母の遺産 の商品レビュー
水村早苗さんの久しぶりの長編。海外で近代日本文学を教えているからこそなのか、いつも消えゆく近代日本文学への愛を感じる小説を書く。あまりに近代日本文学のスタイル過ぎて、逆に実験小説や論文を読んでいるかのようにさえ感じる。 この本では、新聞連載の形を取っている。もっと新聞小説へのオ...
水村早苗さんの久しぶりの長編。海外で近代日本文学を教えているからこそなのか、いつも消えゆく近代日本文学への愛を感じる小説を書く。あまりに近代日本文学のスタイル過ぎて、逆に実験小説や論文を読んでいるかのようにさえ感じる。 この本では、新聞連載の形を取っている。もっと新聞小説へのオマージュ的な作品になるかと思ったが、母と娘の昼ドラ風の確執が描かれた作品。ただ大正時代くらいからの血縁にまで遡って語られるため、現代に至るまでに文学が人の心に及ぼしてきたロマンを感じる。 物語自体は、人のエゴという醜さを水村早苗の文章力で正面から書いているため、前半は読んでいて気分も悪くなるくらい。でも、読んでよかった、小説はよいものだ、と思える重厚感がある。
Posted by
高齢化社会になった今、遅かれ早かれ私たちは親の介護に直面するだろうし、やがて介護される側にもなるだろう。 その親子関係が良好であるとか、険悪であるとかに関わりなく、その事態は避けられない。 主人公は、転んで骨折してしまったのをきっかけに寝たきりになってしまった母親を、姉と交代で介...
高齢化社会になった今、遅かれ早かれ私たちは親の介護に直面するだろうし、やがて介護される側にもなるだろう。 その親子関係が良好であるとか、険悪であるとかに関わりなく、その事態は避けられない。 主人公は、転んで骨折してしまったのをきっかけに寝たきりになってしまった母親を、姉と交代で介護している。 病院に入っている母をどちらかが毎日訪れる。 その昔、夫の介護をほっぽり出して、若い男と遊び歩いていた母親を、ふたりは快く思っていない、ばかりか嫌っている。が努めとして世話をしているが、わがまま放題の母親にホトホト手を焼いている。 家事、仕事、母の世話と多忙を極め染髪する間もない娘に向かって、「少しは身ぎれいになさい」などと言う母。 「・・・」返す言葉が無い主人公。 そんな母もやがて亡くなって、それで終わりなら単なる介護日記だが、そこから母方の不遇の女達の歴史がひもとかれる。 今や切実になりつつある老人介護や家庭崩壊、暗く重いテーマだけれど、最後に少し希望が見えたかな。
Posted by
朝刊でこの書籍の特集を1ページにわたって紹介しており、こりゃ、読まないと!と慌ててリクエスト。 予想どおり、というか、予想以上の分量と、その質。 ご多分に漏れず、私も主人公と同じ年代で、母と妹が居る。 介護を巡るリアルな表現。 そして、自分の老後の生々しい金額の羅列の現実。 ...
朝刊でこの書籍の特集を1ページにわたって紹介しており、こりゃ、読まないと!と慌ててリクエスト。 予想どおり、というか、予想以上の分量と、その質。 ご多分に漏れず、私も主人公と同じ年代で、母と妹が居る。 介護を巡るリアルな表現。 そして、自分の老後の生々しい金額の羅列の現実。 子どもがいて専業主婦をしていた人より、一人でバリバリ働いてきた人の方が老化が速い、というくだりには考えさせられた。 そして、 「人生の階段を美津紀はさらに下に降りた」。 そう周りが思っても、美津紀本人がその自覚がなければ、「降りた」ことにはならないはず。
Posted by
お正月に相応しい長編小説。母であれ、姉であれ、理解し共感することは難しい。家族だからこそ憎んでも最後に母を許す主人公に、最後にこれから老いる自分にも人生に一縷の望みを与えられた気がする。暗く辛い話にもかかわらず、からりとした文章のおかげで読みきれた。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
誰でもが直面する、親との相克、水村早苗の言葉はとても丁寧だ。母をきずかいながら、そして疎んじながら、自分を見つめている。最終章の地震の後の言葉に、”生きている。ーーー私は幸せだ。ーーーそう思わねば、罰が当たる。”にホッとしてしまう。
Posted by
母娘の物語。著者は『日本語が亡びるとき』が話題となった水村美苗氏。 介護、夫の不倫、経済的不安、自身の老いと体の衰えといった現代に生きる女性の不幸を描いた一冊とも言えるが、祖母・母・そして主人公の娘の三代に渡る大河小説とも言える。 タイトルの「遺産」。母親の死により大金を手に...
母娘の物語。著者は『日本語が亡びるとき』が話題となった水村美苗氏。 介護、夫の不倫、経済的不安、自身の老いと体の衰えといった現代に生きる女性の不幸を描いた一冊とも言えるが、祖母・母・そして主人公の娘の三代に渡る大河小説とも言える。 タイトルの「遺産」。母親の死により大金を手にすることにはなるが、この「遺産」が示すのは金銭的なものだけではない。 周囲の人を振り回し続けた母、そして長年の介護の末、訪れた母の死。常に母の行動に対するリアクションの積み重ねで成長してきた主人公自身が母の遺産と言ってもよい。母亡き後、人生をどのように送るのか、母の呪縛から解き放たれた女の自由とは何なのか。 500ページを超えるが読み辛さは全く感じることなく読み進められる。
Posted by
物語全体の構成は作為的というか理屈っぽい。(よくできているとは思うが・・・)。しかし、その枠組みの中で展開される語りは、女性ならではの皮膚感覚に近い思考の流れで満たされていて、思わず読みふけってしまう。、生きることそれ自体の業の深さを描き、しかも500頁を超える作品でありながら、...
物語全体の構成は作為的というか理屈っぽい。(よくできているとは思うが・・・)。しかし、その枠組みの中で展開される語りは、女性ならではの皮膚感覚に近い思考の流れで満たされていて、思わず読みふけってしまう。、生きることそれ自体の業の深さを描き、しかも500頁を超える作品でありながら、苦もなく読める。あえて難を言えば、最終章(最終回)あたり、それまでのシビアな展開に比べ、ぬるい幕引きになっていることだろうか。
Posted by
主人公には母の介護や夫婦関係、この世代特有の体の不調等が底辺にあり、この小説で自分のルーツを振り返り、辛い現実とも向き合いその中から新しい一歩を踏み出していく姿を描く。新聞小説として書かれたもので、こうして一冊の本として読むとなんとなくまとまりがないように感じるが、これを毎日の新...
主人公には母の介護や夫婦関係、この世代特有の体の不調等が底辺にあり、この小説で自分のルーツを振り返り、辛い現実とも向き合いその中から新しい一歩を踏み出していく姿を描く。新聞小説として書かれたもので、こうして一冊の本として読むとなんとなくまとまりがないように感じるが、これを毎日の新聞で読むときっと短い単位で読んでいくので、主人公や物語に魅力を感じるのだろう。 母と娘という関係はとかく端から見ると、うらやましい(母と息子、父と息子、娘という関係に比べ)関係のように思われるが、この小説でも著されているように娘側からみると同性だけに冷徹な目で母を見ていたり、あるときは仲良くしていても煩わしく感じることも多々ある。「確執」とはよくいったものだ。その母娘関係ーー愛憎両面があることーーをこの小説は端的に表現している。私自身、共感と自分自身の嫌な面もみるようで読みすすめていくのが辛くなる部分もあった。 全体に暗い印象で話が進んでいくが、最後に明るい未来を感じさせる終わり方をしているのが救いだ。
Posted by
長くて暗くて気持ちが落ちる本。自分の中年、あんな風にならないためにどうしたらいいのか考えさせられた。 最後少しだけ光が見えた主人公が少しでも幸せな生活になれたらいいなぁと切に願った。
Posted by
道中で読んだら、夜眠れなかった(読むのが止まらなくて)。 お気楽な旅だったけれど、帰りの飛行機で読み終えたら、自分が逗留に行っていたような気がした。 最近とみに増えた「母モノ」の中でも、そうとううまい。何度か読み返すと思う。
Posted by