箱の中 の商品レビュー
痴漢の冤罪で否認し続けた結果実刑判決を受け、刑務所に淹れられてしまった主人公。現実に打ちのめされながら過ごすことになった雑居房で彼は、風変わりで無愛想な、けれどやさしい一人の男と親しくなっていく… もともとはBL専用のレーベルから発売されていた小説が一般レーベルにというのも珍し...
痴漢の冤罪で否認し続けた結果実刑判決を受け、刑務所に淹れられてしまった主人公。現実に打ちのめされながら過ごすことになった雑居房で彼は、風変わりで無愛想な、けれどやさしい一人の男と親しくなっていく… もともとはBL専用のレーベルから発売されていた小説が一般レーベルにというのも珍しい展開だと思うのですが、読んで思ったのは「そもそもこれがBLレーベルで!?」という意外さでした。 まったく甘さもうっとりするような「いわゆるBL」というイメージな展開はまるでなく、どこまでも残酷で容赦のない世界で出会うべくして出会った二人がたまたま男同士で、必然として関係を持ち、結びついていくという「運命のなりゆき」を描いた物語としてこれほど隙がなく骨太なものはそうそうないのでは、と感じました。 不運によって堕ちた人間ともともとリスクを背負って育って来た人間が出会い、違う苦しみを抱えながらともに生きていこうと不器用に進んでいく。 不合理なことばかりの現実で、大切なものもひとときのすれ違いで無残にこぼれ落ちていく世界で。 それでもかけがえのない人がひとりいれば生きていけると信じられたなら、捨てたものではないのかもしれない。 そんなほのかな灯りをともして、苦くて辛い物語は幕を閉じます。あまりにほのかだけれど、すがりつきたくなるようなあたたかさがそこにあって、きつく胸を打ったのでした。
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久し振りに会った知人に「最近何か面白い物読んだ?」挨拶代わりに云ったらば、甚く勧められ手にした一冊。 刑務所の話と聞き、「モリのアサガオ」的なヒューマンドラマを予想していたのですが…そしてBL界の芥川賞と呼ばれる名作の様でして…期待が高すぎたのもありますが…うん、紛う事無きBL小...
久し振りに会った知人に「最近何か面白い物読んだ?」挨拶代わりに云ったらば、甚く勧められ手にした一冊。 刑務所の話と聞き、「モリのアサガオ」的なヒューマンドラマを予想していたのですが…そしてBL界の芥川賞と呼ばれる名作の様でして…期待が高すぎたのもありますが…うん、紛う事無きBL小説でした。 前半「箱の中」と「脆弱な詐欺師」はグイグイ読ませるものがありましたが、「檻の外」は主人公たちが結ばれる為に若干都合良すぎやしないか?と云う気もしました。全体的には、どんなに凶悪な展開も、主人公達の清廉さと正義ばかりが貫かれているのがどうにもファンタジー。其処を楽しむのがBLの嗜み方なのでしょうけれども。 この手の小説にしては文章も読みやすく、独り善がりで無い書き方には著者の巧みさを感じました。
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Holly NOVELSのみ取り扱いの地元図書館。 BL小説の出版社から離れて講談社文庫で出版されるという 垣根を越えた小説らしい。 「檻の外」の途中までが収録されているらしく、 両方読んで観た。 何軒か回った本屋さんには講談社文庫版は置いていなかった。 BLデビューである。 ...
Holly NOVELSのみ取り扱いの地元図書館。 BL小説の出版社から離れて講談社文庫で出版されるという 垣根を越えた小説らしい。 「檻の外」の途中までが収録されているらしく、 両方読んで観た。 何軒か回った本屋さんには講談社文庫版は置いていなかった。 BLデビューである。 前半は喜多川の純粋さというよりは強引さが怖くて怖くて。 でも堂野は驚きつつも怖がってない様子なのが不思議だった。 後半で愛を理解する喜多川に驚いた、堂野って、愛ってすごい。
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凄い 最初から最後までとにかく目が離せない 良い方向へのご都合を許さない厳しさと 三浦しをんの言うところの「うっとり」の配合が絶妙 美しい
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木原音瀬さんの小説を初めて読んだけど、文体が淡々としているのにびっくりするほど登場人物の気持ちが伝わってくる。BLにありがちなお約束展開は一切存在しないし、王道のラブストーリーが読みたい人にはお勧めできないけど、人間の卑劣さと純粋さを愛を通して痛いくらい表現している作品だと思う。
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もともとはBLノーベルから2冊出版されていたものが一般書として文庫化したものだと知り、驚きましたが「BL」と一括りにしてしまうのはやっぱり惜しい作品。痴漢冤罪、詐欺、不倫、殺人、そして、人を愛することとは一体何なのか?様々な人間の心理や感情を痛いほどに追求し描かれていて、こんなに...
もともとはBLノーベルから2冊出版されていたものが一般書として文庫化したものだと知り、驚きましたが「BL」と一括りにしてしまうのはやっぱり惜しい作品。痴漢冤罪、詐欺、不倫、殺人、そして、人を愛することとは一体何なのか?様々な人間の心理や感情を痛いほどに追求し描かれていて、こんなにも人間の心理を突きながら心に深く入り込んでくる恋愛小説は他に無いと思います。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
読み終わってため息。 星4は『なつやすみ』を読みたいという気持ちを忘れないように。 榎田尤利作品にハマっていたらオススメでよく出てきた木原音瀬(このはらなりせ)作品。 本屋でふと見つけて思い出したので購入。 BLというとライト目なものしか読んでこなかったので、一口にBLといっても幅広いなぁと実感しました。 冤罪って怖いなぁ……痴漢冤罪多いんだろうなぁ…… 刑務所の中こんなんなの…… から始まり、懐く喜多川が可愛かったりその不安定さに段々怖く感じたり。 脆弱な詐欺師は一転変わって水戸黄門芝さん!みたいでスカッとしました。なんて頼りになるお人。 そして檻の外。 堂野の家庭と喜多川との結末。 どうなるのか全く予想できなかった序盤から、堂野同様読者もつい不信感を持ってしまう喜多川の言動。そしてジリジリと嫌な予感に凍りつく背筋。 正直途中止めてしまおうかとも思いましたが、読めば止められず、辛さと怖さに体を冷たくしながら読みました。 堂野の妻に嫌気がさしつつ、もし妻が浮気せず、娘も死んでいなかったら堂野は喜多川を選ばなかったのでは?? と思うと複雑。運命、と言えばそれまでだけど、娘が浮かばれないなぁと。喜多川は失ったから手に入れたのか??一見不幸ばかりの堂野だけど、不幸になったから喜多川は刑務所の中でも出た後でも愛してる堂野といられたのか。そう思うとハッピーエンドなのだろうか?と悩んでしまう。別にハッピーエンドと公言してるわけでもないし、ハッピーエンドばかりがいいわけでもないけれど。 星4はそのモヤモヤもあってかもしれないが、 BLの見方が変わる、夢中で読める、いろいろ考えさせられる……読んでよかったと思うのでオススメしたい。 ライトなものや、ハッピーエンドが好きな方には重いかもしれない。
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痴漢の冤罪で刑務所に入った主人公の堂野は、そこで自分に好意を寄せてくる喜多川と出会う。幼い頃から、愛情を受けず育った無垢な喜多川に対して、堂野は彼を保護したいと自然と思うようになっていく。 BL小説とのことだが、絡みのシーンは拍子抜けするほど僅かで、どちらかというと推理小説(ま...
痴漢の冤罪で刑務所に入った主人公の堂野は、そこで自分に好意を寄せてくる喜多川と出会う。幼い頃から、愛情を受けず育った無垢な喜多川に対して、堂野は彼を保護したいと自然と思うようになっていく。 BL小説とのことだが、絡みのシーンは拍子抜けするほど僅かで、どちらかというと推理小説(またホラー的な部分もあって)として、楽しめた。それぞれのキャラクターも魅力的に描かれている。続編もあるとのことなので、いつか読んでみたいと思った。
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恋愛小説とはいっても男同士の恋愛を綴った物語である。 もっと踏み込んで言えば、人間同士の深い絆を語った物語だったような気がする。 痴漢という冤罪を着せられた堂野は否認を続け、結果反省の色なしとして収監されることになる。 「何もしていないのに、どうして自分はこんなところにいるんだろ...
恋愛小説とはいっても男同士の恋愛を綴った物語である。 もっと踏み込んで言えば、人間同士の深い絆を語った物語だったような気がする。 痴漢という冤罪を着せられた堂野は否認を続け、結果反省の色なしとして収監されることになる。 「何もしていないのに、どうして自分はこんなところにいるんだろう?」 痴漢だと決めつけた被害者の女性にも、自分の言い分にはいっさい耳を傾けなかった警察にも、正しい判断がくだされるはずだと期待していた裁判にも、堂野は絶望していた。 悔しさと怒りと哀しみと、制御できない感情におぼれながら死にたいと思う毎日を過ごしていた。 母に捨てられ、母のために殺人犯として逮捕され、何の疑問も持たずに生きてきた喜多川。 普通に暮らしていれば身についたであろう常識も、感情を理解する心も、喜多川にはない。 だからこそ、ピュアな心は真っ直ぐに堂野へと向かう。 刑務所という閉ざされた空間での交流。 それはきっと、世間の日常生活の中で思い返せば懐かしくも苦さを伴う感情だったのだろう。 喜多川の出所の日、堂場は迎えに行かなかった。 出所後の住所も、故郷も、何もかも、自分につながるようなものは喜多川には教えなかった。 ひたすらに追い求める一途な想い。 周囲を振り回し、いつだって大事なのは誰よりも自分という身勝手さ。 恋愛感情に優劣はないと思う。 けれど、少なくとも相手への思いやりが持てる人間のほうがいいに決まっている。 夫婦とは、家族とは、愛とは、いったい何だろう? 感情は目に見えない。 だから行動で、言葉で、表すしか相手に伝える術がない。 でも、その言葉でさえ意図的に捻じ曲げることは出来る。 愛とはもしかしたら究極の執着なのかもしれない。 そんなことをふと感じてしまった物語だった。
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愛にはいろんな形があることを、堂野もわかっていたけれど、彼が最後に選んだのは喜多川の変わらぬ一途な愛だった。堂野なんてほんとにフツーの人なのに、喜多川にとっては唯一なんだ。とにかく、喜多川の愛が報われて嬉しい…。ブレない彼が愛おしかった。今時、こんな人はいないでしょうから。ここま...
愛にはいろんな形があることを、堂野もわかっていたけれど、彼が最後に選んだのは喜多川の変わらぬ一途な愛だった。堂野なんてほんとにフツーの人なのに、喜多川にとっては唯一なんだ。とにかく、喜多川の愛が報われて嬉しい…。ブレない彼が愛おしかった。今時、こんな人はいないでしょうから。ここまで正直で真っ直ぐな人は。 終盤の、「麻理子の美味しい料理を食べているよりも、喜多川と出来合いの弁当を食べている方がよかった」というのが地味にお気に入り。
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