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タコの心身問題 の商品レビュー

3.9

57件のお客様レビュー

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2019/01/12

===qte=== タコの心身問題 ピーター・ゴドフリー=スミス著 知性生んだ自然淘汰の妙技 2019/1/12付日本経済新聞 朝刊  思わず目を疑うタイトルである。タコとは、ブックカバーのイラストに明らかなように、あの頭足類のタコのことだ。そして心身問題とは、心と身体...

===qte=== タコの心身問題 ピーター・ゴドフリー=スミス著 知性生んだ自然淘汰の妙技 2019/1/12付日本経済新聞 朝刊  思わず目を疑うタイトルである。タコとは、ブックカバーのイラストに明らかなように、あの頭足類のタコのことだ。そして心身問題とは、心と身体、なかでも知性と脳との関係はいかなるものかという、哲学における伝統的な大問題である。  すると、タコにも哲学的考察の対象となるほどの「心」があるとでも言うのだろうか。そのとおりである。本書は、タコが有する心のあり方と、それを生みだす身体のあり方を、進化論(自然淘汰説)を駆使して解き明かそうとする野心作である。  本書には、タコの知性の高さを示す事例がふんだんに紹介されている。飼育係のメンバーを識別し、特定の人物が来たときに水をかける。電球に水を吹きかけショートさせて照明を消す(タコは電球の光を嫌う)。極めつきは、嫌いなエサを与えられたときに、人間と目線を合わせながら、これ見よがしにエサを捨てたというエピソードだ。驚くほかない。  どれも我々人間と同じではないかと共感してしまいそうな事例である。だがここで、タコと我々が大きく異なる進化の道筋を歩んできたということにも注意を向けなければならない。タコをはじめとする頭足類と人類の共通祖先は、およそ6億年前までさかのぼる。その共通祖先はといえば、心を云々(うんぬん)するにはあまりに心許(もと)ない、ミリ単位の小さく平たい虫のような生物だった。つまり、生物の進化は、「まったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった」のである。タコの知性の高さだけでなく、そのような生物をつくりあげてしまう自然淘汰の妙技にも驚くほかない。  著者は「頭足類と出会うことはおそらく私たちにとって、地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だろう」と言う。昨年の11月3日に当欄で紹介した『見知らぬものと出会う』(木村大治著、東京大学出版会)は、地球人が異星人と出会う「未知との遭遇」を考察する書物だったが、タコとの遭遇もその一例に加えてよいのではないだろうか。そういえば初期のSF作品に描かれる異星人の多くはタコのような姿形をしていた。昔の人は直感的にこのことを理解していたのかもしれない。 《評》文筆家 吉川 浩満 原題=OTHER MINDS (夏目大訳、みすず書房・3000円) ▼著者は65年生まれ。豪シドニー大科学史・科学哲学スクール教授。 ===unqte===

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2019/01/11

動物のなかで「知性」が発達しているのは、人間を含む哺乳類、鳥類などいわゆる脊椎動物だと思っていたら、軟体動物のタコやイカが実はかなり高い「知性」をもっているらしいという本。 たとえば、タコを研究で飼育していると、人間の個別の違いを区分しているみたいで、「嫌い」な研究者には、水槽...

動物のなかで「知性」が発達しているのは、人間を含む哺乳類、鳥類などいわゆる脊椎動物だと思っていたら、軟体動物のタコやイカが実はかなり高い「知性」をもっているらしいという本。 たとえば、タコを研究で飼育していると、人間の個別の違いを区分しているみたいで、「嫌い」な研究者には、水槽から水をかけたりするらしい。あと「好奇心」があるみたいで、直接、食べたり、生存にはかかわらないことでも、なにか新しいものがあると、それがなんなのか知りたくなっちゃうらしい。 なぜ、そんなことになっているのだろうか、進化論とか、観察と実験、他の動物との比較などを通じて、探求していく。 ちなみに著者は科学者ではなくて、哲学者。 人間とは全く異なる「心」が存在することをしることで、人間の心をより理解しようというところにゴールはある。 といっても、そんなに哲学的にはならなくて、基本、一般むけの科学書として書かれていて、読みやすい。

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2019/01/01
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タコ(頭足類)と人類がどれだけ遠い存在なのか、逆にどれだけ近い存在なのかがわかる。これまでタコについて知性があるとか、心があるかとか、考えたことも無かったので、知識を広げるという意味で非常に興味深い本だった。 特に興味深かったのは以下の記述。 ・タコのニューロン数は犬に近い。無脊椎動物の中でも頭足類の神経系の規模は大きい ・タコのニューロンは脳に集まっているわけではなく、腕に集まっている ・タコは人を識別出来る ・頭足類のほとんどは色の識別ができない。皮膚で光を感じ取っている可能性がある ・タコと人間は同じような能力が、まったく別のところで無関係に生まれて進化した

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2018/12/27
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タコは動物の中でも高い知能を持つにもかかわらず、長くて3年程度の寿命である。高い知能を持つのは長生きするためでは?と思ってしまうが実は種として長生きするために短命にし、一度の交尾で大量に卵を産むという戦略という、一見逆説的な考えが面白かった。

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2018/12/21

生物哲学・科学哲学界の雄にしてインテリジェント・デザイン批判の急先鋒の手による、タコを題材とした「意識の起源」論。意外にも著者の邦訳は本書が初と見える。著者はダーウィン的進化の過程そのものが複数の経路の競争により選別されたものであること、即ちダーウィン的な自然淘汰の産物であること...

生物哲学・科学哲学界の雄にしてインテリジェント・デザイン批判の急先鋒の手による、タコを題材とした「意識の起源」論。意外にも著者の邦訳は本書が初と見える。著者はダーウィン的進化の過程そのものが複数の経路の競争により選別されたものであること、即ちダーウィン的な自然淘汰の産物であることを示す「ダーウィン的空間」の提唱で知られる。本書も直線的でなく複線的に、単発的でなく多発的に進化を捉えるアプローチのもと考察が進められる。曰く「進化が心を二度作った」と。 ダイビングを趣味とする著者はタコを観察するうち、彼らに「心がある」との抜き難い印象を抱く。そしてその「心」を「主観的経験(自分の存在を自分で感じること)」と一旦定義した上で、いかにそれが生じたかを生物史学的な観点から考察して行く。 この「主観的経験」の本書での語用は、通常「意識」という言葉でカバーされるよりはやや広義の概念を指しているようだ。高度な記憶機構をもつ人間のような高等生物が現れる前から動物に備わっており、「意識」では捕捉されない無意識の領域も含む、ある種の「気分」のようなものと説明されている。この「主観的経験」は、エディアカラ・カンブリア紀の生物群の相互影響に関する考察から、身体外部に起因するなんらかの変調(e.g. 痛み、快楽)に対する反応の結果生じたものと著者はみる。だとすればその経路を単路に限定する必然性は見出し難く、少なくとも脊椎、節足そして軟体動物それぞれに一度以上ずつ生じたのが現在の生物界の姿であるはず、と主張するのだ。 この「主観的経験」の発生メカニズムを考察する第6章が面白い。カンブリア紀以降、自分の内部における情報コミュニケーションと、自分と外部とのそれを区別する必要が生じた。そこで「自分用のメモ」として機能する「遠心性コピー(意図した行動を脳内に保持しておき実際の行動と照合する)」が用意され、これを利用することで自分の知覚と行動を媒介する受容と生成のフィードバックシステム「再求心性ループ」が形成される。これが無数に集まって複雑な意識の主体が形成されているというのが著者の主張だ。この点、タコは大規模な神経系や複雑な身体構造を持っており、豊かな主観的経験を蓄積する主体としての資格を十分有する、ということなのだろう。 本題と関連性の薄いエセー的な記述も多く、必ずしも意識論にのみフォーカスした本とは言い難いかもしれないが、逆に例えばタコの死を描写する箇所など、時折顔を出す叙情的な記述が良いアクセントとなっていると思う。また巻末の訳者あとがきも一読を。「タコ様生物」と「通常単数で用いられる単語の複数形」から、H.G.ウェルズの「宇宙戦争」を連想する訳者の発想力に驚かされる。

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2018/12/12
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※このレビューにはネタバレを含みます

タイトルと表紙は秀逸だが、原題はother mindsであり、訳者というか、日本側の仕掛けである。タコの生活を見たときにそこに心を感じるというエッセイが結構長く続くが心身問題が中心に書かれているということはない。つまらなくはないけどね。

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2018/11/28

サルに心があるとか、カラスに高度な知能があるとかいう話を聞くと、それなりに感心はするけれど、ものすごく驚くというほどではない。彼らはヒトと近縁で、脳の構造もヒトと似ている。サルに心があるとしたら、おそらく私たちヒトの心と似たようなもので、同じ起源をもっているものだろうと想像できる...

サルに心があるとか、カラスに高度な知能があるとかいう話を聞くと、それなりに感心はするけれど、ものすごく驚くというほどではない。彼らはヒトと近縁で、脳の構造もヒトと似ている。サルに心があるとしたら、おそらく私たちヒトの心と似たようなもので、同じ起源をもっているものだろうと想像できる。 だが、タコに心(らしきもの)があり、ヒトと心を通わせることができるとなると話は別だ。ヒトとタコは進化の歴史上、約6億年前に袂を分かったとされる。その頃の動物はやっと原始的な目を持ち始めたという程度で、単純な体をしており、神経細胞は一応持っていたらしいが脳はなかった。ヒトとタコの共通祖先に心はまだ無かったのだ。だから、タコに心があるとすれば、それはヒトの心とは異なる起源を持ち、別個に生じたということになる。「進化はまったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった」のだ。 ヒトの心は進化の副産物に過ぎないという考え方があるという。大きな脳と複雑な神経系、それによって可能となる洗練された行動や高度な知能こそが主産物であって、心はそれに付随して生じた偶然の産物だというのだ。 だが、もしタコに心があるならどうだろう?歴史も環境も身体の構造も共有していない2つの生き物が、心と呼ぶべき類似した精神活動を共におこなっているとしたら?それは、心というものが偶然の産物などではなく、進化の歴史の中で必然的に生まれたものだということの傍証になるのではないか。そんな想像を掻き立てられる。 本書ではまず、タコが心を持っていると思わせるような行動をとることが紹介される。また、ヒトとタコが進化上かけ離れた存在であることを示し、全く異なる生き物である両者が「心を通わせる」ことができる不思議さについて触れている。そして、その後の数章では、生物の進化の歴史を数億年の単位で遡り、心の起源について探っていく。 ヒトとタコは何もかも違うと言って良いほど違っている。たとえばタコは原口動物で、ヒトは新口動物だ、というレベルで違う。神経系について言えば、タコにも脳と呼べる構造はあるが、脳とそれ以外の神経系にヒトほど明確な境界線はない。また、驚くべきことに、消化管が脳の中を突き抜けるような体の構造をしているという。しかも、「中央集権的」なヒトの脳と異なり、タコは脳よりもむしろ8本の腕に神経が多く分布しているらしい。 進化について述べられている章では、この分野における著者の造詣の深さに驚嘆させられる。著者の専門は哲学というからびっくりだ。進化生物学者だと言われても違和感がない。最近の論文も引用されており、その分野が現在進行形で研究されていることが良く分かる。ただ、この進化に関する数章は、ヒトとタコの心の違いを考えるという本書の主題からはやや脱線する部分もある。もし退屈に感じたら、最後の2章を先に読んでもいいかもしれない。この2章に、タコの持つ心の不思議さが凝縮されていると思うからだ。 第7章「圧縮された経験」では、なんとタコの寿命がわずか2年ほどだということが説明される。それだけの期間で心を発達させることができるのも興味深いが、それ以前の問題として、そもそもそのような短い寿命の生物で心や知能が進化しうるのか、という問題がある。複雑な神経系は、経験や学習を蓄積させるほど能力を発揮できるので、基本的に寿命が長いほど価値を持つ。一方で、脳が大食いの器官と評されるように、神経は「維持費」が多くかかる。2年という短い期間では、複雑な神経系は、メリットよりもコストの方が大きくなってしまうように思われる。それにもかかわらず、なぜこれほどの高度な神経が進化したのか。 最後の章「オクトポリス」では、頭足類の心について、より詳細に触れられている。タコとイカは頭足類に分類される近縁の動物だが、それぞれの高い知能が独立に進化した可能性があるという。また、頭足類にもエピソード様記憶という、ヒトと同様の記憶の能力があるという。心は、進化の歴史の中で、二度どころかもっと多くの回数生まれた可能性があるのだ。全く異なる起源をもち、異なる構造をしているにも関わらず、似た心や知能を持つに至ったのであれば、それは心にも収斂進化が起こっていると言ってもよいのではないか。 最後の訳者あとがきも素晴らしい。本書の原題はOther Mindsだが、これがMind"s"と複数形になっていることの意味について書かれている。 タコという不思議な動物についてよく知ることができるだけでなく、タコを通して私たちヒトの心について考えることができる本。面白かった。進化や、私たちの心がどこから来るのか、ということについて興味のある人は楽しめるのではないかなと思います。

Posted byブクログ