図書室 の商品レビュー
TVで岸さんが猫と戯れているのを観て、この人の本が読んでみたいと思った。空気感とはよく言ったもので、小説もエッセイも日常を描いていながら、どこか遊離したような心地よさがある。ユーモアと諦観と、他者へのまなざしを感じる本だった。
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併録の『給水塔』というエッセイの『もういちど大阪にバブルが来ればいいと思う。』(p.147 「北新地、一九八九年ごろ」)という一節を読んで、1989年に生まれた私は生まれてこの方本当に景気の良い日本を知らずに生きてきたのだなと実感した。 生まれた年にバブルがはじけた。 大学生に...
併録の『給水塔』というエッセイの『もういちど大阪にバブルが来ればいいと思う。』(p.147 「北新地、一九八九年ごろ」)という一節を読んで、1989年に生まれた私は生まれてこの方本当に景気の良い日本を知らずに生きてきたのだなと実感した。 生まれた年にバブルがはじけた。 大学生になった年にリーマンショックがあった。 就活の真っ只中で東日本大震災が起きて就活は一時ストップした。 運良く就職して十年目のコロナ禍。 別に不幸だとか、苦労したとか、そういうことを言いたいわけではない。ただ純粋に、日本全体が華やいで高揚していた空気というのはどんなものだったのだろう、と思う。江戸時代や縄文時代を思うような遠さで。もしかして東京五輪に浮かれていた空気感はそれに近いのだろうか。だからおじさんたちは東京五輪に執着するのだろうか。あの頃の日本を、羽振りの良かった自分たちを再び、と願って。 『図書室』も『給水塔』も、街と人の人生の物語で、この本の前に読んだ岸本佐知子さんの『死ぬまでに行きたい海』と少しずれながら緩やかに繋がっているきがした。 『図書室』の二人はウイルスで人類が滅亡した後の世界を想像しているが、今この時代に同じように想像を巡らせている子どもたちもいるだろうなと思った。
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大人になった今はもう得られない、かけがえのない大切な時間。 現実味のないことに真剣に頭を悩ます二人が微笑ましい。 その人を形作る過去の思い出。 トラウマ的なことではなくこういう何でもない日々から人生を見つめるのもいいもんですね。
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地球と一緒に歳をとってるわたしたち。図書室から始まった小さな2人の人類滅亡の秘密。生殖が何かもわからないまま、それでも子供を作ることを考えてしまうのは、自分達の死後もこの地球を見る視線が欲しいからだろうか。 「地球やな」「うん、地球や」 岸正彦の文章は、視線の飛躍に驚かされる。彼...
地球と一緒に歳をとってるわたしたち。図書室から始まった小さな2人の人類滅亡の秘密。生殖が何かもわからないまま、それでも子供を作ることを考えてしまうのは、自分達の死後もこの地球を見る視線が欲しいからだろうか。 「地球やな」「うん、地球や」 岸正彦の文章は、視線の飛躍に驚かされる。彼女たちが見ていたのは、読者の想像では補完できないほど広い景色。 帰り道に拾った猫に架空の娘の名前をつけて、なんとなく元彼といった海で見た波を思い出す。全て地続きで、この地球上の話。
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子供2人の会話のテンポが良くとてもいい作品だった。 子供の頃を思い出す、大人の女性。 自分の母親の事、猫の事。 そして図書室でいつも出会う男の子の事。 その子との不思議な冒険。 後半は作者のエッセイ。 私の知らない大阪がいっぱい。
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定職も貯金もある。一人暮らしだけど不満はない。思い出されるのは、小学生の頃に通った、あの古い公民館の小さな図書室のこと― ひとりの女性の追憶を描いた中篇「図書室」と自伝エッセイ「給水塔」の2編収録。 まるで自分史のようだと思ってしまった。どうしてあの頃の私の気持ちも、今の私...
定職も貯金もある。一人暮らしだけど不満はない。思い出されるのは、小学生の頃に通った、あの古い公民館の小さな図書室のこと― ひとりの女性の追憶を描いた中篇「図書室」と自伝エッセイ「給水塔」の2編収録。 まるで自分史のようだと思ってしまった。どうしてあの頃の私の気持ちも、今の私の気持ちも、こんなによく知っているの?と驚いてしまうくらい。 これと言った期待も希望も無いのに、「求められている」というステイタス欲しさに惚れた腫れたを経て、40にしてひとり暮らしを満喫する主人公。 胸いっぱいに感じる自由と孤独が、子どもの頃、公民館の図書室で覚えたソレと重なる。 『クラスの誰も知らない場所で誰も読んだことのない本のページを開いているのは、すごく寂しい気持ちとすごく自由な気持ちが混じって、それまでの生活で経験したことのないような、頭の肌がじんじんとしびれるような、痛快な気分がした』 アラフォー・独身・ひとり暮らしって、まさにこれだ。 孤独で自由で未知で痛快だ。 惚れた腫れたとは違う、母性本能とも違う、何かを溺愛したい衝動に駆られるのもよく分かる。その願望が本作の主人公みたく猫に向かう人も居れば、「推し」に向かう人も居るだろうし、選択肢はそれぞれ。 子どもの頃に読んだ本や通った図書室(学校の図書室も好きだったけれど、私も本作に出てくような公民館の図書室にも大変お世話になった)、秘密基地や初恋の男の子を今も胸の奥にしまっている人になら、確実に響く一冊。 (「給水塔」は途中までで離脱してしまった。大阪出身なら身を入れて読めると思う)。
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中篇「図書室」と、エッセイ「給水塔」を収録。 どちらもとてもよかった。 私が知っている少し前の大阪が詰まっていました。 懐かしく、自分も一緒にその時代を過ごしたような楽しさ、もう2度と戻ることができないと知ってしまった寂しさ、その両方を大切に心にしまうことができる時の流れも感じ、...
中篇「図書室」と、エッセイ「給水塔」を収録。 どちらもとてもよかった。 私が知っている少し前の大阪が詰まっていました。 懐かしく、自分も一緒にその時代を過ごしたような楽しさ、もう2度と戻ることができないと知ってしまった寂しさ、その両方を大切に心にしまうことができる時の流れも感じ、こころが温まるような気がしました。 エッセイの中で、万博公園にある大阪国際児童文学館について書かれていることが嬉しかったです。私の人生にも大きな影響があった場所だったので、居心地の良い閲覧室や静かな研究ブースの思い出、そこがなくなってしまったこと、今は廃墟のようになっていることを書いてくださっていたことが、とても嬉しかったです。
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自分にとって、とても理想的な小説の形をしています。直近で西加奈子『円卓』を読んでいたこともあり、関西の、小学生の女の子と男の子の会話、動物、公団住宅などの共通が目につきましたが、こちらの方が写実的で、語りそのものに重点が置かれているので現実感のある空気を見つけられます(優劣ではな...
自分にとって、とても理想的な小説の形をしています。直近で西加奈子『円卓』を読んでいたこともあり、関西の、小学生の女の子と男の子の会話、動物、公団住宅などの共通が目につきましたが、こちらの方が写実的で、語りそのものに重点が置かれているので現実感のある空気を見つけられます(優劣ではない)。育った土地にへの愛情が端々に感じられる一方で、幼少の思い出を過度にノスタルジックに神格化しないラストは上質な趣があってとても好みでした。(みゃーつき)
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
「何かを激愛する、ということを久しくしていない。何かを激愛したい。それで振りまわされたり、困らせたり、たまに泣かされたりしたい」 50歳、独り暮らしの独身女性の美穂。 定職もあり貯金もあり、何不自由なく日々を平穏に暮らしている。 けれど、ふと思い出すのは11歳の頃の出来事。 近所の公民館の小さな図書室で、毎週土曜日の午後になると一人で本を読んでいたっけ。 そこで出逢った同い年の少年と共に過ごした淡い記憶は、今となっては追憶に空想が混じった曖昧なものもあるかもしれない。 けれど大人になった今もはっきり思い出すのは、二人が共に体感した"地球の終わり"。 家族も友達も猫も全てを置き去りにして、二人きり、世界の果てで真剣に語り、不安になり泣いたあの夜の出来事は、心の奥で今なお生きている。 あの一瞬の激情があるから今がある。 今振り返ると、ほんまあほみたいやけど、あの時二人で相談して決めた娘の名前は、40年経った今でも忘れない。 美穂の終始淡々とした語り口が、余計に切なく心に刺さった。 後半は自伝エッセイ『給水塔』。 大阪の街っておもろいな。 「どんなひとにも人生があり、どんなひとにも内面がある」 「どの街にも、その街の人生がある」
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何かの書評で面白いかもと思い読みました。幸せと言い切れないが、取り立てて生活に不満は持っていない中年から初老になりつつある女性が小学生のある時期を思い出すと言うストーリーです。既に初老になってしまった私(性別は違いますが)にとって、そう言う状況に大いに頷ける部分があります。淡々と...
何かの書評で面白いかもと思い読みました。幸せと言い切れないが、取り立てて生活に不満は持っていない中年から初老になりつつある女性が小学生のある時期を思い出すと言うストーリーです。既に初老になってしまった私(性別は違いますが)にとって、そう言う状況に大いに頷ける部分があります。淡々とした物語の展開が心地よいです。物語に登場する淀川の河川敷も懐かしく読めました。それと作者によるエッセイが、面白い。作者が、あまり勉強はしなかったが進学できた大学が私の母校であり、10歳ほど年下の作者の青年時代と重なる部分も多々あり、懐かしい場所も登場して、いたって個人的ではありますが、いい読書ができました。
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