わかりあえないことから の商品レビュー
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著者、平田オリザ氏。 戯曲と演出を手がける、演劇界の人、というだけでなく、現在は阪大のコミュニケーションデザイン・センター教授でもある。 「コミュニケーション能力」 この言葉を私もよく使っている。が、具体的にそれはどういうことができる能力で、その力をつけるには何をすべきか、ということは曖昧なまま使っていた、とまずは気づく。特に採用面接の振り返りにおいてこの言葉を多用している。ないとか、高いとか。 著者は、昨今叫ばれている「日本の子どもたちのコミュニケーション能力が低下している」という意見に異を唱えている。ただし、問題点として下記をあげている。 ・(高度経済成長時代のような)競争社会に生きていないため、コミュニケーションに対する欲求や必要性が低下している ・少子化の影響も踏まえ、子供が他者との関わりにおいて言語習得していく過程が省略された結果、単語で喋る子どもが増えている ・表現とは、他者を必要とするが、家庭にも教室にも地域社会にも他者がいない。それにより、表現の意欲が奪われ、また必要性も感じられない。 こうした背景により、子どもたちのコミュニケーション能力が低下しているわけではない、と考えるが、社会が要求するコミュニケーション能力は、高まっており、教育プログラムはそれに伴っていない。 著者は、演劇人として、様々なワークショップを通し、コミュニケーションに関心を持たせること、特に、理系の学生にコミュニケーション嫌いを少なくし、コンプレックスを持たせないこと、また、コミュニケーションの多様性や多義性に気づいてもらうこと、に取り組んでいる。コミュニケーション教育は人格教育ではなく、コンテクストの違いを認識する、という技術、能力を持つかどうかの違いである。 コンテクストとはここでは、「その人がどんなつもりでその言葉を使っているのか」ということをさし、つまり、おなじ単語や言い回しを使っていたとしても、違う意図や背景で使っている、ということ。全く文化的な背景が異なるコンテクストの「違い」よりも、差異が見えにくいこうした「ずれ」がコミュニケーション不全の原因となりやすい。 コンピューター学者でも、脳科学者でも、このコンテクストのずれは「コンピューターには理解できない」とされており、であるならば、子育てや教育や看護や介護は、人間が直接担うしかない。子どもに代表される社会的弱者は、他者に対して、彼らなりのコンテクストでしか物事を伝えられないからである。 最近、特に震災以降は、リーダーシップの必要性が問い直され、リーダーの資格とは何か、が問われている。こうした場面で求めれられるエマージェントリーダー、とは、決断し、人を説得し動かし、引っ張っていける人、ではあるのだが、これから先は、社会的弱者のコンテクストを理解する能力が問われる。ここは非常に強く共感した。 著者によれば 「社会的弱者は、なんらかの理由で、理路整然と気持ちを伝えることができない。いや、理路整然と伝えられる立場にあるなら、その人は、大抵の場合、もはや社会的弱者ではない」 いま、自身は、論理的に考え組み立てる能力が低いと感じている、それゆえに、MBAコースを通じてそこを磨こうともがいているわけだが、論理的に話せない人たち、の立場と気持ちを汲み取る努力も、一方では求められているのだと思う。そうした「弱者」とも、一緒に働き、結果を出さねばならない以上は。 私はわりと、相手を知りたい、出来得るならば理解をしたいと思う。が、わかりあえる事を前提にではなく、著者のいうようにわかりあえないことを前提に努力した方が、現代社会では必要なのかもしれない。 最後に 大学の卒論(言語獲得とコミュニケーション)で彼の本を参考文献にと勧められた。「演技と演出」。 もちろん読んだし、面白いと感じたが、それが私の卒論にどう関係するのか?が、いまわかったような気がした。今回の本で書かれているような内容について、先生が示唆したかったのだ、ということを。 久々、長めの感想。やはり私は、この分野にずっと関心を持ち続けている(潜在的に)という発見もあった。かなりの良本。おすすめ。
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コミュニケーション力とは何か? 「演劇」という媒体を用いて、コミュニケーションについて書かれていて、非常に分かりやすくて面白かったです。ためになりました。
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仕事柄、50歳前後の方と話すことが多い。 ふとしたことから、よく自動車の保持に関する話題になる。 その際、「自動車を持っていませんし、今のところ欲しいと思ったことがありません。」と伝えると、必ず驚かれる。 その理由を話す時、出来るだけ論理的にわかりやすく伝えようとする。 出来るだ...
仕事柄、50歳前後の方と話すことが多い。 ふとしたことから、よく自動車の保持に関する話題になる。 その際、「自動車を持っていませんし、今のところ欲しいと思ったことがありません。」と伝えると、必ず驚かれる。 その理由を話す時、出来るだけ論理的にわかりやすく伝えようとする。 出来るだけ論理的にわかりやすく伝えようとするだけあって、理解はして頂ける。 が、納得はされない。 しかし、仕方がない。 お互い過ごした時代、インフラの発達具合、有する価値観が異なるのだから。 ジョゼ・モウリーニョは、「勝利の為には、国も文化も異なる選手たちを一つの方向に向けることが、非常に重要であり不可欠だ。」と、語っていた。 その手法に長けているモウリーニョは、異なるチームを指揮しても、タイトルという結果を残している。 一方、国も文化も同じ我々日本人を見てみよう。 若手社員の気持ちがわからない管理職や子供の考えていることがわからない親や教師は、ごまんといる。 『沈黙は金、雄弁は銀』や『阿吽の呼吸』が概念として浸透している島国・日本でも、他人と分かり合えていないし、これからもきっと分かり合えない。 そういった普遍的なことを、平田オリザ氏は語っている。 ただ、コミュニケーション能力を高める方法が、教育機関に於ける演劇のみであった点が、残念だ。 (平田オリザ氏の職業上、記述されるべきではないのかもしれないが…。) それに付随するヒントを提示頂けると、より良書になっていただろう。
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コミュニケーション・演劇問いキーワードから著者を知り読んでみる。 ナニコノ発想!?構成!? 色んな新鮮な風に触れることができます。 意見突飛なことをしているようで、 実は至極当たり前なことをしているように自分は感じた。 この発想の切り口・プロセスを学びたいと感じたので、 自分...
コミュニケーション・演劇問いキーワードから著者を知り読んでみる。 ナニコノ発想!?構成!? 色んな新鮮な風に触れることができます。 意見突飛なことをしているようで、 実は至極当たり前なことをしているように自分は感じた。 この発想の切り口・プロセスを学びたいと感じたので、 自分は著者の他の作品にも当たります! 演劇関係者はもちろん、 教育に関わる方々に読んでいただきたい一冊>ω<
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図書館で借りた本。 子育ての上での「いい子」について考えさせられた。 子供には「いい子」を演じさせてはいけないと、ずっと思ってきたし、それが常識だと思っていた。「いい子」を演じさせるから、演じるのに疲れて糸がきれたみたいに無気力になったり、爆発して暴力的になるもんだと思ってたけど、この本には【いい子を演じることに疲れない子供を作ること(中略)演じるのを楽しむほどのしたたかな子供を作りたい】と書かれており、自分がパラダイムにはまっていた事に気がついた。
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コミュニケーションの不可能性から発想しないとだめですよという本。ひょっとしたら黒崎さんのデザインコミュニケーション学部の元ネタなのかもと思った。そして、富良野や大阪大学での取り組みが語られるんだけど、それらの事例に大きな希望を感じる。コミュニケーションにはコンテキストが重要だとか...
コミュニケーションの不可能性から発想しないとだめですよという本。ひょっとしたら黒崎さんのデザインコミュニケーション学部の元ネタなのかもと思った。そして、富良野や大阪大学での取り組みが語られるんだけど、それらの事例に大きな希望を感じる。コミュニケーションにはコンテキストが重要だとか、椅子の並べ方なんだとか、すごく気持ちのよい議論が展開されてます。おすすめ。
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大阪大学のコミュニケーションデザインセンターで演劇を通して科学者や医者の卵にコンテクストを読解できるコミュニケーションの学びを行っている平田オリザさんの本です。 日本ならではのコミュニケーションの性質を浮き彫りにし、日本社会や教育が抱えるコミュニケーションの課題についてわかり...
大阪大学のコミュニケーションデザインセンターで演劇を通して科学者や医者の卵にコンテクストを読解できるコミュニケーションの学びを行っている平田オリザさんの本です。 日本ならではのコミュニケーションの性質を浮き彫りにし、日本社会や教育が抱えるコミュニケーションの課題についてわかりやすく書かれた本です。 演劇の背景から来る裏づけが説得力があって面白い。 対話という概念について終始語られており、自らのコミュニケーションのあり方について振り返るきっかけとなりました。
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演劇人としての直感をもとに論理を組み立てておられるが、異文化交流の現場に身を置くものとしては「人間は分かり合えないものの、多少の共有の余地はあり、そこを広げていくことが重要」という主張は激しく同意できるものであった。理解し合えるなんて軽々に言わなくてよいのだ。
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コミュニケーションに悩んでいたためタイトルが気になり読んでみた。 劇作家さんが書かれたとのことで、方法論が記述されているのだろうかと思ったが、違った。 演劇の知識がない私でも読みやすく、わかりやすかった。
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タイトルに惹かれて購入。 劇作家であり、大阪大学の先生でもある著者が、現代社会が求める曖昧なコミュニケーション力について、自身の経験から得た考察を述べるという内容。 簡単な文章なので、すっと読めてしまう。 いい意味で口語的というか、まるでラジオでも聞いてるかのように流して読め...
タイトルに惹かれて購入。 劇作家であり、大阪大学の先生でもある著者が、現代社会が求める曖昧なコミュニケーション力について、自身の経験から得た考察を述べるという内容。 簡単な文章なので、すっと読めてしまう。 いい意味で口語的というか、まるでラジオでも聞いてるかのように流して読める。 だからといって内容が薄いわけではない。 現代社会・演劇・医療・人工無能など…様々なジャンルの話を通してコミュニケーションを考えてゆく。 挙げられている事例が多いので、飽きずに読める。 読んでいるうちに、普段無意識でやっていることを指摘されていたり、逆に意識しすぎてダメになっている部分が浮き彫りになってくる。 これがコミュニケーションの正解だ!と押し付けがましくないのも好感がもてる。 どのジャンルの人にとっても、人との相互理解は欠かせない。 誰にとっても勉強になる、気づきを与えてくれる。
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