我らが少女A の商品レビュー
亡くなる人の事情を後から「捜査」することの大変さを改めて思う。関係者もさまざまな形でその生を終え、また、新たに生まれ、そして、生まれてくる命が示唆するものは何であるかとかとりとめのないことを考えさせられる。文章に少しくどさがあるなと思えば、新聞連載小説だとこと、納得。
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お久しぶりの合田シリーズ。 Amazonでは評価が割れていますが、私は好きです。 ある年のクリスマスの朝、一人の老女が公園で死体となって発見される。 合田は責任者として捜査にあたるが事件はお宮入りとなる。 12年後、池袋である若い女性が同棲相手に殺害される。 被害女性の上田朱美...
お久しぶりの合田シリーズ。 Amazonでは評価が割れていますが、私は好きです。 ある年のクリスマスの朝、一人の老女が公園で死体となって発見される。 合田は責任者として捜査にあたるが事件はお宮入りとなる。 12年後、池袋である若い女性が同棲相手に殺害される。 被害女性の上田朱美は、同棲相手の男に水彩絵の具を見せ、かつて老女が殺害された場所にあったと話していた。 それを知った警察は老女殺害事件の再捜査にあたる。 女優志望だった上田朱美に焦点を置いて改めて捜査を進めると、当時は見えなかったものが浮かび上がりー。 老女殺害の真相を解き明かすミステリかと思いきや、な流れなので、人によっては何これと思われる方もいるかもしれません。 謎解きの要素はほとんどなく、犯罪が身近に起こった場合の関係者の心理をリアルに描写した作品なのだと思います。 そこには読み慣れた、あるいは見慣れたドラマティックな謎解きや真相がハッキリする爽快感はなく、ただただ心にドロリとした昏いものを落とされるだけであることを示しています。 中学時代の元美術教師を亡くしたかつての高校生達が年齢的には大人になり、事件のことをいくらか忘れてきた頃に同級生の上田朱美が殺害され、封をしてきた思春期の思い出が1枚ずつペリペリとめくられるように記憶を甦らせていく、その細かすぎる描写は高村氏ならでは。 読み終えて、レビューを書く私の文体も完全に影響を受けています。 ある意味、主人公である上田朱美よりも強く印象に残ったのが浅井忍。 精神障害手帳を持つ彼の生真面目さとひたむきさと純粋さ、そして散らかる思想は読んでいて本当に胸を打たれます。 「マークスの山」のマークスを思い出し、またあの作品を読みたいと思いました。 まとまりのあるレビューを書くのが難しい1冊ですが、 それは私にとっては誉め言葉。 読み応えのある作品でした。 2020年27冊目。
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合田雄一郎シリーズ。旅行のお供に読んでいる高村薫。同棲中の男に殺された上田朱美が絵の具のチューブを持っていたという話から、12年前に起きた絵画教室の老教師の殺人事件を洗い直していくさまを、被害者の家族やその同級生などの暮らしを描きながら、少女Aである上田朱美が浮かび上がってくる、...
合田雄一郎シリーズ。旅行のお供に読んでいる高村薫。同棲中の男に殺された上田朱美が絵の具のチューブを持っていたという話から、12年前に起きた絵画教室の老教師の殺人事件を洗い直していくさまを、被害者の家族やその同級生などの暮らしを描きながら、少女Aである上田朱美が浮かび上がってくる、という筋だが、どっしりした文体が妙にあって読み応えがあった。前作の「冷血」に似た印象かもしれない。
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高村薫「我らが少女A」読んだ。あー高村薫老いた…泣。合田雄一郎!と思ってわくわくしてたら…まあ新聞連載だし毎日だし読者が年寄りなの意識して内容のレベル下げたとしても社会風俗の固有名詞が、中年が頑張って遅れてないよ!感を出してるやつで、もはやそれは違和感にしかならない。哀しい…
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若い女性が同棲相手に殴り殺される。 犯人はすぐに自首し、事件はそれで終わるはずだった。 だが、被害者が12年前起った未解決の殺人事件の関係者だったため、止まっていた時間、あるいは薄れかけていた記憶が再び蘇る。 12年前、絵画教室を主宰していた老女が公園で殺された。 当時事件の捜査責任者だった合田雄一郎は、今回直接には捜査をしない。 彼は今、警察大学校の教授であり、捜査の一線から退いている…のはいいんだけどさ、合田くん、57歳? ひゃ~! 捜査の時に白いスニーカーの靴紐をキュッと結んで、歩いて丹念に事件を捜査するあの合田くんが、57歳…。 感慨深いものがあるなあ。 さて、否応もなく事件の関係者になった人たちの視点で、あらゆる角度から語られる事件は、一向に進展しない。 何しろ12年も前のことだし、人は覚えていたくないことは無意識に記憶から消すこともあるし、ひとりの人間が知っている事件の周辺なんてそもそもそれほどないのだから。 しかし、昔と違って今はSNSの向こうから簡単に過去が現れることがある。 12年前ですからメールはありましたね。 ツイッターはどうだろう。 しかしインスタやLINEはなかったはず。 ミニスカート、生足、援助交際…。 ちょっとした遊びだったのが、親に対する反発だったのが、どこで一線を越えてしまったのだろう。 しかしこの小説では、それすらもテーマではない。 大人も子どもも満たされなくて、家族は機能不全に陥っていて、そんな時代の話と言えばいいのか。 殺された女性・朱美は背が高く、運動神経が良く、母子家庭で、絵が得意な少女だった。 その友人の真弓は殺された絵画教室の先生の孫で、冷たい無関心が行きかう家庭に反発して、塾をさぼったりするが、基本的には成績の良いごく普通の少女。 真弓をストーカーする浅井忍は、ADHDであるため自分の気持や行動をうまく説明することができない。 真弓の祖母が殺されたとき、忍は参考人として警察に拘留される。 そのことによって彼の家庭は壊れてしまったと言える。 合田はそのことに多少の悔いは残るものの、事件の捜査のためと自分に言い聞かせる。 500ページを過ぎても、犯人の確証はつかめない。 結局この事件は迷宮入りで終わるのだろう。 朱美の母や忍の父が追い詰められていく様子がどんなに苦しくても、真弓の母の孤独がどれほど痛ましくても、彼らはそれぞれの人生をおくらなければならない。 世間で言われる少女Aとは、結局上っ面だけの存在で、血の通った彼女はもう生きてはいない。 しかし気味が悪いのは、いつまたネット上で少女Aとして復活してしまうかわからないこと。 そしてネット上でも極気軽なメッセージのやり取りで簡単に本人や所在が特定されてしまうこと。 一度流れてしまった情報は、消えることがないこと。 実はとても恐ろしい時代に生きているんだなあ。 合田くん、知り合いの高校生たちとモンストなんかやっちゃって、すっかり丸くなったなあとしみじみ。
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文体は、「文学」。それも、「純文学」。 それでも、ぎりぎりミステリー。 解決しないところ、真相がわからないところ、不満を持たれるかもしれないけれど、文体や心理が読ませる。
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言葉の言い回しが難しいのと散々引っ張った結末がそれですか、ってかんじ ADHDの忍の脳内がぶっ飛んでる書きかたが面白かった
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このストーリーはもはやこの作者が得意とするものであり、つまらない煽り文句なぞまったく必要としない。人のさがを感じさせる作りに、しばらくぶりに圧倒されている状態である。
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『マークスの山』に始まって、合田雄一郎も遠くにきたんだあ・・・とちょっと感慨に耽ってしまった。だってもう赤いちゃんちゃんこ目前なんだもの!最初は白いズックがどうの~とかじゃなかったっけか。それが歳もだけれど、モンストしてたりするし。でも元義兄との仲良しぶりは相変わらずで、そこは変...
『マークスの山』に始まって、合田雄一郎も遠くにきたんだあ・・・とちょっと感慨に耽ってしまった。だってもう赤いちゃんちゃんこ目前なんだもの!最初は白いズックがどうの~とかじゃなかったっけか。それが歳もだけれど、モンストしてたりするし。でも元義兄との仲良しぶりは相変わらずで、そこは変わらないんし。 本を読み終わって、あれこれって合田は主人公じゃないんだ、とビックリ。それでも「敢えて言えば土地が主人公」という筆者の言葉になるほどねぇと納得。ここまで実在の土地や固有名詞が出てきたら、そこに住んでいる人、知っている人にはストーリーとは別に面白く読めるんだろうなあ。
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合田雄一郎シリーズということだが、本書から読み始めた。 2017年の朱美の死を発端にした登場人物たちの情景が幾重にも重なって12年前の元美術教師の殺人事件の捜査が急展開していく。 その当時の世代の息遣いが特にゲームで伝わってくる。 とはいうものの、登場人物が亡くなりすぎる感じと、...
合田雄一郎シリーズということだが、本書から読み始めた。 2017年の朱美の死を発端にした登場人物たちの情景が幾重にも重なって12年前の元美術教師の殺人事件の捜査が急展開していく。 その当時の世代の息遣いが特にゲームで伝わってくる。 とはいうものの、登場人物が亡くなりすぎる感じと、結局何がどうなったから事件が起きたのかハッキリせず、モヤモヤとする。 21-5
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