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漂流 の商品レビュー

4.4

148件のお客様レビュー

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2023/03/13

吉村昭の小説は、事実を丹念に検証し、分かり易く読み解いて小説の中に落とし込む。その事実の度合いが司馬遼太郎のそれよりも濃度が高い。だから、『難しそう』な気がして手を出していない人がいたとしたら、その人は読書人生で大きな損をしている。個人的には、そう感じます。 特に本書。江戸後期...

吉村昭の小説は、事実を丹念に検証し、分かり易く読み解いて小説の中に落とし込む。その事実の度合いが司馬遼太郎のそれよりも濃度が高い。だから、『難しそう』な気がして手を出していない人がいたとしたら、その人は読書人生で大きな損をしている。個人的には、そう感じます。 特に本書。江戸後期に『伊豆鳥島』に漂着した長平という実在の人物を主人公にした小説です。嵐に遭い、かろうじて辿り着いたのが伊豆鳥島。「鳥も通わぬ」と呼ばれた八丈島は、"一度行ったら生きては帰れない場所"とされていた。伊豆鳥島はそれよりも更に遠い。八丈島と小笠原諸島の中間辺りにポツンと存在する。当然近くを船が通行する事などありえない。 断崖絶壁に囲まれた島に身一つで上陸し、船は大破して所持品は一切無し。 長平に"運が良かった"点があるとすれば二つ。一つは温暖な気候。真冬でも単衣で過ごせる暖かさだったこと。同じ漂流民でもアリューシャン列島に辿り着いた大黒屋光太夫一行は真冬に次々と死んでいる。 もう一つは"アホウドリ"群生地だったこと。文字通り、"アホウ"な鳥が素手で幾らでも獲れたことだ。 そんな長平が、「この鳥は、ひょっとしたらツバメと同じように『渡り鳥』ではないか」と気付く場面は吉村昭の小説の白眉だ。 断崖に囲まれた火山島で魚釣りもできない島。火打石すら持たず、火の無い生活を続けている長平。その絶望感が、読む者の心を抉る。 それでも起死回生の手段で生き延びる手段を講じる長平。そんな彼を、仲間の死が続けて襲う。長平はそれから二年間、ひとりぼっちで炎を使うことすらできない生活を送るのだ…。 人間が極限状況に置かれた時、どう対処するのかは、一概に言えるものではありません。しかし、大きな震災などが起きた時には、私たちがこの小説の主人公と似たような選択を迫られる事は現代においても変わらないと思います。 伊豆鳥島は八丈島と小笠原諸島の中間辺り、『台風銀座の真っ只中』にあります。台風シーズンになったら想像してみてください。 "あの海の中の小島で、13年も、岩の窪みに身を寄せて生き延びた人がいたんだ"

Posted byブクログ

2023/01/31

「吉村昭」の長編ドキュメンタリー小説『漂流』を読みました。 『虹の翼』に続き、「吉村昭」作品です。 -----story------------- 流れ着いたのは絶海の無人島、それでも男たちは生き抜いた。 江戸時代の史料にも残る不撓不屈の生還劇。 江戸・天明年間、シケに遭っ...

「吉村昭」の長編ドキュメンタリー小説『漂流』を読みました。 『虹の翼』に続き、「吉村昭」作品です。 -----story------------- 流れ着いたのは絶海の無人島、それでも男たちは生き抜いた。 江戸時代の史料にも残る不撓不屈の生還劇。 江戸・天明年間、シケに遭って黒潮に乗ってしまった男たちは、不気味な沈黙をたもつ絶海の火山島に漂着した。 水も湧かず、生活の手段とてない無人の島で、仲間の男たちは次次と倒れて行ったが、土佐の船乗り「長平」はただひとり生き残って、12年に及ぶ苦闘の末、ついに生還する。 その生存の秘密と、壮絶な生きざまを巨細に描いて圧倒的感動を呼ぶ、長編ドキュメンタリー小説。 ----------------------- 1975年(昭和50年)に『サンケイ新聞』に連載された漂流モノ… 天明年間に船の難破で伊豆諸島の鳥島へ漂着し、12年に及ぶ無人島生活の後に故郷へ帰還した土佐の船乗り「長平」の史実を基にした物語です、、、 水も出ず、植物もほとんど育たないという、あまりに過酷な環境での12年以上に及ぶ漂流譚… 途中で、何度もフィクションじゃないかと思ってしまうほどの生活、生き抜くことの凄さを感じた一冊でした。 「源右衛門」、「長平」、「音吉」、「甚兵衛」の4人の乗り込んだ三百石船が、土佐沿岸での航海で嵐に遭遇し舵を壊されて漂流… 苦難の末に流れ着いたのはアホウドリが棲息する以外、動物、植物も生育しない火山島、、、 4人は雨水を貯め、磯の貝や蟹を補食し、アホウドリやその卵を食べて生き延びます… アホウドリを渡り鳥と見抜き、鳥が旅立つ前に干肉として備蓄することで何とか食糧を確保しますが、食生活の偏りが原因による病により「源右衛門」、「音吉」、「甚兵衛」が相次いで亡くなり、「長平」は独り残されるが、絶望と孤独の中で、生きて故郷に帰りたいという強い思いを持ち続け、知恵と工夫と強い意思により、様々な困難を克服していく。 数年後、大阪の船の11人、薩摩の船の6人が漂着し、「長平」は彼等に島で生き延びる術を伝授しつつ、力を合わせて生き抜いていこうとする… その後、大阪2名、薩摩2名の死者が出ますが、彼らが持ち込んだ道具により生活環境は徐々に改善、、、 そして、その工具や新たな仲間の特技を活かし、漂着した流木等を使って島を脱出する船を造ることを計画… 釘が不足して、一度は建造を断念するが、岩礁に碇がひっかかっているのを発見し、フイゴを作り碇の鉄を溶かして釘に加工することで課題を解決、「長平」等、生き残っていた14人は孤島での生活に別れを告げ、本土に向かって出帆する。 それは「長平」が島に漂着してから、12年4ヶ月後であった… 一行は青島を経由して、八丈島までたどり着き、そして本土へと、、、 久しぶりの漂流モノ、面白かったですねぇ… 500ページを超える大作ですが、一気に読んじゃいましたね。

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2022/08/26

シケにあって無人の青ヶ島に漂着した男たちが、過酷な自然や帰国が叶わない絶望と戦う。仲間が死んでいく姿や、何も無い中で飢えに苦しみながら生きていく様子が臨場感たっぷりに描かれている。読んでいて辛かったし、今の平穏は当たり前で無いんだなと日常に感謝した。もう少しこの作者さんの作品を読...

シケにあって無人の青ヶ島に漂着した男たちが、過酷な自然や帰国が叶わない絶望と戦う。仲間が死んでいく姿や、何も無い中で飢えに苦しみながら生きていく様子が臨場感たっぷりに描かれている。読んでいて辛かったし、今の平穏は当たり前で無いんだなと日常に感謝した。もう少しこの作者さんの作品を読みたいな。 あと頭の中でどうしてもチョコプラの「長」田庄「平」さんの顔が浮かんでしまって、終始彼を思いながら読みました(笑)

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2022/08/13

どんな状況下でも希望を持ち続けること こんなに過酷な現実を生きることは、今の自分には非現実的だけど、どんなに厳しく苦しい時も、決して希望を捨てずに生きること、それが人間が生きていくためには必要不可欠なんだと、改めて考えさせられた。

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2022/05/20
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

面白くて一気に読んでしまった。 孤独で寂しいときも、新しい人が漂流されてきても、ことあるごとにアホウドリを捕っては食べているところが生々しくて良かった。一生分のアホウドリ食べた気分。

Posted byブクログ

2022/04/30

『漂流』というタイトルだが漂着してからのほうが長いので、タイトルは『漂着』じゃないか、と思ったものの、やはり『漂流』のほうが収まりがいいし、主人公は内面的にずっと漂流していたわけだから『漂流』でいいのか、などと考えつつ……。 無人島で生き残るには、観察力、何かしらの技術、精神力...

『漂流』というタイトルだが漂着してからのほうが長いので、タイトルは『漂着』じゃないか、と思ったものの、やはり『漂流』のほうが収まりがいいし、主人公は内面的にずっと漂流していたわけだから『漂流』でいいのか、などと考えつつ……。 無人島で生き残るには、観察力、何かしらの技術、精神力、体力が必要だということがわかる。「運」については、それらすべてが揃って初めて起動するのではないか。 とはいえ13年の無人島生活(1人ぼっちの年数もアリ)、よく生還したもんである。実話なんかだらすごい。私だったら即死。 最初にアナタハン事件について語られているが、それも吉村昭に書いてほしかったなぁ。 にしても。まるでそこにいたかのうような作者の筆致には舌を巻く。 映画化されているが、たぶんがっかりするから見ない(笑)。

Posted byブクログ

2022/12/17

吉村昭の小説で、極限状態を凌ぐ男の物語は、まあハズレがない。 嵐で高知から小笠原諸島まで船が流され、漂着した島は水が出ず、植物も生えず、まわりに船は通らず、乗ってきた船は壊れて、さあどうするという中で、主人公が生き延びる様がすごい。 あきらめず希望を捨てないこと、生活リズムと適度...

吉村昭の小説で、極限状態を凌ぐ男の物語は、まあハズレがない。 嵐で高知から小笠原諸島まで船が流され、漂着した島は水が出ず、植物も生えず、まわりに船は通らず、乗ってきた船は壊れて、さあどうするという中で、主人公が生き延びる様がすごい。 あきらめず希望を捨てないこと、生活リズムと適度な運動が大事なことが分かる。 アホウドリは偉大

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2022/03/06

無人島に漂着し、やがて生還するというあらすじを知っていながら、途中何度もその結末を疑う。絶望と希望を繰り返す様子に、同じく一喜一憂しながらも島を脱出する手段は全く考え付かない。脱出が実行され、頁が残り少なくなってもまだ生存を疑う生々しい描写。

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2022/03/04

自分が生まれる前の作品とは思えないほど面白い。一気読み。 漂流モノの作品はリアルであればあるほど自分を同化することができる。この作品はまさにそうであり、自分だったらどうするか、どのキャラクターに当てはまるか、と考えながらのめり込んで読んだ。 この作者の他の作品も是非読んでみようと...

自分が生まれる前の作品とは思えないほど面白い。一気読み。 漂流モノの作品はリアルであればあるほど自分を同化することができる。この作品はまさにそうであり、自分だったらどうするか、どのキャラクターに当てはまるか、と考えながらのめり込んで読んだ。 この作者の他の作品も是非読んでみようと思えた。 ちなみに自分だったら早々に生きる意欲を失って死んでしまっていそうである…。主人公には頭が下がる。

Posted byブクログ

2022/02/04
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

吉村氏の著作は「熊嵐」以来二作目だろうか。現代のノンフィクションと思って読み始めてすぐ、江戸時代の話ということで興味が削がれたけど、その主人公の長平の漂流以降、史実に裏打ちされた物語にあっという間に引き込まれた。そして鳥島からの帰還になんとも言えない感動というか衝撃を受けた。人がいかに組織化することで力を発揮して夢を実現しようと努力することで近付くのかということを実感し、単純に凄いと思った。そして故国に戻って無人島と言われる辺りに人間の残酷さとユーモアを感じた。とても面白かった。

Posted byブクログ