、昔の仲間との助け合いや、不易な登山者との人間模様も面白く、ハラハラ読むことができた。 誰かに勧めて山に登りたくなる一冊です。
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良かった。キース隊の遭難以降は一気だった。全体としてはちょっと長い。前半大幅カットして半分くらいの長さでも良いと思う。終章の3もいらない。神津が格好良すぎるけど、こんな人間になれたら最高だね。
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