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浮世の画家 の商品レビュー

3.7

81件のお客様レビュー

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    12

  2. 4つ

    24

  3. 3つ

    26

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2018/05/22

昭和の作家が書いた小説を読んでいるような感覚になったり、翻訳ものだということを忘れたり、孫や娘との会話が白黒映画の脚本読んでるみたいな感じになったりで、不思議な小説だった。

Posted byブクログ

2018/03/05

カズオ・イシグロの長編第2作目。 幼少の頃から長らくイギリスに住み、イギリスの生活や文化に慣れ親しんできた作者が、生まれ故郷である日本の戦前・戦後の生活や文化を事細かく調査して書き上げた意欲作と思われる。 主人公は広い日本家屋の屋敷に住む老画家で、末娘の結婚問題に心を痛めながら...

カズオ・イシグロの長編第2作目。 幼少の頃から長らくイギリスに住み、イギリスの生活や文化に慣れ親しんできた作者が、生まれ故郷である日本の戦前・戦後の生活や文化を事細かく調査して書き上げた意欲作と思われる。 主人公は広い日本家屋の屋敷に住む老画家で、末娘の結婚問題に心を痛めながらも孫と戯れたりするほのぼのとした情景から物語は始まる。 物語の雰囲気は作者も思い入れがあるというまさに小津安次郎監督の世界であり、物語の出だしは情緒豊かに日本的な風情の中から展開していくことになる。 さらに個々の登場人物にはそれぞれ独特の個性を持たせていて、割とほのぼの感のある主人公に対して、身内である娘2人と孫の性格はちょっと一捻りしている感じで、常にまわりくどくてはっきりとものを言わない姉に、クソ生意気な孫のガキ、そしてズケズケものを言う末娘という感じで、作者ならではの日本の家族観が出ていてなかなか面白かった。 あと光の使い方がある意味日本的で、これも面白いところであった。 主人公の少年時代の回想で暗がりの座敷の中で火の光がゆらゆらと揺れるようなイメージがあったり、広い日本庭園を思わせる中での陽光を浴びながらの庭仕事があったり、あるいは家族らとともにする夕食の食卓での電燈の光であったり、かと思えば戦前や戦後すぐの地方のバーの薄明かりや居酒屋での華やかな色光であったりと、日本的な光のイメージを大切に使っている作品であったように思う。 そういう意味で、物語後半における主人公と師匠モリさんとの決別の理由の一端は、闇に浮かぶ日本的な光の幻想を洋画に活かそうという師匠の手法への主人公の反発にあったわけで、極彩色に違いない主人公の軍国主義礼賛の絵は主人公が入り浸った飲み屋街のネオンと共通するものとして対比されていたようにも思う。 その彼が戦後老いて日本的な環境の中で生活するというのは、ある意味、皮肉なものであったのではないか。 物語の前半は割と娘の結婚問題にそこそこ頭を悩ます父親といった風情だったものが、物語の後半に入り、突如として主人公の戦争責任とそれに先立つ師匠との出会いから別れの話に進展していったのには驚いたものの、なかなか読み応えのある展開であった。 特に主人公が師匠との決別の道を選択し、戦時中に自分が行った仕事に対する数々の高評価に自尊心を満足させつつも、一転、敗戦後は自らの過去が末娘の縁談に差し障りがあると考え、そうした過去に対する責任感に満足するところなどは、これもある意味、皮肉であり、さらに周囲の者は逆にそのような責任など感じる必要などない「小物」だったと評価していることなどは、作者の作品にいつも滲み出ているお得意のユーモアと思われなかなか魅せてくれたと思う。 この作品は現在・過去が錯綜して回想される主人公の一人称の物語で、その主人公の記憶も曖昧なところがありなかなか読みにくい作品であったが、主人公が存在し会話し考え、時には過去へ行ったっきりになり、主人公がそこかしこであれこれと思いめぐらす思考の流れは、われわれ読者をも幻想的な感覚へと誘い、現実と過去の境界をも曖昧にする不思議な体験であった。 その意味で、日本の過去と現在をごちゃまぜにして作者のイメージに作り変えて読者へ突き付けるという彼の目論みは大いに成功したといえるだろう。 主人公の一人称の物語ゆえに、作者の客観的な日本評をみせつけられた作品であったとも言える。

Posted byブクログ

2018/02/11
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※このレビューにはネタバレを含みます

おそらく第二次世界大戦直後の日本。小野は戦前戦中は大変評価された画家で当時の日本政府に貢献をしたが、 終戦後、屋敷にこもり次女と2人でひっそり暮らしていた。 目下の悩みのタネはこの次女の縁談であり、昨年は途中までうまく行っていたものの相手方の辞退により話が壊れていた。 辞退の本当の理由ははっきりわかっていない。 長女は遠方に嫁いだが、年に一度ほど孫を連れて帰郷してくる。しかし復員してきた長女の夫は戦後小野にひどく冷淡な態度をとるようになっていた。 最初はなかなか読み進められなかったけれど、勢いついたらやはり一気読みになりました。 以前読んだ「日の名残り」や「わたしを離さないで」とは訳者が違うけれど、やはり作者の静かな、品のある文章はとても好きです。 小野は自分の画業の弟子時代や有名になってからのことなど回想して、その若い小野の思い上がりや鼻につくところも散見されるのだけれど、でも嫌な気持ちにはならず。 若さからくる一途な時期というものは、たとえそれが今の価値観から間違いであったとしたも、愚かであったとしても得難い時間です。 小野は自分の歴史を見つめなおして、捨てられない何かも胸に今現在との折り合いをつけていく道を模索していくようです。 どんな年になっても、先を考えることができるようになりたいものです。

Posted byブクログ

2018/01/26

戦意高揚に努めた画家が、戦後自らの道を刻むのに迷っている気がする。国策を信じきって活動した人ほど苦しんだのだろう。あっちへこっちへ考える時々に揺れ続けている。何とも言えない浮遊感。

Posted byブクログ

2018/01/06

カズオイシグロ素晴らしい。ユダヤ人ホロコーストの話を読んできてからの、この本。直接的には責任を問われる立場にないし、彼なりに必死になって生きてきたが、価値が転換して、はっきりとは書かれていないが一番罪の意識に悩んでいたのは本人で、戦後を生きていく一人の画家の話。とにかく、幅の広さ...

カズオイシグロ素晴らしい。ユダヤ人ホロコーストの話を読んできてからの、この本。直接的には責任を問われる立場にないし、彼なりに必死になって生きてきたが、価値が転換して、はっきりとは書かれていないが一番罪の意識に悩んでいたのは本人で、戦後を生きていく一人の画家の話。とにかく、幅の広さというのか、懐の広さがすごい。大好き。ずっと読んでタイ。

Posted byブクログ

2017/11/04
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戦時中は高名な画家であったという小野だが、戦後は地位を失い、今は孫と戯れる日々。自分の立場を(おそらく)強く意識しつつも、努めて抑制的であろうとしているのだろうなあと思って読んでいくと、どうも彼が本当に高名な画家だったのかすら怪しく思えてきて悲しくなった。社会に対して善い事をなした(なそうとする)自負というのはある程度の仕事をした経験のある人なら持っている人は多いと思うが、社会はどこか薄ぼんやりとしたつかめない存在で、結局はまわりの人との関係から、人生は進んでいくのかと思い、なんとも言えない気持ちになる。

Posted byブクログ

2017/06/27

2017年6月26日、再読。主人公に対し、共感は持てないが、年を取ったこともないのに、年寄りの思考が手に取るようにわかるのだろう。主人公の言葉の鼻につく部分は、他でもなく自分の中にある慢心そのもののようで目がそらせない。先の戦争の清算も終わらないうちに走り始めたに戦後日本の様子が...

2017年6月26日、再読。主人公に対し、共感は持てないが、年を取ったこともないのに、年寄りの思考が手に取るようにわかるのだろう。主人公の言葉の鼻につく部分は、他でもなく自分の中にある慢心そのもののようで目がそらせない。先の戦争の清算も終わらないうちに走り始めたに戦後日本の様子がよく伝わってくる。

Posted byブクログ

2016/06/05

過去と今を行ったり来たりしながらゆるゆると進んでいく物語。 戦争が終わって世間の価値観は180度と言って良いぐらいに変わり、戦争賛美の絵を描いていたという理由で周囲からの冷たい視線に晒される主人公。 自分の過去の仕事は間違っていたのだろうかと懸念しながらも、かつて「信念」を持って...

過去と今を行ったり来たりしながらゆるゆると進んでいく物語。 戦争が終わって世間の価値観は180度と言って良いぐらいに変わり、戦争賛美の絵を描いていたという理由で周囲からの冷たい視線に晒される主人公。 自分の過去の仕事は間違っていたのだろうかと懸念しながらも、かつて「信念」を持って行動していたことは誇りとして良いはずだと自分に言い聞かせる。いろいろと理由を見つけては自分の過去を正当化したいと思う気持ち… 私自身がもっと年齢を重ねてから読んだらもっと良く分かるのかもしれないと思いました。

Posted byブクログ

2016/02/25
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※このレビューにはネタバレを含みます

昭和初期の雰囲気でタルタルと進む(進まない)ようで、 油断していると、一挙加勢。おっとっと。イシグロの文章はテンポが一定じゃないのです☆ 一見温厚そうなオノが、恩師とぶつかる。長女とぶつかる。 自分がかくあることを常に自分に言い訳している、このキャラクターがいいですねえ。ちょこっと「充たされざる者」のピアニストを彷彿とさせます。 まどろこしい当たり障りのないやり取りの応酬。見事です~翻訳モノとは思えないくらい。押し寄せる満足感と勝利感に浸るとこなんか、なかなかヤラしい性格で、結構結構。

Posted byブクログ

2017/10/05
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

時代にのみ込まれた画家の話。ある時代に「正」であったことが、時代が転換して「悪」としてとらえられる。歴史の中では往々にして起こりうることだが、それに飲まれた人の心を、繊細に描き出す美しい作品。 2017.10.5追記 ノーベル文学賞!おめでとうございます!

Posted byブクログ