僕が殺した人と僕を殺した人 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
またまた面白い作品に巡り合ってしまった。 東山彰良はお初。直木賞(2015)を獲った『流』は目にしていたが、その後の作品であるこちらから手に取った。 外省人を祖父に、台湾人として生まれた著者が記した『流』は、自身のルーツにまつわるものとは漏れ聞いていたけど、本作品も己が幼少期を過ごした台北で、当時の時代背景、空気感を存分に匂わせたノスタルジーに溢れる作品。時代は1984年、その年、ロサンゼルス五輪で台湾は『中華台北-Chinese Taipei-』として初出場を果たす。 その年、登場人物たちに何が起こったか?! 「1984年の夏休み前後の三か月がぼくとジェイを結び付けた。アメリカへ渡った両親においてきぼりを食ったぼくは、ジェイのおじいさんのかわりに布袋劇(ポウチヒ)をやり、バスケットシューズを万引きし、ブレイクダンスの練習に夢中になり、ジェイにキスされ、そのせいで殴りあい、また仲直りをした。ジェイはジェイでたった三か月のあいだにぼくにキスをし、そのせいで殴りあい、師範大学の学生に権力のなんたるかを教わり、その男とキスをし、そして継父に殴られて入院した。アガンだってそうだ。母親が男をつくって家を出、転校し、大好きだった父親は目も当てられないほど落ちぶれ、弟はアガンが殺したいほど憎んでいる男にすっかり懐いている。」 この数行で、物語の「序」の部分のあらすじは語られている。主人公のぼくとジェイ、アガン(とその弟)の、少年時代の体験、家庭環境がその後の人生にどのような影響を及ぼしたか。そして、この中の一人が、30年後にアメリカで少年連続殺人事件を起こす「サックマン」として裁かれる”現代”を交互に描き、殺人鬼の心の闇の中にある、少年時代のとある事件の顛末に迫ってゆく。その年、 「そして、ぼくは14歳になった。」 多感な14歳と、1984年という年が、否応にも物語のドラマ性を増幅させる。1984年という年は、『1984』『1Q84』を引き合いに出すまでもなく、どこか特別な年号なのだろう。本作は、東山彰良の『1九84』といった趣きだ。 ミステリーでもある、詳細は書き記しにくいが、映画『ミスティック・リバー』に通じる、少年時代の友情と、3人だけの秘密、そこに潜む暗い影が、現代に及ぼす影響をしみじみ考えさせられる物語。 連続殺人犯の心の闇を暴いたところで、殺された7人もの無関係な少年たちは浮かばれないわけで、常軌を逸する殺人犯の心理を描くこの手の作品のカタルシスは素直に味わえないものであるが、本作は、作品構成上のトリックもあり、やられたな、という感じでぐいぐいと読みすすんでしまった。 怪作だ。
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途中で世界が反転する。台湾の少年達の一夏を鮮やかに描いた傑作。 最後の3人のシーンがとてもキレイで悲しかった。
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翻訳小説を読んでるようで、最初はとっつきにくかった。 前半と後半でストーリーの受け止め方が大きく変わった。 結果、前半も含めて良い小説だった。
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書店で見かけ、タイトルと表紙が気に入って借りてみた・・・あー、どこかで聞いたような作家さんだなぁ?と思ったら、直木賞の「流」の著者だったかー。 あれは舞台が台北だとかで、食指が動かなかったのよね。。 で、開いてみたら、これも舞台は台湾で、∑( ̄▽ ̄;)ゲーン!と言う感じではあ...
書店で見かけ、タイトルと表紙が気に入って借りてみた・・・あー、どこかで聞いたような作家さんだなぁ?と思ったら、直木賞の「流」の著者だったかー。 あれは舞台が台北だとかで、食指が動かなかったのよね。。 で、開いてみたら、これも舞台は台湾で、∑( ̄▽ ̄;)ゲーン!と言う感じではあったんだけど・・・しかも内容を全然知らずに読み始めたんだけど、なんだかこれが、意外や面白くて~~!!! なにがどう、ってわけでもないんだけど、妙にいい感じで、久々に新鮮な読書体験だったわ!! 別の作品も読んでみなくっちゃ~~!!!ピューッ!≡≡≡ヘ(*゚∇゚)ノ
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帯の煽りが小川洋子さんじゃなければ敬遠してたかもしれない。小川洋子さんであっても台湾の話という事で登場人物名で読みにくそう…と手を出すのに勇気がいったが、読みだすとグイグイ引き込まれて一気に読み終えた。 台湾での少年時代の描写は本当に活き活きしていて頭の中に台湾の雑多な景色が浮...
帯の煽りが小川洋子さんじゃなければ敬遠してたかもしれない。小川洋子さんであっても台湾の話という事で登場人物名で読みにくそう…と手を出すのに勇気がいったが、読みだすとグイグイ引き込まれて一気に読み終えた。 台湾での少年時代の描写は本当に活き活きしていて頭の中に台湾の雑多な景色が浮かんできて映画を観てるよう。それぞれ影ある家庭環境のもと育まれていく友情はそれだけで十分に一つのストーリーであるが、そこに現代が加わることで更に深みが出ている気がする。 それは、この小説のもう一つの魅力である過去と現在の対比。その対比を際立たせる漢字の使い方と主語の入れ替え。このコントラストを主語の入れ替えを巧みにぼかしながら段階的に切り替えていくことで、どんどん読み進んでしまう流れになっていと思う。こういうパズル的な文章の書き方は推理小説的でもあるかな?と思ったらやっぱりそっち系の作家さんなんですね。 あと作者は私と同世代かな?出てくるアーティストが全て私のリアルタイムでちょっと楽しかった。一つ難をいうなら引用した小説をネタバレ的に説明するのはちょっとどうかと… あと皆さん指摘の通り、私もスタンド・バイ・ミーが思い浮かびました。
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面白かった。舞台が台湾なので、読みにくいかなと思ったけれど、そんなことはなかった。どんどん引き込まれた。 語りかた、うまいよね。
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最初に殺人鬼が捕まって、そもそもぼくはジェイの仲間でもなんでもなかったで単純にジェイを殺人鬼だと思い込んで読んだため、「あなたの弁護をさせていただくジェイソンシェンです」で10秒程フリーズしました。 最後まで面白かったです。
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1984年の台北と2015年の米国を結ぶ、ある少年たちと連続殺人犯の物語。『流』と同じ世界観にあり、過酷な生活の中で生きる少年たちは活き活きと描かれているがやがて彼らが起こしたある事件が、30年の時を超えて海を渡り悪夢となり…という展開と視線の変化にあっと驚かされる。布袋劇とブレイクダンスなどの台湾らしい小道具、オシラサマとよく似た蚕娘娘の伝説、貧困と虐待と同性愛の目覚めなど、盛りだくさんであるけど、きちんと筋にまとまっていていい。
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※このレビューにはネタバレを含みます
いやー、80年代台湾の郷愁具合が好きです。そんなかすってもいないのに懐かしく思ってしまいます。 なぜ犯罪を犯したのかよく分からない部分もありますが、曲解と早合点が解消されていたら、こんな面倒なことにはならなかったのに・・・、と。
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せつないなあ。もっとユンに思い出してもらって同じ世界に浸りたかった。切ないけど、同情という言葉は当てはまらない。むしろ明るい。だからこそ切なくて胸を打つのだ。 後半、「え!」とページを戻す場面があったが、それはトリックというわけではなく、さらに彼らの悲しみを増すものになっている。...
せつないなあ。もっとユンに思い出してもらって同じ世界に浸りたかった。切ないけど、同情という言葉は当てはまらない。むしろ明るい。だからこそ切なくて胸を打つのだ。 後半、「え!」とページを戻す場面があったが、それはトリックというわけではなく、さらに彼らの悲しみを増すものになっている。 犯罪者の過去の物語を描いてお涙頂戴にならないのは(でも泣けてくるけど)、彼らが精いっぱいその時を生きているからだろう。日本よりアグレッシブな台湾という舞台も活きている。端々に台湾の社会的背景が映り込んでいて、あの時代を生き生きと描き切っている。
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