この世にたやすい仕事はない の商品レビュー
一人称の話はあまり好きではないのですが、これは主人公が淡々と話しているからか読みやすかった。時間の経過とか元々の職種とか読んでいる間、支障はないけど、気になるなという事柄について最後にしっかりわかるようになっているところも、読了感が良く面白かったです。
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燃え尽き症候群のようになって前職を辞めた30代半ばの女性。失業保険も切れる頃、職業安定所で求めたのは「コラーゲンの抽出を見守るような仕事」 偶然にも主人公の前職は私と同業で、まあ確かに燃え尽きそうになることもあるよね。頭も気も遣わないような楽な仕事っていいなーって思っちゃったり...
燃え尽き症候群のようになって前職を辞めた30代半ばの女性。失業保険も切れる頃、職業安定所で求めたのは「コラーゲンの抽出を見守るような仕事」 偶然にも主人公の前職は私と同業で、まあ確かに燃え尽きそうになることもあるよね。頭も気も遣わないような楽な仕事っていいなーって思っちゃったりするよね。と、共感の嵐。 私はバイトも仕事もいろいろと変えてきましたが、本書のタイトルどおり、たやすい仕事なんてないんですよね。 大変さの種類が違うだけで、どんな仕事だって大変な部分はある。もちろん、それぞれ楽しさややりがいだって見つけられるだろうけど、仕事である以上責任が伴うわけだから、大変でないわけがない。 大変さが欠片もないなら、それは単に収益がある遊びに過ぎない。というのは、言い過ぎだろうか。 それはさておき、最初に紹介された仕事は、とある小説家をモニター越しに監視する仕事。生中継じゃないから停止もできるし、相手が目の前にいるわけでもない個室だから、どんな格好だっていい。 なかなか楽そうなお仕事だ。 と思いきや、こんな仕事にも適正があるらしい。 それはそうですよね。ずっと画面を見続けるだけ、なんて、絶対無理だという人だって一定数いるでしょう。 そんなへんてこりんな仕事をはじめ、さまざまな仕事を主人公は重ねていくけれど、仕事をする上で鍵になるのは人間関係と適正、ではないでしょうか。 大変な仕事だって、人間関係が良ければ乗り越えられるし、どんなに楽しい仕事だって、ものすごく嫌いな人とやらないといけないとしたら、しんどい。 それに、天職という言葉があるけれど、誰にとっても楽で簡単なんて仕事はなくて、合うか、合わないか。合わせられるか、合わせられないか。 たやすい仕事はないかもしれないけど、やっていてよかった、と思える仕事を、できるだけ長く続けられたらいいな、と静かに思った1冊でした。 最後の1文もまた、共感。 私たちにできるのは、ただ祈り、全力を尽くすだけ。 どうかうまくいきますように、と。 だいたい、何をしていたって、何が起こるかなんて、どんな穴が待ちかまえているかなんて、わからないのだから。
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最初は監視のお仕事とか、奇妙な展開だったけれど、いつの間にか主人公に共感してのめりこんでいった。情熱的に誇りを持って仕事に取り組んでいる人間に対しては、どうしても無条件に敬意を持ってしまうという主人公の気持ち、よくわかる!
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津村記久子はいつも何かに腹を立てている印象のある作家だ。少なくともデビュー作の「君は永遠にそいつらより若い」から暫くはその印象は変わらなかった。それが文学賞をいくか取るうちに角が取れ怒りが収まっていくように感じた。例えば「ミュージック・ブレス・ユー!!」の主人公は、自分自身が何に...
津村記久子はいつも何かに腹を立てている印象のある作家だ。少なくともデビュー作の「君は永遠にそいつらより若い」から暫くはその印象は変わらなかった。それが文学賞をいくか取るうちに角が取れ怒りが収まっていくように感じた。例えば「ミュージック・ブレス・ユー!!」の主人公は、自分自身が何に腹を立てているのか解らないままに怒りを外に向かって発していた記憶があるのだが、最近は主人公の怒りが内向するように思える。 そんなこともあり少し遠ざかっていた津村記久子を久し振りに恐る恐る手に取る。この本の中で津村記久子は怒っているのだろうかと訝りながら。結論から言うと「この世にたやすい仕事はない」は「ミュージック・ブレス・ユー!!」の主人公のようにヘッドフォンであからさまに外界をシャットアウトはしないが、へどもどしながら世間様に何とかしがみつくそんな自分に嫌気を感じるくらいには厭世的な30代の女性が主人公だ。そこに自然と作家の等身大の価値観が投影される。だから主人公の不満や不安は作家自身の社会に対するメッセージ性を帯びるように読める。 いつの時代でも後から生まれた世代は「最近の若者ときたら!」という目で見られてしまものだが、今のご時世インターネットやメディアの発達に伴ってお節介な人々との接点も多い上に全てがポリティカリーにコレクトである必要もあり、本来なら理不尽に「理由なき反抗」したい世代にはさぞかしもやもやが発散し難い時代だろうなと想像する。その辺りの、もやもやとも、むかつくともつかない感情、それを描くのが津村記久子の新しい怒りなのかな、と漠然と思う。 でもやはり、と思うのだ。この世には怒りを代弁してくれるものが必要なのではないかな、と。ただ単に出るに任せて口から罵りの言葉を吐き連ねるのではなく、共感できる怒りを代弁してくれるものが。手に持ったアーミーナイフではなく、言葉で凝り固まった感情をほぐしてくれるものが。それが自分自身が津村記久子の文章に勝手に期待しているものなんだということが改めて解ったような気がする。
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無職になった女性がさまざまな仕事に就き、そこでさまざま経験をする、という話って言うと身もふたもないなぁ……いやあらすじで言うとその通りなんだけど。 この本に出てくる4つの職業の「なさそうでありそうな」感じがすごい。「無いだろ? いやでもあるかも?」と思わせる日常感。 出て...
無職になった女性がさまざまな仕事に就き、そこでさまざま経験をする、という話って言うと身もふたもないなぁ……いやあらすじで言うとその通りなんだけど。 この本に出てくる4つの職業の「なさそうでありそうな」感じがすごい。「無いだろ? いやでもあるかも?」と思わせる日常感。 出てくる人の業というか、本人の業というか、社会っていうか、うまく説明したらこの本を読む楽しみを奪うんじゃないかと思いつつ、単純に説明できない、世間にありふれたもやもやしたものを物語としてまとめられるってのはすごい。 面白かった。
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今までそうたくさん津村記久子の作品を読んだ訳ではなく、嫌いではないな、程度の認識だったが、この本でイッキに好きになった。 とんでもない話、奇妙な話を書く作家はけっこういるが、この人のは、普通からほんの少しズレているところが絶妙。仕事がいやになったとき、ふとおかきや飴の袋のマメ知識...
今までそうたくさん津村記久子の作品を読んだ訳ではなく、嫌いではないな、程度の認識だったが、この本でイッキに好きになった。 とんでもない話、奇妙な話を書く作家はけっこういるが、この人のは、普通からほんの少しズレているところが絶妙。仕事がいやになったとき、ふとおかきや飴の袋のマメ知識に目が止まって、「こういう文章を書く仕事をする人ってどんな人だろう」と思うことは、ある。自分にその仕事ができるかな、と思うこともある。あるいは人間関係がいやになったとき、森の管理人みたいな、誰にも会わない仕事ないかなと思うこともある。でも、そんな思いがこんな小説なるとは夢にも思わなかった。 それぞれの仕事がありそうでないだろうと思われる仕事なのだが、それが浮わついた絵空事にならないのは、出てくる人たちが、身近にもいるような、ごく普通ながら、誠意を持って仕事している人に重なるから。主人公の語りを通して、津村記久子という人も、誠意を持って、できる限りの努力で仕事に向き合ってきた人だということが伝わってくるから。 そして、最後にまさかこんなに素敵にまとまるとは思わなかった。テクニシャンだなあ。 正門さんのようなアドバイザーが私も欲しいと心から思った。
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前職で燃え尽きた女性主人公が、1年間で5つの仕事を転々としつつ、少しずつ気持ちが安定してくるというお話。 シチュエーションが限定されているせいか、いまひとつ感情移入できなかった。
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仕事に疲れはて、心が安らかでいられるような仕事を求めて転職する女性の物語。 住宅の壁にポスターの張替えを依頼する仕事、おかきの袋の裏に短文を書く仕事、バスに流れるCMを考える仕事。一見珍しくもない簡単な仕事のようだが、その奥にはこみいった様々な事情がからみ、どれも不思議な奥行きを...
仕事に疲れはて、心が安らかでいられるような仕事を求めて転職する女性の物語。 住宅の壁にポスターの張替えを依頼する仕事、おかきの袋の裏に短文を書く仕事、バスに流れるCMを考える仕事。一見珍しくもない簡単な仕事のようだが、その奥にはこみいった様々な事情がからみ、どれも不思議な奥行きを持つ仕事である。題名どおり「この世にたやすい仕事はない」と思わせるに充分だが、それでも暖かい人の感情が全体を包んで優しい気持ちにさせる。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
見張りの仕事の章はあんまりかなと思ったけど、バスのアナウンスとおかきの章でおもしろくなり、「さびしくない」と森林公園でまたう~んという感じ。 「私」の語り口調で話が進んでいくので、読みやすい。
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2016.5.9 ・みはりのしごと ・バスのアナウンスのしごと ・おかきの袋のしごと ・路地を訪ねるしごと ・大きな森の小屋での簡単なしごと
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