朝が来る の商品レビュー
長い不妊治療を経て、特別養子縁組で息子を授かった夫婦。平穏な毎日を過ごしてきた家族の元に、ある日突然実の母親を名乗る女性から「子供を返して欲しい」と電話が―――― もう文庫裏表紙にあるあらすじを読むだけでわくわくさせるような香りが漂ってくるのですが、予想に違わずいい作品でした。...
長い不妊治療を経て、特別養子縁組で息子を授かった夫婦。平穏な毎日を過ごしてきた家族の元に、ある日突然実の母親を名乗る女性から「子供を返して欲しい」と電話が―――― もう文庫裏表紙にあるあらすじを読むだけでわくわくさせるような香りが漂ってくるのですが、予想に違わずいい作品でした。久々の渾身作・傑作だと思います。 第一章と第二章は夫婦視点のパートで、自分と年が近いせいか、不妊治療にしろ幼稚園トラブルにしろあの出来事にしろ、母親が悩み苦しむ姿に非常に共感でき、時々ぐっときてしまうこともありました。そのうえでミステリ・サスペンス風の仕掛けも効果的に決まっており、作品に奥行きを与えていると思います。 代わって第三章と第四章はある少女の物語になります。著者のことですからティーンエージャーの心理描写に関しては相変わらず上手いです。展開に関しては若干の作為を感じなくもなかったのですが、少女が理詰めで行動せずに状況が悪化していくあたりは逆にリアリティを感じました。 直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』で見せてくれた世界をさらに研ぎ澄ましたような印象で、まだまだ辻村さんが進化し続けていることがうかがえます。自分と同世代に彼女のような作家がいるのは本当に頼もしいなあと。現時点での辻村作品No.1です。
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特別養子縁組、ちょっと調べたことがあります。いろいろな動機があるんだろうけど、この夫婦もリアリティがありました。ただ、この結末にするために、子供を手放した女の子の人生が、かわいそすぎて悲しかったです。「人」とは、そこまでひどいか。
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主人公は46歳の沙都子。冒頭は我が子・朝斗の起こした問題がきっかけに、「ママ友」との確執が描かれる。子を持つ母親の悩み、ママ友バトルなどを描く話なのかな、と思いきや、沙都子の元へ度々かかってくる無言電話を機に、一気に物語は違う様子へ展開していく。 沙都子と夫の清和との苦しい不妊治療の生活。そして、養子縁組への決意。 後半は、朝斗の実の母親、ひかりの、辛く苦しい日々が描かれ、こちらもめげそうになる。 養子の文化は、日本ではあまり浸透してない。確かに、抵抗もある。だけど、この物語を読んで、理解は深まった。 辻村さんの取材量がうかがえた。
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エンディングを迎えても尚且つタイトルは“来た”では無く“来る”と言う未来形になっているところにこの物語の本当の意味があるのでは無いかと考える。 主人公が犯した罪の償いや家族との関係性、里親家族の今後や息子の将来など読み終わってもまだまだ物語は続いていきひょっとしたら来る事が無いか...
エンディングを迎えても尚且つタイトルは“来た”では無く“来る”と言う未来形になっているところにこの物語の本当の意味があるのでは無いかと考える。 主人公が犯した罪の償いや家族との関係性、里親家族の今後や息子の将来など読み終わってもまだまだ物語は続いていきひょっとしたら来る事が無いかも知れない朝を夢見て日々を重ねていくのかも知れない。やがて来るかも知れない朝を想像しながら暮らしていくというのも一つの幸せなんだろう。 良い物語でした。
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いいなぁ。中学生で。何回も。何百回も。だって。羨ましい。 「普通」から解放された自由な人生。 ええじゃないか。自由。 彼女から見ると私の人生は「失敗」らしい。 私にも朝が来るといいなぁ。 それにしても姉の近況が気になる。 ...
いいなぁ。中学生で。何回も。何百回も。だって。羨ましい。 「普通」から解放された自由な人生。 ええじゃないか。自由。 彼女から見ると私の人生は「失敗」らしい。 私にも朝が来るといいなぁ。 それにしても姉の近況が気になる。 尻切れトンボの続きも気になる。 私の今後の人生も気になる。
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前半部分、不妊治療を頑張る夫婦の描写を電車で読んでてうっかりけっこう泣いてしまうくらい胸に想いが詰まってしまいましてね…。 とても丁寧に心情を描写していて、なんだか優しいだれかが隣にいて、(こちらが物語を読んでいるのに)心にためた想いを聞いて受け止めてもらっているみたいな気持ちに...
前半部分、不妊治療を頑張る夫婦の描写を電車で読んでてうっかりけっこう泣いてしまうくらい胸に想いが詰まってしまいましてね…。 とても丁寧に心情を描写していて、なんだか優しいだれかが隣にいて、(こちらが物語を読んでいるのに)心にためた想いを聞いて受け止めてもらっているみたいな気持ちになりました。 大切な友達がひとり増えたみたいな本です。
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不妊治療の末、子供には恵まれず 特別養子縁組で子供を迎えた家族と、 その子供を出産した母親と、母親の家族と。 冒頭から不穏な空気で始まり、 これは読みきれるかな、と不安になりましたが。 途中からは一気に読んで、 電車の中で涙が出そうになりました。 本当に読みやすくて、展開も早くて、あっという間でした。 ひかりの葛藤や転がり落ちていく姿と、不器用な家族と。 私自身は、30代を過ぎ、どちらかと言えば母親の気持ちや目線に共感してしまいますが、10代の人にも読んでほしい。 最後は希望のある終わり方で、本当によかった。 スピンオフをぜひ書いてほしいです。
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あさとを引き取った夫婦がとても素晴らしい親だったので後半の転がり落ちてくひかりがより悲しく思えた。ひかりはどう行動すれば良かったのか、ひかりの周りの人はどうすべきだったのかをずっと考えてしまった
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この本を手に取る直前に、『特別』養子縁組という制度を知った事もあり、物凄い勢いで読み終えた。 離れているにせよ、一緒に暮らしているにせよ、どれだけの形の親子がいるんだろうなと改めて思った。 私にとって大切な本になりました。 結末は肩を撫で下ろしましたが、この先が読みたくてた...
この本を手に取る直前に、『特別』養子縁組という制度を知った事もあり、物凄い勢いで読み終えた。 離れているにせよ、一緒に暮らしているにせよ、どれだけの形の親子がいるんだろうなと改めて思った。 私にとって大切な本になりました。 結末は肩を撫で下ろしましたが、この先が読みたくてたまりません!
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病院の待ち時間に読む本を忘れ、急遽売店で購入したが、そのまま一気に読んでしまった。 特別養子縁組で子供を迎えた夫婦と、子供を手放した少女の物語。 冒頭から子供同士のトラブルからのママ友トラブルに胃がキリキリする。 お互い子供を信じているからこそ大きくなるトラブル。 思えば、この物語は一貫して親子関係についてのものなのではないだろうか。 栗原家の子供が特別養子縁組で迎えられた子であり、実の母がやってくる。 それは作品紹介の段階で知っていた。だから映画「そして父になる」みたいな話になるのでは思ったのだが。 実の母と名乗った女は金を無心し、偽者と言われ行方をくらます。 そこであれ? これはミステリーか? と思ったらやはり人間ドラマだった。 ひかりは、子供だ。でも普通の子供とは違ってしまった。 違ってしまったのに、普通の子供以外の道を許されなかった。 そしてそのまま、大人と言われる年齢になってしまった。 ラストシーンは圧巻だった。 雷雨が去り、雲の隙間から光が差す光景がまざまざと想像することができた。 ひかりの今後は決してやさしいものではないだろう。 栗原一家との距離の取り方も難しいと思う。 でも「広島のおかあちゃん」であることをよりどころに、生きていって欲しいと思う。 以前ドキュメンタリーでこの特別養子縁組をみたことがあった。 番組で出てきたのは養子で迎えた側もまだ小さい子ばかりなのでその後は気になるが、もっと気になったのは産んだ側の女性たちのその後だった。 妊娠をした経緯も育てられない理由もそれぞれだが、ひかりが出会ったような人も多かった。望まない妊娠を強要された人もいた。その中に、ひかりと同じような普通の子もいたかもしれない。 佐都子とひかりは紙一重だ。 どちらも親との関係に多少の軋轢はあれど、家庭環境は普通。 ひかりも妊娠しなければ親に反発はあれど普通に進学し、就職し、結婚していたかもしれない。 おそらくひかりの姉はそのような平凡な人生を歩むのだろう。 日本の性教育は足らないとはよく聞く。そういった話がしづらいならば、この本を子供の読みやすい場所にそっと置いておくのもいいかもしれない。
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