しろがねの葉 の商品レビュー
「銀がなくなっても、光るなにかを人は探すと思います。それで毒を蓄えても、輝きがなくては人は生きていけない。無為なことなどないんです」 「足掻きましょう、無為に思えても。どこにも逃げられはしないんです」 すばらしい本だった。人の命を奪う暗い暗い間歩、それを身の内に宿す女の、宿命の...
「銀がなくなっても、光るなにかを人は探すと思います。それで毒を蓄えても、輝きがなくては人は生きていけない。無為なことなどないんです」 「足掻きましょう、無為に思えても。どこにも逃げられはしないんです」 すばらしい本だった。人の命を奪う暗い暗い間歩、それを身の内に宿す女の、宿命の日々。育ての親であり誰より愛した男、幼少より切磋琢磨した激情の中で愛した夫、弟のように慈しむように愛した彼。全ての男がどこまでも魅力的。 舞台となっている石見銀山や吹屋、日本海の海の景色がとても身近で、まぶたのうらに豊かな情景が浮かぶ稀有な読書体験。
Posted by
戦国時代末期〜江戸にかけて、石見銀山で生きた女性・ウメの人生を描く長編。 銀が採れる豊かな地が、時代の流れと共に人が集まり掘り尽くされ、人の欲望によって廃れていく様を浮かび上がらせています。 山の中の植物や薬草などの自然の描写が緻密で魅力に感じましたが、全体的に暴力的なシーンが...
戦国時代末期〜江戸にかけて、石見銀山で生きた女性・ウメの人生を描く長編。 銀が採れる豊かな地が、時代の流れと共に人が集まり掘り尽くされ、人の欲望によって廃れていく様を浮かび上がらせています。 山の中の植物や薬草などの自然の描写が緻密で魅力に感じましたが、全体的に暴力的なシーンが多く(ウメの野性的な性格のせい?)、ウメが成長してからはエログロ場面が多く読むのが辛くなっていきました。 生き別れた実の親のことも割と早めに忘れ去ったようなのも、そんなものか…と思いました。 あと、隼人だけ名前が現代的でかっこいいです。
Posted by
ウメの強さが美しい。 自分の意志を貫くため努力はいとわない。 それでも環境や時代によりどうにもならないこともある。それでもいろいろな経験を積み重ねていく。銀の採取の仕方も変わり自分を見つめ直すところ。銀堀たちがどんどん弱っていくのをどうにかして止めたいが止められないところ。なんと...
ウメの強さが美しい。 自分の意志を貫くため努力はいとわない。 それでも環境や時代によりどうにもならないこともある。それでもいろいろな経験を積み重ねていく。銀の採取の仕方も変わり自分を見つめ直すところ。銀堀たちがどんどん弱っていくのをどうにかして止めたいが止められないところ。なんともできない気持ちを抱えながらも子供を育て毎日を生きていくところが印象に強く残った。
Posted by
常人には見付けるのは困難な、銀山を掘り起こす間歩に迷い込んだ少女ウメ。 暗闇を恐れないウメは天才山師の喜兵衛に見込まれ拾われる。 ウメの壮絶な一生を描いた長編。 誰も彼もが過酷な状況で、全編に渡って緊張感があり、次へ次へと読んでしまいました。
Posted by
没入感があって、すぐに次の本という感じではない。しばらく引っ張られる。 前半の跳ねっ返りのウメのまま、ラストまで駆け抜けてほしかった。 結局男女の話が最後の印象になってしまい、良作だっただけにそこが残念。
Posted by
「気づくと、闇に光るものがあった。葉のようだった。あかるい緑色で、羽毛のようなかたちをしている。葉脈の一本一本が夜空の星を集めたかの如く、瞬いている。よく見ると、光の粒が葉の中を動いていた、根元から葉先へと吸い上げられている。光の粒は震えているようにも、囁いているようにも見えた。...
「気づくと、闇に光るものがあった。葉のようだった。あかるい緑色で、羽毛のようなかたちをしている。葉脈の一本一本が夜空の星を集めたかの如く、瞬いている。よく見ると、光の粒が葉の中を動いていた、根元から葉先へと吸い上げられている。光の粒は震えているようにも、囁いているようにも見えた。」 “蛇の寝ござ“と呼ばれた羊歯。銀を吸って光っているから銀のありかを教えてくれる。貧しい農村から夜逃げしてきた家族と夜の山で離れ離れになり、気がついたとき、ウメはその羊歯を大事に持っていた。 “蛇の寝ござ“を持って川原で倒れていたウメを保護したのは喜兵衛だった。喜兵衛は銀(しろがね)の気が見えると謳われた石見の山師だった。 銀を掘るための穴は間歩(まぶ)と呼ばれ、暗く冷たい洞穴だった。子供の頃から夜目が効き、暗闇を心地よく感じるうめは、父親のような同士のような師のような喜兵衛の元で手子(間歩で銀を掘る職人)として働きたかった。だけど、女であることがそれを禁じた。喜兵衛は言った。 「(間歩の)あの闇に馴染む者はよう生きれん。長いこと潜れば、石粉を吸うて肺を病み、息を奪われ、青い唇で、咳に潰されるように死んでいく。間歩は恐れないけんのじゃ。おまえはおなごじゃけえ、わしらと違う。子を産め。そして銀を掘らせるんじゃ。ここでは百姓も商人も同じよ。銀を見つけた者が生きられる」 石見の人に富をもたらし、米を運ぶ“銀“。しかし、それを掘る仕事は毒と隣合わせである。 間歩の毒や山を掘り崩すことの恐ろしさを知っていた喜兵衛は毒消しになる赤土や薬草を採取したり煎じたりして、手子の健康を常に気遣い、山崩れを起こさないよう一箇所を掘りすぎないよう気を配っていた。そして、葉脈のように銀の脈を知っていた。 しかし、やがて石見の銀に目をつけたお役人たちが、勝手に間歩を自分達の物にし、取り締まり、手子達には昼夜問わず、きつい労働をさせ、山の恐ろしさも知らず、銀を求めてそこらじゅうに大きな間歩を掘った。 お役人たちのやり方が気に入らない喜兵衛はやる気を無くし、病気になった。喜兵衛の手子でいたかったうめであったが、初潮を迎えたとき「間歩が穢れる」と間歩を出され、強欲で好色なお役人に侵された。 暗闇の中の白銀。それは親を亡くしても喜兵衛の同士として逞しく生きようとしたウメの芯の強さのような色であった。それに対して所々に女の悲しさ、命の強さと儚さを象徴するような「赤」の色が散りばめられている。紅羊歯の葉のうらにびっしりとついた胞子?の赤。女郎の赤い着物。山にびっしり咲いた躑躅の花。殺された男の流した血。 やがて、喜兵衛が亡くなり、ウメが生きる希望を失いかけたとき、しっかり抱き留めたのは子供の頃からライバルであった隼人であった。 ウメは隼人の血の通った厚い胸に抱かれ、そして、白くて柔らかい子供たちにも恵まれ、銀掘になる夢とは別の女の幸せを掴んでいた。しかし、やがて隼人も白い雪の上に真っ赤な血を吐いて亡くなった。 その次にしっかりとウメを抱き留めたのは異国の血の入った水浅葱色の目をした龍だった。海を思わせる静かな目をした優しい男。だけど龍も石見で銀を掘り続けたため、早く亡くなった。 男は早く死に、女だけが長生きすると言われた石見。ウメの二人の夫も二人の息子も早く亡くなった。なんと悲しい。 けれど、山に色々な色があることを知ったのは石見に来てからだった。食べることもままならなかった生まれ故郷の農村では食べられない植物など目に入らなかった。石見に来て、喜兵衛が花も薬草も教えてくれて、銀だけではなく、躑躅の赤や羊歯の緑など色んな色が見えるようになったのだ。 男の命を縮めながら、富をもたらす「白銀」。その無機質で美しく強いイメージと花や草や海や山や血の柔らかく、温かく、悲しい生命のイメージ。混ざり合えない二つのものが合わさる時はひと時で切なく、官能的で燦然と輝く。
Posted by
類い稀な才能のある女性、ウメが、女だてらにのしあがる物語ではなかった。女性であるゆえの悔しさを抱えながら女性であるからこそできる生き方をしなやかに生き抜いた。たった1人の人を支えてにして。
Posted by
苦しかった。 こういう時代もあったんだろうなと思うと苦しくなる。 とても深い作品でした。 石見銀山行ってみたくなりました
Posted by
直木賞受賞作。あと、氏の作品を一度読んでみたくて。石見銀山、いっぺん行ってみたい。何となくファンタジックな雰囲気も味わえる作品で、“獣の王者”がちょっと頭を掠めた。
Posted by
戦国から江戸くらいの石見銀山が舞台。男の役割、女の役割。集落の人と協力しながら日本人が必死に命を繋いできた生活。タイムスリップとも俯瞰して見ているのとも違う、どっぷりとその世界に入り込み読後もしばらく抜け出せない不思議な力のある本だった
Posted by