森があふれる の商品レビュー
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面白かったです。 作家である夫から小説にも描かれた妻が、体から植物を芽吹かせ森になっていく。 妻である森に侵食されていく寝室、そして生命力の強い樹木の生い茂る街…美しい、と思ってしまいました。 人間的に冷静さのある夫と噛み合わないことが一番の理由かなと思いました。浮気はきっかけでしかないのかな。琉生の実を食べた夕湖も森になるのでは…? 作家の埜渡は庵野秀明監督に変換されて読んでいました。最後にこちらは花を咲かせるところとか。 「醜さを見つけたら、許すんじゃなく、目を覗いて話し合いたい」という琉生の言葉にとても共感しました。無条件に許すだけが愛ではない、よな。。 あと、琉生が読みたいと語った物語はわたしも読みたいです。 変態していく妻、というと吉村萬壱の「臣女」もだったな…と思いましたが、臣女は臭ってくるくらいぐちゃぐちゃしていました。 こちらは内面はドロドロしていても、清涼な森林の空気を感じました。 どちらも愛です。
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小説家である埜渡徹也と、ある日突然発芽した妻の琉生の愛憎物語。 とても特殊な状況を描きながら、その本質はある夫婦の関係性を描いている。 お互い屈折しながらも理解し合おうとする二人、ラストはハッピーエンドに感じた。 彩瀬まるさんのイマジネーションが溢れる作風と文体が好きで、今作はそ...
小説家である埜渡徹也と、ある日突然発芽した妻の琉生の愛憎物語。 とても特殊な状況を描きながら、その本質はある夫婦の関係性を描いている。 お互い屈折しながらも理解し合おうとする二人、ラストはハッピーエンドに感じた。 彩瀬まるさんのイマジネーションが溢れる作風と文体が好きで、今作はそれが炸裂していて嬉しい。
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日本経済新聞社 小中大 記事利用について 印刷 印刷 森があふれる 彩瀬まる著 割り切れない感情 かたちに 2019/10/5付日本経済新聞 朝刊 作品を書くことと、登場人物のモデルとして作品に書かれること、さらに男女の性差と思い込みから生じる問題を、彩瀬まるの小...
日本経済新聞社 小中大 記事利用について 印刷 印刷 森があふれる 彩瀬まる著 割り切れない感情 かたちに 2019/10/5付日本経済新聞 朝刊 作品を書くことと、登場人物のモデルとして作品に書かれること、さらに男女の性差と思い込みから生じる問題を、彩瀬まるの小説『森があふれる』は起伏のあるストーリーにのせ、視点人物を移しながら語る。中心となるのは作家の埜渡(のわたり)徹也とその妻・琉生(るい)だ。ある日、琉生は植物の種を大量に飲む。翌日、毛穴から芽が出てきて、身体は異様な変化を遂げる。植物は急速に育ち、やがて森となって周囲を侵食しはじめる。 埜渡を担当する編集者の瀬木口やその後任の白崎などが登場し、出版社の仕事が描かれる。編集者と作家の関係が描き込まれたこの作品は、仕事をめぐる小説として読める。ストーリーの中の現実が、執筆の仕事をめぐって進行するそのすぐそばで生じる琉生の変化は、タイトルが示す通りまさに「あふれる」現象だ。人々のすれ違いが亀裂を生み、限界を超え、言葉にならない感情と思考が「森」として「あふれる」。 だから、この「森」をたとえば持ちこたえられなくなった感情がかたちになったもの、と呼ぶことは可能だろう。それが身体のレベルで起こる変化として描かれる。言葉になりにくい、未分化で割り切れない感情と思考が、森のイメージに託されている。 カルチャースクールで出会う人妻の木成(きなり)も含めて、「女性」に対する埜渡徹也の考え方には相当に蔑視的な傾向がある。人物の設定として敢(あ)えてそうされていると捉えたい。それだけに、後半での徹也(呼称が名のほうに変化する)と琉生の対話に示される、琉生なりの対決の仕方と成長は印象深い。琉生は、徹也にこう伝えるのだ。「登場人物の役割分担や動き方に、性別が影響しないお話をもっと読みたい」。 琉生は気づいている。「もっと広くて色んなことが起こっている現実に対して、物語がすくいとっている領域が、ものすごく狭いんだ」と。「君は君だけの本棚を作るべきだ」などと徹也は提案するが、「森」を「あふれ」させる琉生は、徹也とは別の次元で多くを感知している。ホラーっぽさと、ジェンダー論の要素が、仕事をめぐる環境をベースに響き合う。本書が描き出すように、現代の森は、人の中にあるのだ。 《評》詩人 蜂飼 耳 (河出書房新社・1400円) あやせ・まる 86年千葉県生まれ。作家。2010年「花に眩む」でデビュー。著書に『くちなし』『珠玉』『不在』など。 このページを閉じる 本サービスに関する知的財産権その他一切の権利は、日本経済新聞社またはその情報提供者に帰属します。また、本サービスに掲載の記事・写真等の無断複製・転載を禁じます。 NIKKEI Nikkei Inc. No reproduction without permission.
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作家・埜渡徹也の妻・琉生は、突然、大量の植物の種を飲み、倒れる。翌日、彼女の毛穴から皮膚を突き破って出てきた芽は、やがて森となって街をも浸食しはじめる。 ジェンダーをテーマにした作品。20代後半までの私の中では大問題だったのに、憑物が落ちたかのように鳴りを潜めてしまっている今は...
作家・埜渡徹也の妻・琉生は、突然、大量の植物の種を飲み、倒れる。翌日、彼女の毛穴から皮膚を突き破って出てきた芽は、やがて森となって街をも浸食しはじめる。 ジェンダーをテーマにした作品。20代後半までの私の中では大問題だったのに、憑物が落ちたかのように鳴りを潜めてしまっている今は、艱難辛苦で読了。しかし、徹也の一族が経営している呉服店の後継ぎに徹也が選ばれなかった切り口は妙に心に残りました。 徹也には朴念仁の兄には無理だろうと侮りがあり、自分の方が店主として有望だろうと疑っていなかった。ところが、母は後継者に兄を選んだのだ。怒る徹也に母が諭す。「お前の着物を選ぶコーディネイトのセンスは見事だが、お前は人間を見るまなざしにどこか冷たいものがある。お客の人生、苦労、喜び、目標などそういったものへの興味や親しみがない、まるで人形を扱うように、その容姿だけを見て着せ替えをし、自分が想う美しさを表現している。それは商売人の仕事じゃない。いくら手付きがおぼつかなくともお客の人生に共感し、美しさではなく納得を追い求めて、お客と一緒に着物を選んでいくお兄ちゃんの方がずっと稼業に向いている」。「家業には向かないが、お前には確実に何かの才能がある。お父ちゃんにもお兄ちゃんにもない特別な力だ。それを生かす方法を探しなさい。冷たいと言ったのは言葉が悪かったね。冷静なんだ。情で動かない。他の人間なら臆して捨てられないものを捨てられる力だ。お前のそのまなざしが冷たいのではなく、冷静で頼もしいと受け止められる場所が必ずある」 果たしてそれは家業(商売)だけに通じるのだろうか。彼は自分の妻をモデルに私小説めいた著書を上梓して文学界ではそれなりの名声を得た。編集者、読者は小説に描かれた彼の妻や暮らしを勝手に想像し妻の精神はバランスを崩し始めたのだから。女友達は、冷たいと言われたことにショックを受けた徹也に「本能からくる愛より、理性で保とうとする愛の方がずっと難しくて立派だと思う」と慰めのような言葉を洩らすのだが・・・。客観的な手厳しい母の愛を見た。
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大量の植物の種を飲み込んだ作家の妻。彼女の皮膚を突き破って出てきた芽は、森となって成長していく。異形の愛の行方は・・・
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夫である小説家の題材にされ続けてきた妻がとある日植物の種を食べ、広大な森へと化してしまう。 その有り得ない事態に直面した人々の語りから見えてくる、男と女のそれぞれの生き様を描いていく連作短編集です。 身体から発芽して森と化す、という事態がまるで日常のすぐ隣にある出来事のようなフ...
夫である小説家の題材にされ続けてきた妻がとある日植物の種を食べ、広大な森へと化してしまう。 その有り得ない事態に直面した人々の語りから見えてくる、男と女のそれぞれの生き様を描いていく連作短編集です。 身体から発芽して森と化す、という事態がまるで日常のすぐ隣にある出来事のようなフラットな異常としてそこにあり、事実関わり合うことになる人々は、そんな事態よりも自分自身の人生に悩み苦しんでいるのです。男らしくとは、女らしくとは。夫婦のありようとは。自覚していない性差による無意識の差別とは。そういった、何でもない日常生活の中に隠れている歪さや不満に気づき、乗り越えようとしたり、呑み込まれてしまったり、と生々しく感情を揺らしていきます。ファンタジーな設定から、匂い立つように立ち昇ってくる人間のサガとでもいうものが、じっくりと描かれているように思いました。 この夫婦の間には、確かに愛情はあったのだけれど、完全にわかりあえはしないでいた。けれども、それでも夫婦でいたい、ともに生きていきたいという情念、むしろ怨念に近いその想いの強さが、それこそ植物のようなたくましさ、生きる輝かしさであるように、感じたりしたのでした。
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大小島真木氏の表紙に惹かれて手にとった本だ。 ちょっと世にも奇妙な物語っぽさを感じた。 作家の妻が樹になるというギャグなのかホラーなのか掴みどころのない展開に、一章から参ってしまったが、要約するとジェンダー問題とか痴情のもつれの話っぽい。 2章から途中までは割と普通のドラマパー...
大小島真木氏の表紙に惹かれて手にとった本だ。 ちょっと世にも奇妙な物語っぽさを感じた。 作家の妻が樹になるというギャグなのかホラーなのか掴みどころのない展開に、一章から参ってしまったが、要約するとジェンダー問題とか痴情のもつれの話っぽい。 2章から途中までは割と普通のドラマパートだったのでついていけたけど、終章は夫婦の化かしあいというかマウントの取り合いみたいな会話が長くてダレてきつかった。 アホらしくなって5ページくらい読み飛ばしてしまった。
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思いも寄らない、愛の形。 「それはあなたを思い過ぎて変わり果てた私の姿」 この歌が、ずっと流れて途切れることはなかった。 この選択が可能であれば、わたしも選ぶだろう。 とても悲しい。
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あらすじから頭おかしいと思って手に取ったけど、中身も中々に頭おかしくて、頭おかしいのに伝えたいメッセージがはっきりと伝わってきて、すっきりとした終わり方ではないのに、なんとなく読み終わったあとすっきりした。 男と女、妻と夫の関係というテーマは、永遠に文学の中で戦い続けるものなんだ...
あらすじから頭おかしいと思って手に取ったけど、中身も中々に頭おかしくて、頭おかしいのに伝えたいメッセージがはっきりと伝わってきて、すっきりとした終わり方ではないのに、なんとなく読み終わったあとすっきりした。 男と女、妻と夫の関係というテーマは、永遠に文学の中で戦い続けるものなんだと思ってる。
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「愛していた、だから許せない」 妻が発芽して森になる。 愛しい夫を想うあまり、草木の種を飲み込み全身の毛穴から緑の芽を噴き出し、次々と樹木があふれだす。 妻は秘かに生きている。 身の回りに起こった煩わしい出来事を全て胸に仕舞い、ひっそりと、けれど確実に。 葉を揺らし、湿り気をたっぷり含んだ木々の香りを漂わせ膨らみ続け、更なる森を生み出すのだ。 濃密すぎてくらくらする。 森に妻の想いがあふれていて、息苦しい。 けれどラストの展開には、してやったり、とちょっとにんまり。 表紙がうっとりする位、素敵。 こんな森なら部屋にあってもいいかも。
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