小銭をかぞえる の商品レビュー
町田康の推薦帯にひかれ買ったけど、読めた。 ちゃんと文章の「芸」で勝負する気を隠さない、いまどき意外な作風だ。うっかりした安易な言葉の選択が驚くほど少ない。しかし、あと一歩ものたりない読後感は、何ゆえだろう。 日常に兆す危機、こちらじゃない世界、それを垣間見せることに成功している...
町田康の推薦帯にひかれ買ったけど、読めた。 ちゃんと文章の「芸」で勝負する気を隠さない、いまどき意外な作風だ。うっかりした安易な言葉の選択が驚くほど少ない。しかし、あと一歩ものたりない読後感は、何ゆえだろう。 日常に兆す危機、こちらじゃない世界、それを垣間見せることに成功しているのだが、その媒介物が「女」であり「金銭」である、という使い古し感が、それか。 いずれにせよ面白かったので、近々別作品を読んでみよう。
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自分の女への強烈な仕打ち。 タイトルにあるシーン、女性の持ち物をぐちゃぐちゃにして 自分はとっととピザを食べている場面。 女性が小銭を数えている場面の切なさと 残酷さ。ここまでくると、爽快だ。 西村賢太のベストかな。
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読み終わったなんていうと鼻が伸びてしまいそうなのだけれど。 下らないダメダメ男の話はダメダメ女のそれよりもっと嫌悪感を抱けるということがわかった。
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第144回芥川賞受賞作家の西村氏による私小説です。私小説とは自らの経験を元に多少の脚色を加えた、所謂ノンフィクション的なジャンルであり、数奇な人生を歩んできた著者の破天荒な語らいが特徴的な内容になっています。自らの露悪的な一面をおおっぴらに曝け出し、元来文学作家とはこういうものだ...
第144回芥川賞受賞作家の西村氏による私小説です。私小説とは自らの経験を元に多少の脚色を加えた、所謂ノンフィクション的なジャンルであり、数奇な人生を歩んできた著者の破天荒な語らいが特徴的な内容になっています。自らの露悪的な一面をおおっぴらに曝け出し、元来文学作家とはこういうものだと言わんばかりに暴力的で破滅的な性格を露わにしている様は、スマートな文学に慣れ親しんでいる若い女性などからは嫌悪感すら抱かれそうです。作家を始め様々なものがコンプライアンスなどの兼ね合いでどんどん大人しくなっていく昨今、この凄まじいダメ人間っぷりが一定の支持を得ることには頷けますね。
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相変わらず酷い男。同棲している彼女に対する暴言暴力と手のひらを返した様な借銭時の平身低頭ぶり。どう観ても著者は醜いエゴの塊でしかなく、最低の人物。ゴキブリの逞しさに似た生命力も感じるけれど、憧れは決してしない。でも、この、最低最悪の人間性が妙にクセになり、読み始めると止まらない。...
相変わらず酷い男。同棲している彼女に対する暴言暴力と手のひらを返した様な借銭時の平身低頭ぶり。どう観ても著者は醜いエゴの塊でしかなく、最低の人物。ゴキブリの逞しさに似た生命力も感じるけれど、憧れは決してしない。でも、この、最低最悪の人間性が妙にクセになり、読み始めると止まらない。僕はこれからも西村賢太を読み続けるだろう。
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ここでは、長年にわたって女にもてない「私」がようやくめぐりあい、相思相愛になった女との生活が描かれます。しかし、金欠、妄想、愛憎、暴力のオンパレードに、彼女との関係は次第に緊張を孕んでいきます。 自らのダメさ加減を赤裸々に告白する作風で芥川賞を受賞した西村賢太氏の私小説です。こ...
ここでは、長年にわたって女にもてない「私」がようやくめぐりあい、相思相愛になった女との生活が描かれます。しかし、金欠、妄想、愛憎、暴力のオンパレードに、彼女との関係は次第に緊張を孕んでいきます。 自らのダメさ加減を赤裸々に告白する作風で芥川賞を受賞した西村賢太氏の私小説です。ここでは金欠、妄想、愛憎、暴力…の要素が惜しげもなく展開され、ここまでダメっぷりを示されるともはや笑うしかありません。ここでは「焼却炉行き赤ん坊」と表題作である「小銭をかぞえる」の2編が収録されております。 「焼却炉行き赤ん坊」では、長年、彼女がほしいといい続け、飲酒と買淫生活に明け暮れ、ほれた女性にはまことに持って異性として認められなかった「私」が雌伏の末得た念願の「彼女」と起食を共にするようになって、彼女が「子どもがほしい」というそぶりを拒否し、ペットを飼おうとしてもこれまた拒否。その代わりにぬいぐるみを彼女が買って溺愛し始めたところから、徐々に「私」の中のどす黒い感情が噴出してきて…最大のスペクタクルは感情の激昂した「私」が女の持つぬいぐるみを見事なまでの罵声を浴びせながらめちゃくちゃにし、捨てた後にもさらに止めを刺す…。もうここまで来ると一周してある種のカタルシスさえ覚えてしまいました。 さらに、表題作の「小銭をかぞえる」僕はこの本を悪魔的なまでの「借金術」についての解説本であると解釈しました。自身が敬愛してやまない藤沢清造の全集を出すために印刷会社の支払いに苦しんだ「私」が方々回って金策をするというのが大まかな骨子であるのですが、ここでは「苦役列車」に出てきた日下部が山志名という名前で登場します。郵便局に勤め、幸せな家庭を築いている彼に私はわずかなツテを便りに茨城県まで赴くのですが、彼にすげなく断られ、悪態をついて絶縁するのですが、これがまた是妙な啖呵で、詳しくはかけませんが、この箇所を読んだときは思わず大笑いしていしまいました。それでも、彼からは1万円をせしめ、わずかな「つながり」を頼りに方々金策に駆け回るのですが、結局行き着く先は先に300万円もの金を借りた女の実家に彼女を通じて借金をするというものでした。 しかし彼はここでも実質的には30万円の支払いを50万と吹っかけてまんまと金を引っ張るという展開になります。ここまで彼女および彼女の実家には世話になっているので、最後のお約束の展開になってからは情け容赦なく精神的にいたぶり上げ、彼女が堰を切ったように号泣していても、『それは何でなし、奸婦の哄笑めいた響きをもて、私の耳朶不覚に不安な沁み込みかたをしてくるのである。』という最後で終わるわけであります。もうここまでくると笑うしかありませんでした。それは同時に、自分の中にある『おろかさ』を笑っているということに他ならないわけでもあります。
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主人公は胸糞の悪さをも感じてしまうクズさ加減なのですが、なにがすごいと言うと主人公は著者西村氏自身なのである。私はこんなクズだと言い切ってるようなものである。それは太宰や往年の作家がしてきた、自己憐憫などとは違う。純粋なクズである。 ただ物語りとしては、なかなかに身に詰まる。恋...
主人公は胸糞の悪さをも感じてしまうクズさ加減なのですが、なにがすごいと言うと主人公は著者西村氏自身なのである。私はこんなクズだと言い切ってるようなものである。それは太宰や往年の作家がしてきた、自己憐憫などとは違う。純粋なクズである。 ただ物語りとしては、なかなかに身に詰まる。恋人とはなんだろう、という歯の浮くような、でもそれでいて我々が必ず直面することを、決して押し付けずに提示している。なぜこうも寂しい気持ちになってしまうのだろうか。男は都合よく生きる。それでいてプライドだけは立派にある。女は強い。強いが、わからない・・・。
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破滅型私小説の典型です。 主人公(西村さん)に与えられている大前提は、「お金がない」「我が強すぎる」というもの。まあ、自分の傍にいると一番面倒くさいタイプの人間ですよ。 これだけだと、どうしようもないダメダメ人間であって、読むのもウンザリ・読んでいてイラつくといった印象なので...
破滅型私小説の典型です。 主人公(西村さん)に与えられている大前提は、「お金がない」「我が強すぎる」というもの。まあ、自分の傍にいると一番面倒くさいタイプの人間ですよ。 これだけだと、どうしようもないダメダメ人間であって、読むのもウンザリ・読んでいてイラつくといった印象なのですが、さにあらず。 収録されている2篇ともに、同棲相手の女性(同一人物なのか別の女性なのかは不明)との会話のやり取りがなんとも滑稽で、無性に愛おしくなってしまうのですね。幾分、諧謔を弄している印象も受けましたが、単なるグダグダの私生活を描いた作品になっていないのは、やはり会話の妙。これはセンスです。 もちろん、「なんだ、この男は。とことんまで最低の下衆野郎じゃないか」といって、本を投げ捨ててしまいたくなる人もいるでしょう。でも、このやり取りを楽しめる人の方が、本を投げ捨ててしまう人よりもラッキーに思えます。 僕の大好きな作家のひとり・町田康さんが巻末に解説を書いていました。その中で、ダーマチさんは「小説というものは作者がある程度格好をつけて、良さげな雰囲気・印象を作品に与えてしまう。その方が世間の受けがよいであろうから」といったことを語っていますね。 その点では、西村さんの今作品は対極に位置しており、自分のダメな部分を充分すぎるほどに描き尽くしています。潔い、というわけではないのでしょうが、そのスタンスが却って、読者に得も言われぬ爽快感を与えているのでしょう。 好き嫌いが極端に分かれる作品(作家)だと思いますが、僕は好きですねぇ、西村さん。 ところで、文中にちょろっと出てきたのですが、西村さんって、1日に100本も煙草を喫むって本当なのかしら。本文とは全然関係ありませんが、いくらなんでも吸い過ぎやろ!とツッコミを入れてしまいましたヨ。 あと、慊い(あきたらない)ですか。すっかり覚えました。
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何十年と生きていれば様々な恋愛経験の中で心底後悔し相手への謝罪の気持ちを抱き自責の念にかられるという事も少なからずあるものだ。 しかしながらこの主人公の言動には目を覆いたくなる事ばかり。娘を持つ身としてこんな男がいるのかと恐ろしくもなる。そう言う事を気づかせてくれる点で、或いは...
何十年と生きていれば様々な恋愛経験の中で心底後悔し相手への謝罪の気持ちを抱き自責の念にかられるという事も少なからずあるものだ。 しかしながらこの主人公の言動には目を覆いたくなる事ばかり。娘を持つ身としてこんな男がいるのかと恐ろしくもなる。そう言う事を気づかせてくれる点で、或いは誰の中にも眠る酷い男を代演してくれている点で、価値を見出してしまうのではある。 「焼却炉行き赤ん坊」「小銭を数える」の二篇収録。
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