スローターハウス5 の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
七尾旅人の「八月」の歌詞に、 「プーティーウィッ?」というこの小説の一節が使われている、 というので読もう読もうと思っていて今に至ります。 内容の前知識がなかったため、かなりびびりました。 SFですね。 いやー「タイタンの幼女(ロリコン!)」 もとい「タイタンの妖女」がSFなのは知ってたのですが、 最初は普通に戦争ものかしら、 と思って読んでたので、 それがわかる箇所では、 時空が歪むような酩酊感に襲われ、 こういう導入部を書けるのはすげーな、 と感心いたしました(上から失礼)。 読み終えたあとの印象は、 かえしの鋭い釣り針のような作家だと思いました。 面白いのか面白くないのかまだ判然としないけれど、 魚の小骨が喉に引っ掛かっているような感覚があります。 「死」に触れるごとに(生物でも静物でも)繰り返される、 「そういうものだ」という文言は、 そのコンテクストごとに違った色合いを見せているように思います。 時には諦め、 時には悲しみ、 時には笑い、 短いセンテンスの中に、 多様性が満ち満ちていることを感じさせてくれています。 この言葉は、 四次元(三次元+時間)を眺望することができる、 「トラルファマドール星人」の死生観でもあるのですが、 少し気になるのは、 時間を一望できない地球人に、 この死生観は理解できないであろう、 ということです。 たぶん筆者は、 「手の届かないものに手を伸ばす」 という運動そのものを大切にしているのかもしれません。 それは換言すれば、 「死者について考える」 ということだと思います。 だから、 この本が戦争小説として卓越している部分は、 語らずにおくことによって、 還ってそれが闡明に浮かんでくる、 という逆説的な方法を取っているところではないでしょうか。 また、 主人公の「ビリー・ピルグリム」は、 明らかに「ピルグリム・ファーザーズ」であるので、 時の巡礼者としての名に相応しいものでしょう。 この話が決定論的な見方で書かれているのは、 そうしたキリスト教的な背景があるからだと思いますが、 現在は、 確率論的な複雑系(バタフライ・エフェクトとか)で語られることが多く、 わたしも決定論には与さない人間です。 だから、 「トラルファマドール星人」的な死生観に、 多少なりとも違和感を持たずにはいられません。 つらつらと書いてしまいましたが、 なんだか今日は、 書きながら思わぬ発見をしてしまいました。 人生はそういうものかもわかりませんね。
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これは何度か読み返しても面白いと思う。(難しく理解できないから、という意味ではなく。) ユーモア溢れた戦争小説。 自身の第二次世界大戦での経験を、時系列を無視した展開で引き込んでいくところがいい。
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時間の移動がいかにも技巧的、飛び道具的、というかまとまりなく前半は読んでいて不安定であった。 しかしその時間と時間とがじょじょに世界を形成してゆく。 その世界の地面には、決定論について、戦争について、言いたいことはやまほどあるけど言語化すると陳腐になっていまうという著者の葛藤があ...
時間の移動がいかにも技巧的、飛び道具的、というかまとまりなく前半は読んでいて不安定であった。 しかしその時間と時間とがじょじょに世界を形成してゆく。 その世界の地面には、決定論について、戦争について、言いたいことはやまほどあるけど言語化すると陳腐になっていまうという著者の葛藤があるし、その世界の川には「そういうものだ」という諦観がある。しかし何らかのメッセージを結実させるために時間の交錯で世界を形成してゆく。見事な小説であった。
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本書主人公ビリー・ピルグリムは、「けいれん的時間旅行者」となり 「戦時中の自分」「捕虜としての自分」「結婚生活の自分」「異星人に誘拐されてトラルファマドール星の動物園に収容されたときの自分」など過去・現在・未来を行ったり来たりする。 物語の着地点が見えず、どこに向かっているのか...
本書主人公ビリー・ピルグリムは、「けいれん的時間旅行者」となり 「戦時中の自分」「捕虜としての自分」「結婚生活の自分」「異星人に誘拐されてトラルファマドール星の動物園に収容されたときの自分」など過去・現在・未来を行ったり来たりする。 物語の着地点が見えず、どこに向かっているのかいまいち把握できなくて不安を覚えた。 Wikiによると 「この本が出版された時には、ドレスデン爆撃はまだ広く知られておらず、退役兵や歴史学者によって語られることもほとんどなかった。この本は、爆撃の認知度を高め、大戦中の連合国によって正当化された都市空爆の再評価へとつながった。」とのこと。 社会の不条理を、SFという形でユーモラスかつアイロニカルに表現したという点ですぐれた小説ではあるのだろうが、読者であるわたくしの理解力が不足してか、あまり「おもしろい」という印象はなかった。
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けいれん的時間旅行者、空飛ぶ円盤、ドレスデン無差別爆撃、キリスト、トラルファマドール星…戦争とSFが入り混じり、時代を飛び飛びで追い、不思議な登場人物が完璧に描写されている…おもしろい! この作品の空気感は「そういうものだ」という言葉に集約されると思う。 カート・ヴォネガット・...
けいれん的時間旅行者、空飛ぶ円盤、ドレスデン無差別爆撃、キリスト、トラルファマドール星…戦争とSFが入り混じり、時代を飛び飛びで追い、不思議な登場人物が完璧に描写されている…おもしろい! この作品の空気感は「そういうものだ」という言葉に集約されると思う。 カート・ヴォネガット・ジュニアの作品はこれが初めてだけど、他のも読みたいと思った。
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うーん、本の面白さというか、凄みがいまいち分からなかった 完全に汲み取れてないだけだと思うので、再読が必要 映画もあるみたいなので見よう
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SFと簡単にひと括りにする事が出来ない、作者の経験や思想や哲学が存分に詰め込まれた壮大な物語。 ヴォネガットの他の作品を読んだ後に、もう一度読みたい。 大事に読みたい、深く理解したいと思う作品。
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作者自身の体験を交えた物語。ビリーはその名の通り、現在過去未来を当て所なく彷徨う放浪者であり、巡礼者だった。 何度も時間を行き来する間、悟りを開いたように繰り返される“そういうものだ。”という言葉が次第に重みを増してくるように思った。
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250p強足らずの文庫本。腹持ちするというかなんというか・・・。しばらく後を引きそうな物語。同作者の「猫のゆりかご」とは、本気度の違いか。これを良しとするか悪しとするかは分かれるところ。(私は猫のゆりかごの方がずっと好きだ)でも書かざるを得なかった本なのだろう。
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タイタンの妖女と猫のゆりかごの間 タイトルは屠殺場のこと。ドレスデン無差別空爆の実体験を元にした作品。 もちろんヴォネガットらしく、時空を旅する能力を主人公に持たせて、少しSFチックに話を進める。 人生はすべて定められた運命の中だ。自由意志なんて発想そのものがおかしい...
タイタンの妖女と猫のゆりかごの間 タイトルは屠殺場のこと。ドレスデン無差別空爆の実体験を元にした作品。 もちろんヴォネガットらしく、時空を旅する能力を主人公に持たせて、少しSFチックに話を進める。 人生はすべて定められた運命の中だ。自由意志なんて発想そのものがおかしい。こんなところがテーマかな。 登場人物はきわめて多彩。前作タイタンで登場するラムフォード、トラルファマドール星人、本作の2作後に登場するローズウォーターにいつも出てくるトラウトとそれぞれが本作で重要な役割を演じているところが面白い。 ある意味で、初期のヴォネガット作品のエッセンスがここに詰まっているのかもしれない。ここでシチューのようにアイデアをグツグツ煮こんで後の作品を作ったのではないか。 また、ある意味では宇宙空間を舞台に時空を旅する「タイタンの妖女」を地球上で作り直したのが本作かもしれない。タイタンの妖女では、すべてがトラルファマドール星人の仕組んだものだった。それが運命だった。 本作では戦争の実体験を交えてリライトした作品かも。悲惨な戦争体験はすべて運命だったと信じたかったのではなかったか。もっといえば、ヴォネガットは最初から本作を書きたかった。タイタンの妖女はその下書きに過ぎなかったのかもしれない。 もっとも、それでも私はタイタンの妖女の方が好きだ
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