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すべて忘れてしまうから の商品レビュー

3.8

68件のお客様レビュー

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2023/10/15

SNSに駄文を綴ってると、『今』のことを書いてるのに、エピソードとしてある過去の出来事を挿入したことから、メインテーマは枯葉色に変色した話に取って代わり、『俺、これを書きたかったっけ?』と思いつつも、それなりに話もまとまり、苦笑含みの投稿完了となる。 『自然とペンが…、主人公が...

SNSに駄文を綴ってると、『今』のことを書いてるのに、エピソードとしてある過去の出来事を挿入したことから、メインテーマは枯葉色に変色した話に取って代わり、『俺、これを書きたかったっけ?』と思いつつも、それなりに話もまとまり、苦笑含みの投稿完了となる。 『自然とペンが…、主人公が…、勝手に動き出し…』なんて語る作家の話も、あながち間違ったこと言ってないんだと思う有様。 大学時代、毎日のように会い、アホな話ばかりしてた運動部の友人に『お前は歴史的人間やなぁ』と呆れながら指摘されたことがある。彼いわく『世の中には歴史的人間と地理的人間』いると。 前者は劇的な体験でもない、ほとんどが取るに足りない出来事なのに細部まで記憶していて、何かの拍子に思い出し、語るとなれば色付きの出来事にして甦らせる。後者は自分の身の上に起こってにもかかわらず記憶は大抵おぼろげで、友人に『お前、あの時なぁ』と言われてもピンと来ず、眼前の事しか見てない、見ようとしない人間だそうで。 その歴史的人間とレッテルを貼られて40年。とは言え、記憶の中から出し入れは苦手。友人に、人の顔と名前を瞬時に思い出すことができる田中角栄ばりの記憶力を持ち得てる友人もいる。ただ、僕から言わせればそれは歴史的人間ではなく、クイズの早押しチャンピオン的なアウトプット能力に長けた人。 それがですがな…まさか歴史的人間を本を通じて出会えるとは⁈ 本書には50編のエッセイが収録され、全て自身の体験の記憶。話の構成は、ある出来事(全てリアルそのもの)を巡って、過去に向かい、やがて現在に戻るパターンもあれば、過去に滞在したままに終わるパターンもある。 400字詰め原稿用紙×4枚余りという短文ながら、リアルかつ仔細に描かれ、カラー映像になってこちら側に情景が浮かび上がる。また、話の結末がどう着地するのか見えず、最終的にトホホな話、哀切な話、空しい話、ほろ苦い話、ファンタジーな話となる…とそれは見事な芸当。 いずれの話とも反省なり悔恨めいたものがあっても教訓・学習・カタルシスは存在しない。 著者は言う。『我々の日常のほとんどはグラデーションの中にある気がする。世界平和を考えながら性欲にかられたり、金持ちになりたいと思いながら好きなことを追い求めて世界一周に出たいと夢見たり…』とか、アンビバレンツな思いにつきまとわれ同じ過ちをしてしまったり…。 深酒した翌朝、苦い胃液が教えてくれたというのにまた痛飲してしまうように、自分の記憶・過去との向き合い方を、様々なパターンを通じて提示され、苦々しい記憶、唾棄すべき思い出も、そのうち忘れていくよと言われれば、歴史的人間もまんざら悪くないかも…と思えた一冊。

Posted byブクログ

2023/10/14

2023.10.12 読了 ☆8.6/10.0 以前読んだ『ボクたちはみんな大人になれなかった』が面白かったので、著者のエッセイである本作も読んでみました。 本書は、筆者の日常の中で目にする耳にする、言葉にするのは難しい、そして名前のない感情が綴られた、掴みどころのない経験...

2023.10.12 読了 ☆8.6/10.0 以前読んだ『ボクたちはみんな大人になれなかった』が面白かったので、著者のエッセイである本作も読んでみました。 本書は、筆者の日常の中で目にする耳にする、言葉にするのは難しい、そして名前のない感情が綴られた、掴みどころのない経験を描いたエッセイで、読んでいて単純明快に「分かるわぁ」とならないのは、普段いかに自分が、分かりやすい言葉の、そしてわかりやすい感情が綴られた本を読んでいるかということの裏返しのような気がした。 “分かりやすさ”は、ともすれば万人に受け入れられる内容であり、それ自体は魅力ではあるのだが、本作は一味違う。 不思議な読書体験、そして不思議な読後感でした。 〜〜〜〜〜印象に残った言葉〜〜〜〜〜 “「逃げちゃダメだ!」は自己啓発本の常套句だ。それもある一つの真実だとは思う。だけど、「逃げた先に見つけられるものもあるかも知れない」と注釈でいいから書いておいてほしい。” “新しい感情に名前をつける人を、人はアーティストと呼ぶんだと思う。 もう名前のついた感情や出来事に、もう一度違う名前をつけて、ほら共感するでしょ?というのは全くエモくない。エモーショナルじゃない。 しばしばネット出身のモノが軽視されるのは、この"劣化コピー"が見透かされているからなのかも知れない。ネットで拡散されやすいものはわかりやすい。わかりやすいものは、どこか極端だ。絶対に見たら泣ける映画とか、絶対にモテる10ヶ条とか。 本当は、日々のほとんどはグラデーションの中にある気がする。世界平和を考えながら性欲にかられたり、金持ちになりたいと願いながら好きなことを追い求めて世界一周に出たいの夢見たり、そんな両方を夢見ながら中目黒で満員電車を待っていたりする。 まだ名前のついていない感情と出来事に囲まれて、僕たちは生きている。 “ちょっと社会をかじった人間が言いがちな「全ての仕事、経験は後で役に立つ」なんて言葉が現実に反映されるほど、人生は甘くも、伏線回収的にもできていない。 僕は今日も五番目くらいに得意な仕事に就いて、九番目くらいに相性が合う後輩に指示を出している。 “「逃げてもいいんだよ」 これは、SNSで定期的に呟かれる呪文の一つだ。 本当に逃げていいと思う。逃げても世の中は平常運転だ。 二度と同じような人が出てこなくても、世の中が困っている様子を見たことがない。これは、絶望でもあり希望でもあるのだけれど、この世界は誰が抜けても大丈夫だ。だから個人が潰れるまで我慢する必要なんてない。心が壊れてしまう前に、人は逃げていい。 でも呪文のように「逃げていい」と呟く彼らも、そのツイートにいいねを押す人たちも、現実社会ではなかなか逃げていないように見える。 「ボクたちは必ず死ぬ。誰もが何も持たずにこの世からおさらばするのだ」 そうだ。僕たちは必ず死ぬんだった。ほぼ同時刻に満員電車に乗る日常を繰り返していると“いつか死ぬ”と脳では分かってはいるはずなのに、ふとこの日常が永遠に続くような徒労感に襲われることがある。 でも本当はこの日々の果てに、僕たちは一人残らず全員死ぬ。何も持たずに全てを置いて僕たちは必ず死ぬんだ” “カネが儲かるとか、社会的に偉くなるとかの才能は分かりやすいけれど、別に僕たちの血肉までが資本主義なわけじゃない。勝った負けたが、僕たちを必ず幸せにしてくれるわけでもない。高級時計を買えば幸せになれるわけでも、タワーマンションの階数が上がれば上がるほど幸福度指数も一緒に上がるわけでもない。 各々が無心になれる何かをずっと続けられることが、勝った負けたなんてチンケなことを考えなくてもいい状態を作ってくれるんじゃないか” “生きていると全部が、元には戻らない。壊れた部分は壊れたまま、抱えて生きていくしかない。 大きいため息を一つ。今のはため息じゃない。大きな深呼吸だ、と自分と他人を騙しながら、今日を生きてみる”

Posted byブクログ

2023/08/31

「ままならない日々を、ままならないまま生きていく」 彼のエッセイに触れるとき、私は往々にして疲れている。 疲れが先が読むのが先かは分からないが、読後には右にも左にも前後不覚な気分に苛まれる。 本著は、著者の燃え殻氏の身の周りで起きた出来事が、彼というフィルターを通してつづら...

「ままならない日々を、ままならないまま生きていく」 彼のエッセイに触れるとき、私は往々にして疲れている。 疲れが先が読むのが先かは分からないが、読後には右にも左にも前後不覚な気分に苛まれる。 本著は、著者の燃え殻氏の身の周りで起きた出来事が、彼というフィルターを通してつづられている。 本名も出身も知らない赤の他人であるはずなのに、私は読んでいてどこか疲れてしまう。 それは読んでいる最中に私の中で、彼の体験談と似たような経験が図らずともほじくり返されてうんざりしてしまうからだ。 例えば、 これ以上はないというほど嬉しかったとき。 反対に、 ひどく打ちのめされて生きていく気力すら失ったとき。 そういったことは誰しもが通る道で、程度の差はあれど、著者だけが経験しうるものではない。 この感想に目を通してくれているあなたにも、会社の同僚にも、部長にも、耳が痛くなることばかり言ってくる妻にも漏れなくあるだろう。 ではなぜ、本著はこれほどまでに読者の胸を強く打つのか。 それは著者が、私たちが普段は蓋をして見て見ぬふりをしている究極的な事実を、彼自身の体験を通じて克明に綴っているからではないかと考える。 その事実とは何か。 それは喜怒哀楽うるさいこのありふれた日々を、悲しいかな私たちはいつか忘れてしまう、ということだ。 だが人間には忘れられないことや、 忘れてはいけないと強く願う出来事がある。 忘れまい、忘れまいと思う。でも、いつかは忘れてはしまう。 感情や心の整理もつかないままに、私たちはその事実から目を背け、日々を過ごしていく。 まるで川が川上から川下にしか流れないように、 高く遠くに投げられた石がいつかは地面を転がるように。 私たちは抗えない日々をこれからも送っていく。 その事実を突きつけられて、私は疲れてしまうのだ。 この感想を書いたこと、書いた日のこと、誰といて、誰と何があって、ここが気に食わなくて、そういえば確かあの日は雨が降っていて。 こんな愛おしい日々を、私たちはいつか忘れる。 きっと今日という日のことも忘れてしまうだろう。 だがそれでも、私は懲りずに生きていきたい。 いつかきれいサッパリ忘れるなら、今、後悔しないと思っている道を、ふらふらになりながら歩いていきたい。 それが砂利道か、舗装された滑らかな道なのかは後から分かるかもしれないし、分からないかもしれない。 でもいつか、すべて忘れてしまうなら、 躁鬱、楽あれば苦あり、喜怒哀楽、波乱万丈、四面楚歌、八方塞がり、すべて相手にして、 これからもこのままならない日々を過ごしていきたい。

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2023/08/26

こんな風にふとある時に思い返せるような愛おしい思い出を重ねていきたいし、そんなどうせ忘れてしまう思い出の一つ一つを大切にしていけたらな

Posted byブクログ

2023/08/12

わたしにとっては知らない場所、 知らない人たちのお話だけど 燃え殻さんの文章はなぜか 必ずセンチメンタルな気持ちになるから不思議。 力を抜きたい時、何も考えたくない時に おすすめです。

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2023/06/08

僕はまだ2センチしか動いていないのに。のウィットさが好き。母親が買いにくいわぁといいながら燃え殻さんの週刊SPA!を毎週買っていた話、小説が出た時、本屋で5冊も買っていた話で泣きました、なぜか母や父のことになるとすぐに泣いてしまいます。

Posted byブクログ

2023/05/06

燃え殻さんのお名前は、よく書店やSNSでお見かけしていたけれど、作品を読むのは今回が初めて。 「すべて忘れてしまうから」という言葉の響きと、新潮文庫の可愛らしい表紙に惹かれて、この度手に取ってみました。 バスの中で、喫茶店で、銀行の待合室で。 どこで読んでいても、燃え殻さんの文...

燃え殻さんのお名前は、よく書店やSNSでお見かけしていたけれど、作品を読むのは今回が初めて。 「すべて忘れてしまうから」という言葉の響きと、新潮文庫の可愛らしい表紙に惹かれて、この度手に取ってみました。 バスの中で、喫茶店で、銀行の待合室で。 どこで読んでいても、燃え殻さんの文章から、何だか懐かしさや、寂しさ、愛おしさのようなものが込み上げてきて、泣けてしょうがなかったです。 物悲しいのに、心地よさも感じる不思議な一冊でした。

Posted byブクログ

2023/04/24

抗えない自分がその物語の中にいるでは、感動した。一部の作家は満員電車に乗る奴ら可哀想。死んだ顔で通勤する人の気がしれない、、等と言っているが、No満員電車と強く心にプラカードを掲げながら毎日仕事のために満員電車に乗ってきた著者だからこそ掬い上げれる言葉がある。

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2023/04/01

前作の「ボクたちはみんな大人になれなかった」より面白かった。 こういうエッセイ大好物。 大体2ページごとに区切られてるから読みやすい。 この人に限らない話だけど物書きさんは言い回しが面白くて凄いなぁ。そして普通に生きてたら体験しないようなことが多いんだけどそれは何故?? 私とこの...

前作の「ボクたちはみんな大人になれなかった」より面白かった。 こういうエッセイ大好物。 大体2ページごとに区切られてるから読みやすい。 この人に限らない話だけど物書きさんは言い回しが面白くて凄いなぁ。そして普通に生きてたら体験しないようなことが多いんだけどそれは何故?? 私とこの人の違いはなんだ。 「サービスの国の住人たち」 これ私のことじゃん…って思いながら読んだ。 息をするように嘘をつくのもう病気かもしれない。 ポインティ出てきて笑った。仲良いんだ笑

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2023/03/19

とても読みやすいエッセイだった。特に感情移入することもなく、淡々と読むことができて疲れない。本を読んでいて、この疲れないは僕にとって重要だ。面白いけど読んでると疲れる本はたくさんある。平易な言葉で紡ぐ文章は、語られる情景をイメージしやすい。 日々をやり過ごすために思い出が必要な...

とても読みやすいエッセイだった。特に感情移入することもなく、淡々と読むことができて疲れない。本を読んでいて、この疲れないは僕にとって重要だ。面白いけど読んでると疲れる本はたくさんある。平易な言葉で紡ぐ文章は、語られる情景をイメージしやすい。 日々をやり過ごすために思い出が必要な時があるなぁ、と読んでいてつくづく思った。 そして、巻末の町田康の解説もとても秀逸で、にやにやしたり、しんみりしたり。とても良い読了感だった。

Posted byブクログ