紙の動物園 の商品レビュー
すごくよかった。特に表題作と最後の話。 表題作は、アジア人に対する差別と幼年期のイノセンスと母親への悲しい思いがすごくよかった。紙の動物たちが動くという切ない思い出は、メタファーではなく現実に存在した記憶だと考えたい。母親からの手紙が泣ける。欧米人のかっこつけた感じではなく、中国...
すごくよかった。特に表題作と最後の話。 表題作は、アジア人に対する差別と幼年期のイノセンスと母親への悲しい思いがすごくよかった。紙の動物たちが動くという切ない思い出は、メタファーではなく現実に存在した記憶だと考えたい。母親からの手紙が泣ける。欧米人のかっこつけた感じではなく、中国人のかっとなったり本音が出ちゃう感じがよく出ていて、それがとても悲痛で胸に迫る。 最後の話は文字を解釈するというのがとてもよい。テディーが夢を語ったのは読後思うと死亡フラグだが、読んでいる途中ではそんなことを微塵も感じさせない。そして少女と少年の恋とも呼べない淡い気持ちのやりとりから流れ出る幸福感と、親についた小さな嘘のせいで訪れる破局のギャップが劇的。水牛がかわゆすかわゆす。
Posted by
2018.4.9読了 ☆3.8 表題作だけだったら☆5 著者が中国系アメリカ人ということで、中国っぽいテイストが感じられた。 著者が子供の頃に中国からアメリカに生活の場を移しマイノリティとして生活した経験があるからだと思うが、移民やマイノリティとして暮らす人たちを描いた作品が多...
2018.4.9読了 ☆3.8 表題作だけだったら☆5 著者が中国系アメリカ人ということで、中国っぽいテイストが感じられた。 著者が子供の頃に中国からアメリカに生活の場を移しマイノリティとして生活した経験があるからだと思うが、移民やマイノリティとして暮らす人たちを描いた作品が多かった。 表題作は心がじーんと温まる話で文句なしに良かった。
Posted by
あからさまな泣かせ、感動というよりかは空洞、虚無感が強い。どうしようもならないものに対する、無抵抗な現実の悲しさと、失われたものに対して生きている人間が関与することはできないという虚しさ。それが胸をつまらせて、涙してしまった。作者の空想力と、それでいて地に着いた描写力がとても好き...
あからさまな泣かせ、感動というよりかは空洞、虚無感が強い。どうしようもならないものに対する、無抵抗な現実の悲しさと、失われたものに対して生きている人間が関与することはできないという虚しさ。それが胸をつまらせて、涙してしまった。作者の空想力と、それでいて地に着いた描写力がとても好き。
Posted by
収録されている短編に共通するのは魔法。その魔法は、折り紙に命を吹き込んだり文字に意味を与えたりするモノまで様々な魔法。ストーリーは派手さはなく哀しい話ばかりではあるが、詩のようなテンポがあり引き込まれる。
Posted by
表題作は泣きそうになった。 なのに他の作品は、なかなか読み進めるのが 辛く(辛いとか残酷とか内容に問題があるわけではない)何故か読むのに半年かかってしまった。
Posted by
ケン・リュウさんの作品は、美しい表現で静かに語られるというイメージがあった。 本書は7つの物語の短編集だが、表題作の「紙の動物園」はまさに静かに語られ、 美しく切ない。涙が堰を切って流れ出す。他の6編も激しい描写も含まれるが、読後に訪れるのは静けさだ。 本書はSF作品に贈ら...
ケン・リュウさんの作品は、美しい表現で静かに語られるというイメージがあった。 本書は7つの物語の短編集だが、表題作の「紙の動物園」はまさに静かに語られ、 美しく切ない。涙が堰を切って流れ出す。他の6編も激しい描写も含まれるが、読後に訪れるのは静けさだ。 本書はSF作品に贈られる文学賞を獲っているが、SFやミステリー、純文学といったジャンル分けが、なんと意味のないことかと感じさせてくれる作品だ。
Posted by
中国系アメリカ人作家によるSF。サイエンスフィクションというよりは、ファンタジーやif世界ものの話が多く含まれている。 冒頭に収録された表題作は、親孝行したくなる話なので、全国のお母さん好きは必読。全ての話に中国の要素が絡められており、時には歴史のお勉強じみた部分もあるが、中国...
中国系アメリカ人作家によるSF。サイエンスフィクションというよりは、ファンタジーやif世界ものの話が多く含まれている。 冒頭に収録された表題作は、親孝行したくなる話なので、全国のお母さん好きは必読。全ての話に中国の要素が絡められており、時には歴史のお勉強じみた部分もあるが、中国の歴史的背景や政治が、それだけでディストピアの題材になりうることの証左になることが伺える。 中国人としてのコンプレックス、アジア人の西洋に対する憧れ、年頃の少年の心に宿る刺々しい感情など、アジアにルーツを持ち、海外の視点から自国民を眺めることができる男性の描く心の機微は秀逸の一言。同じアジアに生きる人間として、共感する描写がいくつもあった。
Posted by
「おすすめ文庫王国」からのチョイス、今年の2冊目はSF部門1位のこの本で。 正直言うと、表題作とそれに続く2つ目のお話、ちょっと肌が合わなかったのだけど、3つ目の「結縄」から興が乗ってきた。 最先端の物理科学の世界と古代から続く理屈を超えた不思議の世界、あるいは西洋的なものと東洋...
「おすすめ文庫王国」からのチョイス、今年の2冊目はSF部門1位のこの本で。 正直言うと、表題作とそれに続く2つ目のお話、ちょっと肌が合わなかったのだけど、3つ目の「結縄」から興が乗ってきた。 最先端の物理科学の世界と古代から続く理屈を超えた不思議の世界、あるいは西洋的なものと東洋的ものが、得も言われぬ融け合いかたをする。 「結縄」結んだ縄に手を走らせることで結び手の思いを感じ声を聞くという、言葉をこのように表現するだけでも驚きだが、それにタンパク質のアミノ酸配列を重ねるとは更に驚く。 「心智五行」なんだか懐かしい手ざわりだなぁ。 「文字占い師」歴史の出来事に対する批評となっている物語であるが、漢字の成り立ちに対する独自の読み解きがストーリーに絡んでいって新鮮。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
# 紙の動物園 中国やアジアの微妙な政治的なテーマをまじえてSFを描いているのが独特で、静かな語り口もとてもおもしろい。翻訳のせいかもしれないがテッド・チャンに似ている気がする。 ## 紙の動物園 中国人の母親を疎ましく思うアメリカ人の少年。飢饉、文化大革命と過酷な人生を送ってきた母親にとって、息子の存在は大きな喜びでもあり、悲しみでもあった。少年の行いはもう取り返しがつかない。後悔しながら生きるしかないのだろうか。 ## 月へ 中国人の父は幼い娘に、アメリカで難民認定されることの困難さを物語にして聞かせる。経験のない弁護士は中国人親子を助けようとするが、現実の前に無力だった。一方中国人も難民認定されるために嘘をついている。 ## 結縄 文字を持たない古来からの文化を守り抜いてきたアジアの小村が資本主義経済に取り込まれていく。結縄による縄の形状が、アミノ酸からタンパク質を生成する際の形状の参考になるということで、結縄技術を提供しその対価として、激変した環境でも育つような米をもらって育てるがそれがF1だったので毎年対価を支払い続けることになる。つらい。 ## 太平洋横断海底トンネル小史 昭和天皇がアメリカに太平洋横断海底トンネルの建設を提案したことによって、日本では軍国主義が縮小し、ドイツでは国家社会主義労働者党が台頭せず、第二次世界大戦に突入しなかったというパラレルワールド。中国共産党も日本陸軍に平定されて捕虜にされてトンネルで働かされた。 トンネル掘削で働いていた台湾出身の男が、アメリカ出身の女と出会う。暗い雰囲気。最後よく分からなかったけど、この男は技師で現場監督も努めたというのは嘘で、実は中国共産党の捕虜として働かされていたのか? ## 心智五行 完全無菌状態で生活している未来。宇宙船が故障して不時着した惑星には、大昔に移住したままかつての生活を続ける人類がいた。腸内細菌叢が人格へ及ぼす影響が扱われている。 ## 愛のアルゴリズム AI人形を作る話だけど、あれ?テーマは忘れてしまった。 ## 文字占い師 父親の仕事で台湾に滞在する少女が現地の老人とその孫と親しくなる。もともと台湾にいた人々と大陸から逃れてきた人々の関係が複雑で、老人と孫は共産スパイの嫌疑をかけられ、拷問の末死亡する。そのきっかけを作ったのが少女という悲しい話。どこまで現実に即しているのか、よく分からない。
Posted by
国と国籍と人種、魔法と科学、愛情と人工知能、進化と安定、歴史のIfなど、様々な縦糸と横糸によって編み出されるとても綺麗で残酷な一面を持つ物語。短編集だが、本のタイトルにもなっている「紙の動物園」には心打たれる。大きな流れに翻弄されながらも、大切なものを取り戻そうとする努力、しかし...
国と国籍と人種、魔法と科学、愛情と人工知能、進化と安定、歴史のIfなど、様々な縦糸と横糸によって編み出されるとても綺麗で残酷な一面を持つ物語。短編集だが、本のタイトルにもなっている「紙の動物園」には心打たれる。大きな流れに翻弄されながらも、大切なものを取り戻そうとする努力、しかし、それは取り戻せそうもないものであり、まだ失っていないとすると、私たちはそれを大切にしなければならないのだと思う。
Posted by