図書室 の商品レビュー
◆もし他の人がみんな死んだらどうする?◆ 大事件ではないけれど、何度も思い返している記憶ってありませんか。本作の語り手が雨の日に思い出すのは、小学生の頃に通った古い公民館の小さな図書室にまつわる出来事。そこで出会った少年と、人類が滅びた世界でどうやって生きるかを考えた… こんな...
◆もし他の人がみんな死んだらどうする?◆ 大事件ではないけれど、何度も思い返している記憶ってありませんか。本作の語り手が雨の日に思い出すのは、小学生の頃に通った古い公民館の小さな図書室にまつわる出来事。そこで出会った少年と、人類が滅びた世界でどうやって生きるかを考えた… こんな突飛な空想を真剣にしていた頃が私たちにもきっとあった。そう、今ではすっかり忘れてしまっている些細なことが今の自分を形作っているのだ。過去を前向きに見つめ直せる小説。
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説明がつかないけどすごく好き。朴訥とした文章が好き。風景、記憶の切り取り方が私と似ている気がする。最後のあの波は良かった。のラストになんだか泣きそうになる。 人が一生をかけて手に入れたいと願う幻のキノコみたいなものをこの人は小学生で手にしてしまった。この人は、このまま一生ひとりな...
説明がつかないけどすごく好き。朴訥とした文章が好き。風景、記憶の切り取り方が私と似ている気がする。最後のあの波は良かった。のラストになんだか泣きそうになる。 人が一生をかけて手に入れたいと願う幻のキノコみたいなものをこの人は小学生で手にしてしまった。この人は、このまま一生ひとりなんじゃないかな。
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一気に読んだ。読みやすい。記憶のこと考えるきっかけもらった。ノスタルジックで人に対して優しい視点のお話だった。
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一人暮らしの女性が、40年前くらいの小学生だった頃を回想する話とエッセイがひとつ。 スナック勤めの母親。でも、寂しい小学生時代とは感じられなかった。この子には図書室があった。猫もいた。母の作ってくれたカレーもあった。 母親を早くに亡くしてしまっても、引き取ってくれた親戚の人達は良...
一人暮らしの女性が、40年前くらいの小学生だった頃を回想する話とエッセイがひとつ。 スナック勤めの母親。でも、寂しい小学生時代とは感じられなかった。この子には図書室があった。猫もいた。母の作ってくれたカレーもあった。 母親を早くに亡くしてしまっても、引き取ってくれた親戚の人達は良くしてくれたし、今、この歳で独身でも決して不幸ではない。 人によって、価値が異なるということを強く感じた。 何が幸せなのかは、自分で決めるものなんだなぁ。
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表題作の方は、小学生の会話と行動がどうにもしっくりこず、最後まで入り込めなかった。土曜日の半ドンの風景や空気感のリアリティは自分も同様の経験がありよく描かれていると思えるのだが、小学生二人の距離感と感情の細部が読み取れなかったのが残念。 給水塔の方は小説ではなく、著者の実人生と大...
表題作の方は、小学生の会話と行動がどうにもしっくりこず、最後まで入り込めなかった。土曜日の半ドンの風景や空気感のリアリティは自分も同様の経験がありよく描かれていると思えるのだが、小学生二人の距離感と感情の細部が読み取れなかったのが残念。 給水塔の方は小説ではなく、著者の実人生と大阪の街々との関わりを描くエッセイ。80年代から今までのが街の変遷やそれでも変わらない性格が浮かび上がる。
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主人公は40代くらいの女性。小学校の頃に通い詰めていた図書館で出会った、同級生の男子ちの思い出の回想。 「死ぬこと」について一緒に考えて、自分たちだけが生き残った後の世界を想像して、スーパーで有り金をはたいて缶詰を買い込み、廃墟となった建物の中で「これから」のことについて思...
主人公は40代くらいの女性。小学校の頃に通い詰めていた図書館で出会った、同級生の男子ちの思い出の回想。 「死ぬこと」について一緒に考えて、自分たちだけが生き残った後の世界を想像して、スーパーで有り金をはたいて缶詰を買い込み、廃墟となった建物の中で「これから」のことについて思いを巡らせる。大晦日の夜。水商売をしていて帰ってこない(でも愛はある)母親。馴染めない学校生活。秘密の友達。急に現れて、急にいなくなった友達の記憶。止まらない想像、、、 幼い頃、本当に短い時間しか共にしていないはずの友達(と呼べるのかも定かではないくらいの存在)との記憶が分不相応に鮮明で、ふとした瞬間に思い出したとき「なんでこんなこと覚えてるんだろう」と怯む瞬間がある。印象的な出来事が起こったわけではなく、今でも親しくしているというわけでもなく(むしろほとんどの場合、今となっては名前も見た目もどこの誰かもわからない)、ただあのときあの場所で一緒にいた、という記憶だけがあまりに鮮明に刻まれている。たとえば、小学生のときに母に連れられて行ったクラブメッドサホロの託児施設で数日間だけ一緒に遊んだ少年とか、一時期文通していた東北地方のジャニーズオタクの女の子とか(どんなきっかけで出会ったのかすら思い出せない)。この本を読んでいたら、そういうような、脈絡なくときどき急に蘇ってくる記憶と、そこからくる怯みについて考えていた。岸さんの小説には、明確なテーマやゴールがないと思う。あえて設けていないのだとわたしは思っている。今回はこのことについて書きますよわたしは、っていうんじゃなくて、なんとなく生きていると目にも止まらないような、「まあそういうこともあるよね、で?」で終わってしまうようなことに注目して掘り下げるというか、切り取ってスポットライトを当てるというか、そういうことができる岸さんはやっぱりすごいし、素敵だと思った。流れてっちゃうからね。何もなかったと言えちゃう。意味とか変化とか目に見えるものはない。でも確かに起こった出来事たち。記憶たち。
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「ふだんどれだけ荒んだ、暗い穴のようなところで暮らしていても、偶然が重なって、なにか自分というものが圧倒的に肯定される瞬間が来る。私はそれが誰にでもあると信じている。」 小説の方が淡々と、薄暗い印象だったので、エッセイでのカラリと明るいお人柄に和む。 とはいえその小説も、...
「ふだんどれだけ荒んだ、暗い穴のようなところで暮らしていても、偶然が重なって、なにか自分というものが圧倒的に肯定される瞬間が来る。私はそれが誰にでもあると信じている。」 小説の方が淡々と、薄暗い印象だったので、エッセイでのカラリと明るいお人柄に和む。 とはいえその小説も、こういった街の人々の、同じアパートや電車の隣の人の人生に想いを馳せているからこそのディテール、肌触りのある文章だよな。 悲しい事件も多いけれど、想像力を忘れずにいたいと思う。
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50歳独女が昔を回顧する内容。感情の吐露はなくただ思い出が溢れてくる。今の主人公は傍から見れば独り寂しい大人に見えるかも。だが読者は彼女が内包するものの煌めきを見る。 もう関わらぬ相手でも互いに影響を与えていたり、何十年経ってもふいに思い出されたり。人の数だけ、連なる人達や思い出...
50歳独女が昔を回顧する内容。感情の吐露はなくただ思い出が溢れてくる。今の主人公は傍から見れば独り寂しい大人に見えるかも。だが読者は彼女が内包するものの煌めきを見る。 もう関わらぬ相手でも互いに影響を与えていたり、何十年経ってもふいに思い出されたり。人の数だけ、連なる人達や思い出がある。それを知らせてくれる本だった。(図書室・給水塔、両方) 私もこの先、良かった記憶が不意に思い出される大人になれるだろうか。人の人生が知りたい、自分の思い出もたまに取り出して温めたいと思った。人の数だけ物語がある。誰の人生も軽くはないと思わせられた。
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ネタバレ注意 読書開始日:2021年4月28日 読書終了日:2021年4月29日 所感 図書室 回想シーンの男の子との会話で懐かしさを覚えた。 自分の小学生時代の会話もこんな感じだった。 お互い当時持ち合わせている最小の気遣いだけで、話したいことを次から次へと突拍子も無く話してい...
ネタバレ注意 読書開始日:2021年4月28日 読書終了日:2021年4月29日 所感 図書室 回想シーンの男の子との会話で懐かしさを覚えた。 自分の小学生時代の会話もこんな感じだった。 お互い当時持ち合わせている最小の気遣いだけで、話したいことを次から次へと突拍子も無く話していた気がする。 まさに作中の2人もそれだった。 「私たちは、相手が吐き出した息を口から吸い込んでまた吐き出すように、お互いの言葉をやりとりしていた。」この一文で自分の記憶を言語化できた。 その会話の中心に、「子どものころに一度は訪れる死や地球滅亡への恐怖」を据えることで、さらになつかしさが増す。 歳を重ねるにつれ、気遣い、配慮が比率を増していき、会話が自然と溶け合う機会も少なくなっていった。 そんな時にふと思い出すのは、当時の友人と突拍子もない話しから、大それたことをしでかした記憶。 ノスタルジックな気持ちなった。 給水塔 作者のエッセイ。 いつもこの作者は自分がもやもやと考えているようなことをパッと言語化してくれるのでとても好きだ。 作者は肉体労働を「民主的で業績主義的で合理主義的で個人主義」と表現していたが、 自分も学生時代、バイトではあるが肉体的な日雇い労働をしていたこともあって、辛い部分が大半を占めるが、辛い以外に感情を持たなくていい部分が少し好きだったことを思い出した。 大阪に対しても作者は、手加減抜きにリアルに分析しているところも面白いと思う。 関東に住み続ける自分には大阪の愉快で、愉しい印象しか持てないのであるが、 大阪のフィールドワークを重ねる作者は、「要するに大阪という街について言われていることの、大半が虚構の、無意味な、ありきたりな、紋切り型の、たわごとでしかない」と表現していて、読み進める度にリアルに感じられる。 そんなリアリストな作者が作中で唱える確証は無いが、祈りのような一文にはいつも希望を感じさせられる。 「普段どれだけ荒んで腐った、暗い穴のようなところで暮らしていても、偶然が重なって、なにか自分というものが圧倒的に肯定される瞬間が来る。私はそれが誰にでもあると信じている」 とても好きな一文。
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※このレビューにはネタバレを含みます
図書室 岸政彦著 2019年6月25日発行 新潮社 「ビニール傘」と併録「背中の月」を読んで、すっかり岸政彦にはまった。近所の書店にあったから、珍しく購入して読んだ。100ページほどの中編小説「図書室」と自伝エッセイ「給水塔」併録。 エッセイから読んでびっくり。立命館大学教授で社会学者の筆者は、名古屋出身。念のため調べると中高の9年後輩だった。大学で大阪に来て、今は、私が30年近く住んでいるまちを舞台にした小説を書く。 「図書室」は、大阪の福島駅と野田駅の間にある長屋に住む小学生の女の子が主人公だけど、彼女は毎日、地元の公民館と同じ建物内にある図書室に通う。私が毎日のように通り、よく入館する区民会館と区図書館を思い浮かべてしまう。この福島と野田の間にある長屋はやがてなくなる設定なのだが、小説「背中の月」で主人公が環状線から毎日眺めていた廃屋に通じるものがある。あの時の廃屋には、この少女が住んでいたのかも、と思える。1階が焼肉屋になっている大国町の賃貸マンションというのも複数作品に出てくる。こういう共通項が岸作品の面白さの一つでもある。 岸作品は、大学は出たけれどエリートではなく、ぎりぎりの貧しい不安定な生活をする若者を描いているものが多い。隣室との壁に隙間があるような貧民アパート暮らしではなく、汚く狭く古いが、一応は鉄筋のマンションに住む。しかし、日雇い派遣などひとたびその不安定な仕事が崩れると、彼等は行き場を失う。昔の小説に出てきた貧民アパート暮らしの者にあった、路上生活をしてでも生き延びる"安心感”のようなものはそこになく、存在そのものが否定され、否定するもろさを感じる。 小説「背中の月」では、30代の若者と推測される主人公は、理不尽なリストラを突きつけられた時に妻の言葉が唯一の支えになったが、10年一緒に暮らしたその妻が急逝する。最後は自死を強く臭わせながら話を閉じている。自伝エッセイ「給水塔」では、研究者としての職が見つからず、毎日、現在の妻と暮らしていたマンションの屋上に出て死ぬことばかりを考えていたと語っている。大卒、大阪、ニュープア。彼自身の体験でもあった。 以下、メモ(ネタ割れ注意) 「給水塔」 USJの入り口西九条は、かつてはテーマパークをあてこんだ街づくりを目指していたが、いまではただの静かな商店街だ。 ↑ 全くその通り、地元民の私と同じ思い。桁外れにがめつい外資は、地元に1円たりとも福音をもたらせなかった。 30年以上大阪に住んでいると、「大阪人の性」だの「大阪人のDNA」だのというものが、戯言でしかないことが分かってくる。大阪に生まれた大阪人でも、おもんないやつはたくさんいるし、几帳面で規則にうるさいやつもいる。 ↑ これまた全く同感。 バブルの頃、学生だった著者は、ジャズの演奏(ウッドベース)をする仕事をしていた。新神戸オリエンタルホテルの吹きさらしでクリスマスソングの演奏をしていた時、すらり並んだおっさんたちは、電通の下請け、孫請け、ひ孫請け等々の会社のひとたちだった。この演奏会を企画した会社か。著者のような日雇い現場ミュージシャンでも、3人で6万円ももらえた。電通はいくらで受けて、間に何社入って、ピンハネしてるんだろう。 毎週金曜日に神戸のサテンドールで演奏すると1万円、安い安いと評判だった梅田のドンショップは6000円だった。さらに、今ではそういう固定ギャラはなくなり、完全にチャージバックとなったため、ミュージシャンの手取りは1000円以下ということもある。 「図書室」 スナックを経営し、必死に子育てをする母親。その娘が主人公。小学校の時、毎日、地元の図書室に足を運んで読書。すると、同い年の男の子がいつも本を山積みにしている。彼は、太陽は将来爆発する、と勉強の成果を披露する。すると少女と少年は、そうなったらどうなるかと想像しはじめ、現実か妄想か分からないようなストーリーの展開になる。 この世には二人きり。缶詰を買い込み、淀川沿いの小屋に入って、それを少しずつ食べて生き延びようとする。そこに、いつも図書館で寝ている二人のおじいさんが訪ねてきて・・・
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