星影さやかに の商品レビュー
戦時中いち早く戦争に負けると学校で英語教師をしていた父は教え子に伝え非国民と言われた そんな父を恥ずかしいと思っていた 震災後朝鮮人を恐れ噂を鵜呑みにした市政の人々 そこで見た光景 横暴だと思っていた祖母の本当の姿 時間が経ち成長することで見え気づくこと
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「闇に目を凝らして真実を見ようとするのは、恐ろしいことなのではないだろうか。皆と一緒に、明るい場所にいるほうが安全だ」(P80) その真実を見ようとした父はかつて旧制中学で教えていた。戦時中、教壇から「この戦争に日本は勝てる見込みがない。だから、未来のある諸君は、断じて戦争に行...
「闇に目を凝らして真実を見ようとするのは、恐ろしいことなのではないだろうか。皆と一緒に、明るい場所にいるほうが安全だ」(P80) その真実を見ようとした父はかつて旧制中学で教えていた。戦時中、教壇から「この戦争に日本は勝てる見込みがない。だから、未来のある諸君は、断じて戦争に行くべきではない」と教え子達に伝えた。その発言が原因で罷免され、故郷に帰ってきた。そして、近所から「非国民」と呼ばれた。 その父は神経症を病み、ほぼ自室に閉じこもる毎日だった。役場の職には就いていたけれども。 その父を恥じ、息子の良彦は軍国少年となるべく毎日を過ごしていた。 しかし、戦争に負けて、今まで言っていたことと正反対の言動をとるようになった大人達。そんな大人を見て、良彦は変わらないのは父親だけだと思う。しかし、閉じこもる父をなかなか受け容れられない。 その父が亡くなり、遺品整理で出てきた父の日記を読む。その日記がラスト近くで明らかにされる。 神経症を患い、夫らしいことも、父親らしいこともできない。自死を考えることもあったが、辛くても生きていくことを選んだ。悩み苦しみが消え去ったわけではないけれど。「ただ生きる。それだけだ。」と記す。 そう覚悟できたのは、妻や子ども、母親の存在があったから。息子は反発もするけれども、妻や母親は責めない。あるがままを受け容れてくれる。 ラストの方は泣いた。「この先、、万一、絶望するようなことが起きたとしても、父の苦しみの軌跡が、暗闇に冴え冴えと光る北辰のように、自分を導いてくえることがあるやもしれない」と良彦は思う。最期まで閉じこもったままの父であったかもしれないが、ただ意味なく生きただけの父ではなかった。 ラストの文章 「かつて敵機がやってきた空に、今はただ、無数の星々がさんざめいていた」。 このラストの文章を読んで、タイトルの「星影さやかに」と繋がった。平和を希求するタイトル。 それにしても、祖母の多嘉子はかっこいい。初めの方は、良彦と同じくおっかない鬼ばばにしか見えなかったけれど。 いいお話だった。図書館で借りて読んだけど、手元に持っておきたい。
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戦時中に目にした辛い光景や気持ちは、戦争が終わったからと言ってすぐに気持ちを切り替えることなんて出来ない。深く傷付きトラウマになった人が一体どれほどいたことだろう。 それほどまでに戦争というものは心を壊し、人の人生を狂わせてしまう。 現在も世界では戦争が続いている。終わりが見えず...
戦時中に目にした辛い光景や気持ちは、戦争が終わったからと言ってすぐに気持ちを切り替えることなんて出来ない。深く傷付きトラウマになった人が一体どれほどいたことだろう。 それほどまでに戦争というものは心を壊し、人の人生を狂わせてしまう。 現在も世界では戦争が続いている。終わりが見えず、最早何をもって終了とするのか…
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第三章 良人と薯蕷 嫁と姑の関係がすごく素敵に描かれている。多嘉子と寿子、どの時代も本当に強いのは女性。多嘉子の「控えろ、下郎」は痺れるくらいかっこいい。昔の日本人は凛としてて、現代人とだいぶ違うなと感じた。
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253ページ 1700円 4月18日〜4月19日 幼い頃に戦争を体験した良彦。良彦のもとに妹の美津子が亡き父の日記を持ってやってくる。幼き日、父は神経症で部屋にこもっていることが多かった。祖母の多嘉子は、嫁の寿子に厳しく、良彦にも厳しかった。 戦時中の話は、読んでいて引き込ま...
253ページ 1700円 4月18日〜4月19日 幼い頃に戦争を体験した良彦。良彦のもとに妹の美津子が亡き父の日記を持ってやってくる。幼き日、父は神経症で部屋にこもっていることが多かった。祖母の多嘉子は、嫁の寿子に厳しく、良彦にも厳しかった。 戦時中の話は、読んでいて引き込まれた。父の神経症の話は気持ちが滅入ってしまうような真実があり、人間の本質が見えた。
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戦時中、「非国民」と呼ばれる父親を恥じていた主人公と、その家族のお話。父親の日記を軸に真実を知り、時代や人の見方が変わっていく過程が丁寧に描かれていた。私の祖父母も戦中のことはほとんど語らない人だったのだけど、お父さんのようにヒトに話すのも躊躇われるような、思い出したくないことが...
戦時中、「非国民」と呼ばれる父親を恥じていた主人公と、その家族のお話。父親の日記を軸に真実を知り、時代や人の見方が変わっていく過程が丁寧に描かれていた。私の祖父母も戦中のことはほとんど語らない人だったのだけど、お父さんのようにヒトに話すのも躊躇われるような、思い出したくないことが色々あったんだろうな…。誰にとっても、この世を生きていくのは「ご苦労さま」なことで、凡庸に見えても穏やかなだけの日々はない。喜びとそれに伴う苦しみを正々堂々生きていかなければいけないな、と思わされた。
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地元が舞台の小説ということで、読んでみました(現・宮城県大崎市古川) 多分時代的には、まだ古川町だったのではないかと思いますが、いずれにしろ田園風景が広がった田舎です 戦前・戦後の生きづらさ(精神的な)というのは、私には想像することしか出来ないのだけれども 人知れず精神を病んで...
地元が舞台の小説ということで、読んでみました(現・宮城県大崎市古川) 多分時代的には、まだ古川町だったのではないかと思いますが、いずれにしろ田園風景が広がった田舎です 戦前・戦後の生きづらさ(精神的な)というのは、私には想像することしか出来ないのだけれども 人知れず精神を病んでいた人というのはかなり沢山いたのだろうなと思う 今でこそ、うつ状態とかその他精神の病であるということを周囲に少しは言いやすくなったとはいえ、まだまだ偏見というのはある訳で…… それが戦前ともなれば、家族にも隠して更に症状が悪化するというのは簡単に想像できる 治療法も確立されていなかっただろうし、患者の苦労は相当のものだったろう それでも、薄氷を踏むような生活ながらも良彦の父は人生をまっとうしたのだから、ある意味強い人だったのだと思う 色々登場した人たちの中では、良彦の母、寿子に感情移入した 嫁・妻・母と言う立場は、いつの時代も大変だろうけど、昔の嫁というのはそりゃあ 大変だったろうなぁ 想像を絶するよね……… 気持ちの良いお姑さんだったらいいけど、気の合わない人だったら最悪だわよ それでも、静かに役割を果たした寿子は凄いなぁ~ それが、寿子なりの愛の示し方だったのかも知れない 鳴子の紅葉が出てきたり、聞き覚えのある地名が出てきたりして、身近に感じる小説でした あまり明るい話ではないから、地元のPRに活かすというのは難しいかも知れないけれど 少しでも多くの方に、読んで貰えたらなと思う
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
誰しも、時代の大きな流れの中で、ささやかな日常を営んでいる。 横柄で厳しいながら、熱い義侠心を持つ祖母。 被災後の人間の心のありようと戦争に向かう時代の機運に打ち砕かれ、心を病んだ父。 あちこちに気を遣い、耐え忍んでいるだけのようで、しっかりとした芯を持つ母。 そしてかつて軍国少年であり、父を非国民と恥じた自分を苦い思いで振り返る主人公。 東北の四季の中の日常の風景、特に厳しい寒さと銀世界の風景が浮かび上がるような描写も良かった。 それぞれが、それぞれの立場で、日々を真っ当に生きようとする姿が胸に迫り、最後は涙ぐみながら読んだ。
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「錦秋のトンネル」「泥鰌とり」「良人の薯蕷」「御真影」 昭和十九年から二十六年までを描いた四話に「昭和三十九年 東京」「昭和三十九年大晦日 古川」の二篇を加えた連作短編集。 物語の舞台は宮城県古川市。 鬼婆の様だが情に厚い面を持つ祖母の多嘉子、自身の正しさを貫き、その純粋さ故...
「錦秋のトンネル」「泥鰌とり」「良人の薯蕷」「御真影」 昭和十九年から二十六年までを描いた四話に「昭和三十九年 東京」「昭和三十九年大晦日 古川」の二篇を加えた連作短編集。 物語の舞台は宮城県古川市。 鬼婆の様だが情に厚い面を持つ祖母の多嘉子、自身の正しさを貫き、その純粋さ故に心を病んだ父と、家族の為に黙々と働く母、そしてこの物語の主人公である次男の良彦。 戦争や震災を背景に、この世の理不尽さと、人間の感情の奥深さが描かれる。 激動の時代に生きたこの家族を想いながら改めて命の尊さを知り、生きる意味を考えさせられる。
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読んでいて、タイトルと内容の関係が「?」も、戦中戦後から昭和の東京オリンピックまでの家族の話が描かれており、その時代背景から個々の人物描写が上手く最後まで飽くことなく読ませていただきました。
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