楽園の犬 の商品レビュー
アメリカとの戦争間近の日本が占領していたサイパンに諜報員として派遣された元英語教師の主人公。 その主人公が、サイパンで起きた自死事件などの真相を解明していくホワイダニットのミステリー。 サイパンが実は要所だったことや、まさに死闘だったことも本作で知るくらい、歴史小説とし...
アメリカとの戦争間近の日本が占領していたサイパンに諜報員として派遣された元英語教師の主人公。 その主人公が、サイパンで起きた自死事件などの真相を解明していくホワイダニットのミステリー。 サイパンが実は要所だったことや、まさに死闘だったことも本作で知るくらい、歴史小説として読んでも面白い作品です。 そんな、本作品のテーマは「死」とは何かだと感じるほど、様々な死が描かれています。 そして、その死を通じて得た主人公の生き方、これが本当に胸に刺さりました。 私も、主人公の生き方、死に関する考え方、納得したなと思うくらいに。 また、アメリカとの開戦が迫った時が舞台となっており、諜報活動を通じて、主人公がアメリカと戦争をすべきかどうかを考えて自分なりの答えを導き出していくというのも面白かったです。 おそらく、私がこの時代に生まれていたら、日清戦争の勝利、日露戦争でのロシアとの戦いぶり、第一次世界大戦での活躍などの体験から、アメリカ相手にも戦争を仕掛けても勝てるだろうと楽観視していたでしょうし、なぜ早く開戦しない?とすら思っていたんだろうなと思います。 しかし、そんな楽観視した人が多数を占めていたであろう中で、アメリカの国力を分析し、勝ち目はほぼないと思いながらなんとか戦争になるのを防ごうとしていた人がいたとすれば? そういう人たちの願いや思いは届かなかった歴史を私は知っていて、そういう意味ではネタバレなのかもしれませんが、ただ、そんなことを思いながら日々微力ながらも頑張っていた人たちがいたかもしれない。 そんなこと、考えたこともなかったですが、当時のサイパンを通じて、そんことを想像させてくれる作品だなと改めて思いました。 楽園の犬。 それはもしかすると、日本をユートピアとして盲信した当時の開戦派の人々のことをいうのかもしれませんね。
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鬼★5 人間としての魂の叫びに痺れる… 開戦間近、占領下サイパン島でスパイになった教師 #楽園の犬 ■あらすじ 1940年、アメリカとの開戦間近の日本。英語教師として生業を得ていた主人公の麻田だったが、喘息のため休職中であった。家族を養うため日本占領下サイパン島での役人の仕事を...
鬼★5 人間としての魂の叫びに痺れる… 開戦間近、占領下サイパン島でスパイになった教師 #楽園の犬 ■あらすじ 1940年、アメリカとの開戦間近の日本。英語教師として生業を得ていた主人公の麻田だったが、喘息のため休職中であった。家族を養うため日本占領下サイパン島での役人の仕事を得るも、日本海軍の堂本少佐から防諜スパイの密命を受ける。 不穏な自殺を遂げる漁師、日本人と現地人カップルの心中、スパイ嫌疑がある現地人の殺害。麻田は様々な事件と対峙しながら、「楽園の犬」としてスパイ活動を続けていく… ■きっと読みたくなるレビュー これ、文学賞あるわ。映像化もされるに違いない。 占領戦時下における時代小説、スパイとしての苦悩、ひとりの人間としての闘いを描いた傑作です。 物語のプロットはもちろん、文章や会話のバランスも抜群。鳳凰木をはじめとするサイパンの情景描写も素敵すぎる。島で発生する各々の事件や、終盤の謎めいた展開など、ミステリーやサスペンス要素もしっかりある。読めば読むほど熱くなってしまい、そして身体じゅうが打ち震えてしまった作品でした。 〇魅力的な登場人物たち ひとりひとりの顔が目の前に浮かんでくる。主人公の麻田、堂本少佐、宇城中佐、武藤警部補、ローザ、フィリップ、シズオ。ひりつく駆け引き、威圧、苦悶苦闘、諦め、悲しみ、怒り…彼らの魂の叫びが、本から聞こえてきました。 〇人間の扱いを受けないスパイ スパイとして生きねばならぬ者のプレッシャーがヒリヒリと伝わってくる。ひとつ間違えば明日はない。狂乱時代に数奇な運命を背負った彼らの姿、とても見ていられない。 これまでどれだけ尽くして、成果を上げていたとしても、所詮は「犬」でしかない。少し状況や立場が変われば、守ってくるどころかむしろ敵や犯罪者に成り下がってしまうんです。強大な権力の恐ろしさ… こんなひどい話はあるのか、悔しくて腹立たしくて、泣いてしまいました。 〇占領下~戦時におけるサイパン 日本が統治していた占領地の現実。戦争が終わって80年以上経過しても、我々は知っておくべきでしょう。現地民の差別や統治、天皇の神格化がどんな悲劇をもたらすのか。どんな人間でも、ひとりひとりに大切な家族がいる。多大な影響を及ぼすことになることを心に刻むべきです。 〇最後の一頁 世の中には健康や経済的に困っている人、人間関係に悩んでいる人、生きるだけでも辛いという人がたくさんいるでしょう。ぜひこの物語を体験し、そして最後の一頁を読んで欲しいです。 ■ぜっさん推しポイント 時代の渦に巻き込まれ、まったく望んでいなかった役目を担った主人公。頭脳は明晰ではあるが特別な能力はなく、病弱で腕力もない。暴力や権力が嫌いで、ただ自分の家族を大切に思っている、どこにでもいる普通の父親。 「犬」でしかなかった彼は、どうなっていくのか…本作四章以降の彼の姿は、決して忘れることができません。
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2023年度、個人的に最も部屋に飾りたい表紙NO.1にランクインしていた本作、貴志祐介さんの帯の文言も相まって飛び付きました。 表紙の木は鳳凰木、日本人には南洋桜と呼ばれる燃えるような木ですが読み終えた後で見返すと一際感慨深くなります。 スパイもの×ミステリー×戦史が絶妙に絡み...
2023年度、個人的に最も部屋に飾りたい表紙NO.1にランクインしていた本作、貴志祐介さんの帯の文言も相まって飛び付きました。 表紙の木は鳳凰木、日本人には南洋桜と呼ばれる燃えるような木ですが読み終えた後で見返すと一際感慨深くなります。 スパイもの×ミステリー×戦史が絶妙に絡み合った最高の胸熱作品でした。(こう書くと一気にチープ感増しますが本当に感動しました) 英語教師であった主人公の麻田が、喘息の為に職を失い家族を養う為に海軍少佐の堂本の元でスパイ、犬となって開戦前のサイパンを奔走します。 この麻田は中島敦さんをモデルにされているとの事で、参考文献にも中島さん関連の書物が並んでおりました。 しかし今回も参考文献の数が凄い…。戦史ものを書くに当たっては必然なのかも知れないですが、本当に尊敬します。 日本がサイパンを占領下に置いていた頃の話なので「教育を施してやっている」との名目で島民の名前を取り上げて日本の名前を与えたり、蔑んで差別をしたり、同じ日本人として目を覆いたくなる場面も多く出てきますが、麻田が公平で実直な人物なので我々読者は救われます。 勿論、日本に感謝している島民も存在します。その極端な例であるシズオという人物が登場するのですが、日本人になりたくて仕方が無い彼に対して日本人は認めないどころか蔑みの目しか向けない。 あまりの悲しさに「ごめんな…」と思わず謝罪してしまう私。 スパイと言えば私は真っ先に007が思い浮かぶのですが、実際のスパイは非常に過酷で泥臭く、命を懸けて這いずり周るようにして諜報活動をするんですね(ボンドも派手に命懸けですけれど) 海軍と陸軍の腹の探り合いも熾烈を極めます。 ふと実際にあった件を思い出しました。日本の将校が酒盛りをしていたのに対し、米国の将校は部下の下に訪れて一人一人に激励の言葉をかけていたという話。 軍事力の圧倒的差もあるけれど、そりゃあ負けるよなあ…と悲しくなってしまいましたが、勿論それは一例であって素晴らしい日本の軍人さんも数多くいらっしゃった訳で、その中の1人が堂本少佐です。 彼は彼なりに祖国日本を守る為に命を懸けている姿…かっこいいよ!! そして始まる真珠湾攻撃、堂本少佐と麻田の命運はいかに…?! と、テレビの次回予告のような文言を書いてしまう程に最後の方は結末がどうなるのか全く分からず、ページを捲る手が止まりませんでした。 お得意の余談なのですが、カフェの隅っこにてボッチで読書に勤しんでいた私の隣に、可愛らしいカップルが座っておりました。 「どうする?帰っても暇やしなー」「でもこの辺も何もないんよなあ」とお困りのお2人に「本を読めば一瞬でサイパンに行けますぜ」と言い残して(心の中で)カフェを後にしたのでした。 本はどこでもドアですよね、読書は至福の時間だと再確認しました。
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犬が好きなので借りたら全く別の犬だった。犬をそういう意味では使うけどいつまで経っても慣れないな。思いの外最後まで面白かった。この作家さん他も読んでみたいな。
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#楽園の犬 #読了 #読書 病弱な麻田はサイパンの気候なら合うと地に降り立つ。 しかし、支庁係兼日本海軍のスパイという密命も帯びていた。 サイパンには各国のスパイが跋扈し、日本と他国との開戦に備え、情報収集合戦をしていた。 麻田の命は防諜をし、敵国のスパイを見つけ出すことである。...
#楽園の犬 #読了 #読書 病弱な麻田はサイパンの気候なら合うと地に降り立つ。 しかし、支庁係兼日本海軍のスパイという密命も帯びていた。 サイパンには各国のスパイが跋扈し、日本と他国との開戦に備え、情報収集合戦をしていた。 麻田の命は防諜をし、敵国のスパイを見つけ出すことである。 帯に著者最高傑作と書かれていますが、そんなことはないかなと。 岩井圭也さんは直木賞を獲る人だと思うので、こんなものじゃないです。
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生きることを諦めない。 一介の英語教師であった麻田は、家族を養うために単身、サイパンでの役所仕事兼防諜業務に従事する決意をする。 いつか家族と再会できることを希望にして、難しい業務をこなしていく。 だが、一度スパイとして働いたが最後、その運命からは逃れられない…。 日本がアメ...
生きることを諦めない。 一介の英語教師であった麻田は、家族を養うために単身、サイパンでの役所仕事兼防諜業務に従事する決意をする。 いつか家族と再会できることを希望にして、難しい業務をこなしていく。 だが、一度スパイとして働いたが最後、その運命からは逃れられない…。 日本がアメリカと開戦し、敗戦の色が濃くなっても、決して生きることを諦めなかった麻田。その信念が、最後の章でずしんと伝わってくる。 深夜まで一気読みするくらい、勢いと熱い展開があった。 生きるとは何か、信じるとは何かを考えさせられた。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
昭和15年、麻田健吾は南洋庁サイパン支庁庶務係の職を得てサイパンに来島した。表向きは閑職、裏の顔は海軍のスパイとして上官の指示に従い己の頭脳を駆使し仕事をこなしていく。 戦争という現在からすると非日常の中で紋切り型のヒーロー、ヒロインのような人物ではなく、ただ能力ある普通の人々が己の信条によってのみ生きている様が描かれていてそれがまた戦争というものの非情さを戦後を生きる私に訴えかけてきました。 読後、因果は巡る、誠実に生きないと、と襟を正される思いがしました。 8月に読むことができて良かったです。 #楽園の犬 #NetGalleyJP
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太平洋戦争勃発を目前にしたサイパンで、日本海軍の手先として働くことになった麻田健吾が主人公。この設定から、若い頃に夢中になって読んだ冒険小説の再来かと狂喜したが、残念ながらこちらの早とちりだった。本篇4章+終章で構成された連作長篇で、最近の岩井さんの作品に多いパターン化された内容...
太平洋戦争勃発を目前にしたサイパンで、日本海軍の手先として働くことになった麻田健吾が主人公。この設定から、若い頃に夢中になって読んだ冒険小説の再来かと狂喜したが、残念ながらこちらの早とちりだった。本篇4章+終章で構成された連作長篇で、最近の岩井さんの作品に多いパターン化された内容だ(雑誌連載だろうか?)。 うーんと首をひねりながら読み進めたが、それぞれのエピソードに込められた意味が判明し、本書がなにを主眼として書かれたかがわかってくると印象が大きく変わった。終章は涙なくして読めなかった。 NetGalleyにて読了。
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