虐殺器官 新版 の商品レビュー
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海外のSFのような雰囲気がある。 評価の高いSF作品で前々から気になっていて、やっと読んだ。 読んで良かった。これは傑作。 ただ好き嫌いは分かれそう。 作者さんが早逝されたのが本当に惜しまれる。 オーウェルとかハインラインとか、その辺の人の本を読んでたかな?と途中思うようなところも。主要登場人物がアメリカ系だったからだろう。 管理社会で何をするにもIDが読み込まれ、どこを通り何をして何を食べたなど全て記録に残るような社会が舞台。その中で、主人公は特殊部隊の兵士。母親の死をものすごく引きずっていて、内面の語りが多く、ときに翻訳物のようにくどかった。 窮屈で退廃的で、監視システムが発達した世界観と、進化した生体機械などの道具のアイデアが良く無理がない。機械の素材やその生産地の設定には、風刺が利いてると感じた。 令和の今も、平和な地とそうでない紛争地、それにテロはある。進行中のハマス、イスラエル問題、なんだかこの小説の世界に通じる。虐殺の構文、作中では具体的にどんなものなのかわからなかったが、今もそんな土地にその構文が撒かれているのかもしれない、などと思ってしまう。 あの土地にも彼が来ていたのだろうか。 現実とのリンクを感じるあたり、作者さんの視座の鋭さが窺える。長生きして、もっと作品を残して欲しかったと思う。
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近未来の様子が主人公の目線を通して語られ、実際にそんな世界があるように引き込まれていく。国際情勢や社会への問題提起が作者のテーマの一つなんだろうか。
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こういう人を天才というのだ、を実感した作品です。これがデビュー作(初稿に加筆修正はあったにせよ)というのだから……… その世界観には宇宙的広大さを感じましたし、一つの思想としては終末的未来志向を享受した思いです。 近未来の描写が決して突拍子もないものでないのが、恐ろしくもありま...
こういう人を天才というのだ、を実感した作品です。これがデビュー作(初稿に加筆修正はあったにせよ)というのだから……… その世界観には宇宙的広大さを感じましたし、一つの思想としては終末的未来志向を享受した思いです。 近未来の描写が決して突拍子もないものでないのが、恐ろしくもあります。 その時点での現実を実に真摯に受け止め、その未来を的確に予測(予想でなはく)している………。 だからこそ、あの結末は好きです。 ゾクっときました。 逆説的に世界に問うている。 しかしなが、現実世界では長きに渡る歴史の過程で、まだまだ同じ問題で継続して争っています。 イスラエルのパレスチナへの攻撃はガザを中心にひどくなり、ハマスの攻撃も異常を極めフィクションの世界へどんどん近づいているようで、彼の作品が傷つけてられているような気分です。 アニメ作品は3作全て見ましたが、やはり彼の筆力にはついていけないんだな。 二作目も興味がありますが、 果たしてこれ以上のものを期待していいのか………迷っています。
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愛する者を守るために戦っていたものと、 愛する者を失ってもなお戦い続けるもの。 この世界の規律は、原理は、我々に何を問うているのか。 何を理由に戦い、何のために死にゆくのか。 個人のため、国のため、他者のため。 そこには愛情と、それ以上の大きな思想が関わっているのかもしれない。 そしてそれは本当に自分の意志なのか。 どこまでが生きていてどこからが死んでいるのか。 非現実的であり限りなく現実的であるこの世界が、 限りなくリアルな描写で表現されていることによる没入感もさることながら、 本作の魅力はそれ以上に繊細な心理描写にあるだろう。 痛みを感じたことを認識できるが痛くはない。 すでに自意識が他者の手によって操作されており、 ファンタジーである管理社会があたかも正義のように感じてしまう。 著者の持つ圧倒的な文章構成力よって、 本書を読んだことによる読者の感情の動きまで操られていたかのような、 不気味で心地よい読後感に浸ることができた。 恐怖と歓喜、尊敬と嫉妬が渦巻く感情を表現する言葉を私は知らない。 いい意味で、華麗に美しくひっくり返してくれました。 定期的に再読したい一冊。
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各地で内戦が多発する世界での暗殺部隊に所属する主人公と 暗躍する謎の人物「ジョン・ポール」を巡るディストピアSF IDや人工筋肉など、それらしい設定は盛り沢山だが、 メインは理解され難い葛藤を抱えた主人公の心の動きの方にあるように思える 一部かなり幼さを感じさせる点もあり共感はし...
各地で内戦が多発する世界での暗殺部隊に所属する主人公と 暗躍する謎の人物「ジョン・ポール」を巡るディストピアSF IDや人工筋肉など、それらしい設定は盛り沢山だが、 メインは理解され難い葛藤を抱えた主人公の心の動きの方にあるように思える 一部かなり幼さを感じさせる点もあり共感はしづらかったが 結末は特にショッキングで放心させられた
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あれ、何でこんなに読み易いのだろう? 今更ながら伊藤計劃氏の虐殺器官を読了。 (この感想を書く数ヶ月前に) 最初は世間の評価を前に身構えてしまい、 いかに難解で複雑怪奇な作品かと怯えていたが、 個人的には大変読み易い大好きな文体、 かつ、ところどころ主人公が一人称語りで出す例...
あれ、何でこんなに読み易いのだろう? 今更ながら伊藤計劃氏の虐殺器官を読了。 (この感想を書く数ヶ月前に) 最初は世間の評価を前に身構えてしまい、 いかに難解で複雑怪奇な作品かと怯えていたが、 個人的には大変読み易い大好きな文体、 かつ、ところどころ主人公が一人称語りで出す例えの数々が個性的なのだが、しかしそのどれもが「ああ〜〜」と何故かストンと腑に落ちる。 作中の特異な近未来SFの舞台背景、虐殺器官というタイトルよろしいとんでも兵器が明らかになっていく展開もそうなのだが、 何よりも伊藤計劃氏自身から生み出される明瞭でしかし努めて温度感を廃した文章のおかげで、それらがスルスルと自分の中に入ってくる。 文章をここまでロードマップ化できるのかと、読んでいる最中に何度も感嘆。 とても良い読書経験でした。
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ラストの謎の清涼感を味わいたくて再読。ムンバイの基地で見かけたリボルバーを腰に挿した銀髪の老兵ってリボルバーオセロットのことかなって思わず考えてしまいました笑。小島監督ファンの筆者らしい作中世界の雰囲気がとても良かったです。 無責任であること無関心であることの罪、自己責任から...
ラストの謎の清涼感を味わいたくて再読。ムンバイの基地で見かけたリボルバーを腰に挿した銀髪の老兵ってリボルバーオセロットのことかなって思わず考えてしまいました笑。小島監督ファンの筆者らしい作中世界の雰囲気がとても良かったです。 無責任であること無関心であることの罪、自己責任から逃れたい罪への赦しについて色々と考えてしまいました。
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ミッションインポッシブルや007の映画のような話でした。ありそうでなさそうで、なさそうでありそうな、深いようで深くないような、深くないようで深いような、エンターテインメント小説。
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21世紀を代表するSF作品と呼び声の高いことより、気になり読んでみた。 虐殺器官という物騒な響きより、スケールが大きく激しい戦闘シーンだらけなのかと予想していたが、それだけではなく、非常に心情描写が豊かな作品でもあった。 周囲の風景に溶け込む服や、網膜にあらゆるデータを映し出す機...
21世紀を代表するSF作品と呼び声の高いことより、気になり読んでみた。 虐殺器官という物騒な響きより、スケールが大きく激しい戦闘シーンだらけなのかと予想していたが、それだけではなく、非常に心情描写が豊かな作品でもあった。 周囲の風景に溶け込む服や、網膜にあらゆるデータを映し出す機会など、SFならではのワクワクさせる要素が万歳。 それに対し、痛みや感情を抑制する麻酔など、現実にあるとゾッとするようなモノも存在している。 今ある生活が、一体何によって脅かさせる可能性があるのか。 今自分はどんな不都合な現実から目を背けているのか。 そんなことを深く考えさせられる一冊でした。
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ハーモニー同様大変興味深い本で、良い読書体験をさせてもらった。ストーリーはハーモニーとは全く異なるが、内包するテーマはハーモニーと同じものも違うものも含まれているように感じられ、妙に親和性が高く、まるでセットのような本だなと思うなどした。個人的にはハーモニーの方が終わりの美しさや...
ハーモニー同様大変興味深い本で、良い読書体験をさせてもらった。ストーリーはハーモニーとは全く異なるが、内包するテーマはハーモニーと同じものも違うものも含まれているように感じられ、妙に親和性が高く、まるでセットのような本だなと思うなどした。個人的にはハーモニーの方が終わりの美しさや表現の面白さ、テーマ的に好きだが、虐殺器官もかなり好きだ。責任、赦し、平和、自由。色々なことを考えさせられるが、同時にどこか他人事で、そんな自身の姿勢がまたこの本によってチクチク刺されるのが面白い構造になっているように感じた。
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