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紙の動物園 の商品レビュー

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149件のお客様レビュー

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2019/06/11

表題作が傑作。人種問題に言及しつつ母の秘密に迫るラストが印象的。母国が1国の人間には書けない内容だろう。 他はそれと比べると色あせて難解。

Posted byブクログ

2019/05/31

ケンリュウさんの作品はどうしてこんなに愛しいんだろう。読後に引きずるような重いテーマを、リアルに、だけど優しく描いてくれる。考えるんだ。SFはもはやSFじゃなくて現実だということを教えてくれる。宝物。

Posted byブクログ

2019/05/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

ケン・リュウの短篇傑作集。ファンタジイ寄りの作品が多く、傑作集という名に恥じない名作ぞろいの珠玉の短編集である。東洋の神秘性とSF設定のマリアージュが素晴らしい。 表題作「紙の動物園」は、ややウエットでセンチメンタルながらも、アジア圏というアメリカの外側から捉えた世界はとても残酷で、中国人とアメリカ人のハーフという主人公の出自と取り巻く差別的な環境が痛烈に胸に刺さる。ただこの作品には批判の声も多く、それは主人公の故郷に対する想いがエキゾチシズムに過ぎ、折り紙というのは結局東アジアのステレオタイプに落とし込んでいるだけではないかというものである。確かにエキゾチシズムと差別の関係性は非常に深いものがあるが、アイデンティティの揺らぎを通して映すからこそ、より分かりやすいアイコンや世界観を求めてしまうのだろう。これは恐らく移民にしか分からない感覚で、安易に差別的な視線とは到底言えない。この拠り所の無さと母の憧憬、親孝行したい時に親は無しという悲しみが、広く共感を呼ぶ作品である。個人的にはこの手の作品にありがちな母の愛という終わり方ではなく、母への後悔という形で澄みきった悲しみとともに幕を閉じたのが非常に良かった。 「月へ」は月へいった父子というメタファーを通して語る亡命申請者の物語で、亡命の難しさや求められる物語、移民法や倫理規定という大国の視点でしか見えない一方的なルール。そこから零れ落ちた人間の物語を丁寧にすくい取っている。SF要素は薄いものの短篇としては鋭く、まさに外側から見たアメリカを描いた短篇である。 「結縄」は結縄文字という呪術的な言語体系が文化人類学を通して最先端科学のアルゴリズムへと結びついていくアイデアがたまらなく面白く、SFアイデアとしてはこれがベストだった。それが遺伝子組換えへつ繋がっていき、文明社会の奢りと未開の部族への蔑視にすとんと落ちるのはとても皮肉的である。特許や知的財産権は所詮は近代文明国のルールに過ぎず、誠実さとは無縁のしろものである。文明批判めいた作風になっているのも古典SFめいていて好み。 「太平洋横断海底トンネル小史」は第二次世界大戦が起こらずに米日中共同のトンネル開発が行われて経済のブレイクスルーを果たしたというIF歴史モノで、その叙情性と主人公のPTSDが絡んだ味わい深い一本である。輝かしいトンネル開発の裏で起きた血なまぐさい事件と、それを記録にとどめようとした主人公のささやかな行動が眩しい。 「心智五行」は藤子・F・不二雄的な香りのする短篇で、個人的にはこれが一番面白かった。事故に遭い、ワープ航法で未知の惑星に降り立つという古典SFめいた出だしもさることながら、未開の星の男性との出会いやパーソナルAIのアーティとの会話など、ティプトリー的な異種遭遇モノの面白さがある。発達した医学により完全無菌になった主人公の女性が、メディスンマン的な五行相生との出会いによって変わっていき、体内バクテリアが感情に変化を与えるという考えにたどり着くという、文明が逆行することで新たな発見があるというのがいい。どちらがより人間的かは自明であり、多少の穢とともに歩むのが人間のあり方なのだろう。共存共栄というテーマがバクテリアと結びついているのも素晴らしく、ロマンチックかつハッピーエンドなオチも含めて、これが一番完成度が高かったように思う。ガット=直感の言い間違いであるガット=消化管がオチに使われているのも非常に上手い。 「愛のアルゴリズム」は元プログラマーらしい短篇で、やや粗いながらも、喋る人形というモチーフがアルゴリズムに従って動く恐怖とともに現実化していく過程はワンアイデアの鋭さがある。 「文字占い師」は最後を飾る短篇にしては恐ろしくヘビーで、非常に苦く、重い。二・二八事件を下敷きにした物語は血生臭く、単なる少女と台湾の心優しき老人の物語では終わらず、少女の言葉が結果的に最悪の事態を招いたというのがたまらなく悲しい。群れという言葉に込められた忌まわしき記憶など、無知で無垢な少女を通して浮かび上がる過去の歴史は陰惨で、読後感はとてつもなく重かった。近代アジアの歴史にもう少し詳しければ、より深く読めただろうにと、それだけがちょっと心残りである。 どの短篇も名作ばかりで、久しぶりに万人に勧められる短編集が見つかった。これ一冊で一気にケン・リュウのファンになってしまったので次作の「もののあはれ」も買うことにする。

Posted byブクログ

2019/05/10

理系理系していてるネタ料理SFで、こういうの読みたいよねうんうん、と好感。ニューディール政策でアメリカ国内を振興するのではなく、太平洋トンネルを建設していたらという話が、まるっきりフィクションなのにおもしろかった。

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2019/05/02

・紙の動物園 ・月へ ・結縄 ・太平洋横断海底トンネル小史 ・心智五行 ・愛のアルゴリズム ・文字占い師 表題作、結縄、太平洋横断トンネル小史、愛のアルゴリズム が気に入りました。 切ない感じもあり、余韻を残す読後感がなかなかたまりません。

Posted byブクログ

2020/05/08
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

衝撃をうけたSF短編作品集。どれも秀逸。作者はプログラマーでもあり、中国の近現代史への洞察を豊かな理系の知識で提起している。タイトルにもなっている紙の動物園は号泣したが、SFとして設定に衝撃を受けたのは「太平洋横断海底トンネル記」こんな設定にしていいんだ、歴史変えちゃっていいんだ、と鳥肌がたつ思いで読み進めた。それは歴史が変わってたらどうなってたんだろう?と想像せずにはいられない人が、私たちと海をはさんだ向こう側にいるということ。 これからグローバルに活躍したいと思っている若者やシステム畑の人におすすめ。世界史が苦手だった私のような人も、歴史がいまにどうつながっているのか、という目線できちんと学びたくなるはず。

Posted byブクログ

2019/01/05

紙の動物園の母の手紙、文字占い師の甘さんの「中国人は長いこと、語って聞かせられるような幸せな話を持っておらんのだ」、あまりにも悲しくて胸がいっぱいになる。

Posted byブクログ

2018/12/25

表題作『紙の動物園』が秀逸。思春期に感じる親への羞恥や憤慨と母親の真意が、ルーツや言語というさらに複雑なフィルターを介して、物悲しく切なくすれ違う。胸が抉られるようだ。中国系アメリカ人という著者の生い立ちが生み出した絶妙な作品である。ほかもケン・リュウ氏ならではの柔らかく幻想的な...

表題作『紙の動物園』が秀逸。思春期に感じる親への羞恥や憤慨と母親の真意が、ルーツや言語というさらに複雑なフィルターを介して、物悲しく切なくすれ違う。胸が抉られるようだ。中国系アメリカ人という著者の生い立ちが生み出した絶妙な作品である。ほかもケン・リュウ氏ならではの柔らかく幻想的な作品だか『紙の動物園』には一歩二歩及ばず。

Posted byブクログ

2023/08/10

ものすごくソリッドでくっきりしたフィクションなのに色々な余地を残しながら読める短編ばかりでとても面白かった

Posted byブクログ

2018/11/19

作者の発想の多彩さ、そして(翻訳者の技量もあると思うが)文章の流れのうまさ、に魅せられて一気に読み終えてしまう。なかなかこの感慨を伝える言葉がない。 多くの作品でアジアの歴史や、アジアと西洋文化の歴史の断片が織り込まれている。しかし、単にその歴史の傷を取り上げるだけではなく、そこ...

作者の発想の多彩さ、そして(翻訳者の技量もあると思うが)文章の流れのうまさ、に魅せられて一気に読み終えてしまう。なかなかこの感慨を伝える言葉がない。 多くの作品でアジアの歴史や、アジアと西洋文化の歴史の断片が織り込まれている。しかし、単にその歴史の傷を取り上げるだけではなく、そこに一捻りを加えて、掘り下げている。ああ、なかなかうまく表現できない。でも、表現できないくらい、イイ。素晴らしい。

Posted byブクログ