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浮世の画家 の商品レビュー

3.7

79件のお客様レビュー

  1. 5つ

    12

  2. 4つ

    23

  3. 3つ

    25

  4. 2つ

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  5. 1つ

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2020/11/07

表紙とタイトルで、江戸時代の孤高の画家の話と決め込んで手にとったが、中身は小津安二郎ばりのやや家庭派人間ドラマでした。出遅れた娘を想う物語があまりに小津映画のイメージだったのだが、訳者あとがきで作者が押す映画を好きであることがわかり納得。 引退した小野画伯の引退の経緯が徐々に語ら...

表紙とタイトルで、江戸時代の孤高の画家の話と決め込んで手にとったが、中身は小津安二郎ばりのやや家庭派人間ドラマでした。出遅れた娘を想う物語があまりに小津映画のイメージだったのだが、訳者あとがきで作者が押す映画を好きであることがわかり納得。 引退した小野画伯の引退の経緯が徐々に語られるとともに細やかな主人公の心を描き出す。 自尊心を保つために過去の自分と素直に決別したつもりになっている主人公だが、終始主人公目線のため、傍から見た終始がどう映っていたか知りたくなる。 孫との掛け合いなど無邪気な会話がアクセントになりつつも、終盤は少々退屈しました。

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2020/06/06

価値観の大きな変化があったときに、どうやって向き合うか(もしくは向き合わないか)を淡々と描く。 読み進めると、主人公も、その周りも、結局は何も変わっていないのではないか?という疑惑が出てくる。 他の方が言っている通り、謙虚さと自己欺瞞、ですね。 なんか身につまされるなぁ。 ...

価値観の大きな変化があったときに、どうやって向き合うか(もしくは向き合わないか)を淡々と描く。 読み進めると、主人公も、その周りも、結局は何も変わっていないのではないか?という疑惑が出てくる。 他の方が言っている通り、謙虚さと自己欺瞞、ですね。 なんか身につまされるなぁ。 翻訳がとってもよいように感じました。 また、解説も物凄い納得。 イシグロは読めないやつは読めないんですが、この主人公の「うわ〜こいつ信用できね〜」っぷりは身近な人の中にも感じるし自分のなかにもあるしでサクサク読み進められました。 本当に、世の中全員自分の都合のいいように考えるんだから!

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2020/05/25

戦時中、日本精神を鼓舞する画風で世間の尊敬を集めていた画家が終戦後一転した価値観の中で自分の人生や信念を回想するーーーこれはまた地味な題材だなあと思って頁を捲るうちにいつの間にかひきこまれていた。 自分の過去、自分の歴史と向き合うことーーーなるほど非常に普遍的なテーマを据え、これ...

戦時中、日本精神を鼓舞する画風で世間の尊敬を集めていた画家が終戦後一転した価値観の中で自分の人生や信念を回想するーーーこれはまた地味な題材だなあと思って頁を捲るうちにいつの間にかひきこまれていた。 自分の過去、自分の歴史と向き合うことーーーなるほど非常に普遍的なテーマを据え、これを語るに打ってつけの設定だ。何より文体が良い。叙述トリックではないが、この一人称の回想の姿を借りた語りそのものが、物語の終盤で大きな揺らぎを示したその表れ方が、この作品の最も味わい深い部分となった。テーマと文体がこれほどよく反応し合った小説も珍しい。

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2019/12/12

戦後の東京下町で暮らす引退した日本人画家(小野益次)を語り手として、いまだ過去の傷が癒されない不安定な心理状態にある自分と家族の肖像を、戦前・戦中に活躍した芸術家たちとの交流の回想を交え、日本生まれの英国人【カズオ・イシグロ】が綴る『遠い山なみの光』に続く第二長編作品。戦後の価値...

戦後の東京下町で暮らす引退した日本人画家(小野益次)を語り手として、いまだ過去の傷が癒されない不安定な心理状態にある自分と家族の肖像を、戦前・戦中に活躍した芸術家たちとの交流の回想を交え、日本生まれの英国人【カズオ・イシグロ】が綴る『遠い山なみの光』に続く第二長編作品。戦後の価値観の転換が、人々の観念や生活様式に変化をもたらす物語の背景は前作のテーマを継承しており、重荷を背負って歩む人生のそこはかとない寂寥感に包み込まれる。

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2019/09/20

戦前と戦後を生きた画家。 戦争の前後で世間の価値観や己の評価が180度逆転し、そのことを諦めのように認めつつもやるせない思いを抱えている老人。 現在の話をしながら過去の回想が入り乱れる。謙虚で誠実な自省の裏に潜んだ自尊心、自己欺瞞。 手触りはノスタルジィ。どこか空虚で寂しい望郷の...

戦前と戦後を生きた画家。 戦争の前後で世間の価値観や己の評価が180度逆転し、そのことを諦めのように認めつつもやるせない思いを抱えている老人。 現在の話をしながら過去の回想が入り乱れる。謙虚で誠実な自省の裏に潜んだ自尊心、自己欺瞞。 手触りはノスタルジィ。どこか空虚で寂しい望郷の念。

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2019/09/14

テレビを見てカズオ・イシグロの作品だと知り読んだ。 最後までひっぱるあいまいさに惹きつけられた。 小野の語りがなんとも心地よく、すらすら読めた。

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2019/06/07

たまたま目について借りてしまった。 勧善懲悪ではなくて、正しいと思ってきたことは時代が変わると間違いとされ、憎まれさえする。 アイデンティティの混乱みたいな話だけど主人公が年配男性なので、そういう年代の男性らしく?クッキリハッキリ描写されないので、ある程度時代背景などの知識がない...

たまたま目について借りてしまった。 勧善懲悪ではなくて、正しいと思ってきたことは時代が変わると間違いとされ、憎まれさえする。 アイデンティティの混乱みたいな話だけど主人公が年配男性なので、そういう年代の男性らしく?クッキリハッキリ描写されないので、ある程度時代背景などの知識がないと自分の解釈に自信持てないです。

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2019/04/21
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

このなんともいえない不穏な感じ。 孫の一郎の言葉さえ意味深に響いてくる。 著者の小説のキーワード”記憶”に付随するあれこれ。 そこが曖昧模糊として物語が進む。 今では著名な画家となってる小野益次がまだ浮世の画家を目指していた修行時代、自分が師となってから目をかけていた一番弟子の黒田との別離、次女紀子が縁談が直前になって破談になった謎、二回目のお見合いの様子、そんな様ざまなことが小野の眼を通して端正に語られる。 先日、NHKでドラマ化されているのも観たけど、これ以上ないというほどの配役だった。

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2019/03/09

普通の人ならその失敗に対する恐怖から諦める、目指さないような目標を立ててそれに努力する人がいるとすれば失敗をしたとしても人生として満足感を得られるだろうとする考え方が印象に残る作品でした。

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2019/01/04
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

2016.3記。 戦前、戦意高揚目的の絵を描いて名を成した老画家が、戦後の根本的な価値観の転換の中で内省を深めていく。娘の縁談が進まないのはじぶんのせいなのか・・・それだけの筋書で物語は淡々と進む。 主人公は時流に媚びたわけではない。むしろ社会不安、貧困の増大、無策な政治家、そうしたものに憤りを感じ、少しでも人々の役に立てば、と絵筆をふるっていた。しかし、戦後、若い世代は「国民を煽っておきながらのうのうと生き永らえた連中」という容赦ない視線を浴びせ、当時親しくした同世代の仲間たちも背を向けていく。 当時の愛弟子が、就職のために「私は先生と対立していた、と証言してくれ」と訪ねてきたときの屈辱と寂寥感。同時に、嫁いでいった娘たち、その家族が戦前よりも明らかに希望のある未来に向かっていくことを嬉しく思う気持ち。そういうものがしずかに積み重なっていく様がなんとも切ない。 脱線するが、この曲のテーマ曲を勝手に選定するとすれば武満徹「波の盆」を推したい。ハワイに渡った日系人で、第二次大戦において息子が米兵として日本と戦うことになる主人公を笠智衆が演じていた。ただただ名曲です。

Posted byブクログ