犬のかたちをしているもの の商品レビュー
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女性が女性であるがゆえに抱えるこの痛み、虚しさ、憂鬱、恐怖、わずらわしさ、寂しさ、諦めのようなもの、これを全部持っていない男性は、毎日どうやって暮らしているんだろう。これらが無い生活、どんなに楽で簡単で清々しいだろう。 あるいは男性はこれらの代わりにどんな重みを持って暮らしているんだろう。 きっと全女性が、この話の中で描かれているような重みを持って、それでもあたかも何も無いような顔をして日々を過ごしているんだと思う。フィクションではない。 この話を読んで男性がどんな感想を持つか、話を聞いてみたい。もしも膣とかなんだとかの単語や性的な描写に反応する短絡的な返事しか返ってこなかったら、心の底から軽蔑し、失望すると思うけれど。そうでない話を期待してみたい。 「子どもが欲しい」って、本当は子ども自身その人間じゃなくて、子どもが産まれることによって生じるもの、つまり子どものかたちをしているものが欲しいというのは実際あると思う。 命のうちの何十何%がそういうエゴで産まれるのだろう。それも、親側の自覚なく。 親が子に孫を急かしたりするのも、きっとこういうエゴである場合がほとんどなんじゃないだろうか。他者の力で、自分の人生に輝きを与えたり、煩わしさや不安を拭ったりしてほしいのではないかな。そのままの自分だけでは足りないから、子どものかたちをしているもので自分の愛される要素を補いたくなる、というのもなんともリアル。 エゴで産まれたからといって子の命の価値に影響が出る話じゃないのは当然で、論点はそこではなくて、他人の命を利用して自分の利益を手に入れようという発想、怖いなと思う。エゴを押し付ける対象としてはえぐみが強すぎる。 なのにそれが社会的に普通・当たり前のようになっているの、結構怖い。 「犬のかたちをしているもの」って、きっと愛のことを指しているのかな。 ロクジロウに向けた感情はたしかに愛で、相手を愛するということで、やっぱり自分を愛していなくても人を愛することは可能だよな、と思った。 でもやはり愛されるのは難しくなるのかも、愛されているということを受け取る力が弱いから。 薫の思考回路、行動様式がすべて納得のいく形で接続されていて、人物像があまりにもくっきりしていて物語と思えないくらいだった。 薫の視点からは見えていないものがあるなというのもわかり、絶妙。 言語化能力が並外れているし、なんとも言えない感情が各出来事を通して浮かび上がってくる。 文学賞そりゃとるよなという素晴らしい作品だった。 人との関係性や命、愛、性など色々な題材を取り上げているのだけど、結局のところ1人の人間がどう生きていくかっていうのが本筋のテーマなのかなと感じた。 「明日からどうしようかな、何を見て、何を聞いて、どうやって生きていこうかな。何をよすがに、何のために、何を言い聞かせていれば、まるで自分のために生きているみたいに、息ができるんだろう。」 これに集約されているように思う。 他に振り回されないで生きていけるのがやはり一番清涼感のある幸福かも。 人生、苦しすぎる。
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卵巣の病気で手術をしてから、男性との性交渉を拒むようになった薫。彼女と半同棲生活を送りながら金銭を介し同級生のミナシロさんとの行為の末妊娠させてしまった郁也。その子供を薫に育てて欲しいというミナシロさん。あり得ない設定だけれど、どこか現実味があるような・・・。 愛し合う男女がセックスして子供を育み育てるという、ある意味「普通」とされる社会的な考えから外れているけれど、どこに価値観を抱くかはそれぞれなのかも。高瀬さんの女に生まれた性による納得いかない怒りが伝わってくる。その後の3人の行方が気になる。
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全裸でトイレで陰毛を処理する女の描写でこの小説が始まった時すぐに図書館のおばさんのところに返しに行こうと思いましたが、目的の駅まであと15分を惰性で読み続けました。帰りも、次の日も惰性で読み続けているうちに全部読んでしまいました。 主人公にことを可哀想だと思ったり、うんうんそ...
全裸でトイレで陰毛を処理する女の描写でこの小説が始まった時すぐに図書館のおばさんのところに返しに行こうと思いましたが、目的の駅まであと15分を惰性で読み続けました。帰りも、次の日も惰性で読み続けているうちに全部読んでしまいました。 主人公にことを可哀想だと思ったり、うんうんそうだと思ったり、え〜っなんで?と思ったりしているうちに終わってしまいました。 はじめからきっとこうなりそうだという結末はいただけません。そして主人公と不幸な彼がこれからどう暮らしていくのか。興味がわきます。
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何とも感想に困っています。 潔い傍若無人ぶりのミナシロさんも、女性二人に振り回される郁也も何となく判るのです。でも主人公に入って行けない。 子供が苦手なのに、両親を喜ばせる為だけに子供を貰おうとすることも判らないし、作中で主人公が「郁也のことは『たぶん』愛している」と考えるですが...
何とも感想に困っています。 潔い傍若無人ぶりのミナシロさんも、女性二人に振り回される郁也も何となく判るのです。でも主人公に入って行けない。 子供が苦手なのに、両親を喜ばせる為だけに子供を貰おうとすることも判らないし、作中で主人公が「郁也のことは『たぶん』愛している」と考えるですが、自分の気持ちがなんで「たぶん」なのか判らない。 どこか思考経路が合わないのです。 そんな訳でなんだか入り込めないまま読了しました。
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よくわかりすぎる。赤ちゃんが可愛いと思えないこと、犬へは見返りなしに純粋な愛を注げて幸せを願えること。そんな人が私だけじゃなかったと知れたのも嬉しかった。
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主人公はかつて自分が飼っていた犬に対しての無償の愛を真実の愛と思っており、それと同等に自分の恋人を愛せているのか?と自問自答している。それは性行為をしたくないという自分の主張を受け入れてくれている恋人に対して、後ろめたさを感じているからなのだろうけど、はたして動物に対する愛情と人間に対する愛情を比較すること自体が正しいのかどうか疑問に思った。今のままではいけないから変わらなければいけないと分かっていてもなかなか変われないし考えることから逃げたくなる感情はとても共感できた。
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ありえないような設定を淡々と。 恋愛、セックス、結婚、出産、当たり前の流れに逆らって、それでも愛があるとなんとなく信じていて、でも彼は他の女性を妊娠させ、 きちんと悲しんだりしない分、逆になんか切ない。 いわゆるセックスのない愛、いろんな理由があるだろうからそんなこともありでよい...
ありえないような設定を淡々と。 恋愛、セックス、結婚、出産、当たり前の流れに逆らって、それでも愛があるとなんとなく信じていて、でも彼は他の女性を妊娠させ、 きちんと悲しんだりしない分、逆になんか切ない。 いわゆるセックスのない愛、いろんな理由があるだろうからそんなこともありでよいけど、ノーマルな健康体の男女だとやっぱりそれは不自然なのかと…
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人間の赤ちゃんより犬の方が可愛いじゃん。って自分も思ってた時、昔ありました。作者の描く独特の世界観、嫌いじゃないし、読ませます。 自分自身の嗜好、性的な描写、ここまで曝け出すことって、かなりの勇気とエネルギーが必要で、それが作家の覚悟であると 思う。遠野遥を読んだ時にも同じ感覚を...
人間の赤ちゃんより犬の方が可愛いじゃん。って自分も思ってた時、昔ありました。作者の描く独特の世界観、嫌いじゃないし、読ませます。 自分自身の嗜好、性的な描写、ここまで曝け出すことって、かなりの勇気とエネルギーが必要で、それが作家の覚悟であると 思う。遠野遥を読んだ時にも同じ感覚を覚えた。また、好きな作家が増えました。
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おもしろかった さいごの展開おもしろかったからもうちょっと読みたかったかも いちばんいいのは愛に関する文章
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子供を産めるか分からないからだ、 セックスが続かない、 薫の境遇は、おそらく大多数の男性から見ると『女』として愛してもらえない。 そんな薫と付き合う郁也がお金を払って女を抱く、そして妊娠させてしまう。挙句の果てには子供をもらって欲しい、という。 薫のどこか一歩引いた目線は、そうで...
子供を産めるか分からないからだ、 セックスが続かない、 薫の境遇は、おそらく大多数の男性から見ると『女』として愛してもらえない。 そんな薫と付き合う郁也がお金を払って女を抱く、そして妊娠させてしまう。挙句の果てには子供をもらって欲しい、という。 薫のどこか一歩引いた目線は、そうでないと自分が壊れてしまうための予防線で、生きづらさから身を守る方法で。 それでも郁也を、生まれてくる子供を愛そうと葛藤する様がとてもよく描かれていたと思った。
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