浮世の画家 ハヤカワepi文庫

カズオ・イシグロ(著者), 飛田茂雄(訳者)

• 販売会社／発売会社: 早川書房/早川書房
• 発売年月日: 2006/11/30
• JAN: 9784151200397

商品レビュー

2025/10/14

これは褒めてるんだけど、イシグロさんの皮肉が効きすぎて腹の奥のタールみたいな気持ちが熱くなるぜ

ただただ美しく儚い文章で丁寧に綴った「誰もあんたにはそんな興味ありませんえ」物語と捉えたんだけど、大丈夫そうかな

2025/09/11

An Artist of the Floating World
Kazuo Ishiguro, 1986
浮世の画家
カズオ・イシグロ
2024.07

日本人らしいことに閉じ込められた老人。戦時中の言動や日本精神を見直す気持ちの変化。後悔と哀愁の静かなエレガンス。

2025/07/22

主人公・小野は、戦時中に国威を鼓舞する絵を描き、名声を得た。
しかし、戦後、価値観は大きく変化し、かつての功績は否定されるようになる。
その名声は、娘の縁談にまで影響を及ぼすほど、重荷となっていた。

戦後の価値観に苦しみながらも、それを受け入れ、 自身の戦争責任を認めて再び生きようとする男の姿を描いた小説—— 私は、当初このような作品だと捉えていた。

しかし、読み進めるうちに、主人公の自己認識と周囲の人々による評価には、明らかなズレがあることに気づかされる。はじめのうちは、周囲の言動がおかしいと思っていた。 だが次第に、語り手の言葉こそが疑わしいものであることが明らかになっていく。

小野は、自らを戦時中に大きな影響力を持つ「大人物」だと信じており、今もその過去の栄光に浸っている。 ところが、実際には彼が語るほどの影響力は認められず、その功績もまた、過度に美化されたものであることが分かってくる。

価値観が変化した現代に、彼の居場所はない。
そればかりか、彼が誇っていた過去さえも、実体の伴わない幻想に過ぎなかったのかもしれない。

この作品は「誰もが陥りがちな自己過信」を、 静かに隠喩した物語でもあるように思える。