死刑について の商品レビュー
平野啓一郎さんは物事をものすごく深く考えることができて凄いと思う。それには記憶力がずば抜けていることが必要だろう。私などは記憶力がなく、本を読んでも読み終えた直後に内容があまり思い出せない。死刑については映画などでよく死刑の話が出てきて、そのたびに考えさせられる。死刑を受ける人の...
平野啓一郎さんは物事をものすごく深く考えることができて凄いと思う。それには記憶力がずば抜けていることが必要だろう。私などは記憶力がなく、本を読んでも読み終えた直後に内容があまり思い出せない。死刑については映画などでよく死刑の話が出てきて、そのたびに考えさせられる。死刑を受ける人の気持ちとはどんなものなのだろうと。私は悪人であっても、一人の人間として、死刑に処せられる時の気持ちを慮ってしまう。 平野啓一郎さんの久々の小説作品『富士山』が刊行された。平野啓一郎さんの小説は紙の本はすべて読破した。なので『富士山』は待ちに待った小説だが、図書館で借りて読むつもりなので予約待ちで読むのはだいぶ先になるだろう。それまでは未読のノンフィクションを読んでいくつもりだ。この『死刑について』はその一環で読んだ。
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死刑制度の存廃を筆者平野啓一郎の言葉から考える。この国の死生観や儀式、宗教、そしてムラ社会の因習などが背景となって、復讐心と人権の対峙は責任と優しさを天秤にかける。現状の看過は社会の荒廃へと連なっていく。そこに私たちは気付く、教育や情報リテラシーの大切さが問われている。謀(はかり...
死刑制度の存廃を筆者平野啓一郎の言葉から考える。この国の死生観や儀式、宗教、そしてムラ社会の因習などが背景となって、復讐心と人権の対峙は責任と優しさを天秤にかける。現状の看過は社会の荒廃へと連なっていく。そこに私たちは気付く、教育や情報リテラシーの大切さが問われている。謀(はかりごと)は便利アイテムやお得ポイント、そして怪しい "豊かさ" に包装されて見えにくくなっている。死刑制度も鵜呑みは危ない。被害者心情を名目とした "同情" や "憎悪" は "人間らしさ" と "尊厳の軽視" の表裏一体となり、その果てに戦争や紛争は起きる。国家や権力者の暴力はそこにあり死刑執行もその一形態に過ぎない。社会の中枢となる信頼を放棄して、瓦解する社会の苦痛が慢性化した日常は実に恐ろしい。
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死刑制度について深く考えたことはありませんでしたが、何となくあった方が良いと考えていました。しかし、作者の考えに触れ、感情とは切り離して、国家が合法的に人を殺すことができる恐ろしさを理解しました。ただ、もし自分が被害者家族になってしまったら、やっぱり死刑をもとめるかもしれません。...
死刑制度について深く考えたことはありませんでしたが、何となくあった方が良いと考えていました。しかし、作者の考えに触れ、感情とは切り離して、国家が合法的に人を殺すことができる恐ろしさを理解しました。ただ、もし自分が被害者家族になってしまったら、やっぱり死刑をもとめるかもしれません。それくらい難しい問題ですね。
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死刑存置派も一考する内容がある。 被害者への配慮は、存知派の方も根本では同じではないだろうか。 著者は自身の意見においての変遷を丁寧に書いており、賛成派も反対派も頷ける部分もあると思う。 結論や正しさを明確に述べている書ではなく、更に理解を深め、自身の意見を構築するために著者は投げかけているのではないだろうか。
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普段はあまり考えない、死刑に関する主張の本でした。元々死刑は必要だと考えていました。 読み終えて、共感する部分も多かったですが、やはり死刑は必要だという考えは消えませんでした。 しかし、残された被害者の感情を加害者への憎しみの一点と捉え、そこだけに第三者たちの感情が乗ってしまい、被害者のケアが疎かであることにはとても共感し、はっとさせられました。 考えるいい機会になりました。
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今まで深くは考えられておらず、更生の望みや意志がなく、社会に不安定を及ぼすこと、被害者救済の観点で、死刑があることはやむを得ない、という漠然とした立場だったが、様々な観点と、特に被害者への丁寧な取材をベースとした意見で、より多面的にこのテーマを捉えられるようになった。 ・憎しみ...
今まで深くは考えられておらず、更生の望みや意志がなく、社会に不安定を及ぼすこと、被害者救済の観点で、死刑があることはやむを得ない、という漠然とした立場だったが、様々な観点と、特に被害者への丁寧な取材をベースとした意見で、より多面的にこのテーマを捉えられるようになった。 ・憎しみに対する報復は、必ずしも死を持って償うことだけではなく、最高刑である点も重要。死刑があるからこそ、死刑でないことの説明に苦しむ被害者がいることはとてもその通りだと思った。被害者と一括りにするのではなく、より解像度高く、そしてその人たちの支援をいかにしていくか、が重要 ・基本的人権の内容については学校教育で触れてはいたものの、人類が獲得してきた歴史やその成り立ち、社会の基礎としてある考え方の大切さは、大人になって幸運にも学べたが、そうでないなら、他者への共感のみでの判断となり、感情的な意見になっていく構造はなるほど、確かに人権教育の失敗だ ・人を殺すことが、社会において何らかの判断で許される、相対的なものとした瞬間、失われるものがあり、そこに恣意性が生まれる(死刑執行のタイミングなどは典型例)社会として、殺人が例外なく絶対に許されない、と決め切ることのメリットは大きいように感じた ・死刑存置派の意見ももう少し丁寧に把握してみたいと思った、筆者の認識では被害者の処罰感情を一義的に捉え、被害者感情に寄り添うべし、という共感のみ、という論だが、果たしてそうなのか、は知りたい
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本書は、タイトル通り、「死刑」について平野啓一郎さんが講演で語った内容をテキストにしたものです。 平野さんは死刑について、以前は存置派でしたが、いまは廃止派になったといいます。ヨーロッパの人々との出会いから変化していったのだそうです。 また、平野さんは小説家らしく、書く...
本書は、タイトル通り、「死刑」について平野啓一郎さんが講演で語った内容をテキストにしたものです。 平野さんは死刑について、以前は存置派でしたが、いまは廃止派になったといいます。ヨーロッパの人々との出会いから変化していったのだそうです。 また、平野さんは小説家らしく、書くことで考えを深めて、存置派から廃止派になったとも語っています。犯罪被害者側の視点を究めた小説『決壊』を書く上での思索が、反対派になった理由でもあるそうです。 本書では、大きく三つの理由から反対を論じられています。ざっくりとご紹介すると、「冤罪の理由」「自己責任論の理由」「倫理上の理由」です。 ところで、一九九七年に、あるTV番組で「なぜ人を殺してはいけないのか」というテーマが高校生から出たそうなのですが、その場の大人はそれにうまく答えることができなかったそうです。 平野さん曰く、殺してはいけない理由は憲法があるから(基本的人権の尊重)だと書かれていますが、なぜか会場の大人にはそれを言う人がいなかったと。 それを、日本の人権教育の失敗につなげて書かれているのですが、このあたりは私も失敗かもなと思いました。 何故なら私は、「相手の立場にたって考えよう」という教育は受けたように思っていて、<共感>についてかなり刷り込まれたものがあると自覚しています。ですが一方で、私は<人権>についてかなり後追いで理解したところがあるからです。 実際に、私が「健康で文化的な最低限度の生活を送ること」などの人権があることを理解できたのは、20代半ばの独学でした。 私的なハナシに逸れてしまいましたが、本書では他に論じられていることとして、<被害者ケアの欠如の問題>にも踏み込んで書かれていました。また<メディアが強める勧善懲悪への共感>という小見出しのところも大変興味深かったです。 絶対的なモンスターとしての人間なんて存在しない。多面的で複雑な人間の、部分部分が見た角度によってモンスターに見える、そういうことなのかな?と思いました。 それが善い方に動けば、有名な大リーガーや天下統一の政治指導者、悪い方に動けば、殺人事件の犯罪者のような。 他の平野さんの著書でも語られている”分人主義”がここでは私のアタマの中を駆け巡りました。 予備知識的ですが、死刑を廃止した国は、(EUもそうですが)イギリスやフランス、ドイツ、イタリアなど108ヵ国が「すべての犯罪に対して廃止」との資料があります。(本書付録「死刑に関する世界的な趨勢と日本」より。) 本書は私が、ある殺人事件のことを思っていた時に、本屋さんで見つけて購入したものです。100ページほどの講演本ですが、非常に多角的ですので、「死刑について」考えること以外にも、「人権について」「被害者ケアについて」「冤罪について」「勧善懲悪について」などの考えを深めるきっかけになると思います。 「深刻で難しい問題を、粘り強く冷静に話し合うことは、民主主義社会に生きている私たちに負わされた課題です。」(p93) という平野さんの言葉が、強く残って響いています。
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私も若いころは 死刑賛成だったんだけれども 今は反対。なんでそうなったのかは・・・ 理路整然とは説明できないなぁ。
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ヨーロッパで取り入れられている修復的司法に関するニュースを見て、日本における死刑制度について考えを深めたいと思いこの本を手に取った。人権という視点から死刑について考えるという発想が全く無かったので、先ずは人権を理解するところから始めなくてはいけないと感じた。この本を読んだだけで自...
ヨーロッパで取り入れられている修復的司法に関するニュースを見て、日本における死刑制度について考えを深めたいと思いこの本を手に取った。人権という視点から死刑について考えるという発想が全く無かったので、先ずは人権を理解するところから始めなくてはいけないと感じた。この本を読んだだけで自分はこう思うと決められる問題では無いと思うが、考えるきっかけとしてはとても良い一冊だと思う。またこの本の中で取り上げられていた幾つかの本を読んでみたいと感じた。
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⚫︎受け取ったメッセージ どちらかといえば死刑制度に賛成だった著者が 死刑制度反対に至るまで ⚫︎あらすじ(本概要より転載) 死刑廃止の国際的な趨勢に反し、死刑を存置し続ける日本。支持する声も根強い。しかし、私たちは本当に被害者の複雑な悲しみに向き合っているだろうか。また、加害者への憎悪ばかりが煽られる社会は何かを失っていないだろうか。「生」と「死」をめぐり真摯に創作を続けてきた小説家が自身の体験を交え根源から問う。 ⚫︎感想 死刑制度に賛成・反対どちらかだとしても、どちらの意見も自分なりに吟味した上で立場を考えねばと思った。日本に終身刑という最高刑があるのならば、多くの日本人は死刑制度を廃止しても良いと思うかもしれない。
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