街とその不確かな壁 の商品レビュー
面白い小説というのは、展開が早く知りたくて、一気に読んでしまうものだ。 でも、村上春樹の小説は違う。 その物語世界に浸り、主人公の心の迷いや葛藤にいつまでも付き合っていたくなる。 この物語がずっと終わってほしくないと思いながら、ゆっくりと読み進めていく。 物語はまるで深い森の中に...
面白い小説というのは、展開が早く知りたくて、一気に読んでしまうものだ。 でも、村上春樹の小説は違う。 その物語世界に浸り、主人公の心の迷いや葛藤にいつまでも付き合っていたくなる。 この物語がずっと終わってほしくないと思いながら、ゆっくりと読み進めていく。 物語はまるで深い森の中に迷い込んだかのように一向に出口は見えてこない。 木立の中をうっすらと光が差し込む時もあれば、足元がおぼつかない闇の中に入り込む時もある。それでも手探りで一歩ずつ歩を進めていく。 登場人物の辿るそんな道のりを、静かにそっと後を追って着いて行くような、そんな気持ちで読み進めていきました。 どの登場人物も魅力的で、その姿や声が目に浮かぶよう。 この1冊は本という枠を超えて、私の大切な宝物になる。子易さんの言うところの『聖書』(バイブル)のように。 〜示唆に富んだ読み物であり、そこから学んだり感じたりすることが多々ある〜 74歳になっても、こんな物語を紡ぎ出すことのできる村上春樹さんは、本当に素敵です。
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義理の母が村上春樹が好きで、ときどき一緒に本の話をする。ただ、根っからのハルキストというわけではなく、『羊をめぐる〜』や『世界の終わりと〜』あたりが好きだという。じつは僕も同じで、最初に読んだのが『ねじまき鳥〜』だったから、それを超える作品がまだない。『海辺のカフカ』や『1Q84...
義理の母が村上春樹が好きで、ときどき一緒に本の話をする。ただ、根っからのハルキストというわけではなく、『羊をめぐる〜』や『世界の終わりと〜』あたりが好きだという。じつは僕も同じで、最初に読んだのが『ねじまき鳥〜』だったから、それを超える作品がまだない。『海辺のカフカ』や『1Q84』は、正直言うとちょっとガッカリした。でも、『騎士団長〜』はなかなかよかったし、本作も昔ながらの村上作品が好きな読書にはぴったりじゃないだろうか。「今度のはどう?」と義母に聞かれたので、「期待していいですよ」と答えておいた。 ──────────────────── この小説を「意味不明」「伏線が回収されていない」と思う人へ。 ミステリだったら犯人がわからないまま終わったらブーイングだけど、これは文学(という言い方は気に食わないかもしれないが)なので、「この人はこの後どうなったのかな」「あれはどういうことだったんだろう」というふうに、読者の空想の中で物語が閉じてゆくパターンもありだと思います。世の中にはそういう小説も結構あります。
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◆そこで自分が目にしたものを、自分自身になんとか説明しようと、私は長い年月をかけて言葉を探し続けた。あらゆる本をひもとき、あらゆる賢者に教えを請うた。しかし求める言葉を見つけることはできなかった。 ◆意識とは、脳の物理的な状態を、脳自体が自覚していることである。 ◆この世界に...
◆そこで自分が目にしたものを、自分自身になんとか説明しようと、私は長い年月をかけて言葉を探し続けた。あらゆる本をひもとき、あらゆる賢者に教えを請うた。しかし求める言葉を見つけることはできなかった。 ◆意識とは、脳の物理的な状態を、脳自体が自覚していることである。 ◆この世界にはまた、簡単に説明してはならないこともあるのです。 ◆この世界は日々便利に、そして非ロマンティックな場所になっていく。 ◆あなたは自分の見る夢を自分で選ぶことができますか? 誰か他の人のために、その人が見る夢を選んであげることができますか? ◆彼は間違いなく永遠に消えてしまったのだと私は悟った。この世界から最終的に去っていったのだ。それは何より切なく悲しいことだった。おそらく、どんなほかの生きている人間が死んでしまったときよりも。 ◆ねえ、わかった? わたしたちは二人とも、たまの誰かの影に過ぎないのよ。 ◆私は何かが始まることを望んではいなかった。私が必要とするのは、何も始まらないことだ。このままの状態が終わりなく永遠に続くことだ。 ◆逆説的な言い方になりますが、時間が存在しないぶん、時間は無限にあるのです。
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この小説が世に出た顛末はあとがきにあるし、一般にも知られたことと思う。「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」との共通性への言及は幾つか目にした。 だから、第2章は冒険譚が始まるのだと思っていた。それ以外にも予想外の展開はチョコチョコあった。作家の頭って不思議だな。 最後...
この小説が世に出た顛末はあとがきにあるし、一般にも知られたことと思う。「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」との共通性への言及は幾つか目にした。 だから、第2章は冒険譚が始まるのだと思っていた。それ以外にも予想外の展開はチョコチョコあった。作家の頭って不思議だな。 最後はこうなるだろうな、こういう物語だろうな、という予想があっさりとかわされてしまったことが驚き。 不満ではなく、ゆっくり物語を読み進めていきながら、これが村上春樹だよ、と感じる至福の時間だった。話の筋に関係のない処も読み飛ばせない文章が続いていた。 何故、僕が予想したような物語じゃなかったんだろう。他にもチョットした疑問が残る。そうしたことも含めて、暫く物語の世界に浸っている。 追記。 主人公と影の対話のシーン。佐々木マキさんのイラストが頭に浮かんだ。 8月12日追記 誰も来ない静かな図書館で心を通わせる女の子と二人。村上さんが心の奥で求めている場所なんだろうと思う。村上さんは自分のために物語を紡いできた人だと思っている。
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久々の長編。 第一部は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の「世界の終わり」の部分をちょっと変えたようなお話。 その後、第二部、第三部で、話がディープに、不思議に展開していく。 面白かったけど、なぜかなかなか読み進めず。 珍しくあとがきがついてる。「ノルウェイの森」以来かもしれない。 「街から出るか、出ないか」は作者にとって、とても大きな問題のようで、例えば形を変えて「海辺のカフカ」の後半とかにも出てくる。ただ、カフカではあまりにあっさりと森(街)の中から出てきちゃって、それはそれで「これでよいのか?」という感じだったので、今回じっくりと読めてよかった。 ただ、長いし、テンポが良いわけでもないので、もう一度読むかというとわからない。しばらく読まないと思う。 まあ「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の「世界の終わり」の部分だけ読んでるようなものだから、しょうがないのだけど、場面場面やストーリーでグイグイと読ませる感じではないからだと思う。
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「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」は、自分の中であらゆる小説のトップ3に入る作品なのですが、その作品を読んでから25年の時を経て、45歳になる年にこの本を読めたことに勝手に運命を感じました。 作品を読んでいる間、自分自身が夢読みになったような錯覚を覚えるような不思議な本。 最初から最後まで惹きつけられっぱなしで、私の好きな村上春樹ワールドが広がっていました。
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ストーリーの理解は読む人によって多種多様にあると思う。壁があるようでない、ないようである曖昧な世界だからこそ割り切れない物語になっているのか。
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発売から約一ヶ月。 毎日毎日慈しむようにページをめくる日々。 6年ぶりの長編。じっくりと味わわせていただきました。
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今までの村上春樹さんの作品の中でもかなり、かなり好き……! 自分にとってなにより大切だったもの、存在、世界、がなくなったあとの人生の話。 最初は第一部(つまり「自分の世界がなくなってしまってから、現実を捨てるまで」)だけで、この小説は完結するはずだった……と、あとがきにあったけれど、でも実際は、著者の筆はまだ続いた。 そして、感受性の大部分が剥ぎ取られてしまった後も否応なく続く人生を、引き受けていく話……この作品で最も長い部分をしめる、第二部が始まるんだよね。 現実では、自分の主観の世界に閉じこもってしまうなんてできないから、たとえ自分の心のいちばん大切な部分は二度と生き返らないとしても、それでも残った心で嬉しさや驚きを感じていくしかないよね。 でも最後はちゃんと影と本体がひとつになれたんだから、彼の心にももう少し救いが訪れるかもしれない。 こんなに分かりやすく希望のあるラストは彼の作品にも珍しいような気がした。
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時間をかけてゆっくりと読みました。でも、第二部の終わりから第三部までは一気でした。最後のあとがきで村上春樹さんが書いている文章がこの物語の全てを語っているような気がします。彼がノーベル賞を取るか取らないかは村上春樹の作品に全く影響はありませんが、これまでの作品以上にこの作品が世界...
時間をかけてゆっくりと読みました。でも、第二部の終わりから第三部までは一気でした。最後のあとがきで村上春樹さんが書いている文章がこの物語の全てを語っているような気がします。彼がノーベル賞を取るか取らないかは村上春樹の作品に全く影響はありませんが、これまでの作品以上にこの作品が世界の全ての人に届くことを願っています。第二部に登場した、小易さん、添田さん、コーヒーショップの彼女、特にコーヒーショップの彼女の振る舞いが最高に素敵でした。
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