終わりの感覚 の商品レビュー
良い小説を読み終わると、しばらくはその余韻に浸っていたくて他に何も読みたくなくなる。私にとって、これはそうした小説の一つだ。 この物語の語り手に近い年輩に至ったいまこの物語に出会ったことに少なからぬ運命的なものを感じてしまう。 迫り来る老い、自分に都合よく書き換えた過去の記憶、...
良い小説を読み終わると、しばらくはその余韻に浸っていたくて他に何も読みたくなくなる。私にとって、これはそうした小説の一つだ。 この物語の語り手に近い年輩に至ったいまこの物語に出会ったことに少なからぬ運命的なものを感じてしまう。 迫り来る老い、自分に都合よく書き換えた過去の記憶、選ばなかった人生への悔恨。 私も自身の記憶を都合よく書き換えているに違いない。 それと気付かず、他人の人生を狂わせているかもしれない。 この先、この語り手に起こったようなことが私にも起こるだろうか? 語り手同様に早々に野心をあきらめ無難な人生を送ってきた私には、あまり有難くないことではあるが、同じような後悔を味わってみたいような気もする。
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訳の土屋政男さんが、いいんだな。生とか死、友情とか愛とか、もう、すべてを、すべてのエグい部分を盛り込んだ感じ。2011年ブッカー賞。
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「歴史とは不完全な記憶が文書の不備と出会ったときに生まれる確信である。」 この物語は、途中で自殺した秀才エイドリアンのこのテーゼを裏付けていく流れで進んで行く。 一番の語り手であり、エイドリアンの親友でもあった「私」は、大学で歴史を学び、平和主義で平穏な人生を望み、それを自らの選択により作り上げてきたと考えていた。 それを振り返る時期にさしかかったあかつき、ひとつの連絡と、いくつかの文書が手元に舞い込んでくる。 その記録と、自分の記憶が出会った瞬間、彼は自身がどのような歴史を刻んできたのかをはじめて確信する。「私」は、自分の不完全な記憶に隠されてきた劣等感、傲慢さ、屈辱、憎悪、自惚れ、自己欺瞞がいかなるものだったのか、ばかのように最後まで気付かなかった。 その文書がなければ「私」は平和的に人生を終えていただろう。 そしてさらなるどんでん返し... 歴史は、大いなる混沌。 たったの184pですが、重いお話でした。
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自問自答モノローグ。自分のことも、恋人のことも、友人のことも、他人のことも、分かったようで、全然わかっていない、ということかしらん。自分の過去の記憶は自分の都合の良い想像上の物語。
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結論がよく分からず?? イギリス版「こころ」といった感じ。 元妻をもっと大事にした方がいいんじゃない? 全く共感できません。
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2011年ブッカー賞受賞作。 穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士からの手紙が届く。 ある日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。 その女性とは、学生時代の恋人、ベロニカの母親だった。 そして、日記は、同じ学生時代を過ごした友人エイドリアンのもの。 ベロニカ...
2011年ブッカー賞受賞作。 穏やかな引退生活を送る男のもとに、見知らぬ弁護士からの手紙が届く。 ある日記と500ポンドをあなたに遺した女性がいると。 その女性とは、学生時代の恋人、ベロニカの母親だった。 そして、日記は、同じ学生時代を過ごした友人エイドリアンのもの。 ベロニカは男と別れた後、エイドリアンと付き合っていた。 そして、在学中に突然自殺してしまった彼。 なぜ、彼の日記が母親のもとに? なぜ、エイドリアンは死をえらんだのか? しかし、日記はなかなか彼の手元に届かない。 彼は、日記を取り返すべく、あの手この手でベロニカに接触する。 それは、苦く重い青春時代を思い出すことでもあった。 そして、隠された謎がだんだん明らかになってゆく。 ちょっと衝撃。
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うーん、年輪を感じる。読み返すと更におもしろさが湧き出てくるような小説。おもしろかった。サスペンスとしても読める。 年を取ってもう一度読んでみたい。
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生きること自体に思想は不要だが、その外側にある死と向き合う際に人は哲学的に為らざるを得ない。10代の頃の同級生の自殺と20代の時の友人の自殺、2つの死について初老の男性が追憶する所から始まる本書はそれ故に時間と記憶を主題とする思弁的な小説として進んでいくが、終盤でそれこそが語り手...
生きること自体に思想は不要だが、その外側にある死と向き合う際に人は哲学的に為らざるを得ない。10代の頃の同級生の自殺と20代の時の友人の自殺、2つの死について初老の男性が追憶する所から始まる本書はそれ故に時間と記憶を主題とする思弁的な小説として進んでいくが、終盤でそれこそが語り手の歪曲なのだということを思い知らされた。「あなたはまだわかってない。」そう、哲学的であるというのは時に生の現実から目を背ける為に取り違えられる。その盲目さを自覚した時に残されていた終わりの感覚は、痛みと後悔を伴う苦いものであった。
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高校時代の悪友3人、トニー・アレックス・コリン、そこへ転校生のエイドリアンが加わり、最高の仲間だった。エイドリアンは哲学的な秀才で、ケンブリッジに進む。トニーは、大学に進み恋人になったベロニカを高校時代の親友3人に紹介する。その後ベロニカはトニーと別れエイドリアンの恋人になる。し...
高校時代の悪友3人、トニー・アレックス・コリン、そこへ転校生のエイドリアンが加わり、最高の仲間だった。エイドリアンは哲学的な秀才で、ケンブリッジに進む。トニーは、大学に進み恋人になったベロニカを高校時代の親友3人に紹介する。その後ベロニカはトニーと別れエイドリアンの恋人になる。しかし、エイドリアンは在学中に自殺してしまう。 悲劇的な出来事から時は流れ、引退したトニーのもとへベロニカの母親の死亡の知らせと、遺言として500ポンドとエイドリアンの日記を送ると伝えられる。なぜ、エイドリアンの日記がベロニカの母親のもとにあるのか。疑問を解こうと、トニーはベロニカに会おうと弁護士に掛け合う。 前半はトニーの青春時代の悪ふざけや、若々しい異性への欲望とベロニカへの思い・失恋の悲しみをつづる。 後半は、ベロニカの母親の遺言に隠された真実を探る年老いたトニーを追う。そして最後の最後に明かされるエイドリアンの自殺の真相。 青春小説と思って読んでいると、最後に大きなパンチをくらうサスペンスチックな筋立て。本書で4度目の正直のブッカー賞を受賞というのも納得です。
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2/20のヨモウカフェ課題本でした。 ブッカー賞は聞いたことなく、でもイギリスではかなり評価の高い賞らしい。 賞金も5万ポンド(現在の為替で700万以上)という破格の高賞金でもある。 作者のJulian Barnesはブッカー賞に4回候補に挙がって2011年が 初の受賞となりました。内容はというと、ある男の人生の回想から とんでもない結末へと進んでいくいわゆる推理小説というところか。 作者がフランス文学、哲学を大学時代に専攻していたこともあって、 本の中で印象的な言葉がありました。 「歴史とは、不完全な記憶が文書の不備と出会うところに生まれる 確信である」なんてこの本の真髄を表している。 本の感想はというと、かなり読みやすい内容でした。 でも読み返すたびに新たな発見がある。 結末がわかっていても引き込まれるのは、正直驚きだ。 主人公の男にいらいらさせられると自分は感じていたんだが、 それって主人公が自己愛が強すぎるよね、 とグループのある女性が言った時に僕はびくっと来た。 だって裏を返せば自分が彼を批判するのは、 結局のところ自分を批判しているのと同じだからだ。 僕も自己愛が強くて、でも最近少しは自分に向き合えるようになってきた。 文学は本当に考えさせられますね。終わりのないJourneyです。
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