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犬のかたちをしているもの の商品レビュー

3.7

85件のお客様レビュー

  1. 5つ

    15

  2. 4つ

    30

  3. 3つ

    27

  4. 2つ

    6

  5. 1つ

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2023/08/20
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

「子どもがほしいのと、子どもがいる人生がほしいのは、同じことだって思う?」 「わたしのほしいものは、子どもの形をしている。けど、子どもではない。子どもじゃないのに、その子の中に全部入ってる。」 性行為をする/しない、子どもが欲しい/欲しくない、子どもを産む/産まない、子どもを持つ/持たない……状況や考え方は人によって様々だ。 主人公薫は、自分の意見や希望が、恋人や家族などの世間とのずれていることを自覚している。 恋人の郁也が他の女性を妊娠させてしまったことで、それは悲しいことでもあるが、現状の問題の打開策でもあるようにも見え、ぐるぐると悩む。 薫は世間一般の「形」に沿うような行動にこだわっているように見える。泣くべき場面だから泣いたり、怒るべき場面だから怒ったり。終盤で「キスの形」の手順を冷静に考えているところには笑ってしまった。 子どもを持つ覚悟はないけれど、持たない覚悟もない。子どもがいたら、親が喜ぶな、なんて考えたりする。そのあたりの感覚はよくわかる。 薫がやけに色々な人から撫で回されているのが不思議で印象的。

Posted byブクログ

2023/08/11

集英社文庫 ナツイチ2023の1冊のハードカバー版。声優の梶裕貴さんが特設ホームページで一部を朗読されています。 本の見返しは茶色。ページをめくると扉にはトイレットペーパーの絵が描かれています。これが何を意味をするのか予想しながら読み始めました。 いきなり薫が自宅のトイレで毛の処...

集英社文庫 ナツイチ2023の1冊のハードカバー版。声優の梶裕貴さんが特設ホームページで一部を朗読されています。 本の見返しは茶色。ページをめくると扉にはトイレットペーパーの絵が描かれています。これが何を意味をするのか予想しながら読み始めました。 いきなり薫が自宅のトイレで毛の処理をしているシーンから始まります。それを見ている郁也。2人の距離感と関係がよくわかります。 高校の時に卵巣の手術をした薫には、半同棲になって1年のパートナー、郁也がいる。薫にはセックスにネガティブなイメージがあり、セックスレスの関係になることを郁也が了承の上、2人は付き合って3年になる。 郁也にはお金を払って体のだけの関係を持ってた女性がいて、そのミナシロが郁也の子を妊娠したと、薫は告げられる。ミナシロはあっけらかんとしいて、子供は産みたいが育てたくないので、薫に引き取ってもらいたいと言う。薫は引き取るかどうか返事をしないまま、ミナシロと時々会うことにする…。 高瀬準子さんの作品は『水たまりで息をする』を読んで以来の2冊目。2つの物語とも登場人物の行動や考え方に共感できない、という共通点が私にはありますが、この『犬のかたちをしているもの』は、その共感できないことを楽しめた作品です。 薫と郁也が子供を引き取るかどうかを悩む時点で、あり得ない話です。以前の私なら、「リアルじゃない。面白くない」と感じたと思いますが、主人公の心の動きを最後まで読んでみたいと思わせられる何かがこの本にはあります。 物語の半分を過ぎたところで、郁也をちゃんと愛せているかを薫がかつて飼っていた犬と対比させて考える場面が出てきます。この場面以降、恋人が他人との間にできた子供を引き取るかどうかより、体と心をとおして愛情とはどういうことかを考えることがメインテーマだったんだな、と、気付かされて、最後まで一気読みしました。 ずっと暗い雰囲気にもかかわらず、読後感はすっきり。おそらく私がそうなって欲しいという結末で終わったからだと思います。 薫、郁也、ミナシロさんが、いびつながらも愛を与えて生きて行くんだろうな、と想像して本を閉じました。

Posted byブクログ

2023/07/31

なんなんだこれは。 すぐに読めてしまうほどの厚みなのに それ以上に長い時間、答えの出ないことを考えてしまう。 子供を産んだらそうなるんだろうとは思っていたけれど これでいいのか。 嫌な気持ちとも違う、なんとも言い難い読後感。 でも読んで良かったと心から思う。

Posted byブクログ

2023/07/09

高瀨さんの作品を読んでいると、最初は読みやすい文章に心地よく身を委ねるのですが、そのうち、自分がどこに連れていかれるのか、不安な気持ちになります。 頭が良く、社会人としてもきちんとしている薫と郁夫の、噛み合わない心の不安定さに目が離せませんでした。 郁也視点で描かれた物語を読んで...

高瀨さんの作品を読んでいると、最初は読みやすい文章に心地よく身を委ねるのですが、そのうち、自分がどこに連れていかれるのか、不安な気持ちになります。 頭が良く、社会人としてもきちんとしている薫と郁夫の、噛み合わない心の不安定さに目が離せませんでした。 郁也視点で描かれた物語を読んでみたいです。

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2023/06/20

子供の頃から飼っていた犬を愛していた。この子が幸せでありますように、と祈るような気持ち。自分にはなにも返ってこなくても、この子にいつもいいものがありますように。そんな気持ちが愛だとしたら、恋人に対する気持ちは本当に愛なのだろうか? 恋人がお金で関係を持った相手を妊娠させてしまった...

子供の頃から飼っていた犬を愛していた。この子が幸せでありますように、と祈るような気持ち。自分にはなにも返ってこなくても、この子にいつもいいものがありますように。そんな気持ちが愛だとしたら、恋人に対する気持ちは本当に愛なのだろうか? 恋人がお金で関係を持った相手を妊娠させてしまった。その相手は子供は嫌いだし育てたくはないけど中絶は怖いから嫌だ。貴方の恋人と一時的に婚姻届をして産んでから別れますから子供を育てて貰えませんか?こんなバカバカしい話しをいきなり持ちかけられたら大概の女性なら速攻恋人と別れて距離をとるだろう。だけど主人公の薫は付き合った男性とは一定期間を過ぎるとセックスをするのが嫌になってしまう性質があり、卵巣の病気も持っている。だから子供を妊娠して育てるということが出来ないかもしれない、そんな事情がある。なのでなぜか断れずに恋人の浮気相手とその後も会って話をしたりする。実家に子供を連れて帰るための脳内シュミレーションをする…。こんな打算的なこと、上手くいくはずないし馬鹿げている、と思いつつ、なぜだか素通り出来ない問題が見え隠れしてて、結末が気になってついつい最後まで読んでしまいました。 うーん、恋人の郁也の言い分「お金を払ってセックスしたけど相手のミナシロさんを愛していたわけではない。だから浮気では無い。」これはまったく理解できない。男の人にとって性欲を処理することはいたし方ない事だとしてだからといって恋人がいるのに女の人をお金で買っていいのか?いやそもそも、こんな人は、恋人や奥さんとと普通にセックスするのにしても、逆に考えれば愛情無しでも出来るわけだ。セックスと愛はかならずしもイコールでは無い。なんとなく薫がセックスが嫌になる理由がわかります。欲の吐き出しにされているような気がして、だから大切にされていないと感じてしまうのでしょう。 ハッピーエンドにはならないだろうな、と予想してましたが、やはり。ミナシロさんも郁也も最悪だしヘタレですね。 読んで気分のいい物語ではありませんが、いろいろ考えさせられてしまいました。

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2023/06/16
  • ネタバレ

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とても好きな小説。 もともと内省的な主人公の、心情を深く描写した作品が好きで 特にこの主人公(薫)は共感できるので唸ってしまう。 日頃、口にしにくい感情だからなおさら。 全部が全部共感ではなく、 とくにラストは不穏な感じだったけど、 そこも含めて好きだった。 また読み直したい作品。

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2023/05/23

女性にとって性行為とは何か、子を持つとはどういうことか、私は犬をかわいいと思うように子どもをかわいいと思えるのか。 主人公が自分と似たような考え方をするタイプで、もしも自分が子どもを持たない人生だったら、きっとこんなふうに考えていたんだろうなあと想像した。

Posted byブクログ

2023/05/03
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

図書館にて。 結局郁也はどうしてミナシロさんとセックスしたんだろう。 私が主人公の立場ならそこが一番気になる気がするし、全編を通して消えなかった疑問だ。 別にいいと言いつつやっぱりしたかったんだねと、主人公がちゃんとしたくないと明かしていたのと同じ立ち位置に立って、自分のしでかしたことの言い訳を正直に言ってほしいと思ったと思う。 結局読んでいて、この郁也という人にそれほど魅力を感じなかったからかもしれない。 体の関係を望まない自分を受け入れておいて、ほかの人と関係を結び、子供が出来ちゃったから君と一緒に育てたいという、そんな人。 そこがわからないとすごく不安で、一緒にいるのが怖くて逃げたくなってしまうだろうなと思った。 犬を愛するという気持ちは絶対に裏切られないという安心感に近いような気がする。 人間相手よりできることが限られている分、求めるものも少ないし。 犬への愛と人への気持ちを比べてしまったらきついだろうな。そっちの方が楽だから。 犬と暮らせて生活できたら、そっちの方が幸せなのかもしれない。こんな風な仕打ちに合うこともなくて。 でも人間として、人間と生きていかないといけない。 ラストの途方に暮れたような記述は希望のにおいがしない。 傍観しているといったところか。 でも今回手に入らなかった子供がもしできてしまったとしたら、今度はもうそんな悠長なことは言っていられない。 そうしたらどうするのだろう。 何かいろいろともやもやする後味。

Posted byブクログ

2023/04/15

出産報告メールに赤ちゃんの写真が添付されていたら、かわいいと思うのが普通。 赤ちゃんを欲しいと思うのは当たり前。 思えない、ということは隠さないといけない。 そんな、隠さないといけないと思って人に言えなかったことが描かれていて、ドキドキした。 最後のメールにスカッとした。

Posted byブクログ

2023/02/15

第43回すばる文学賞受賞作品。 主人公は間橋薫・30歳。 恋人の田中郁也と半同棲のような生活を送っているが21歳で卵巣の病気を患ってから性交渉に抵抗を持っている。 そんな薫の前に現れたミナシロユキ。 「お金を貰いSEXしていた郁也に愛情はないがミスで妊娠したので子供を貰って...

第43回すばる文学賞受賞作品。 主人公は間橋薫・30歳。 恋人の田中郁也と半同棲のような生活を送っているが21歳で卵巣の病気を患ってから性交渉に抵抗を持っている。 そんな薫の前に現れたミナシロユキ。 「お金を貰いSEXしていた郁也に愛情はないがミスで妊娠したので子供を貰って欲しい」 ミナシロの無機質で感情を伴わない発言に機械的な物を感じ恐ろしくなる。 「子供を1度でも産めばクリア」の言葉にも人としての感情の欠落を感じる。 この出来事を通し主人公・薫の心の揺れと逡巡が繊細に描かれている。 読後は人間の不完全さを痛感する。

Posted byブクログ