文庫版 邪魅の雫 の商品レビュー
「邪(よこしま)なことをすると―死ぬよ」 京極堂シリーズ第9弾! 昭和28年夏、江戸川、大磯、平塚で次々と毒殺死体が発見される。 事件の繋がりが見えず青木ら刑事達が手を拱く中、京極堂が憑物落としに立ち上がる―! シリーズ全体の中で見ればあまり出来が良いとは云えない作品...
「邪(よこしま)なことをすると―死ぬよ」 京極堂シリーズ第9弾! 昭和28年夏、江戸川、大磯、平塚で次々と毒殺死体が発見される。 事件の繋がりが見えず青木ら刑事達が手を拱く中、京極堂が憑物落としに立ち上がる―! シリーズ全体の中で見ればあまり出来が良いとは云えない作品。 青木、山下をはじめとする刑事達に加えて、公安の郷嶋という男まで登場し、関口君の影がいつも以上に薄く、京極堂もなかなか出てこない。 皮膚に一滴の雫を垂らすだけで殺害できるという猛毒を巡る事件が、そもそもやや面白みに欠けているのが残念。 とはいえ、 「殺してやろう」「死のうかな―」「殺したよ」「殺されて仕舞いました」「殺したんだよ」「死んでいた」「殺してしまった―」 など、各章を「殺す」「死」などの言葉を含むセンテンスで始めている点や、「邪」「邪悪」といった言葉が頻繁に出てくる点、京極堂が帝銀事件について触れているところや、西尾維新さんが解説で大絶賛している「京極夏彦の文章は決してページをまたがない」というレイアウトなどはいずれも従来の京極節健在で、ファンとしては嬉しいところ。 フィナーレで真犯人と榎さんが砂浜で邂逅するシーンは、美しい海や潮の音が感じられるようで、この終わり方はとてもよかったと思う。 「人はどうして邪なものに魅せられるのか」というテーマもなかなか興味深かった。 本書で一番面白いと僕が思ったのは、自分の作品に対する批評が気になって夜も眠れないという関口君に、京極堂が説教を垂れる場面。 「作者と作品は全く以て切り離されるべきものだ」 「仮令君の本が酷評されようが焚書にされようが、君を能く知っている僕等の君に対する評価は何ひとつ変わりはしないんだよ」 「自分が思う関口巽と世間の評価との間に齟齬があって、それを不満に思うと云うなら、身の周りから正して行く他ない。君の作品の評価は君への評価では決してない」 「作者の意図なんて、そんなものどうやったら判ると云うんだね益田君」 「読書に上手いも下手もないよ。読む意思を持って読んだなら、読んだ者は必ず感想を持つだろう。その感想の価値は皆等しく尊いものなのだ」 これぞまさに憑物落とし! 言葉という呪(しゅ)によって、個人の内面の世界をがらりと変えてしまう魔法。 ここで大切なのは、「呪術と云うものはね、呪術を信じていない者にしか正しく行使することが出来ないものなのだ。霊なんてないと知る者こそが霊を扱える」ということ。 すばらしすぎる! これほどまで言葉を巧みに操ることのできる小説家は他にいないのではないだろうか。 榎木津礼二郎の過去の恋愛が鍵となっている本作、『邪魅の雫』。 いちばんの感動ポイントは、榎さんが「おい―益田」と、益田君を初めて本当の名前で呼んだところかな。 第10弾『鵺の碑』を早く読みたい(もう5年以上待ってるのに)!
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わりと落ち着いていて淡々と物語が進んでいく感じ。 人の心にはきっと誰にでも「邪」なるものが宿っていると思う。 ただ、他の動物にはない人間特有の「理性」というものの影にかくれ ほとんどの人はそれを持ったままこの世を去っていく。 しかし、ちょっとした何かのきっかけで、理性の隙間から顔を出す。 たとえば、たった一滴の液体で・・・ 現代の様々な事件のニュースを見るたびに思う。 「邪」を抑えきれない人々が多すぎるなと・・・ 今回は榎さんの切ない物語・・・のはずが、出番はとっても少ないなぁ。 さて、この「百鬼夜行シリーズ」出版されているのは、ここまで。 もう、5,6年も続編が出ていないそう。 今年のGWから、一気に読んでしまったので続きが読めないと思うと 寂しい・・・ 早く、次回作がでないかなぁ・・・
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ネット上では無駄に長いとか、絡新婦までの5作に比べると以前の面白さがないとか、散々なレビューを見かけるけど、個人的にはいいと思う。 今作のテーマは事件というのは関わった人1人1人の物語が折り重なってできていますよ、関わった人によってその事件の側面は全然違った風に見えてきますよというもので、それを歴史と民話の例を交えて説明する部分は、思わずなるほどなあとうなってしまった。 ただ、黒幕(というより受動的に関わって結果黒幕的な存在になってしまった)に魅力なかった。 あの終わり方も嫌い。 京極夏彦は魅力的な成人女性がかけないと思う。 唯一蜘蛛の中の人は好きだったけど、あれは事件をおこした動機があまり描かれなかったからで、心理描写を交えて描かれていたらどうなっていたか・・・
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んー、前作同様、話の結末(というより今回の事件の犯人、かな)が途中で見当がついてしまったので、憑き物落としの段階はただの説明会みたいな感じだった。 しかしそれでも、終盤で京極堂が登場したときの鳥肌が立つ程の高揚感が堪らない。個人的に一番の名場面である、「塗仏の宴」の、山の中で次々...
んー、前作同様、話の結末(というより今回の事件の犯人、かな)が途中で見当がついてしまったので、憑き物落としの段階はただの説明会みたいな感じだった。 しかしそれでも、終盤で京極堂が登場したときの鳥肌が立つ程の高揚感が堪らない。個人的に一番の名場面である、「塗仏の宴」の、山の中で次々合流していくシーンに匹敵するくらい良かった(久々の京極堂シリーズだったからかしら)。 京極堂は、作品中の登場人物でありながら、まるで作者が作品中に登場してきたかのように物事を俯瞰し、主観と客観の境界線上を自由に行き来し、人々が囚われがちな「自分の認識イコール世界」という妄想を、壊す。全てを知り尽くしているように語る(または騙る)その姿は、憧れる。主観にとらわれがちな自分は強くそうかんじるな。 あと今回は、青木刑事の評価がうなぎ登り。公安の郷嶋と対面したときの強気な遣り取りがかっこよかった。ああいうカケヒキができる人間になりたい。 探偵と木場の旦那の登場が少なかったのが少し残念。次は探偵が活躍するスピンオフ的なやつ読もうかな。
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シリーズ初期のような、驚きは感じなかったけど面白い。 驚きが無いのは自分が年を取ったせいか、シリーズも全部よんだので感覚が掴めてしまっているからかな。。 ★三つは他の京極作品と比べてということで。 内容については、私としては複雑極まりなく、事件も結末も理解するのにノートとって、整理して、とだいぶ苦労しました。一気に読んだ方がよいですね。 京極シリーズの記憶を全部無かったら、どんな評価が出来ていたかは不明。
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ストーリーは、登場人物が誰が誰だか混乱。 ストーリーはともかく、さいごが何とも言えない。榎木津の最後の言葉はつらすぎる。ただ、「勝ち負けではない。良し悪しでもない。」という言葉には心を打たれた。
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話が複雑でこの文量必要なのはわかる気もするけど、妖怪の薀蓄が少なめなのがちょっと残念。解説がきちんと京極レイアウトになってる。
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これも「そんな上手くいかないだろwww」って思いながら読んだ作品。 京極さんの作品は、そう思うものが多いから、もうそういう芸だと思ってる。 何だかイラつかせる登場人物ばかりだった。みんな死ぬけど、どうせ死ぬならスッキリ「ざまあw」と思わせてから死んでくれと思った。 もやもやして気持ちよくない終わり。 京極さんはえのさんが頗る好きであるというのは分かる。 最後のロマンスも何だか釈然としないし、女ってそこまでねちねえちしてたっけ?と疑問に思う。あんなねちねちした女はもっと馬鹿な子だと思うんだけどな。 青木くんがカッコイイからよし!!!
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榎木津さんと縁のある人が出てきてびっくりしました。物語としては毒を中心に展開されており、次々と登場人物が変わるので大変でした。これも「なぁんだ」という解決で、あまり納得できなかったです。
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江戸川縁で発見された毒殺死体。 伊豆の事件での服務規程違反を咎められ処罰を受け、 小松川署管内の交番勤務となっていた青木は 捜査員として事件にかかわるが、どうも全体像がつかめない。 すると一週間ほどして、神奈川の大磯町で女学生の死体が見つかる。 毒殺死体であるという以外...
江戸川縁で発見された毒殺死体。 伊豆の事件での服務規程違反を咎められ処罰を受け、 小松川署管内の交番勤務となっていた青木は 捜査員として事件にかかわるが、どうも全体像がつかめない。 すると一週間ほどして、神奈川の大磯町で女学生の死体が見つかる。 毒殺死体であるという以外、地理的に見ても無関係に思える事件だが ふたつの事件は「連続殺人事件」であると判断され、 青木が追っていた男は無関係として捜査本部には無視されてしまう。 しかし、木場や中禅寺、小松川署の老刑事・藤村に相談した結果 青木は目星をつけていた男――赤木を追って大磯へ入ることに。 一方、益田は、榎木津の従兄弟である今出川から依頼を受ける。 いわく、榎木津と良家の令嬢との間に持ち上がった縁談が、 先方から断られるということが三回も続いたのだという。 今出川はその裏に大きな企みがあるのではと疑念を抱いており、 ことの次第を調べろと益田に申し付けたのである。 益田はどうにもやりにくさを感じながら調査を開始するが、 奇妙なことにその調査は毒殺事件とリンクしていき――。 海辺の保養地で、立て続けに見つかる毒殺死体。 懸命の捜査にもかかわらず全容をつかめない警察。 事態が混迷を極める中、ついに黒衣の拝み屋が立ち上がる。 シリーズ第九弾(塗仏を始末と支度でひとつとみなせば第八弾)。 塗仏~陰摩羅鬼の間に比べれば短期間で刊行されたが、 初期の頃の刊行ペースに比べれば間が空いていることは確か。 本作では、「個人」と「社会」「世間」「世界」といったものとの 対比あるいは関係がテーマとなっている。 これが犯人の動機からトリックに至るまであらゆる要素にかかわり 長い物語を綺麗にまとめあげている。 絡新婦や塗仏の、終盤に至って驚異的に盛り上がる構成と比較すれば 本作の構造が地味であることは否めないが、 その実、構造の巧みさは本作のほうが上ではないかと個人的には思う。 さして複雑なことが起こっているわけではないのに、 しかも、起きたことはほぼすべて、読者には知らされているというのに なぜか見えてこない事件の真相。 それが見えてこない理由にも、前述のテーマがかかわってきており 中禅寺によってそれらが明かされる終盤は 読んでいて感服させられること頻り。 榎木津や中禅寺の活躍シーンが分量的に少ないのには 少々文句を言いたくもなるが、 しかしながらあのラストシーンといい、 意外性もあって内容的にはなかなか満足できるものになっている。 やや強引すぎやしないかという部分もあったが (具体的に言うとある人物の「手紙」についてである)、 全体として非常に楽しめたのは間違いない。 やはりこのシリーズは鉄板。 タイトルだけ予告されている次回作「鵼の碑」の刊行が待ち遠しい。
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