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浮世の画家 の商品レビュー

3.7

79件のお客様レビュー

  1. 5つ

    12

  2. 4つ

    23

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    25

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2024/07/23

年寄りの例に漏れず、最近の出来事は覚えていられないのに昔のことは克明に思いだします。しかし、その記憶は事実なのだろうか、自分の都合に合わせて改竄されていないのだろうか。人の記憶の不確かさに思いを馳せることになるイシグロ再読2冊目でした。

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2023/04/19

『日の名残り』と似たテーマ。 戦時下、良かれと思って自分の仕事に邁進し、一定の評価を得たあと、戦後になって、戦争協力者として批判される立場に立つ者が、自責の念と自己弁護の狭間で、超然とした外見のまま苦しむ。 作曲家古関裕而と似た人も出てきて、その人は作中、責任をとって自死する...

『日の名残り』と似たテーマ。 戦時下、良かれと思って自分の仕事に邁進し、一定の評価を得たあと、戦後になって、戦争協力者として批判される立場に立つ者が、自責の念と自己弁護の狭間で、超然とした外見のまま苦しむ。 作曲家古関裕而と似た人も出てきて、その人は作中、責任をとって自死する。 主人公小野を戦後批判する弟子達は、軍人嫌いと同じメンタリティだろうか。苦しい時に権勢のあった人は、体制がひっくり返った時には逆恨みの対象となるが、本当に戦うべき相手はその人ではないだろう。

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2023/03/22
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

主人公が本当に権威ある画家(だった)なのか、最後の方でわからなくなってしまった。ある一部の分野ではそうだったのかもしれないが、主人公が自分で思っているほどは世間に名を知られている訳ではなかったのかもしれない。 自分が正しいと信じてきたものが、後に間違った思想だとされたとき、私だったらいったい何をやっていたんだろうかって途方に暮れてしまうと思う。もし自分が戦争中に国民を扇動する側だったら、本に出てきた社長のように罪の意識で自殺していたかもしれない。その点、主人公は自殺せずに自分の過ちを認めて堂々としていてすごいなと思った。少し図々しいのではとすら思ってしまったけど、だからって死ぬべき人間だ!とは考えられないし……と、現代に生きる私ですら思うんだから、当時戦争から帰ってきた若者とかは折り合いをつけるのが難しかっただろうなと思った。 ただ、主人公が思ってるほど、娘たちは主人公が戦争に加担したとは考えていないということが終盤で書かれていて、じゃあ主人公が思っていた権威や功績ってなんだったんだ…とか、2番目の娘が結婚する時に節子が言ってきた気をつけることってなんだったんだとか、その時、要所要所での話の見え方が変わった。かといって、全部主人公の妄想か?と言えば違うし、その自己評価と他者評価のズレの塩梅が絶妙にリアルだった。。面白かった。

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2023/01/17

 以前同作家の小説を読んだときにも、私はかなり気になったのですが、今回もやはり最後まで気になりました。  翻訳文体と言うことです。  そしてそれは、単なる海外の小説の翻訳文体への違和感ということではなく、この筆者の作品独自の内容によるものでした。  つまり英文で書かれた、日本が舞...

 以前同作家の小説を読んだときにも、私はかなり気になったのですが、今回もやはり最後まで気になりました。  翻訳文体と言うことです。  そしてそれは、単なる海外の小説の翻訳文体への違和感ということではなく、この筆者の作品独自の内容によるものでした。  つまり英文で書かれた、日本が舞台の日本人の物語を日本語に翻訳することに因を発する、ということであります。  特に私は、登場人物たちの会話場面、それは議論というほどでなくてお互いが意見を交換し合うという場面においても、ちょっとバイアスの掛かった言い方をすれば、読んでいて気持ちが悪いほどの違和感を感じた(少なくともそんなシーンがあった)ということであります。(もちろん私の偏見でしょーが。)  そんなところを読んでいて、私はふっとあるエピソードを思い出したんですね。  漱石についての、わりと有名なエピソードです。  例の、漱石が、I love you. を「月がきれいですねくらいに訳しておけ」と言ったというやつです。  もちろん漱石はウィットで言ったのでしょうが、しかし、そこには彼の実感としてかなり近いものがあったのではないか、と。  それくらいに、日本語の会話は、まっとうな議論や真実の心情を表しがたい、本当に言いたいことが普通に言えないという、まー、ちょっと難儀な言語だなあ、と。  といったことを思いついたくらいに、私は、本書のさり気ない場面でやりとりされる大切な会話に違和感を覚えました。  しかし、にもかかわらず、読み終えてのトータルな感想としては、やっぱりすごいなあ、というものでした。  本書は、文庫本で300ページ程度の、さほど長い小説ではありません。  しかしこれだけ小説らしくタフに構造的に書き込んでいる物語には、やはり作者の持つ才能がいかに素晴らしいかを強引に納得させる力強さがあると感じました。  終盤に、作品全体を決定づけるようなどんでん返しが描かれます。  それによって、そこまで描かれていたものの意味が、すべて失われてしまうような、ことごとくが藪の中に入ってしまうような大きい展開ですが、それを単なる段取りだと思わせないのも、筆者のこのじりじりと積み上げてきた書き込みのゆえでしょう。  読み終えてみればそれは、統一した人格への徹底した不信、とでもまとめられそうですが、そんな迷宮のような重層的な読みができることこそが、小説の愉楽であるのだろうと私は思いました。

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2022/09/21

主人公の小野益次は、色街の女性たちを描く師匠と決別することで、浮世を描く画家ではなくなった。しかし、戦前・戦中・戦後における世間の変化に翻弄されることになった。その意味で、彼は浮世(はかない世)にいる画家である。タイトルはそういう意味ではないか。

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2022/03/20

この作品はイシグロさんの長編2作目に当たる。 自分の信念に従い作画し続けた画家の小野が戦後戦犯のように扱われるが、次女のお見合いが自分のせいで破談にならないよう八方手を尽くす、、と言うとなんかコメディのようですが。そこに至るまでに小野が小野であり続けた若かりし頃や成功して弟子を...

この作品はイシグロさんの長編2作目に当たる。 自分の信念に従い作画し続けた画家の小野が戦後戦犯のように扱われるが、次女のお見合いが自分のせいで破談にならないよう八方手を尽くす、、と言うとなんかコメディのようですが。そこに至るまでに小野が小野であり続けた若かりし頃や成功して弟子を持っていた壮年期、さらには隠退後までの自分についての独白の形の作品です。な、なんというか、最初は小野の誠実な感じで始まるのですが、途中は自尊心が表にたった鼻持ちならぬイケ好かない小野になり、次女の見合いのために奔走する少し悲しき親の小野に変身し、最後は好々爺の小野になるという感じ(私調べ。) 人間がどう生きるべきなのかアイデンティティを問い、かつ近しいヒトを愛する物語と最後には思えました。途中の小野がウザさが半端なかったのでwより最後にはそう思えた私がいました。 彼は立派なイギリス人なんだけど、当時30代で両親に捧げた作品でもあるので作家人生のスタートでは日本を強く強く意識されていたんでしょうね。 原本を読んでないから想像するしかないが、訳者の飛田さんが上品に仕立てたのだと思われる。解説などには日本ぽくないと書かれているが私には充分に日本らしい、というか、(私が古き戦後の日本を想像する)日本らしい光景が広がっていると思いました。 イシグロさんマイブーム中です。図書館にて。

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2021/12/13

革新的な作風で名を残した日本画家小野が、過去を回想する独白形式の小説。戦後大きく変化した価値観により筆を置いて余生を送る老画家が、自らの存在意義を問いつづける。イシグロの他の作品にはあまり見られない心情描写は、私にとっては新鮮に映った。ただ個人的には、そこまで深みを感じる作品では...

革新的な作風で名を残した日本画家小野が、過去を回想する独白形式の小説。戦後大きく変化した価値観により筆を置いて余生を送る老画家が、自らの存在意義を問いつづける。イシグロの他の作品にはあまり見られない心情描写は、私にとっては新鮮に映った。ただ個人的には、そこまで深みを感じる作品ではなかったかな。

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2021/11/02
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

浮世の画家 著者:カズオ・イシグロ 訳者:飛田茂雄 発行:2006年11月30日 ハヤカワepi文庫 1986年発表 日本:1988年2月(中央公論社)、1992年3月(中公文庫) 「浮世」は、「浮世離れ」という言葉があるように、現実の世の中、多くの人が感覚を共有する生き様、というような意味がある一方で、浮き浮きした享楽の世界というイメージもある言葉。広辞苑(7版)を見ると、①無常の世、生きることの苦しい世②この世の中、世間③享楽の世界④他の語に冠して、現代的・当世風・好色の意、などとある。 この小説では、登場してくる画家たちが描く絵を③だとしているが、小説全般に流れているものは①の要素が強いと思われる。 カズオ・イシグロの小説にしばしば出てくるテーマ、戦争が終わって価値観が変わり、かつての「正義」が「悪」とされるパターン。舞台は1948(昭和23)年~1950年の東京近郊と思われる某市。その3年間で、戦争前や戦時中のことを回想していく物語。 主人公は小野益次という名の知れ渡った画家、戦後に引退した身。息子は戦死、2人の娘は長女がすでに1児の母、次女は26歳で2回目の縁談話が進行中。妻はどうやら空襲で1945年に亡くしている模様。 小野は、師匠が花柳界など「浮世」を描く画家だったため、その世界で一番弟子となっていたが、あるときそれに批判的な愛国主義的画風に目覚める。投資をして育ててきた弟子に裏切られた師匠は、彼を追い出す。小野は名をあげ、弟子たちを育てるが、「シナ事変」時に戦意高揚に繋がる仕事をし、戦争に批判的な弟子たちとは意見があわない。ところが封建的な日本、そして本人のそういう感覚もあって、弟子たちは面と向かっては逆らえない。しかし、一方でリベラルな面、多様性を認める面も見せる。 彼は純粋な王政復古を目指す思想家(文士?)とともに新日本精神運動なる運動を展開し、内務省文化審議会のメンバー、そして非国民活動統制委員会の顧問にも任命される。彼は弟子の1人の黒田のことをそのルートで内務省に報告したが、彼がそこまで望んでいなかったにもかかわらず、黒田は警察につかまってしまう。戦後に黒田を訪ねる場面があるが、会ってもらえない。 戦後、彼は一時パージされたが、大きなおとがめはなし。彼自身、自らの過ちは認めた。だが、いくつか過ちはあったとしつつも、その時はそれでいいと確信していたのだ、愛国者として行動したまでだ、と根本的な部分は認めていない。次女の最初の縁談が突然破談したのも、過去の自分のことが問われたのだと気にし、2回目の縁談ではそうならないように根回しに奔走する。 娘たちは表面的には慰めて味方するが、内心ではそうは思っていない。戦意高揚の歌をつくっていた作曲家の自殺の報。そして、一緒に新日本精神運動をしていた松田の死(自殺かどうかは書かれていない)。しかし、彼はなぜ自分がいまだに汚名を背負い続けなければいけないのか理解できていない。

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2021/04/17

テーマ自体は、なるほどねと思った。 ただ、日本語の不自然さが凄く気になった。英語をそのまま日本語に直訳したような、固さというかなんというのか。しかし、日本で生まれながら英国で育ち、日本の戦後を題材としたストーリーを英語で書き、それが日本語に訳されているのだから、その生い立ちまで考...

テーマ自体は、なるほどねと思った。 ただ、日本語の不自然さが凄く気になった。英語をそのまま日本語に直訳したような、固さというかなんというのか。しかし、日本で生まれながら英国で育ち、日本の戦後を題材としたストーリーを英語で書き、それが日本語に訳されているのだから、その生い立ちまで考慮しての翻訳と考えれば納得がいく。

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2021/01/31

戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家の小野。多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にあったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった。弟子や義理の息子からはそしりを受け、末娘の縁談は進まない。小野は引退し、屋敷に篭りがちに。自分の画業のせいなのか…。老画家は過去を...

戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家の小野。多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にあったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった。弟子や義理の息子からはそしりを受け、末娘の縁談は進まない。小野は引退し、屋敷に篭りがちに。自分の画業のせいなのか…。老画家は過去を回想しながら、みずからが貫いてきた信念と新しい価値観のはざまに揺れる―ウィットブレッド賞に輝く著者の出世作。

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