母の遺産 の商品レビュー
50代になり、自分の老後のことを考え始める頃、母の介護を担うことになった娘。介護の負担をめぐって姉との葛藤、夫の不倫も重なり、母はいつ死んでくれるのかと考える自分に気づく。 日本の高齢化社会ではよくある介護の苦悩話。だが、比較的早く母が亡くなってくれた主人公は幸運な方だろう。遺...
50代になり、自分の老後のことを考え始める頃、母の介護を担うことになった娘。介護の負担をめぐって姉との葛藤、夫の不倫も重なり、母はいつ死んでくれるのかと考える自分に気づく。 日本の高齢化社会ではよくある介護の苦悩話。だが、比較的早く母が亡くなってくれた主人公は幸運な方だろう。遺産もあったし、夫や姉も自暴自棄にならず、社会性を備え、常識をもって行動してくれた。 主人公は母の死によって、将来を少し明るく感じはじめる。誰もがうらやむハッピーエンドではないが、長々と修羅場が続くことに比べれば相当マシだ。老親の死によって、穏やかで平和な老後を期待することは皮肉でも親不孝でもない。
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昭和のレタリング風ロゴもウィリアム・モリスの想定も好きでハードカバーのまま残してる作品を10年ぶりに再読。 近年ますます喧しく言われる母娘問題。断罪するでもなく、放棄するのもなく、徹底的にそれと付き合い自らの人生と問題を明らかにした五十代姉妹がたどり着く境地を、なんとも赤裸々bu...
昭和のレタリング風ロゴもウィリアム・モリスの想定も好きでハードカバーのまま残してる作品を10年ぶりに再読。 近年ますます喧しく言われる母娘問題。断罪するでもなく、放棄するのもなく、徹底的にそれと付き合い自らの人生と問題を明らかにした五十代姉妹がたどり着く境地を、なんとも赤裸々but清澄に描き切る。 主人公は妹のほう。わがままな母の世話と介護に明け暮れ、死を願いながらあっけなくそれがかなったときの無力感と疲労を描く前半。発覚した夫の不倫もあり、自分を見つめ直すために長期滞在した芦ノ湖畔のホテルで、ちょいとミステリ仕立てに進む後半。 『金色夜叉』に自らを重ねる無学な祖母、小説と映画の虚構におどらされ続けた母、『ボヴァリー夫人』の翻訳を夢みながらかなわなかった主人公…ときて、物語の描く恋愛に、ここではない世界に魂あくがれ出て、現実を直視しない人生は私にとってもひと事ではない。 また、こんなにひどい母親ではなかったけど、私もまた若いときには何もかも母のせいにし、今は娘が私を責める(笑)。 主人公と同じ50代になったからますますシミるわあ! そして「書かれた言葉以上に人間を人間たらしめるものがあるとは思えなかった」にまた激しく首肯。 これが新聞小説として毎日連載され、また物語のなかで新聞小説がいかに明治女たちを現実に満足できぬ「近代人」を作り上げ(さすが漱石のひと)脈々と現代に続くかを描くという入子構造が見事。 憎み続けた母の遺産が、結局は自分を救うことになる構成が見事。 見事しか言えなーい。 そして、連載の終わりのほうで現実が東日本大震災を迎えたことで、ラストはあのようになったのだろう。小説家ってすごいな。 私も主人公の境地を目指し、自分で手に入れたもので好きなものに囲まれた暮らしをささやかに、満足して送りたい。途上にあって道を示してくれた。
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介護問題を描いた小説。親の介護や姉妹の確執、離婚問題が描かれる。作者の体験が反映されている。親は2700万円の入居金を払って有料ホームに入居したが、8ヵ月後に亡くなる。ところが、家族には1700万円しか返ってこない。これは現実の東急不動産の運営する老人ホーム「グランクレール藤が丘...
介護問題を描いた小説。親の介護や姉妹の確執、離婚問題が描かれる。作者の体験が反映されている。親は2700万円の入居金を払って有料ホームに入居したが、8ヵ月後に亡くなる。ところが、家族には1700万円しか返ってこない。これは現実の東急不動産の運営する老人ホーム「グランクレール藤が丘」の問題と重なる。適格消費者団体「全国消費生活相談員協会」は、入居金を初期償却して返還しない契約を消費者契約法10条違反と主張し、消費者団体訴訟を東京地裁に提起した(「有料老人ホーム前払金「濡れ手で粟」が訴訟」FACTA 2016年5月号)。東急不動産消費者ん契約法違反訴訟と言えば不利益事実の不告知の東急不動産だまし売り裁判があるが、もう一つの東急不動産消費者ん契約法違反訴訟である。
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主人公と同世代、終活に向かう親を抱える私には 胸に迫る、ある意味参考書のような小説でした。 母の死を、一体いつになったら死んでくれるのかと願いながらも その母が少しでも喜ぶことをしてあげたいと、懸命に介護する娘。 一見すると矛盾しているように思える相反する二つの感情が 容易く理解...
主人公と同世代、終活に向かう親を抱える私には 胸に迫る、ある意味参考書のような小説でした。 母の死を、一体いつになったら死んでくれるのかと願いながらも その母が少しでも喜ぶことをしてあげたいと、懸命に介護する娘。 一見すると矛盾しているように思える相反する二つの感情が 容易く理解できてしまう女性は多いのではないだろうか。 長寿が当たり前になり、自分の人生を謳歌できる世代のはずの子世代が親の介護や世話に追われ疲れてしまう。 薬に頼ったり、泣きながら夜を明かしたりしながらも 逞しく自分の幸福を探し求める主人公の姿に 力をもらえた気がします。
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期待した割に、、、、。 どんだけ酷い毒親かと思ったら、なんてことないやん。 愛情もお金もかけてくれてたじゃん(笑) それを、「いつ死んでくれるの?」なんてー。贅沢だわ。 オットの裏切りへの対処が、なかなかよろしい。 こっちもスッとしました。
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いまいちだな。最近、母と娘の関係性について書かれた本が多いので読んでみたが。 誰かの、しかもそれが”母”の死を願うという呪いのような思いは、何とも息苦しい。願う側も、不幸以外のなにものでもない。
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二人姉妹の妹の美津紀は晩年の母に振り回された。その母が死んだ。そして姉と分割した遺産が残った。この出だしから、母の生い立ち。姉妹の生い立ち。留学、恋愛、結婚の話が綴られる。そして今、母を送った美津紀は、夫から離婚を切り出されることを知り、芦ノ湖湖畔のホテルに長逗留する。母娘関係の...
二人姉妹の妹の美津紀は晩年の母に振り回された。その母が死んだ。そして姉と分割した遺産が残った。この出だしから、母の生い立ち。姉妹の生い立ち。留学、恋愛、結婚の話が綴られる。そして今、母を送った美津紀は、夫から離婚を切り出されることを知り、芦ノ湖湖畔のホテルに長逗留する。母娘関係の濃さが胸に少し重いので、少しずつ読み進めたが、いい小説だった。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
水村美苗さんが2012年に発表した小説「母の遺産 新聞小説」を読了。前作の「本格小説」も日本語が美しい小説だったが、本作も読み疲れない素晴らしいらしい文章で構成された美しい小説でした。 この小説のテーマはイケイケな母親を持った娘の母親からの精神的な脱出というものではないかと思う。筋書きはイケイケ母親の老い、介護、その死、自分の夫婦関係の崩壊、そひて自立といったもので、こう書いてしまうと大したドラマではないように聞こえるであろうが、この小説のタイトルにある新聞小説というものがこの小説の大きなスパイスとなっている。 それは母の母(主人公にとっては祖母)の生き方に影響を与えその娘である主人公の母の人となりを作ることに影響を与えたのが祖母が生きた時代一番影響力のあったメディア新聞に載っていた連載小説「金色夜叉」であり、祖母は「金色夜叉」の登場人物お宮に自らを重ね合わせて生きていて、その娘お宮の娘(主人公の母)もしたたかに戦後の混乱期を生き抜いてイケイケな生活を手に入れるまでになる。 そんな母のもとで育った娘は自分のことを不幸であると思い生活をしているところから物語は始まるのだが、夫との関係の清算、遺産の分割、そして長期旅行と自分の人生の再整理をしていく中で自分が決して不幸ではないことに目覚め明日を見つめ生きていこうとする姿勢を保つ様にこの小説を読む多くの人が感動すると思う。 特に物語のクライマックスが展開される長期滞在に向かった箱根のホテルで繰り広げられる人間模様は秀逸であり、居合わせる宿泊客たちの人生が交錯するさまもフィクションではあるのだがさもありなんといった物語が組み込まれていてぐいぐい引き込まれてしまうこと請け合います。この小説はお勧めです。 そんななかなか小説の主人公としては描かれない50代女性の生き方へ目覚めを描いた小説を読むBGMに選んだのがKeith Jarrettの”Live at the Blue Note"だ。 https://www.youtube.com/watch?v=Q38RgbAtgUA 6枚組だか無駄のない演奏が詰まっています。
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2012年の作品で50代女性が主人公。私にとっては親の世代くらいになり、全く同じに共感というわけではないが、、、女の人生の苦悩の全てがここに…!という感じの辛苦のフルコース(といっても、生きるか死ぬかの生活苦とは無縁の世界の話なのでもっぱら精神的なコトに限られる)。 同じ女として...
2012年の作品で50代女性が主人公。私にとっては親の世代くらいになり、全く同じに共感というわけではないが、、、女の人生の苦悩の全てがここに…!という感じの辛苦のフルコース(といっても、生きるか死ぬかの生活苦とは無縁の世界の話なのでもっぱら精神的なコトに限られる)。 同じ女としては心穏やかに読めない「恐怖」小説ですらあるが、どこか細雪的な品のよさがあって、これだけエグいのにエグさで売ってないわよという上質感にひれ伏す思い。ちょっとしたひとこまの表現のうまさにも舌を巻く。そしてこれ自体小説でありながら「小説とはなんたるものか」という批評性まで併せ持つ、なんという視点の高さ。 何を今さら、、、を承知で言うけれど、すごい作家だ。
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水村美苗さんの小説は、物語として、小説として、なんというか湿気をおびた濃密さみたいなのがある。ので、読み始めるときにはちょっと重い感じがして、少しづつ読むのだけど、ある程度まで読むと、止まらなくなって、一気に読み切ってしまう。 どこまでが体験談でどこからがフィクションなのか、分...
水村美苗さんの小説は、物語として、小説として、なんというか湿気をおびた濃密さみたいなのがある。ので、読み始めるときにはちょっと重い感じがして、少しづつ読むのだけど、ある程度まで読むと、止まらなくなって、一気に読み切ってしまう。 どこまでが体験談でどこからがフィクションなのか、分からない。まさに現実からすこしづつフィクションに紛れ込んでしまうスリルがある。 「母の遺産」の副題は、「新聞小説」で、「私小説」「本格小説」というこれまでの小説と連動している。つまり、物語にどぼっと入り込むと同時に、日本における「小説」というものに対しての、位置づけ、批評性みたいなものも常に持っているんですね。 というわけで、小説にのめり込む快感と同時に、外側からみる知的な楽しみが同時に味わえる。 ストーリーについては、読んでの楽しみということで。 ちなみに、「ボヴァリー夫人」が、物語上、そして小説とはという批評性の観点から、とても大事な役割をもってでてくるのだが、これって、個人的にはすごいシンクロニシティ。 この本と一緒に買った本が、「ボヴァリー夫人」だったのだ。 春に出版が予定される蓮實重彦さんのライフワーク「ボヴァリー夫人論」にむけて、徐々に準備が整ってきている。
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