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死刑について の商品レビュー

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51件のお客様レビュー

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2022/06/24
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 最近気になっているのが、犯罪を犯した加害者が自害してしまう事件が多いこと。また、つい最近もあった事件で、刑期を経て「生きているのが嫌になった」と言って再犯をしてしまうケース。 本著の中にある、殺人事件被害者の遺族の言葉が印象的。「罪を犯してしまった人に必要なのは、向き合い、反省、謝罪、更生、そして本来の自分を生きることであり、そのための時間です。「死刑」は、その贖罪の機会を奪ってしまうことになります」という語り。 情報に溢れ、人が生き急ぐ時代には、ある人間の物語を理解するために本来必要な時間の長さに誰も(自分自身さえも)耐えられず、結論を急ぎ、一面的に結論づけてしまう。 筆者は、事件を考える上で、被害者の複雑な心情や考えに対する第三者の我々の想像の限界について、謙虚になるよう警鐘を鳴らす。感情的に扇動し、憎しみのみを単純化して連帯を図ることに対しても。 このような「感情に訴えかけて憎しみを煽り、連帯を図る」という思考の方向は、日常生活の至る所で見られる。戦争もそう、いじめもそう。「とても共感できない人の人権こそを尊重するケース・スタディこそが必要」というのは、まさにその通り。それこそが小説を読むことの体験の意義だと思った。 自分の日常診療に照らし合わせば、アタッチメント形成に問題を抱える子どもが学校で「問題児」とレッテルを貼られるたびに、改めて子どもをアドボケートし、「優しさの共同体」をいかに構築するか、ということに思いを馳せた。 死刑の是非にとどまらず、我々の共同体のあり方を考えさせられる一冊である。

Posted byブクログ