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浮世の画家 ハヤカワepi文庫
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浮世の画家 ハヤカワepi文庫

カズオ・イシグロ(著者), 飛田茂雄(訳者)

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浮世の画家 ハヤカワepi文庫

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 早川書房/早川書房
発売年月日 2006/11/30
JAN 9784151200397

浮世の画家

¥814

商品レビュー

3.7

89件のお客様レビュー

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2026/02/24

カズオ・イシグロ『浮世の画家』は、戦時中に国家主義的な絵画を描いた画家・小野正之が、戦後の日本で娘の縁談をめぐりながら、自らの過去と向き合う物語である。 表向きは家族小説だが、背後に戦争責任、記憶の改ざん、自己正当化といったテーマが静かに流れ続ける。 しかし、読後に残るの...

カズオ・イシグロ『浮世の画家』は、戦時中に国家主義的な絵画を描いた画家・小野正之が、戦後の日本で娘の縁談をめぐりながら、自らの過去と向き合う物語である。 表向きは家族小説だが、背後に戦争責任、記憶の改ざん、自己正当化といったテーマが静かに流れ続ける。 しかし、読後に残るのは激しい告発はなく、言葉にされない後悔に似た余韻だ。この「静かな痛み」こそ、イシグロが小津安二郎から受け継いだ重要な遺産だと感じる。 小津安二郎からの継承「語りの方法」にある イシグロは少年期に小津映画を見て強い衝撃を受けたと語っている。 『浮世の画家』における小津の影響は、シーンの模倣ではなく、語りの姿勢や間合い、家庭劇の構造に現れる。 小津映画の主な特徴を挙げると、 (1) 家族の会話の中に、語られない本音が隠れている (2) 風景や沈黙が、人物の心理を語っている (3) 大事件を直接描かず、日常の断片から浮かび上がらせる 『浮世の画家』は、この三つを巧みに再構築している。 (a) 縁談をめぐる会食の「沈黙」 小野家の縁談の場面は、小津映画の「縁談劇」の系譜。 - 表向きは礼儀正しい会食 - 誰も核心(小野の戦時中の行動)を口にしない - しかし空気は重く、読者は“何かが起きている”と感じる これは『彼岸花』や『秋刀魚の味』で繰り返される、言わないことで語る縁談シーンと構造が同じだ。 イシグロは、会話の間やぎこちない笑顔、遠回しな言い回しを通じて、小野の過去が娘の未来を静かに蝕んでいることを示す。 (b) 飲み屋での旧友との会話 小野が旧友・松川と飲みに行く場面は、小津『秋刀魚の味』のサラリーマンの飲みを思わせる。 - 冗談を交わしながらも、どこかぎこちない - 過去の戦争協力については誰も直接触れない - しかし沈黙の重さが、かえって真実を語る 小津映画では、飲み屋は「本音を言わない場所」であり、イシグロもその構造を忠実に小説へ移植している。 (c) 家庭訪問の「空気」が語る 小野が弟子の家を訪ねる場面は、『東京物語』の老夫婦の訪問シーンのようだ。 - 家具の配置 - 部屋の静けさ - ぎこちない敬意 - どこか落ち着かない空気 これらの空間描写が、弟子の心の距離や、小野の過去の影響力の衰退を語る。 小津が「家の空気」で人物の感情を描いたように、イシグロも空間そのものを心理描写として使う。 (d) 断片的な回想と「信頼できない語り手」 小野の戦時中の回想は、断片的で曖昧だ。 これは小津の「語られない過去」の扱いに近い。 - 何が本当だったのか - 小野がどこまで自分を正当化しているのか - 読者は“間”を読み取る必要がある 小津映画が断定を避けるように、イシグロの語りもまた、断定を避け、余白を残す。 (e) 戦後の街を歩く小野 戦後の街を歩く場面は、小津の「ピロウショット」を想起する。 - 電車 - 工場 - 街路 - 再建されつつある都市の風景 これらの描写が、小野の内面の変化を象徴する。 小津が風景で時間の流れや心理の転換を示したように、イシグロも風景を語りの間として使う。 結末の余白は、小津的な「断定しない終わり方」 物語の終盤、小野は「過去を受け入れた」と語るが、読者はその言葉をそのまま信じることができない。 - 本当に悔いているのか - それとも自己正当化の延長なのか - 娘たちはどう感じているのか 小津『東京物語』のラストのように、静かな余韻だけが残り、解釈は読者に委ねられる。 『浮世の画家』は、戦争責任を扱う重いテーマを、あえて静かな家庭劇の中に沈めることで、読者に“間”を読み取らせる。 これはまさに、小津安二郎の映画が得意とした語り方だ。 - 家族の会話の沈黙 - 風景の挿入 - 断片的な過去 - 断定しない結末 - 日常の中に潜む深い影 イシグロは、小津の美学を小説という形式で継承したと言える。

Posted by ブクログ

2026/02/19

『わたしを離さないで』や『日の名残り』とも違う系統の小説。 戦前と戦後で画家としてやってきた主人公の見られ方が違ってしまったことで娘の縁談に影響が出たり、元弟子との確執とかが描かれている。 一回読んでストーリーが分かったから 終わりというタイプの小説ではなく 何度も読んで、噛...

『わたしを離さないで』や『日の名残り』とも違う系統の小説。 戦前と戦後で画家としてやってきた主人公の見られ方が違ってしまったことで娘の縁談に影響が出たり、元弟子との確執とかが描かれている。 一回読んでストーリーが分かったから 終わりというタイプの小説ではなく 何度も読んで、噛み締めるタイプの小説だと感じた。 一郎が可愛い。

Posted by ブクログ

2026/02/08

『浮世の画家』は、戦後の価値観の転換を受け止めきれない一人の画家の内面を、静かで不穏な語りによって描く作品である。主人公・小野は過去の信念に自負を抱きながらも、その信念が否定された現実と折り合えず、回想のなかで無意識に記憶を再構成し、自己正当化を重ねていく。 語りは一見穏やかで...

『浮世の画家』は、戦後の価値観の転換を受け止めきれない一人の画家の内面を、静かで不穏な語りによって描く作品である。主人公・小野は過去の信念に自負を抱きながらも、その信念が否定された現実と折り合えず、回想のなかで無意識に記憶を再構成し、自己正当化を重ねていく。 語りは一見穏やかで誠実に見えるが、イシグロはその信頼性を巧みに揺さぶり、個人の記憶がいかに脆く都合よく歪みうるかを浮かび上がらせる。 本作の力は、歴史的責任の断罪にではなく、確信と後悔の間を揺れ動く一人の人間の視線そのものの不確かさを、繊細な筆致で捉えた点にある。​​​​​​​​​​​​​​​​

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