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悪の芽 の商品レビュー

3.6

87件のお客様レビュー

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    14

  2. 4つ

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  3. 3つ

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2021/09/25

さすがのリーダビリティ。アニメフェスでの無差別大量殺人事件から始まる物語にグイグイ引き込まれた。犯罪を犯すでもない、一人一人は善良と思われる普通の人間の悪意や無意識、時に暴走する正義、それらが巡り巡って引き起こす大きな事件は、作者の作品で私が一番好きな「乱反射」を彷彿とさせる。 ...

さすがのリーダビリティ。アニメフェスでの無差別大量殺人事件から始まる物語にグイグイ引き込まれた。犯罪を犯すでもない、一人一人は善良と思われる普通の人間の悪意や無意識、時に暴走する正義、それらが巡り巡って引き起こす大きな事件は、作者の作品で私が一番好きな「乱反射」を彷彿とさせる。 主人公・安達が小学校時代に呼び起こしたいじめ。それが引き起こした同級生・斎木の転落人生。社会から弾き出された斎木は、なぜそんな大きな事件を起こしたのか? パニック障害になり最初は保身から、次第に自分のやったことの責任として知らなければならないという義務感から事件の動機を調べて続ける安達が最後にたどり着いた真相。 「社会から弾かれたのは努力が足りないから」 「弱肉強食だから仕方ない」 競争に勝ったと思っている人間たちがいう決まり文句。闊歩する自己責任論。それが圧倒的な想像力の欠如からもたらされる驕りであることを思い知らされる。私たちは負けたら最後、決して救われることのない世界を本当に望んでいるのか? 私たちの想像の及ぶ範囲は狭く、同じ境遇になって初めて気づくという事実。 ラストの言葉がいつまでも胸に響く。 「世界に絶望し、人間に絶望し、自分自身にすら絶望した果てには、もう何も残っていなかった」 貫井さんとしては珍しく読後が悪くない作品。 動機の弱さを指摘する意見もあるけれど、私はそんなことでもこんな事件を引き起こすことはあるだろうなと思う。「絶望は死に至る病」なのだから。

Posted byブクログ

2021/03/22

丁寧な人物描写と心理描写に磨きがかかった印象で、物語に没入できるが、犯行動機のプロットが今一つなのと、安達が中心なのはわかるが、真壁編があまりにあっさりとしていて違和感ある。エンディングもひと工夫ほしいところ。

Posted byブクログ

2021/03/20
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地味にひたすらリアルに、ぼんやり感じていても言葉で説明しようともしなかった事柄を丹念に書いていて、悪意や無関心はおもしろいものではないし、派手などんでん返しもないので、貫井さんの最高傑作かと言われたら、それは?だが。 不快なのは今の世の中がそうだからなんだよね。 想像力の欠如を補うためのひとつの方法は読書ですよね。

Posted byブクログ

2021/03/15
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

 2019年9月刊行の『罪と祈り』以来の、貫井徳郎さんの新刊である。『罪と祈り』について自分はこう書いた。「どう消化すべきか、大変困ってしまった」と。本作は、どう消化すべきか、前作よりはるかに困る作品だった。  銀行員の安達は、無差別大量殺人犯が、小学生時代の同級生であることに気づく。安達は彼がいじめられるきっかけを作った。そのせいで不登校に陥り、普通の人生から道を踏み外した彼は、こんな事件を起こしたのか。罪悪感に苛まれる安達。  安達の身勝手さに、早い段階で感情移入は不可能になった。安達が心配しているのは、自身がかつてのいじめの首謀者であることを世間に知られ、今の幸せが壊れてしまうこと。反省しているわけではない。罪悪感というのは違うだろう。  安達はその同級生を知る関係者に接触を図る。おいおい、両親にまで会うのか。要するに、安達は自分のせいで事件が起きたのではないという確信が欲しいのだ。こんな事件が起きなければ、その名を思い出すこともなかった。パニック障害の発症だの出世コースからの脱落だの、その程度では一切同情できない。  安達だけでなく、現場を偶然撮影していた青年、事件で娘を失った遺族と視点は変わるが、中途半端な印象を受ける。中でも、中心になっていじめていた「あいつ」の章。えっ、これで終わり? これで一件落着? 安達より神経が図太いと言ってしまえばそれまでだが…。多視点が効果を上げているようには思えなかった。  現実に、いじめの加害者の個人情報がネット上に流布した事例は多い。小出しにされる情報で安達は徐々に追い詰められていくが、読んでいる自分はどんどん冷めていく。この作品、遺族の女性視点を多くした方が感情移入できただろう。少なくとも、自分は彼女の行動を否定する気にはなれない。最後の決断を含めて。  かなりネタバレなのを承知で書くが、安達さん、あなた運がよかったねえ。誰よりも気の毒なのは、まったく無関係な事件の被害者であり、遺族だ。安達がそれを理解する日は来るか。最後の最後まで釈然としないまま読み終えた。

Posted byブクログ

2021/03/10

無差別大量殺人の犯人は、小学校のときに苛めてことのある同級生だった!自分の苛めをきっかけに不登校となり、人生の歯車が大きく変わってしまった。全ては自分の他愛もない渾名が端緒だったとすれば、何か止める方法はなかったのか! 読ませて、考えさせることに主眼を置いた小説であっという間に読...

無差別大量殺人の犯人は、小学校のときに苛めてことのある同級生だった!自分の苛めをきっかけに不登校となり、人生の歯車が大きく変わってしまった。全ては自分の他愛もない渾名が端緒だったとすれば、何か止める方法はなかったのか! 読ませて、考えさせることに主眼を置いた小説であっという間に読み終えた。序盤中盤は作者の力量からぐいぐい引きつけられるように読み進める。ただし、結末が凡庸。明るい未来の希望に期待させるエンディングとしたのだが、もう一波乱もふた波乱もあるような結末を期待していただけに残念。

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2021/03/10

アニメイベントで起きた無差別大量殺傷事件。犯人は犯行後その場で自殺し、動機は不明のままだった。情報が錯綜する中、一人の男がある事実にたどり着く。犯人は小学生の同級生だった。さらに男はいじめに遭うきっかけを作ってしまった。30年経っているが、事件を発生させたのは、自分なのか? ...

アニメイベントで起きた無差別大量殺傷事件。犯人は犯行後その場で自殺し、動機は不明のままだった。情報が錯綜する中、一人の男がある事実にたどり着く。犯人は小学生の同級生だった。さらに男はいじめに遭うきっかけを作ってしまった。30年経っているが、事件を発生させたのは、自分なのか? 貫井さんというと、ドンデン返しの展開の話が面白いのですが、その他にも人々の心の揺れ動きを丁寧に書いていて、それが段々と惹きこまれます。 今回の作品は、どんでん返しの展開はなく、登場人物達の心理描写を中心とした内容なので、ちょっとがっかり感はありました。 しかし、様々な人たちの事件に対する見解や意見が多種多様に登場するので、読み手としてはお腹一杯でした。 共感するものもあれば、それは違うんじゃないかと思うのもあるのですが、一概に間違っているわけではないので、言葉に詰まるばかりでした。 物語としては、事件が終わった後から始まります。それぞれの立場から事件の真相を探ろうとします。 犯人の小学校時代の同級生、事件の模様を撮影した男、事件の被害者遺族といった視点から、様々な人と出会うことで、自分自身の心に変化が生じていきます。動機が不明・怒りの矛先が不明といったモヤモヤな心境だからこそ、はっきりしようと奔走します。 〇〇だから犯行に及んだというあらゆる情報が多く飛び交い、結局は自分自身が都合の良いように解釈するのですが、そのあたりのそれぞれの登場人物達の感情のむき出しが丁寧でした。 「取材を多くされているのか?」 「実在の人物がいるの?」 と思うくらい、リアル感が混じっていて、その世界観に引き込まれました。 ネットで検索すれば、あらゆる個人情報が蔓延っています。自分は正義だと思って発信していますが、後に大きな影響を与えます。それは想像以上に拡がり、この作品でもそういった過程が登場するのですが、ネットの恐怖さを改めて感じました。 最後の方では、犯人はこういった理由で犯行に及んだのでは?という推理で終結するのですが、それも確定ではありません。これが濃厚ということで、そこには切なさや不条理がありましたが、いずれにせよ許されざる行為です。 恨みたい気持ちは誰しもあるかと思いますが、みんな踏み止まって生きています。犯人と似た境遇にいたとしても、犯行に及ばない人が大多数です。 犯行を防ぐには、どういった対策が必要か。「人」と接することで別の道が開けるのではと思いました。 この作品でも「人」と接することで、自分自身の奮い立った気持ちが段々と緩和されている描写が描かれていました。 人の温もりって温度は違えども大切だなと改めて感じました。 「悪の芽」を育てるのではなく、「善の芽」が育つ世界であって欲しいなと思いました。

Posted byブクログ

2021/03/08

一気読み。 あぁぁ・・・ツラいよ。 人間の想像力には限界がある。 悪意がなくても人を傷つけることはどうしたってあるし、傷つけられることもある。 絶望することもあるけど、それでも生きていくんだよなぁ・・・

Posted byブクログ