夜想曲集 の商品レビュー
サブタイトルに「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」と書かれている五つの短編集。夕暮れは、人生の華やかな時を終え、夫婦の睦まじき時を過ぎ、孤独の世界に入ろうとする作中の主人公たちを象徴しているように感じる。音楽はその孤独を強める。楽しい本ではなかった。年老いて、人生の真実を突きつけら...
サブタイトルに「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」と書かれている五つの短編集。夕暮れは、人生の華やかな時を終え、夫婦の睦まじき時を過ぎ、孤独の世界に入ろうとする作中の主人公たちを象徴しているように感じる。音楽はその孤独を強める。楽しい本ではなかった。年老いて、人生の真実を突きつけられたように感じる。心理描写がよく、自分の経験を繰り返している感じを受けた。訳も優れる。
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海外の翻訳本は殆ど読まないですが、 ノーベル文学賞を受賞されたというので 初めてイシグロさんの本を手に取りました。 五編の共通するところは音楽をテーマにして 夫婦のいざこざが描かれています。 どれも主人公が男性のうだつの上がらないミュージシャンです。 うだつが上がらないから妻...
海外の翻訳本は殆ど読まないですが、 ノーベル文学賞を受賞されたというので 初めてイシグロさんの本を手に取りました。 五編の共通するところは音楽をテーマにして 夫婦のいざこざが描かれています。 どれも主人公が男性のうだつの上がらないミュージシャンです。 うだつが上がらないから妻と関係が上手くいかないのか、 それとも妻との関係も上手くいかないからうだつが上がらないのか。 と卵が先か鶏が先かと思ってしまいますが、 どちらかが上手くいかないと両方ダメになってしまう パターンがこの芸術家には多いようにも思えます。 男性がうだつが上がらない状態だと日本だけでなく、 他の国でも男性が切なく思えてしまうのは万国共通なようです。 ここに出てくる音楽は洋楽であまり知らない分野だったので、 詳しいことを書かれていても理解しにくく、 雰囲気などもしっかりと味わえない所が少し残念でした。 音楽に詳しい方だったら音楽の要素も味わいながら この作品も十分に味わえるかと思います。 解説ではユーモラスに描かれているとありますが、 ユーモラスというのが日本と海外では少し異なると思うので あまり笑えるという要素が低いかと思いましたが、 一番分かりやすくて面白かったのは「夜想曲」でした。 これは映像化にしたら凄く分かりやすくて面白いかと思います。 コメディ映画にでもなりそうな気がします。 この作品の中で 人生は、ほんとうに一人の人間を愛することより大きいのだろか。 という台詞が印象深かったです。 好みの作品は「老歌手」。 ベネチアという舞台からいっそう悲哀感が出ていて、 男性の女性に対する想いのいじらしさ、純粋さが出ていたようで 思わず頑張って欲しいとエールを送りたくなるような物語でした。 ラストの「チェリスト」だけは夫婦ではなく、 これから結婚して夫婦になる作品でしたが、 それまでが不思議な関係の物語でした。 これが音楽の才能、または感性や才能というものなのかとも思い それまでの物語のミュージシャンの才能というものを また振り返り考えさせられるものかと思いました。 どの作品もどこか大人の雰囲気があり、 セピア色のアルバムをめくっているような雰囲気を味わいました。 やはり風景、情景などが日本人とはまた違った表現方法なので 異国情緒がここかれも垣間見れました。 これぞ海外の大人の文学なのかなとも思わされました。 翻訳本にしては短編集のせいか割と読みやすい作品が多かったので、 また何かの機会があったら今度は長編を読んでみたいと思いました。 秋の夜長に音楽と共に読書をするには良い作品だと思います。
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- ネタバレ
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人生における寂しい現実に少しのユーモアを交えた、人生に疲れた大人達に捧げられた素敵な物語。 カズオ・イシグロがこんな気軽なコメディタッチの文章も描くとは…ちょっと得した気分。 洒落た音楽、人生における夕暮れ、男女間の危機、才能を巧みに絡めた五つの物語にクスッとなったり切なくなったり。 才能に関しては色々な想いが巡る。 時代に取り残された過去の栄光、才能があるのに生かしきれないジレンマ、特別な才能がなくてもチャンスをものにしようと奮闘する姿。 そんな良い意味での人間くささがしっとりと品良く描かれてあり好感が持てる短編集だった。 特に『夜想曲』の彼の包帯を外したその後がとても気になる。そしてメグ・ライアンのチェスセットが羨ましい。
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■老歌手 ※往年の名歌手。老夫婦のそれぞれが愛し合っているにもかかわらず再起に賭けて別れる。 ■降っても晴れても ※親友夫婦の間をとりもつ滑稽でダメなぼく。 ■モールバンヒルズ ※夫婦のズレを目撃する、ミュージシャン志望の若者。 ■夜想曲 ※整形手術を受けたサックス奏者と、隣室で...
■老歌手 ※往年の名歌手。老夫婦のそれぞれが愛し合っているにもかかわらず再起に賭けて別れる。 ■降っても晴れても ※親友夫婦の間をとりもつ滑稽でダメなぼく。 ■モールバンヒルズ ※夫婦のズレを目撃する、ミュージシャン志望の若者。 ■夜想曲 ※整形手術を受けたサックス奏者と、隣室で知り合ったセレブが、トロフィーをめぐりドタバタ劇。 ■チェリスト ※駆け出しのチェリストは、楽器を弾かない大家からレッスンを受ける。 音楽と(人生の)夕暮れ、という副題が美しいほどにぴったり。 最初から「書き下ろし短編集」として編まれた5題。 重、軽、 重、軽、重、という構成もよい。 ユーモアとペーソスをまぶされた、夫婦の黄昏れ。 才能と継続。諦念。郷愁。転機。芸術と世俗。シビアでもコミカルでもある人生というもの。 「愛し合っているのに……」「愛し合っているからこそ……」という男女の機微。 これらはすべて年を重ねたからこそ味わえる滋味だ。 長く生きれば必然として滓や澱のように溜まるものがある。 ドタバタコメディでもある「降っても晴れても」や「夜想曲」の背後にも、それらはもちろん。 解説で中島京子さん曰く「可笑しいんだか、悲しいんだか」。まさにこれ。
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2017年6月26日、再読。ケン・リュウ、テッド・チャンと続けて読んで、SF小説なので当たり前だが、どの話も必ずSFの形を取っていることに疲れを感じて、本棚をゴソゴソ探してきた。私の好きな音楽をテーマにしていることもあり、どの話も面白かった。プロどころか、今となってはアマチュア音...
2017年6月26日、再読。ケン・リュウ、テッド・チャンと続けて読んで、SF小説なので当たり前だが、どの話も必ずSFの形を取っていることに疲れを感じて、本棚をゴソゴソ探してきた。私の好きな音楽をテーマにしていることもあり、どの話も面白かった。プロどころか、今となってはアマチュア音楽家でもなくなってしまったが、それでもなお、まだ音楽に心をグッとつかまれて身悶えすることがある。それは私にとっては私だけの特別な感覚のような気がしていているのに、見事に言葉にしてしまう作者にすっと引き込まれてしまう。私にとって村上春樹と並んで特別な作家である。
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私は初めての作家を読む場合、短編から入るたちなので、この短編集も初めて読んだカズオ・イシグロ作品です。 話の内容とか面白さ云々よりも、カズオ・イシグロはなんて心地良い文章を書くのだろう!と感じた記憶があります。(翻訳者のセンス良さもあると思いますが) 中でも『老歌手』は雰囲気が良...
私は初めての作家を読む場合、短編から入るたちなので、この短編集も初めて読んだカズオ・イシグロ作品です。 話の内容とか面白さ云々よりも、カズオ・イシグロはなんて心地良い文章を書くのだろう!と感じた記憶があります。(翻訳者のセンス良さもあると思いますが) 中でも『老歌手』は雰囲気が良く、印象に残りましたし『夜想曲』は面白すぎで大笑いでした。
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著者初の短編集という事で期待していたが、不思議な味わいと独特の余韻はあるものの、面白いかというとそんなでもなかった。翻訳は良し。
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カズオイシグロの本を何冊か読んで気に入ったためこちらを手に取った。 音楽に詳しければもっと楽しめただろう。 どれも儚げな味わいがあり、ユーモアもある上質な短編集。短編なのでやや物足りない部分もあったが、それは致し方ない。個人的には夜想曲が面白くて好き。
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素晴らしい短編を読んでいる最中とその読後は、わたしはいつも上機嫌だ。 郷愁、旅情、人の生きる辛さやせつなさをそのままの言葉にせず、作家の言語で表している。
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