楽園の犬 の商品レビュー
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タイトルだけだとどんなミステリか分からなかったけれど、いざ読んでみたらとんでもない熱さとテーマが秘められた素晴らしい本だった。戦時中は特に敵前逃亡、ましてや生き残ることなど言語道断とされていたのに、主人公はただひたすら生きることを貫こうとする。島民と日本人、海軍、陸軍、アメリカ軍、様々な組織の関係を絡めた凄いミステリだった。ラストの手紙もぐっとくる内容だった。本当に読んで良かった。他の作品も読んでみたい。
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第13回うつのみや大賞 死の覚悟をもって南洋諸島で戦時下を生きた人達が描かれる。 今ならわかることだけど、その覚悟は自死として発揮されるべきではない。 どうして捕虜になって生きながらえることが悪徳なのか。 命さえあれば未来がつながるし、どんな形でも愛する人には生きていて欲しい...
第13回うつのみや大賞 死の覚悟をもって南洋諸島で戦時下を生きた人達が描かれる。 今ならわかることだけど、その覚悟は自死として発揮されるべきではない。 どうして捕虜になって生きながらえることが悪徳なのか。 命さえあれば未来がつながるし、どんな形でも愛する人には生きていて欲しいのが人として当たり前だと思う。 当たり前の感覚が通じない時代に、軍人ではなくスパイとして人の死を見てきた麻田が辿り着く「死は死でしかない」という悲痛な叫びが胸を抉る。 途中、麻田がスパイとして事件を解決する短編集のようで短調に思えたけど、後半はスピード感がありローザや堂本少佐の意思に迫り、麻田の行く末に手に汗を握る展開。 スパイという危うい立場や日本統治下のサイパンの様子を知れたのもおもしろかった。
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そうだったのか。と、参考文献を読んで納得した。なぜこういう設定の小説が生まれたのか。南洋通信だったのか。 虎になる男のことは、コメント欄では、あまり話題になっていないのかな。
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戦時下のサイパンで海軍の諜報活動をせざるを得なくなった麻田健吾の話。ある意味、密室とも言えるサイパン島で海軍少佐から無理強いされる諜報活動における推理ドラマと、戦争に翻弄される民間人の苦悩の両方を見事に描いている。
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死について、考え方は人それぞれあるが、時代の流れのなかでの死生観をどう捉えるか。 自決ということが、ある意味美しく語られた時代に、生きていくこと、生き続けることはどういうことだったのか。 ぼんやりと生きている自分には、南洋桜の鮮烈な赤は、美しいと言うより恐ろしい。
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舞台は太平洋戦争開戦前の1940年のサイパン。タイトルの「楽園の犬」の犬とはここではスパイのことを意味します。 スパイと聞くとドラマや映画ではなんとなくかっこいいいイメージもありますが、実際には孤独で常に危険と隣り合わせの命を賭けた任務のように思います。スパイであることにいい...
舞台は太平洋戦争開戦前の1940年のサイパン。タイトルの「楽園の犬」の犬とはここではスパイのことを意味します。 スパイと聞くとドラマや映画ではなんとなくかっこいいいイメージもありますが、実際には孤独で常に危険と隣り合わせの命を賭けた任務のように思います。スパイであることにいいことは一つもないように思えてしまいますが、抜けたくても抜けられなくなってしまうのでしょうね。 日本ではスパイ活動を取り締まる法律がなく、世界からは「スパイ天国」と言われているようです。大丈夫なのかな? 第二次世界大戦のさなかに勃発した太平洋戦争では、アメリカには石油等の資源量、経済力や軍事力でも到底敵わないことをわかっていた学者や軍人も多数いたものの止めることはできず結局戦争に突き進んでいきました。 人間同士で殺し合う戦争を現代でも無くせないということは、人類はまだバカのまんまですね。戦争のない平和な世の中で穏やかに暮らしたいものです。
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気がつけば岩井圭也作品3冊目。 舞台は太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン。 喘息持ちの元教師の男は、日本に残した最愛の妻と一人息子を養うため、日本海軍のスパイとなることを選んだ。 ん~。 外国の包囲網でどんよりと追い詰められ、神州日本が負ける訳はないという無知蒙昧と傲岸不遜によ...
気がつけば岩井圭也作品3冊目。 舞台は太平洋戦争勃発直前の南洋サイパン。 喘息持ちの元教師の男は、日本に残した最愛の妻と一人息子を養うため、日本海軍のスパイとなることを選んだ。 ん~。 外国の包囲網でどんよりと追い詰められ、神州日本が負ける訳はないという無知蒙昧と傲岸不遜により、いっそ開戦を望むという当時の空気感は伝わった。 嫌だな~。 嫌な話だな~。 おもしろくなくはないが、嫌な話だ。 実際、三分の二まで読んだ感想はつまらない、だった。 しかし、そこまでは前フリのようなもの。 そこから物語が激しく動き始める。 著者は……、きっと嫌だったんだろうな。 サイパンで行われた通称バンザイアタックや、捕虜になることを拒否した多くの自決。 凄く嫌だったんだろうと思う。 それを止めたいと願った末に作られた人物ではなかったろうか? それでも……。 歴史を変えることなどできない。 それでも……。 少なくとも一人は、おそらくは彼の説得でもっと多くの人が思いとどまったのだと思いたい。 たとえそれがフィクションの中であっても。 蔓延する猛毒のような全体主義から逃れ、自分の頭と信念によって行動し、名誉や美学による”死”を拒絶し、足掻き続けた彼に称賛を送りたい。 願わくば、違う結末が読みたかったが、本当にどんな姿でも違う形のラストを願ったが、やむを得ないだろう。 「永遠についての証明」>本作>「文身」ってとこかな。 まあ、それはそれとして。 岩井圭也さん、書きすぎじゃね問題(笑) 書き始めが2016年頃か。 そっから8年で単行本だけで14冊。 単行本化されてない掲載作を合わせると倍以上かな。 いや~、凄い。 書きたくて書いてるんならありがたいがね、出版社の意向でガンガン書かされてるんじゃないだろうな。 「売れてる旬の内になんでもいいから書かせろ~!!」 みたいな。 依頼されたら書くしかないんだろうけど、事情はまったく知らんけど、この作家さんに限らず、もっとじっくり腰を据えて書いてもらいたいな~。なんて思ったり思わなかったり。 出版社は短期で作家を食いつぶさないで、長い目で見てあげて欲しい。 今作もね、もっともっと練れる余地があったような気がしてね。 余計なお世話だけどさ。
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ずっと読んでみたかった本。 図書で予約して半年程待ち、やっと回ってきた。 概略☆いま最も熱い著者の最高傑作! 世の中が戦争に突き進もうとするとき、人はどこまで自分でいられるだろうか。 感想☆なんとも戦争と聞くと、内容も重いのかと。犬はどこで出てくるのか。 太平洋戦争前。スパイ...
ずっと読んでみたかった本。 図書で予約して半年程待ち、やっと回ってきた。 概略☆いま最も熱い著者の最高傑作! 世の中が戦争に突き進もうとするとき、人はどこまで自分でいられるだろうか。 感想☆なんとも戦争と聞くと、内容も重いのかと。犬はどこで出てくるのか。 太平洋戦争前。スパイ。職業元女学校英語教員。 海軍少佐のもとで、スパイ(犬)の役目として海洋庁庶務係としてサイパン諸島に送られる。 M:Iの映画のような。 何度となく、任務を遂行すること主人公。 人の命に関わる難事を解決する。 優しい心ある先生が、ここまでスパイ行為をする理由も家族のため、病気で療養する目的ではあった。 外国から来るスパイ摘発の仕事も、そう長くは続かなかった。 自分の雇い主もスパイ扱いされ、主人公も同様な罪を被せられ、逃亡劇もありましたが、最後は、本当に切なかった。家族との再会を果たせられず、ただただ、戦争が憎たらしい思いが残った。 本の表紙の大きな桜?の木も文面に出てきて、謎解きに大きな役割として登場。 最初から最後まで、気の置けないスリル感は大変面白かったです。
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人物造形や内容が誠実だと感じました。 デキる男なのですが、家族想いで喘息持ちな所等親近感のある主人公。スパイとして動くほど、反戦派になっていく所がリアリティを感じる。 戦時化、サイパンの市民の生活なんて、想像もできなかったけれど、島民と日本人の関係等の描写も現実感がある。 終盤の自死を美とせず、何がなんでも生き抜くというテーマが貫かれていてよかった。 ローザさん好き。表紙の鳳凰木の赤がすごい訴えかけてくる。表紙も含めて良い。 そんなに話題作というわけではなかったように思うのですが、もっと読まれていいのでは!? ⭐︎4.5
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「君は米英と開戦すべきだと思うか?」 横浜で英語教師をしていた麻田健吾は、持病の喘息で休職を余儀なくされていたが、友人の伝手で南洋群島のサイパンに赴任することに。温暖な気候の方が喘息症状は緩和するという話を信じて赴任を決意する麻田。そこでの任務は表向きは南洋庁の職員だが、実際は...
「君は米英と開戦すべきだと思うか?」 横浜で英語教師をしていた麻田健吾は、持病の喘息で休職を余儀なくされていたが、友人の伝手で南洋群島のサイパンに赴任することに。温暖な気候の方が喘息症状は緩和するという話を信じて赴任を決意する麻田。そこでの任務は表向きは南洋庁の職員だが、実際は海軍在勤武官補•堂本頼三の“犬”として、情報を集めると同時に、島に潜むスパイを排除する防諜(スパイ)活動だった… 太平洋戦争の開戦前夜、南洋の楽園•サイパンを舞台に繰り広げられるスパイ小説×歴史ミステリ。グアム•サイパンと言えば(私は一度も行ったことないけど)、南の島のリゾート地のイメージが強かったが、その裏にはこんな歴史があったとは… フィクションだとわかってはいるものの、南洋進軍に沸く当時の世相、ナショナリズム、陸海軍の距離感など実にリアリティを感じる。ところどころに挿入された作者視点の史実描写が、それを後押ししているのかも。 本書で繰り広げられる諜報と防諜のせめぎ合いは、謎解き要素もあるし、ひりつくような駆け引きもあって手に汗に握る。特に終盤の逃走劇は祈るようにして読み進めた。麻田の上司である堂本の、掴みどころのないミステリアスな雰囲気も魅力的だ。 表紙を飾るのは南洋桜とも呼ばれる鳳凰木。サイパンでは至る所で見られる木だというが、その燃えるような赤は神々しい。日本人として、言葉に表せない色んな想いが込み上がってきた。国力、死生観、家族への想い、読後じんわり考えさせられた。もし自分がこの時代に生きていたらどう行動していただろうか?当時国の舵取りをしていた上層部に、堂本少佐のような“先見の明”があったなら…因果ずら
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