琥珀の夏 の商品レビュー
p.614 解説 わたしは、子どもには(愛)と(平等)の両方が必要だったのだな、と読後にしみじみ考えた。家庭などのプライベート空間には(愛)があり、学校などの学びの空間には(平等)がある、それが理想だといったら、理想を語りすぎだろうか?かつての先生は「利己的になってでも、その子...
p.614 解説 わたしは、子どもには(愛)と(平等)の両方が必要だったのだな、と読後にしみじみ考えた。家庭などのプライベート空間には(愛)があり、学校などの学びの空間には(平等)がある、それが理想だといったら、理想を語りすぎだろうか?かつての先生は「利己的になってでも、その子のことだけを考える親の存在が、どんな子にも必要です」と分析するが、ミライの学校にはそういう大人はいない。子どもはただ苦しいほどに(平等)だった。しかもその平等))は平時にしか存在してくれない。非常時になれば、大人は理想を捨てて保身に走り、生える子どもの口をふさぐ、そんな環境だったのだ…。 残酷な現実ではあるけれど、学校であれ、家庭であれ、理想的とはいえない環境で生きのびるしかなかった子どもは、いびつな足場に合う独自の魂の形を作って成長し、その形に固まり、自分だけのバランスでかろうじて立っているような大人になるのではないかと思う。そうやって生き残り、大人になってから、「その足場、間違ってますよー」と誰かの手で正しいものに急に入れ替えられたりしたら、逆にバランスが取れなくなって倒れてしまうかもしれない。かつての先生によるあまりにまっすぐな科弾の言葉から、そんな危うさをわたしは感じとった。 では、いびつな足場に立って、自分なりの独自の魂のバランスで生きるかつての子どもを、誰が、どう救えるのだろうか。 大人になり、自分もまた人の親となったノリコは、もしかつての子どもの誰かとまた会えたら、そのとき何ができるのか。作者がそのような難しいテーマの物語に託した思いの、大人としての確かさ、子どものころのままの軽やかさの両方が、物語の終わりに音楽のように豊かに流れ、胸を打つ。
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一貫して暗い内容だけど、嫌にはならない。 人は何を信じて生きていくかで大きく変わる。 宗教じみた学園も信じる人にとっては道標のような存在なんだろう。 だけど、思想や考え方を押し付ける事は罪のような気がする。 良い子であれと…いったい誰のための良い子なのか? それによって大人から...
一貫して暗い内容だけど、嫌にはならない。 人は何を信じて生きていくかで大きく変わる。 宗教じみた学園も信じる人にとっては道標のような存在なんだろう。 だけど、思想や考え方を押し付ける事は罪のような気がする。 良い子であれと…いったい誰のための良い子なのか? それによって大人から子供がミライの学校に翻弄されて生きていくことに悲しさや、憤り、底気味悪さを感じる。 なぜなら、誰も間違っていないから。 裁判後の法子と美夏の電話の内容で全てが救われた、そんな一冊だった。
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続きが気になりすぎて、睡眠時間を削ってしまった。 なんかもうザワザワしちゃうんだよな。 手に汗握る展開とかではないんだけど、心理描写がとても丁寧で、その年頃の子どもたちのあるあるがめちゃくちゃリアルに描かれていて胸が痛い。 大人になったらなんてことないことも、子どもの世界では一...
続きが気になりすぎて、睡眠時間を削ってしまった。 なんかもうザワザワしちゃうんだよな。 手に汗握る展開とかではないんだけど、心理描写がとても丁寧で、その年頃の子どもたちのあるあるがめちゃくちゃリアルに描かれていて胸が痛い。 大人になったらなんてことないことも、子どもの世界では一大事で夏の間だけでも学校ではない場所で親と離れて暮らすってすごく冒険だよなー。 でもそこには日常的に親と離れて暮らしている子供たちもいて… 崇高な理想のようで結局ら大人のエゴで破綻してしまう世界に子どもを巻き込んでいてやるせなかった。 でも、ミカがこれからの人生まだ取り戻せたらいいなと思ったし、取り戻すには遅くないと感じた。 幸せになってほしい。
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一見怪しくて胡散臭そうな集まりも、入ってみたら意外と楽しくて普通の人たちじゃん、 と思うこともあるけれど 何も知らない外野から「なんとなく関わりたくない」と思われている時点でダメなんだなと思った 渦中にいると忘れてしまうが…
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宗教団体(のようなもの)を舞台に据えた設定自体はさほど目新しくはないけど、主人公の少女時代から現在への話の繋げ方とか、ミカちゃんはどうなったのか?という謎の明かし方など、ストーリーテリングは相変わらず達者だ。団体の大人たちがとった些細な行動で読者に違和感を覚えさせ、「善意」と「正...
宗教団体(のようなもの)を舞台に据えた設定自体はさほど目新しくはないけど、主人公の少女時代から現在への話の繋げ方とか、ミカちゃんはどうなったのか?という謎の明かし方など、ストーリーテリングは相変わらず達者だ。団体の大人たちがとった些細な行動で読者に違和感を覚えさせ、「善意」と「正義」は必ずしも両立しないという、本作の隠れたテーマを意識させる手法もうまくいっていると思う。 一方でリアリティの面ではいまひとつ納得できなかった部分もあり、事件の真相がこうなのであれば直後の団体の大人たちの対応はいくら何でも不自然だし、世間の受け止め方についてもいささか過剰すぎるのではなかろうか。 まぁ何だかんだ言いつつも、読んでいけばそれら違和感を払拭してしまうだけの力は確かにあるし、ラストシーンも含めて実に辻村さんらしい作品だなあと思った。
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辻村深月はかがみの孤城に続いて、読むのは2作目。550ページ超えの長編だが、展開が気になってしまい、読むのがやめられない作品でした。 カルト団体もしくは宗教的団体の子どもたちと、その後の話が描かれています。宗教二世などが世間で話題になっていたので、そのような状況にあわせて作った小...
辻村深月はかがみの孤城に続いて、読むのは2作目。550ページ超えの長編だが、展開が気になってしまい、読むのがやめられない作品でした。 カルト団体もしくは宗教的団体の子どもたちと、その後の話が描かれています。宗教二世などが世間で話題になっていたので、そのような状況にあわせて作った小説なのかなと思ったら、それよりも前に出版されていた作品でした。 このような話だと、こういうカルト団体を最終的には悪として描いていくのかなと思ってしまうのですが、単純にそんなことはなく、良い面もあり悪い面もあり、その狭間で、いろいろと振り回されて生きてきた、その複雑な心理描写が非常にうまく表現されていると思いました。 カルト的であり、かつミステリー的である小説で、とても面白かったです。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
面白かった!記憶は美化されるし、美化したい気持ちに不思議としたい思いはすごく共感した。その方が後悔や未練とかも残らなくていいから。 解説がすごい綺麗だし、作家の想像力は凄いと感じた。
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なかなか終わらないなーと思ったら500P越えの長編だった 辻村さんの作品はしっかりと人物像を教えてくれるところが好きです
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ずっと「問答」をしているようだった。 子どもは親と一緒にいるほうがいいのか? それはどんな親でもそうなのか? 親じゃなくても、愛情のある大人と一緒ならいいのか? 親が子どもと離れたいと思うのは悪いことなのか? 子どもと離れた親は子どもを愛していないのか? いい親と悪い親、いい宗教...
ずっと「問答」をしているようだった。 子どもは親と一緒にいるほうがいいのか? それはどんな親でもそうなのか? 親じゃなくても、愛情のある大人と一緒ならいいのか? 親が子どもと離れたいと思うのは悪いことなのか? 子どもと離れた親は子どもを愛していないのか? いい親と悪い親、いい宗教と悪い宗教、いい教育と悪い教育、それは何?境目はどこ? 考え続け、答えをもっても、本当にそうですか?この場合はどうですか?と、ずっと問われ続ける。でも嫌じゃない。楽しくて、面白くて、ハマっていく。 幼少期の紀子の考えることのほとんどに身に覚えがある。一人になりたくない、あのかわいい子たちとは仲良くなれそうもない、でも友達として選ばれたい、選ばれたことを自慢したい。文を追えば追うほど紀子は自分だという気持ちになってくる。それゆえに、紀子が、ミライの学校に魅せられていく気持ちがよく分かる。紀子が考えること紀子に起こること全てが自分ごとのように感じられる。共感ともまた違うような、本当に何度も気持ちを揺さぶられ続ける。 ああ、本当になんて楽しい時間なんだろう。 読書は最高の娯楽! ページ数はあるけれど、読みやすいし、大人はもちろん、中学生、高校生にもおすすめ。また読みたい!
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