水声 の商品レビュー
かなりショッキングな内容だけれども、それが自然に許容できる。必然だったかのように、静かに心の中に流れ込んでくる。
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陵はママが好きではなかった。そして、陵ほどママを好きな人間は、ほかにいなかった。どちらも、同じことだ。p77 この短い3つの文章に、凝縮された時間の濃さ。 全編を通して、圧倒される。 人間の心は常に揺らいでいて、ある瞬間の気持ちを切り取って形にしても、それは次の瞬間には別の気...
陵はママが好きではなかった。そして、陵ほどママを好きな人間は、ほかにいなかった。どちらも、同じことだ。p77 この短い3つの文章に、凝縮された時間の濃さ。 全編を通して、圧倒される。 人間の心は常に揺らいでいて、ある瞬間の気持ちを切り取って形にしても、それは次の瞬間には別の気持ちにシフトしてしまっている。 混沌とした世界の無限にある選択肢から、言葉を選ぶことの難しさ。この言葉しかない、という確信を持てる根拠は何か。
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すごく、読み辛かった。同じ作者の著作では「真鶴」も読み辛いと思ったが、それを上回った。 固く閉じた世界…白くて濃密で、ほんのすこしの例外を除いて、外にも先にもどこにも繋がっていない世界だと感じた。この世界の空気は濃厚すぎて、私にはかえって息苦しく感じた。
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3作目。こいつは機内では読み終わらなかった。HONZの出口さんの書評と、抑えたセクシーさのある装丁が気になって手に取った本作。この人の作品は「センセイの鞄」しか読んだこと無い、しかも10年以上も前だから実質初物。センセイの鞄を読んだ頃は若かったから静かだなとは思ったけど、テーマで...
3作目。こいつは機内では読み終わらなかった。HONZの出口さんの書評と、抑えたセクシーさのある装丁が気になって手に取った本作。この人の作品は「センセイの鞄」しか読んだこと無い、しかも10年以上も前だから実質初物。センセイの鞄を読んだ頃は若かったから静かだなとは思ったけど、テーマである孤独というものに共感は得られなかった。本作もテーマは似ている。抑えた筆致は相変わらず、なのにこの寂寞に共鳴する自分がいるのは、少し大人になったから?今なら「センセイの鞄」も別の感想を持って読めるかも知れない。 関係ないが、本作の舞台は明らかに井の頭線沿線をリマインドさせる。武蔵野生まれ、大学までずっと吉祥寺近辺で人生を展開してきた身には、懐かしい舞台設定である。吉祥寺、浜田山、永福町、そんな地名が作品中から漂ってくるのだった。最後には小金井公園まで出てきたよ。
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水みたいな小説だな、と思いながら読み終わって、そう言えばタイトル、と思ったのだった。 考えまいとしながら一つのことを考えているうちに2〜30年があっという間に過ぎていくということが思われたり。かなり閉じている。お互いしか居ない、と思われる大切な人のことも結局は何もわからないまま...
水みたいな小説だな、と思いながら読み終わって、そう言えばタイトル、と思ったのだった。 考えまいとしながら一つのことを考えているうちに2〜30年があっという間に過ぎていくということが思われたり。かなり閉じている。お互いしか居ない、と思われる大切な人のことも結局は何もわからないままだろうということと、相手がもう一人の自分のように思えるということは矛盾しない。そういうことを考えたりした。
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あぁ、川上弘美だなぁ、としみじみ。 見た目はさらさらとしているのに手が触れるとざらざらとしている、見た目は透明なのに潜ると濁っている、そんな不思議な水のような。 どうしようもなく、ただお互いに必要であった。ということなのだろう。ただ、どうしようもなく。 「何かを、してもしなく...
あぁ、川上弘美だなぁ、としみじみ。 見た目はさらさらとしているのに手が触れるとざらざらとしている、見た目は透明なのに潜ると濁っている、そんな不思議な水のような。 どうしようもなく、ただお互いに必要であった。ということなのだろう。ただ、どうしようもなく。 「何かを、してもしなくても、後悔はするんじゃない?」
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ふたりの気持ちは、おそらくもうだれもが物語の早いうちからわかりきっていることなのだけど、長い年月の中での距離感や関わり方に、川上氏ならではの表現を感じました。
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川上弘美のここ最近の小説で一番好きかも。 姉と弟の間で流れる危うい雰囲気は、よしもとばななの『哀しい予感』を想起させるが、あれがみずみずしい夏の夜の空気をまとっているなら、こっちはどろどろした熱帯夜の空気。 この姉弟だけではなく、両親自体も謎めいている。 最初は母だけが変わっているのかと思ったら、父もかなり変な人だ。 この二人の関係性は最後まではっきりしない。 愛していたのか、恋していたのか、両想いだったのか、恐れていたのか。 この二人の関係に、母の実家を継いでいる人物まで絡んできて心情的にややこしい。 娘に買ってきてくれたおみやげは彼女には不釣り合いで、結局母親にわたるがそれは二人のかけひきの一種みたいな、なんともまわりくどくて色っぽい。 主人公とその弟をもういちど近づけてしまうのが、日本人なら誰でも覚えている、忘れられない忌まわしい記憶『地下鉄サリン事件』、紙一重でその列車に乗らなかった弟はそのことで恐怖と罪悪感を抱くことになる。 このエピソードがあることで、このあやふやしたファンタジー色すら漂うこの小説に一種のリアル感が出てくる。 だが、あの事件自体、狂った夢そのものが日常に乱暴にぶちこまれたものだ。 そう考えるとこの構成は皮肉っぽいなぁと思う。
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おもしろいっ、と読み進むというより、 読み終わってから、はふーっと余韻に浸るような本だった。 タイトルから受けるイメージ通り。 複雑な関係が描かれているのに、するりとした印象。
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ページ数は多くないのに、読み切るまでに時間がかかった。 異母兄妹だったパパとママ、その子どもである陵と都。一般的な姉弟とは異なる関係にある二人。 読み始めは都の、まだ平穏な昔話なんだけど、中盤以降ママの闘病生活や、死の色合いが濃くなっていって、息苦しかった。
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